イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【イスラム国(IS)】新指導者への忠誠表明で結束誇示(1)エジプト・バングラデシュ・ソマリア・イエメン

◆バグダディ死後のIS
武装組織イスラム国(IS)のバグダディ指導者が10月末に死亡したのを受けて、「カリフ」としてアブ・イブラヒム・アル・ハシミが新指導者として公表された。ISは「各県(州)からの新カリフへの忠誠表明とする写真を1か月のうちにあいついで公開、バグダディ死亡後も組織の結束があることをアピールした。また、後継「カリフ」としての既成事実づくりの意図もあるとみられる。
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【新指導者アブ・イブラヒム】バグダディ指導者の死(10月27日)から4日後、ISは報道官の音声声明を通じて、新指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシを「信徒の長」「ムスリムのカリフ」などと発表した。これはバグダディと同じ肩書で、その後継者として地位を受け継いだことになる。IS新報道官アブ・ハムザ・アル・クライシによる音声声明では、バグダディ追悼とともに、各地のムスリムや戦闘員らに向け、新指導者への忠誠を呼びかけた。新指導者アブ・イブラヒムも新報道官アブ・ハムザも顔は明かされていない。(IS機関紙ナバア・206号)

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【新指導者アブ・イブラヒム】アブ・イブラヒムの正体は不明だが、メディア報道では、イラク人、アミール・アブドル・ラハマン・アル・マウリ・アル・サルビ(ハジ・アブドラ)ではないかとされる。出自・族系を示す名(ニスバ)に「アル・クライシ」を名乗っている。これは預言者ムハンマドの出身部族クライシュ族とのつながりを示すもので、その名を冠することで、「宗教的正統性」を持たせて、権威づける意図があるとみられる。これもバグダディと同様の手法である。いずれも実際にクライシュ族と関係があるかの根拠はない。

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【新指導者アブ・イブラヒム】 現時点では未確定情報ながらアブ・イブラヒムはアミール・アブドル・ラハマン(ハジ・アブドラ)と報じられている。ハジ・アブドラはフセイン政権下の旧イラク軍軍人で、政権崩壊後はイラク聖戦アルカイダ機構に参加、同組織はのちにISに。スンニ派・トルコマンで、アラビア語に加え、トルコ語も話せると推測される。トルコ系のトルコマンとすれば、ムハンマドクライシュ族出身とISが主張するのは、仮に過去に類縁の関係があったとしてもかなり遠すぎる気もする。写真はIS支配時代のイラク・タラファル。(IS映像・2015年)

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【新指導者アブ・イブラヒム】タラファルはスンニ派シーア派のトルコマンが多かった町で、ISは町を制圧し、シーア派を殺害、追放、シーア派モスクや墓地を徹底的に破壊した。またアブ・イブラヒムはタラファル西方シンジャルでのヤズディ教徒襲撃・拉致事件(2014年)の首謀者のひとりとされる。写真は当時、ISが公開したタラファルでのシーア派モスクの爆破映像。(IS映像・2015年)

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【IS機関紙】 IS声明から1週間後に発行されたIS機関紙ナバアは、各地からの忠誠表明の様子を特集。掲載された地域はシナイ(エジプト)、ソマリアパキスタン、イエメン、ホラサン(アフガニスタン地域)、西アフリカ、中央アフリカ、東アジア(フィリピン)、ベンガルバングラデシュ)、チュニジアとなっている。ナバアは週刊で発行されるので、新指導者選出の声明が出てから約1週間のうちにこれだけの写真が広範な地域から集まったことになる。(IS機関紙ナバア・207号)

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【シナイ(エジプト東部・シナイ半島)】 10月31日の声明公表後、シリア、イラクほかISが活動する各地域から、新指導者への忠誠表明の写真が立て続けに公開された。シナイ半島地域を拠点とするISは、エジプト軍に対する仕掛け爆弾(IED)や狙撃を繰り返している。(2019年11月2日・シナイ・エジプト・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】ISが新指導者を発表した声明からわずか2日後に出たのがこの写真で、バングラデシュからの忠誠表明とするもの。ISは2016年、ダッカのレストランで日本人含む外国人襲撃事件を引き起こすなど、バングラデシュにも地下基盤を構築してきた。ダッカ襲撃事件以降、大規模なテロ攻撃は起きていないが、その後も警官襲撃などが発生している。(2019年11月2日・バングラデシュ・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】 戦闘員数が小規模なものが含まれているものの、忠誠表明写真はアフリカからアジアにまで及んだ。バングラデシュ出身者では、日本国籍を取得した元大学教員が、日本人の妻・子どもとともにシリア入りした。妻は空爆で死亡したとされ、この元大学教員は昨年3月にシリア・バグーズで拘束されている。(2019年11月2日・ベンガル・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】 バングラデシュ出身で、日本国籍者としては初めての「IS戦闘員」となった元大学教員は、他のバングラデシュ出身者のリクルートにも関与したと報じられている。(2019年11月2日・ベンガル・IS写真)

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ベンガルバングラデシュ)】 ベンガル語でのIS出版物はいまもネット上に多数存在し、バングラデシュのISの活動が壊滅したわけではない。(2019年11月2日・ベンガル・IS写真)

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ソマリア ソマリアではアルカイダ系とされる組織シャバーブ幹部で北部プントランドを拠点に活動していたアブドルカードル・ムミーンが2015年にIS指導者バグダディに忠誠表明し、配下の戦闘員らを引き連れシャバーブから分岐し、ISソマリアの幹部に。(2019年11月3日・ソマリア・IS写真)

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ソマリア右手を重ね、忠誠を誓う戦闘員。ISはシャバーブを「背教徒」とし、他方、シャバーブ側もISを攻撃するなどしている。アメリカはアブドルカードルを「国際テロリスト」に指定。(2019年11月3日・ソマリア・IS写真)

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【イエメン】 イエメンのISは、一時、サナア、アデン・アブヤン、ハドラマウト、ベイダほか複数の県(州)を設定したが、シリア・イラクでの敗退局面の県再編で、2018年にはイエメン県(州)とした。(2019年11月4日・イエメン・IS写真)

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【イエメン】 ISによるフーシ派勢力への攻撃が顕著になっているほか、武装組織「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)を「背教徒」とし殲滅戦を繰り返す。(2019年11月4日・イエメン・IS写真)

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