イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【動画+写真16枚】米軍特殊部隊がISバグダディ急襲作戦、「追い詰められ自爆死」とトランプ大統領

◆「バグダディ死亡しても次の指導者になるだけ」との声も
10月27日、トランプ米大統領は特別声明を発表し、イスラム国(IS)の指導者アブ・バクル・アル・バグダディの潜伏先を米軍特殊部隊が急襲し、自爆死したと公表した。場所はシリア北西部イドリブ近郊。また、その数時間後にはIS報道官が米軍の空爆で死亡。2人の死亡が事実なら、ISにとっては大きなダメージとなる。一方、シリア・イラク住民には「指導者が変わるだけでIS思想の脅威は残る」とする声も。

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トランプ大統領は27日、ホワイトハウスで特別声明を発表、IS指導者バグダディ死亡」とし、「バグダディは追い詰められ自爆、犬のように死んだ」「アメリカと世界にとって大いなる夜」と述べた。(ホワイトハウス公表写真より)
トランプ大統領声明「バグダディの死に関して」全文(2019/10/27) >>

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バグダディ潜伏建物急襲作戦は26日深夜から27日未明にかけて遂行された。デルタフォースほか第75レンジャー連隊らが連携。イラク北部アルビルから米軍のCH-47 チヌークヘリなど計8機がシリアに向け出動。米軍は飛行ルートを公表していないが、報道ではトルコ領上空を飛行したとされる。またトルコ、ロシアとは作戦内容の詳細は明かさなかったものの、航空衝突など事態を避けるために事前調整したとされる。

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バグダディが潜伏していた建物はシリア・イドリブ県ハレム郡バリシャ村。深夜に開始されたデルタフォースによる突入作戦は約2時間。任務終了後、部隊は27日未明までにはアルビルに帰還したとされる。

【動画】【バグダディ潜伏建物急襲】(音声なし)

国防総省は、バグダディ潜伏建物急襲作戦の映像を公開。突入から撤収後の建物破壊の様子が映っている。マッケンジー中央軍司令官は「建物周辺で敵意を示した武装員(IS戦闘員ではないとみられる)を銃撃。建物内にいいた者は武装解除して無力し、保護した子供は11人。降伏の指示に従わなかったISメンバー5名は殺害(女4、男1)で、バグダディはトンネルに追い詰められ子供2人を巻き添えに自爆死」としている。(米国防総省公表映像・音声なし) 

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米軍特殊部隊側はバグダディが潜伏していた建物を制圧後、情報物などを押収して撤収。米軍がミサイルを複数撃ち込み、完全に爆破。爆撃前(左)と爆撃後(右)。(国防総省公表写真)

【動画】【急襲作戦後、破壊されたバグダディ潜伏建物】

急襲作戦後、米軍のミサイルで破壊されたバグダディが潜伏していた建物。米国防総省高官は「聖地化されるのを阻止するために破壊した」としている。(米VOAがトルコ・アナドル通信AAの映像を配信したもの) 

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急襲作戦は「カイラ・ミュラー作戦」と名付けられた。カイラ・ミュラーは2013年シリアで拘束され、2015年2月に監禁先の建物がヨルダン軍の空爆で破壊され死亡したとされる。(死亡時26歳)

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当時、ISが「米国人人質カイラ・ミュラーが死亡した建物の瓦礫」として公表した写真。ISはヨルダン軍機の空爆で死亡としていた。この写真が公開されたのは2015年2月で、ISによる日本人人質事件で後藤・湯川さんらの殺害や、ヨルダン軍パイロットで人質となったモアズ・カサスベ中尉焼殺事件など各国を巻き込んで情勢が揺れていた時期。実際にヨルダン軍機の空爆でカイラ・ミュラーが死亡したかどうかは不明だが、ISが「カイラ・ミュラー死亡も米軍主導の有志連合のせい」などとプロパガンダに利用した。(2015年2月6日・IS写真・シリア・ラッカ) 

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シリア・クルド主導勢力のシリア民主軍(SDF)司令官マズルム・エブディは、SDF情報部門が米軍とIS幹部追跡で連携したほか、IS報道官アブル・ハサン・アル・ムハジール殺害に直接協力したとしている。アブル・ハサンはシリア北部ジャラブロス近郊アイン・アル・バイト村でバグダディ死亡の数時間後に米軍の精密爆撃で死亡が報じられた。SDF側は「1か月前に急襲作戦が計画されていたがトルコのシリア侵攻で延期された」としている。

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写真はISが今年4月末に公開したバグダディ映像。IS幹部から報告を受ける様子とみられる。当時、この映像が撮影された場所がシリアなのか、イラクなのか、クッションの形状や服装、映っている武器などから、専門家による様々な分析がなされた。10月上旬にSDF報道官ムスタファ・バリに直接聞いた話では、「バグダディはイドリブ潜伏の可能性が高い」と話していた。(2019年4月・IS公表映像より)

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シリア民主軍(SDF)で米軍・有志連合との調整を担当してきたポラット・ジャンは、「バグダディがデリゾールのダシーシャから移動したのを追っており、5月以来CIAと連携して追跡。バグダディはジャラブロスに移動予定の可能性があった」としている。バグダディ周辺部にスパイを送り込むことに成功し、位置情報とともに下着サンプルを入手し、米情報機関が「一致」とし、急襲作戦にSDFが貢献したと報じられている。クルド・人民防衛隊(YPG)幹部の話では、デルタフォースのヘリに特殊訓練を受けたクルド部隊が同行し支援したという情報もある。写真右がポラット・ジャン。左は有志連合で米特使を務めてきたマクガーク。マクガークはトランプのシリア撤退政策に反対して昨年末辞任。(2014年・YPG写真より)

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米軍の急襲作戦で自爆死したバグダディ、死亡時48歳。米国防総省の諜報部門、国防情報局は、「バグダディ遺体片のDNAが、2004年にイラク拘置施設で採取したDNAと高確率で一致」とした。(米国防総省公表資料より)

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アブ・バクル・アル・バグダディの本名はブラヒーム・アッワード・イブラヒーム・アリ・アル・バドリ・アル・サマライで1971年イラク・サマラ生まれ。2004年に反米組織に関与した容疑で拘束され、イラク南部の拘置施設キャンプ・ブッカに収容。釈放後、ザルカウィアルカイダ組織で活動。「イラクイスラム国(ISI)」指導者アブ・オマル・バグダディが死亡すると後継幹部となり、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を経て、2014年7月、IS指導者となり「カリフ」を名乗った。(写真左はキャンプ・ブッカ収容時の記録書類)

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国防総省での会見でバグダディ急襲作戦について説明するマッケンジー米中央軍司令官(右)を自爆死したバグダディの遺体は回収後、海に水葬にしたとしている。(米国防総省公表写真より)

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バグダディが、なぜISと対峙してきた他のジハード組織が多いイドリブ地域の、それもトルコ国境に近い奥のエリアに、彼の家族も含めて潜伏できたのか、不明な点は多い。一部メディアではシャム解放機構(HTS/旧ヌスラ戦線)から分岐した組織「宗教の守護者」(ハラス・アル・ディン/HaD)側にISが多額のカネを払い、シリア南東デリゾールを追われたIS関係者の受け入れなど依頼したとも報じられた。さらにそれを示す「書類」なる写真まで出回ったが、その書類を打ち消す情報も出て様々な憶測を呼んだ。(写真はハラス・アル・ディン・HaDの戦闘員)

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旧ヌスラ戦線のジョラニ司令官がアルカイダから離脱して組織をシャム・ファタハ戦線(2016)とし、さらに各派を糾合し再編されたのがシャム解放機構(HTS)でイドリブを中心に活動してきた。こうした動きに反発した外国人を含む過激勢力が分派し、アルカイダ系組織「宗教の守護者」(ハラス・アル・ディン/HaD)を結成(2018)。ISはヌスラ系組織を「カメレオンのように色をコロコロと変える組織」などとして、批判のみならず殲滅対象としてきた。(HaD写真より)

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アルカイダ系組織の「宗教の守護者」(ハラス・アル・ディン/HaD)とISはイデオロギー上で表面的には対立している。だが実際には裏の現場や地元の人間関係レベルでは、密輸業者(ムハリブ)などを介して協力や取引することはありうる。バグダディが潜伏していた建物も、Hadと関係のある密輸業者のものだったと報じられている。ただ、カネで警護や地域での保護を依頼したなら、カネで裏切られることも往々にしてあるのが現実ではある。(HaD写真より)

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IS掃討作戦で米軍と連携してきたシリア民主軍(SDF)のバグダディほかIS幹部の潜伏先情報は相当有力だったようだ。クルド主導勢力SDFは、これまでアメリカであれロシアであれ全幅の信頼を置くことはなく、手持ちの政治カードが限られているなかにあっても、つねに保険をかけながら動こうとしてきた。だが10月上旬、トルコはシリアに越境攻撃し、アメリカは助けてくれることはなく、テルアブヤッドとラアス・アル・アインを失うことになった。SDF側は、バグダディほかIS幹部を追い詰める局面にあってSDFは重要な役割を果たしており、これまでにIS掃討で連携したこともあわせてSDFはアメリカがトルコ軍による攻撃に一定の仲介をしてくれると踏んでいた可能性がある。その読みが誤ったか、それ以外の要素が働いたか、あるいはアメリカの約束をトランプが独断ですべてひっくり返したかは不明だが、トルコの越境攻撃とバグダディの死が重なるタイミングとなった。写真はマズルム・アブディSDF司令官(左)とマッケンジー米中央軍司令官(右)。(2019年7月:SDF映像より)

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バグダディの死から4日後の10月31日、ISは報道官アブ・ハムザ・アル・クライシの名で音声声明を公表。バグダディの死を認め、その後継にアブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシが就任したと宣言した。その数日のうちに、シリア、西アフリカ、エジプト、パキスタンなど各地のIS戦闘員が、バグダディの死後に新たに選出された「カリフ」、アブ・イブラヒムに忠誠を誓う写真があいついで公開された。写真はベンガルバングラデシュ)のIS戦闘員。(2019年11月・IS公表写真より)

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バグダディの死亡を伝えるクルド・ルダウニュース。シリア・イラクの一般市民はバグダディの死はISへのダメージとはなるとは思っていても、意外とそれほど歓喜が広がっているというわけではない。「バグダディが死んでも次の指導者が出てくるだけ」「IS思想が消えることはない」という声も。シリアではイドリブで続くアサド政権・ロシア軍の空爆や、シリア北部へのトルコ越境攻撃、またイラクでは反政府デモの拡大など別の問題で揺れていて、バグダディどころではないという事情もある。