イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(5)フィリピン・インドネシア・アゼルバイジャン・タジキスタン・リビア

◆「忠誠の証し」にテロ起こす懸念
バグダディ死後、武装組織イスラム国(IS)の新指導者となったアブ・イブラヒム・アル・ハシミ。当面、懸念されるのが「アブ・バクル・アル・バグダディ殺害に対する報復」と「アブ・イブラヒム新指導者への忠誠への証し」としてのテロが各地で起きる可能性だろう。勢力誇示の忠誠表明に振り回されるべきではないが、残存勢力や支援者はいまもって存在しており、「忠誠の証し」として外国人を含む襲撃事件を引き起こす可能性もある。ISが弱体化したからといって過小評価すると、脅威を見誤ることになる。
】【【5】

f:id:ronahi:20200218113042j:plain

【アブ・イブラヒム・アル・クライシ】 写真は米国務省「正義の報償」サイトから。アブ・イブラヒム・アル・ハシミとされるアミール・アブドル・ラハマンは、「IS幹部のひとり」とされ、現在、逮捕につながる情報に500万ドル(約5億5千万円)までの懸賞金がかけられている。(現時点ではIS幹部であって新指導者との記載はない)ISが各地からの忠誠を立て続けに公表したのは、組織的結束を誇示するほか、「カリフ」としての認知を高める意図もあると推測される。ISは「シューラ評議会がカリフを承認」などとしているが、宗教的根拠も実態もない。各地から忠誠表明がなされたことで、アブ・イブラヒムなる人物が「支持されたカリフ」とする狙いもあるのではないだろうか。

f:id:ronahi:20200219064704j:plain

リビアカダフィ政権が崩壊して混乱に陥ったリビアでは、武装各派が衝突。そのなかで伸長したのが過激イスラム武装勢力だった。シリア・イラクでISが最盛期だった2014年には、リビアでバグダディに忠誠を表明する武装組織も出始めた。2015年、ISは、リビアにIS各県(州)を設置、それぞれタラブロス、フェザン、バルカと名付けられたが、敵対諸派との戦闘で敗退していった。現在もIS残存勢力が戦闘を続け、「リビア県(州)」との呼称を用いている。(2019年11月15日・リビア・IS写真)

f:id:ronahi:20200219064723j:plain

リビア一連の忠誠表明写真は単なる集合写真ではない。その撮り方や構図に詳細な指示が出ているかのように、右手を重ねるシーンが意識的に撮影されている。ISは盛隆期から、戦闘シーンから日常生活シーンまで、写真アングルにメディア部門が「指導」してきた。ジハードを映画のように英雄的に仕立て、市民殺戮までも「宗教的大義に満ちた戦い」などと思い込ませるプロパガンダ映像はネット・SNSを通じて拡散され、国際ジハード運動に影響を与ることとなった。(2019年11月15日・リビア・IS写真)

f:id:ronahi:20200219064745j:plain

アゼルバイジャンアゼルバイジャンはISの県(州)とは設定されていない。国内ではIS要員も限定的と思われるが、国内での活動が取り締まりを受けても、国外に出ていく可能性もあり、実際にアフガニスタンで、アゼルバイジャン出身のIS戦闘員が拘束される例も出ている。(2019年11月29日・アゼルバイジャン・IS写真)

f:id:ronahi:20200219064847j:plain

アゼルバイジャン昨年7月のバグダディへの忠誠映像。この映像では、アゼルバイジャン語でバグダディへの忠誠のほか、アリエフ政権を批判している。(2019年7月・アゼルバイジャン・IS映像)

f:id:ronahi:20200219064905j:plain

タジキスタン中央アジアタジキスタンでは、早くも「新指導者への忠誠表明の証し」として、テロ事件も起きている。11月8日、タジキスタンウズベキスタン国境警備隊検問所をIS戦闘員、20人が襲撃し、警備隊員らが死亡。またIS戦闘員15人も死亡した。(写真:タジキスタン内務省公表)

f:id:ronahi:20200219064922j:plain

タジキスタンIS系アマーク通信は「国境警備隊襲撃実行者によるアブ・イブラヒム・アル・ハシミ師への忠誠」とする映像を公開。新指導者の発表から1週間のうちに、ISは20人の戦闘員を投入した作戦の実行に至っている。2018年には観光でサイクリング中の欧米人観光客が男にナイフで襲撃される事件も起きている。ことのきは、アメリカ人2名、スイス人、オランダ人ら計4名が死亡。今後、こうした実際の行動をともなう「忠誠」が各地で起きる可能性もある。(2019年11月8日・タジキスタン・IS系アマーク通信映像より)

f:id:ronahi:20200218113118j:plain

【東アジア(フィリピン)】 東アジアからの忠誠表明では、フィリピン(2019/11/7)とインドネシア(2019/11/22)の写真が公開されている。フィリピンではISがシリアで台頭した2014年頃からすでにIS系メディアが「バグダディ忠誠表明」映像を出すなど、早い段階からISの影響が既存の過激イスラム勢力に及んでいた。(2019年11月7日・東アジア・フィリピン・IS写真)

f:id:ronahi:20200218113203j:plain

【東アジア(フィリピン)】 ISフィリピンはアブ・サヤフ、マウテグループなどを参集させ、勢力基盤を構築。現在はミンダナオ一帯などで活動を続け、軍部隊との衝突を繰り返している。(2019年11月7日・東アジア・フィリピン・IS写真)

f:id:ronahi:20200219054410j:plain

【東アジア(フィリピン)】 バグダディが「カリフ」を宣言した2014年、フィリピンでは「バグダディへの忠誠」とする動画がIS系メディアから公開されている。刑務所内で動画が撮影され、ネットに発信できてしまうのもすごい。タイトルには「マニラ刑務所のジハード戦士グループ」とあり、2014年の段階でISの影響がフィリピンの刑務所にまで及んでいたとみられる。映像では、バグダディへの忠誠(バイア)の言葉の部分をアラビア語で繰り返し一斉に唱和している。(2014年・フィリピン・IS系メディア映像)

f:id:ronahi:20200219054509j:plain

【東アジア(フィリピン)】2016年にISが公開した映像。フィリピンのジハード戦士らが次々とバグダディに忠誠を表明する映像。シリア内戦に乗じて台頭したISは、短期間でアフリカから東アジアに至るまで組織を「ISの看板」のもとにフランチャイズ化してフィリピンにも関連組織網を構築し、忠誠を誓わせた。(2016年6月・IS映像)

f:id:ronahi:20200219054609j:plain

【東アジア(フィリピン)】 2017年、フィリピン・ミンダナオのマラウィでは2017年、アブ・サヤフ、マウテグループらからなるIS勢力が町を一時占拠した。政府軍と激しい戦闘となり、双方で1000人を超える死者を出している。マラウィ戦ではインドネシア、サウジ出身の戦闘員も加わっていたとされる。(2017年8月・IS映像)

f:id:ronahi:20200219054653j:plain

【東アジア(フィリピン)】 昨年6月に公開されたバグダディへの忠誠表明キャンぺーンの映像。忠誠の言葉の部分はアラビア語で唱和している。これに引き継がれる形で新指導者アブ・イブラヒム・ハシミへの忠誠もなされることになったが、IS組織弱体のなか、正体不明の新指導者がどこまで求心力を持てるかは未知数だ。(2019年6月・IS映像)

f:id:ronahi:20200219055039j:plain

【東アジア(インドネシア)】 東アジアとしてもうひとつ公表された忠誠写真が、インドネシアからのもの。インドネシア国内ではジャカルタ・ショッピングモール爆弾事件(2016)や刑務所暴動(2018)などテロ事件も起きており、昨年10月にはIS支持者とみられる男が治安担当閣僚をナイフで襲撃する事件も起きた。インドネシア人戦闘員のフィリピン組織との往来も確認されている。(2019年11月22日・東アジア・インドネシア・IS写真)

f:id:ronahi:20200219055110j:plain

【東アジア(インドネシア)】 ISが最大勢力を誇っていた2015~2016年頃にシリア入りしたインドネシア人はかなりの数に上る。シリアで拘束されたインドネシア出身者を拘置施設でインタビューしたが、所属グループや交友関係を通じた勧誘だけでなく、ネットでISに感化されてシリアに入った者が少なくなかったという。(2019年11月22日・東アジア・インドネシア・IS写真)

f:id:ronahi:20200219075453j:plain

【東アジアからシリア入りしたIS戦闘員】 2016年にISがラッカから公開した処刑映像。インドネシア・フィリピン・マレーシア出身の戦闘員が「十字軍の手先」とする3人をナイフで斬首して殺害する。ISの地への「移住」を果たせ、と呼びかけたほか、それぞれの地でジハードを戦え、と扇動している。シリア・イラクでの戦いに呼応して世界各地で襲撃事件があいついだのは、ネット時代のジハードの特徴でもある。(2016年6月・IS映像)

f:id:ronahi:20200219055235j:plain

【東アジアからシリア入りしたIS戦闘員】 この2016年のIS映像のインドネシア・フィリピン・マレーシア出身の3人の戦闘員はいずれも国際手配され、国連指定テロリストとして制裁対象となっている。2018年には、日本の官報でも「国家公安員会告示」として3人の氏名・旅券番号が掲載された。(画像は官報・2018年9月14日付)

f:id:ronahi:20200219062317j:plain

【東アジアからシリア入りしたIS戦闘員】 斬首処刑映像に登場したインドネシア人、アブ・ワリード(モハンメド・サイフディン)は昨年1月末、シリアでの戦死写真(左)が出た。またフィリピン人戦闘員アブ・アブドルラハマン(ムハンメド・レザ・キラム)はシリア・バグーズで同1月に妻エレンとともに拘束と報じられている。写真右はシリア民主軍報道官が公表したもので、アブ・アブドルラハマンと妻のID。別の女性のIDはフィリピン財務省職員を示すもの。

f:id:ronahi:20200219182833j:plain

【ISの脅威】シリア・イラクで拘束されたIS戦闘員とその家族の本国送還に各国とも消極的だ。帰国すれば、将来、国内でテロを起こしたり、勧誘活動をする可能性があるためだ。ISに忠誠を誓い、過激思想に染まった元戦闘員とその家族の帰国問題に各国とも対応に苦慮している。シリア最終拠点バグーズで拘束された日本国籍者で、バングラデシュ出身の元大学教員を日本政府がどう処遇するかに関係する問題でもある。写真は昨年3月、ISがバグーズでの戦いを伝えたプロパガンダ映像。(2019年3月・IS映像)

f:id:ronahi:20200219181655j:plain

【ISの脅威】ISは弱体化し、バグダディは死んだ。だがその脅威は終わっておらず、いつまた別の地で息を吹き返すかもしれない。ひとたび「忠誠を示せ」と呼びかけがあれば、政府機関や外国企業だけでなく、市民さえも標的となる。IS問題は終わっていない。写真はISが昨年3月公開した映像から。アメリカ、ロシア、中国など世界の指導者にジハード戦士が立ち向かう姿。(2019年3月・IS映像)

<<前へ(4)◆壊滅していない地下ネットワーク<<
>>【1】に戻る◆バグダディ死後のIS >>

】【【5】