イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS声明・日本語訳】バグダディ死亡、新たにアブ・イブラヒム・ハシミを「カリフ」に・IS新報道官アブ・ハムザ・クライシが発表(2019/10/31声明全文)

ISが新指導者に「忠誠」呼びかけ
10月26日夜から翌日にかけて、米軍特殊部隊がシリア北西部イドリブ近郊で武装組織イスラム国(IS)のバグダディ指導者の潜伏先を急襲し、バグダディは自爆死したと報じられた。ISは10月31日、新報道官名で音声声明を公表し、バグダディ指導者が死亡したことを公式に認め、新たに後継者を選出したとしている。今後のISの動向を知る検証資料として、以下、音声声明のテキスト全文を掲載。(一部意訳)

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今回のアブ・ハムザ・アル・クライシ声明(2019/10/31公表)要旨

(1) アブ・バクル・アル・バグダディは死亡、シューラ評議会は新たな指導者アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシを「カリフ」として忠誠
(2) IS報道官アブル・ハサン・アル・ムハジールも死亡
(訳註:この声明を読み上げているのは新たな報道官アブ・ハムザ・アル・クライシ)
(3) 各地のムスリムよ、ジハード戦士よ、新指導者に忠誠を
(4) 新たな指導者はもっとすごいので、アメリカよ、覚悟しておけ
(5) 同胞よ、ムスリムの捕囚を解放し、多神教徒を殲滅し、苦難に耐え、ジハードを成就させよ

誰あろうとアッラーとの約束を果す者には
アッラーの大いなる報奨が与えられよう 

万有の御主、唯一神を信じ奉る者たちの擁護者、アッラーにすべての称讃あれ。万有への慈悲として剣をもって遣わされし預言者ムハンマドとそのご家族、ご教友に平安と祝福あれ。

崇高なるアッラーはこう仰せになった。
【とにかく現世を棄てて、その代わりに来世を獲ようと志す者は、大いにアッラーの道に戦うがよい。アッラーの道に戦う者は、戦死してもまた凱旋しても、われがきっと大いなる報奨を授けてやろうぞ】(婦人章:74節) 

おお、ムスリムたちよ、アッラーの大道ゆくジハード戦士たちよ。おお、イスラム国の兵士たちよ、そして民たちよ。教導者であり、信心篤き学者であり、信徒の長、そしてムスリムのカリフたるジハード戦士、アブ・バクル・アル・バグダディ・イブラヒム・ブン・アッワード・アル・バドリ・アル・フセイニ・アル・クライシ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)が、ご逝去されたことを、ここに告げる。 

そしてまた、イスラム国の公式報道官、ジハード戦士、アブル・ハサン・アル・ムハジール師アッラーよ、彼を受け入れ給え)がご逝去されたことも、ここに告げる。お二方は、いずれも最近、殺害された。まこと我らが仕えたるアッラーに存し、まことアッラーに還るものである。 

アブ・バクル・アル・バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)はジハード戦士、アブ・オマル・アル・バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)のあとを継いで信徒の長となり、アッラーのお力添えのもとイラクでのジハードを復興させ、大シリアのムスリムを支えるため、その御手によって諸地を征服し、宗教を打ち立て、ゆえにムスリムの名誉は守られたのである。

アッラーは、ご自身の御法シャリーアを成就させるべく師をお認めになり、師がカリフ制を再興させ、アラブ世界と非アラブ世界の圧政支配者どもによって蔑ろにされてきた宗教儀礼を取り戻すべく御取り計らいになったのである。

バグダディ師こそ、世界各地の散り散りになったジハード戦士たちの衆勢を御旗のもとに結集させた御方。かくてその軍勢を率いて、あらゆる逸脱に満ちた教義に堕ちた者どもである不信仰者と背教徒に対するジハードを成した御方。

師は、アッラーの御教えに確固とすがり、退くことなく邁進し、諸敵に立ち向かいジハードを成し、アッラーの御為に死するべく、アッラーがお定めになったその時まで、困難と辛苦に耐え、敵を唾棄し続けた御方であられた。師こそそれを全うし続けた御方であり、アッラーがその審判者。

他方、アブル・ハサン・アル・ムハジール師アッラーよ、彼を受け入れ給え)は、イラクヒジュラ(移住)を成したジハード戦士の古豪のひとり。ムハンマド(祝福と平安あれ)の半島のご出身であり、アッラーの御教えの大道を進むなかで深手を負い、辛苦を経てきた御方。 

ムハジール師はその堅忍と不撓不屈を貫き、ジハードを奮闘し抜いた。先任の報道官アブ・ムハンマド・アル・アドナニ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)の亡き後、十字軍と背教徒らに対するジハードという最も過酷な状況のなか、報道官の重責を担った。 

ムハジール師は偉大なる卿相であり、信徒の長(=バグダディを指す)の補佐であった。死のお定めを授かり、それを成就するまで、その任を全うされた。師に高い位階が授けられんことを、アッラーに請い願うものである。

高貴なるご教友のスンナ(=慣行)に従い、ムスリム同胞を結束維持し、彼らが直面する事象に相応に対処すべく、教導者を任命するのが急務とされた。イスラム国のシューラ評議会(アッラーよ、これを支え給え)は、アブ・バクル・アル・バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)の殉教成就を確認したのちただちに会合を持った。 

ジハード戦士らのシェイク(師)は兄弟同胞らと僉議せんぎを経て、信徒の長アッラーよ、彼を受け入れ給え=バグダディを指す)の助言に従い、これに合意し、ジハード戦士かつ信心篤き学者、アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシ師アッラーよ、彼を守り給え)に忠誠を誓うことに合意した。師はここに信徒の長、ムスリムのカリフに任じられたのである。アブ・イブラヒム・アル・ハシミ師のご栄耀、指麾、制覇、叡智をアッラーがお認めくださるよう請い願うものである。また、先達の兄弟同胞たちが始めたる営為を、師が良き従者を従えさせ、かつ諸地の征服を師の御手をもって成し遂げ、民心を獲得できるようアッラーに請い願うものである。 

アッラーはかく仰せになった。
【まこと、あなたに忠誠を誓う者こそアッラーに忠誠を誓う者。アッラーの御手はその者たち手の上にあり、誰あろうと誓いを破る者は、結局、己れを損なう者となる。反対にもし誰あろうとアッラーとの約束を果す者には、アッラーの大いなる報奨が与えられよう】(勝利章:10節)

かくして、各地のムスリム同胞よ、信徒の長に忠誠(バイア)を表明すべく前に進み出よ、そして師の下に集うのだ。師こそジハードの傑者、イスラム学者、正しき指揮官のひとり。アッラーの宗教を護持する先鋒であり、アッラーの敵どもに立ち向かう戦士のひとりである。勇者らの戦場や故郷のいずれもが、師の姿を目にしてきた証人。十字架の護持者たるアメリカと戦い、辛苦を耐え抜いてきた師こそ、いかに戦うかを何かを知り尽くし、また術策に長けた御方。 

ゆえに、アメリカよ、お前たちはバグダディ師の死に歓喜などできぬし、バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)の御手による死を忘れえぬ。アメリカよ、今日、いまやイスラム国はヨーロッパの戸口へと至り、中央アフリカの入り口にまで足音を響かせているのがわからぬか? アッラーの御許のもと、さらには東西の方々にわたって、広がり、残り続けているのである。訳註:タタムダッド(広がる)とバーキヤ(残る)という言葉が盛り込まれている。「永劫に残り続け、広がる」はISが掲げてきたメインスローガン) 

お前たちがイスラム国に対する戦争を終わらせたとする、それ以後の状況をわかっていないのか? 朝に話したことが、その日の終わりには変転する朝令暮改のあの役立たずの老いぼれ男訳註:トランプ大統領を指す)にお前たちの命運が振り回されているのを、諸国民が笑いものにしているのをわからぬか?

浮かれ騒ぎ、うぬぼれるな。お前たちがかつて経験した困難をはるかに凌ぐ者が、アッラーの御意のもと、お前たちの前に現れたのだ。バグダディ師アッラーよ、彼を受け入れ給え)を倒したのは容易たやすいことだったと思わせるほどのことが到来しよう。 

すべての県(州)のわが兄弟同胞には、忍耐をもって、かつ諸君らがアッラーから授けられる報奨を願い、自身の信仰とジハードに確固とすがり、ムスリムの一叢とその教導者たる師に己れを繋ぎとめ、不信仰者と背教徒に対する諸君の教導者と兄弟同胞のための報復に執心すべく呼びかける。

信徒の長アッラーよ、彼を受け入れ給え=バグダディを指す)の最後の音声メッセージで示されたご意志を満たすべく尽力するよう呼びかける。それはムスリムの捕囚を獄舎から解放し、抑圧されし者にかけられた不正義を取り除き、この宗教に依って立つべく民を力強く招請し、多神偶像崇拝者を流血の淵へと叩き込み、我らが御主の御元にいっそう近づき、ジハードを成すなかにあって、アッラーにまみえるまで不撓不屈で耐えるのだとするメッセージである。 

崇高なるアッラーはかく仰せになっている。
【同志としてともに戦う人びとを有った預言者がその幾人あったことか。彼らは神の道での戦いのためならばどのような目に遭っても意気阻喪せず、弱気にならず、決して志を屈しなかった。アッラーは忍耐強い人びとを好み給う。彼らの口にする言葉といえば、「主よ、数々の我らの罪を赦し給え。我らの行き過ぎた行いを赦し給え。願わくば我々のあしをしっかと立たせ、信なき者どもに対して我らを助け、勝利に導き給え」と言うだけであった。さればこそアッラーは彼らに現世での報酬も、来世の素晴らしい報酬をも与え給うた。アッラーは善なす人びとを好み給う】(イムラーン家章:146-148節)

万有の御主、アッラーにすべての称讃あれ。

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今回の音声声明は全編 7分35秒。画像はIS機関紙ナバア第206号(2019/10/31付)が掲載した声明全文。10月31日の音声声明は、アブル・ハサン・アル・ムハジール後任の新たな報道官、アブ・ハムザ・アル・クライシが音声メッセージとして読み上げる形で発表された。声明のタイトル「誰あろうとアッラーとの約束を果す者には、アッラーの大いなる報奨が与えられよう」は、クルアーン:勝利章:10節から。

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バグダディ同様、新「カリフ」アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシと、新たなIS報道官アブ・ハムザ・アル・クライシともいずれも「クライシ」の名が付いている。ムハンマドの出身部族とされるクライシュ族を意識し、その「正統性」と権威を示そうとする意図があるとみられるが、信憑性に乏しく、実際にISの2人がクライシュ族とつながりがあるのかどうかの根拠も不明。

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声明で出てくるシューラ評議会とは、ムタイヤビーン同盟がスンニ諸部族などを招集して構成する評議会。ムタイヤビーン同盟はムハンマドの諸部族の時代にさかのぼるもので、ISは勝手にその名を冠し、歴史的、宗教的な「正統性」を持たせようとしている。2006年のザルカウィ死後、同様のシューラ評議会が招集されイラク聖戦アルカイダ(AQI)が「イラクイスラム国(ISI)」となった。写真はその際の映像からで「ムタイヤビーン同盟に参集のジハード戦士指揮官らと諸部族長たち」とある。シリア内戦後の台頭で「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」、さらに「イスラム国(IS)」となり、バグダディが「カリフ」を名乗る。今回も同じ手順で新たな「カリフ」が選出された形をとっている。(写真は2006年10月公開されたISI結成時のムタイヤビーン同盟)

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声明では、これまで正体や出身地が不明だった前任のIS報道官アブル・ハサン・アル・ムハジールが「ムハンマドの半島出身」(=サウジアラビアを指す)と紹介され、サウジ出身者だったことが明らかとなった。これまで米テキサス出身のジョン・ジョルジェラスではないかとの説なども出回ったが、今回、ISが正式にアブル・ハサンをサウジ人と公表したことになる。(画像はナバア第206号より)

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アブル・ハサン・アル・ムハジールが死亡したのはシリア北部ジャラブロス近郊のアイン・アル・バイダ村。クルド主導のシリア民主軍(SDF)が追跡を続け、米軍や情報機関に潜伏位置情報を提供。イドリブでのバグダディ急襲作戦の数時間後、ジャラブロスで米軍が空爆作戦を遂行し、アブル・ハサンを殺害。彼が大型輸送トラックで移動中にピンポイント爆撃したとされる。
(写真を公表したのはSDFアドバイザー、Bahtiyar Umut)

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バグダディ死亡から、新指導者選出と発表までわずか4日であることから、事前に死を想定して準備をしていたとも考えられる。(2019年4月・IS公表写真)

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ISは各地の戦闘員が新指導者に忠誠を誓う映像をあいついで公開。写真はシリアからの忠誠とし、右手を重ね合わせて忠誠を誓っている。(2019年11月・IS公表写真)

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11月4日には、トルコが支援するシリア反体制派エリアのアザーズでバグダディの姉夫婦と義理娘をトルコ当局が拘束。写真左端がバグダディの姉ラスミヤ・アッワード(65)。コンテナの中にいたところを夫と義理娘と拘束、一緒にいた子ども5人も保護と報じられる。トルコ当局は「情報の宝庫」とし、3人の尋問を開始とメディア報道。写真の撮影日時は不明。(トルコ当局公表写真)

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バグダディ急襲とアブル・ハサン殺害にはSDFの情報部門が追跡を続け、米軍が追い詰める形となった。一方、バグダディの姉を拘束したトルコ当局だが、このタイミングにあわせての拘束劇だったかは不明。トルコと対峙するSDF系のメディアは、「トルコは以前から姉の場所を知っており、政治的タイミングを計算して拘束を発表」とする論調で報じている。