イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(4)イラク各地からの忠誠

◆壊滅していない地下ネットワーク
武装組織イスラム国(IS)はアブ・イブラヒム・アブ・ハシミを新指導者とする声明(2019/10/31)から、わずかのうちに戦闘地域を含む広範なエリアから「忠誠表明写真」を立て続けに公開した。各国の捜査当局、情報機関の追跡や監視にも関わらず、指示を下す司令系統や情報を集約して拡散させるネットワークがいまもって存在することを意味している。つまり新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミが、ある国のIS要員に「決起せよ」と扇動や指示をすれば、短期間のうちにその地でテロが実行される可能性があるということでもある。
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【各地からの忠誠表明】 ISは4年前の最盛期に比べると大きく弱体化したが、世界各地ではISや関連組織がいまも活動を続けている。とくに西アフリカでの攻撃が激化し、ナイジェリアでは軍基地への襲撃があいついぐ。昨年7月にバグダディ忠誠表明映像が出たトルコやカフカスからは、これまでのところ新指導者への忠誠表明写真はまだ出ていないが、これら地域でも忠誠にともなうテロが起きる懸念がある。

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【バグダディ追悼報復戦】 指導者バグダディとIS報道官アブル・ハサンが10月末に米軍に殺害されたことを受けて、ISは報復戦(ガズワト・アッサイル)キャンペーンを開始した。12月21日から1週間の「戦果」総計として8か国で139攻撃を敢行したとし、地域別の攻撃統計グラフまで記している。これら統計は大本営発表ゆえ誇張した数字になっているだろうが、報復戦の「戦果」がプロパガンダとして使われている。バグダディ追悼の「弔い合戦」としてのテロや攻撃に加え、新指導者への忠誠表明としてのテロ攻撃も頻発する可能性がある。(IS機関紙ナバア・215号・2020年1月)

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イラク(ディジラ)】 イラクのIS「ディジラ」からの忠誠表明。イラクチグリス川沿いカイヤラ、マハムール一帯がそのエリア。イラク軍、警察部隊、シーア民兵・人民動員隊(PMU)、クルド自治区ペシュメルガ部隊とも交戦している。ISが敗退局面になった2018年7月に、県(州)としてはシリア・イラクでの細分化されていた各県の表記が消滅し、「イラク県」と「シャム(シリア)県」のガバガバな表記になった。(2019年11月16日・シリア・IS写真)

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イラク(ディアラ)】 右手を重ね、新指導者に忠誠を表明するディアラのIS戦闘員。ディアラはバグダッド東方からイラン国境に伸びる一帯の地域。マルチカム迷彩服だ。ここでもイラク軍やシーア民兵(PMU)ほかペシュメルガ部隊と戦闘を続けている。(2019年11月17日・イラク・IS写真)

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イラク(サラハディン)】 バグダッドとモスルを結ぶティクリート、バイジ一帯がサラハディン。写真の自動小銃はいずれもM-16系のようだ。イラク軍から奪ったとみられる。「地産地消」ではあるが、かつてISの盛隆期にはIS武器運用部門が戦利品を統括し、イラクで奪った武器をシリアの前線に回すような運用体制をとっていたため、シリアでイラク軍の兵器が使われるなどしていた。 (2019年11月18日・イラク・IS写真)

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イラクキルクーク)】 キルクークは西方のハウィージャがISの一大拠点となってきた。フセイン政権崩壊直後からハウィージャはスンニ派武装組織の拠点で、当時、駐留した米軍に最も激しく抵抗戦を戦った地域でもある。イラク軍、警察部隊、シーア民兵ほか、クルドペシュメルガ部隊襲撃があいつぐ。一方、キルクーク油田をめぐってイラク政府とクルド自治政府が対峙しているエリアでもある。(2019年11月19日・イラク・IS写真)

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イラクキルクーク)】 新指導者への忠誠写真。指を一本立てるのは神はアッラーのみを意味し、ムワヒディーン(唯一神信仰者)の証しでもある。キルクークではハウィージャ一帯のエリアでイラク警察やシーア民兵に対し、ISが頻繁に待ち伏せ奇襲戦を仕掛けている。(2019年11月19日・イラク・IS写真)

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イラク(北バグダッド)】ISは最大勢力時の頃から「北バグダッド県(州)」という呼称をバグダッド県とは別に使ってきた。おおよその範囲は、バグダッド市中心部からから4~50キロほど離れたエリア一帯にあたり、タルミーヤやバクーバなどでイラク軍、警察にゲリラ的な攻撃を加えてきた。(2019年11月14日・イラク・IS写真)

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イラク(北バグダッド)】この一帯では支配地域はすでにないため、この地域での顕著な攻撃形態は、軍・警察の検問所などへの自爆攻撃や軍用車両への仕掛け爆弾(IED)攻撃などだ。また行政職員も標的にしている。(2019年11月14日・イラク・IS写真)

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イラク(北バグダッド)】 イラクでISの支配下に置かれたスンニ派地域の住民。IS統治が終わったいま、住民が直面するのは、シーア派主導の民兵部隊、人民動員隊(PMU)によるスンニ派への報復的なふるまいである。ISの協力者とみなされたり、あるいは決めつけられた住民への暴行・拷問があいつぎ、問題となった。ISはこうしたスンニ派住民の反発心に付け込んで、地下で組織再編を画策する。(2019年11月14日・イラク・IS写真)

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【IS動向の監視】ISの活動は国境をまたいで世界各地に及ぶ。「決起せよ」と指示が出されれば、ネットで瞬時に伝わり、実際にテロが起こりうる。また、呼びかけに応じたシンパが紛争国に入ってISに参加したり、ISと直接関係ないとみられた者が突然、過激化して自国でローンウルフ(一匹狼)型テロを起こす可能性もある。各国の捜査当局・情報機関は、IS関係者やシンパらとSNSで連絡を取り合った人物を追跡するほか、興味本位で接触しようとした者も含めて監視し、動向把握に動いている。(画像は警察白書・2017年・「国際テロ対策特集」)

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【IS側の警戒】 一方、IS側も機関紙などを通じてスマホやパソコンなど通信デバイスの使用について、「サイバー戦争における敵によるネットを通じた攻撃への対処」として組織的に警戒してきた。各国の捜査当局の追跡・監視の中でさえ、ISはネットワークを維持している。バグダディ死亡後の組織再編、新指導者への忠誠表明の動きのなかで、テロが起きる懸念もある。

左:「通信暗号化の重要性~ジハード戦士の暗号駆使」(ナバア・61号・2016年12月)

右:「敵が情報スパイ要員をSNS網に送り込もうとする手法」(ナバア・202号・2019年10月)

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