イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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連載4【シリア・クルド】ロジャヴァ・国際義勇部隊登場の背景(写真34枚)トルコ左翼「赤スカーフ戦士」アイシェの死

◆ISと戦いで戦死、「革命烈士」となったアイシェ
武装組織イスラム国(IS)とシリアで戦ってきたクルド・人民防衛隊(YPG)には、トルコ左翼組織各派も共闘。マルクス・レーニン主義共産党(MLKP)もそのひとつだ。戦いが続くなか、死者も増え始めた。左翼各派は戦死者を「革命烈士」として称え、さらなる結集をアピールする。トルコの公園開発抗議運動のヒロインから、武装ゲリラに、そして革命戦士としてシリア入りし、ISとの前線ラッカで戦死した女性、アイシェ(デスタン)とは。
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【動画】【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】トルコ語・転載禁止)

トルコ武装左翼組織、マルクス・レーニン主義共産党(MLKP)の戦闘員として、イラク北部山岳地帯からシリアのロジャヴァに入ったアイシェ・デニズ・カラジャギル(組織内部名デスタン)。ロジャヴァとはシリア・クルド地域を指す。映像最後の言葉「虐殺の無念」はスルチ爆弾事件を意味し、以下の記事で解説。こののち2017年5月、アイシェはISとの前線、ラッカで戦死。24歳だった。(ETHA通信映像)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 アイシェの戦いの始まりについて振り返ってみたい。2013年、トルコ・イスタンブールのタクシム広場一帯の再開発反対行動に端を発したゲジ公園抗議運動は、エルドアン政権批判の大規模デモとなり、環境保護派や左翼各派も加わった。労組がストライキを呼びかけるなどして拡大し、機動隊との衝突で死者まで出る事態に発展。抗議運動は全国的な広がりを見せた。(2013年・K24映像より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 このとき、ゲジ公園抗議闘争に連帯し、トルコ南部アンタルヤで街頭行動に参加したのが、赤スカーフの女性、アイシェ・デニズ・カラジャギル(20歳・当時)だった。当時は、左翼政党「抑圧されし者の社会党(ESP)」で活動。ESPは合法政党だがMLKP系。(2013年・MLKP系組織公表写真より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 2013年10月、抗議運動をしていたアイシェは、仲間らとともに逮捕される。赤いスカーフをしていたことが「テロ組織宣伝罪」などに問われ、「テロ組織構成員、公務執行妨害」など複合罪で起訴されれば最大で 103年の服役刑が課される可能性があった。(MLKP系組織公表写真より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 2014年2月、支援者らは赤スカーフ事件を重刑弾圧として救援行動を呼びかけるなどした。トルコでは長期服役の判決が出ても、刑期は短縮されるケースがあるので、実際に「103年」とはならないだろうが、活動家を重い刑罰で起訴することで運動を委縮させる効果は十分にあった。右は、赤スカーフ事件被告への連帯集会の呼びかけ。(MLKP系組織公表写真より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 2014年2月、アイシェは4か月間の拘留ののち、裁判を前にいったん保釈される。アイシェを含む被告ら5人の裁判手続きが進められ、検察は長期服役を課す求刑へ向けて動く。写真中央の左から2番目がアイシェ。(エヴレンセル紙写真より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 長期投獄に直面したアイシェを、メディアは「赤スカーフの少女」として報じた。画像は保釈後のアイシェを、CNNトルコが生放送でインタビューした映像。首に赤いスカーフが見える。アイシェの言動や裁判の行方に注目が集まっていたなか、2014年2月頃、彼女は突然、消息を絶つ。(2014年・CNNトルコ映像より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 行方が分からなくなっていたアイシェが4か月後に姿を現したのは、イラク北部山岳地帯カンディルのPKK軍事キャンプ。彼女は戦闘服をまとっていた。左はアイシェとPKK最高幹部ムラット・カラユランが並んだ写真。トルコ政府が「テロ組織」とみなすPKKエリアに入り、最重要手配人物のPKK最高幹部とともにいることを、メディアは大きく報じた。(PKK系メディア写真より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 写真は2014年6月、PKK系メディアが公開した映像から。アイシェは約3年近く、PKKエリアでゲリラ部隊と行動をともにする。この時のアイシェの組織内部名はデスタン・ヨルック。(2014年・PKK系メディア映像より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 アイシェが入ったのはイラク北部のPKKエリアだが、共闘するMLKPもここに部隊拠点が割り当てられている。トルコで保釈中のアイシェが、単独で密かにイラク北部に渡航してPKKキャンプに入れるものでもなく、組織がルートを手配したとみられる。(MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死したMLKPのアイシェ】 イラク北部の軍事拠点で訓練を受けるアイシェ。かつて彼女はトルコではMLKP系合法部門の政党で活動していた。PKKと共闘関係にあるMLKPが少数ながら戦闘員も送り込んでいたことが、受け入れにつながったようだ。(MLKP公表写真より)

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【2015年・トルコ・スルチ爆弾事件】 2015年7月、トルコ南東部の町スルチで自爆事件が起きる。スルチと国境を接するコバニへの連帯行動で地元文化センターに集まった支援者集会が狙われ、死者30人以上を出す惨事となった。自爆した容疑者はアドゥヤマン出身のIS系の男と報じられるも不明な点が多い。事件の半年前にこのセンターを取材したことがあるが、地元民以外にはまず知られていない場所。他所の町から来た容疑者が多数の支援者が集まる日を明確に狙うなど、組織的関与を疑う声も出た。また、単独で自爆装置を準備したとも考えにくい。写真は爆発の瞬間で、横断幕の背後で自爆が起きた。(2015年・SGDF公表写真より)

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【2015年・トルコ・スルチ爆弾事件】 スルチ爆弾事件の犠牲者の多くがコバニ支援に集まった社会主義青年協会連盟(SGDF)のメンバーだった。同組織はMLKP系の合法政党、「抑圧されし者の社会党(ESP)」の青年部門。事件を受け、MLKPなどトルコ武装左翼は、ISとの対決姿勢を強め、「事件の背後でトルコ情報機関が暗躍」などとしてエルドアン政権批判も展開。これらの背景も、トルコ武装左翼がシリア北部でのISとの戦いにさらに深くコミットしていく一因となった。画像はMLKPが事件を非難したポスター。(左は犠牲者・右は自爆直後で多数の遺体がある)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 アイシェはMLKPの戦闘員としてロジャヴァ(シリア北部のクルド地域)に向かい、ISと戦う戦列に加わる。スルチ自爆事件(2015年)が起きたのが7月(トルコ語でテンムズ)だったことから、組織内部名デスタン・ヨルックからデスタン・テンムズと名乗った。(MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 シリア戦線入りは本人の意志もあっただろうが、MLKPの党組織としての意向も関係していると思われる。前述のスルチ自爆事件でMLKPに近い青年組織関係者が多く犠牲となったこともあり、MLKPにとってISとの戦いが政治性を増すと同時に、個々の戦闘員の意識にも大きく影響していたとみられる。(MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 クルド・YPGが主導するシリア民主軍(SDF)が、ISの拠点都市ラッカを攻略する「ユーフラテスの憤怒作戦」を宣言したのが2016年11月。これにはトルコ武装左翼各派も参加。国際社会で無差別テロを繰り返していたISの「首都」ラッカの攻略戦に各派の意気込みは強く、「ISとの戦いを革命闘争へ」とするプロパガンダも増加した。アイシェのシリア入りの時期は不明だが、2017年とみられる。写真はドラグノフ狙撃銃を担ぐアイシェ。(MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 2017年5月、アイシェはラッカの戦線で戦死。BMP-1装甲戦闘車の前で笑顔を見せている。シリア北部のクルド勢力は、どうしても外国人を必要とするほど地元戦闘員が不足しているわけでもない。そこにトルコ武装左翼が共闘する形で要員を送り込むのは、政治的意図や思惑もある。それを思うとき、彼女の死の意味を考えさせられる。(MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 写真はアイシェの棺。アイシェの遺体はコバニに運ばれ、他組織の戦死者とともに追悼葬送集会が開かれた。棺にはMLKPの赤い党旗がかけられた。24歳、早すぎる死だった。(2017年・MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 葬列では、トルコからシリア入りした両親(中央の2人)が棺を抱えた。母も赤いスカーフを巻いている。遺体はコバニに埋葬。両親はシリアからの帰途、イスタンブールの空港で拘束され、「テロ組織プロパガンダ」の容疑で取り調べを受けている。(2017年・クルド系メディア写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 アイシェとそのほかの戦死者の合同追悼葬送集会で、「追悼礼」を捧げるクルド・女性防衛隊(YPJ)らの戦闘員。追悼礼はスラーヴァ・シェヒダンと呼ばれ、捧げ銃の姿勢から体を斜め前に傾斜させ、戦死者に敬意を表する。アイシェを悼み、赤いスカーフを巻いている。(2017年・クルド系メディア写真より)

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【シリア・ロジャヴァ・MLKP】 シリア北部のMLKP女性部門、共産主義女性機構(KKÖ)の部隊。うしろにアイシェ追悼のポスターが見える。党組織は、メンバーが戦死すると革命烈士として称える。アイシェもまた、「烈士」のひとりとなった。(2018年・MLKP公表写真より)

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 その後、シリア・コバニの烈士追悼墓地に完成したアイシェの墓。まわりの墓もすべて戦死者だ。トルコ政府の弾圧、彼女の「革命」への思い、ISの台頭、党組織の思惑。アイシェの戦いの背景には、さまざまな要素が重なり合っている。(2018年・ANF通信写真より)

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【MLKP】 マルクス・レーニン主義共産党(MLKP)は、トルコ共産党マルクス・レーニン主義-運動派(TKP/ML-Hareketi)とトルコ共産主義労働者運動(TKiH)が合流し、1994年結党。トルコでは非合法党。マルクスレーニンスターリンに加え、かつてアルバニア労働党を率いたエンベル・ホッジャのホッジャ主義に立脚。(MLKP公表写真より)

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【MLKP】 MLKPはトルコの都市部や山岳部で武装闘争を展開。党武装部門は「貧民・被抑圧者武装隊(FESK)」。2004年のイスタンブールNATOサミットに関連したバス爆弾事件では乗客らが犠牲となっている。シリア内戦では早い段階からクルド・YPGに共闘して部隊を送り、徐々に増員、シリア北部で拠点づくりの動きをしている。トルコ政府は「テロ組織」に指定。(MLKP公表写真より)

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【トルコ国内・ESP・SGDF】 トルコではMLKPは非合法党だが、関係組織として合法政党「抑圧されし者の社会党」(ESP)、その青年部門に社会主義青年協会連盟(SGDF)がある。写真は今年のメーデー・デモ。左の青い旗がESP、手前の赤い星がSGDF。アイシェはトルコではESPで活動し、イラク北部に渡ったのち、シリア・ラッカでISとの戦いの前線へ。(2019年・SGDF公表写真より)

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【トルコ国内・SGDF】 これは合法組織の社会主義青年協会連盟(SGDF)のデモ。ゲバラである。ここの青年らがMLKPのリクルート枠のようになったりしている側面も。2015年、スルチでの自爆事件の犠牲者の多くがこのSGDFメンバーだった。(2019年・SGDF公表写真より)

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【トルコ国内・MLKP】 一方、非合法のMLKPはトルコで「テロ組織」として強力に取り締まられている。だが、ときおり瞬間的に街頭に登場することも。赤い覆面やMLKP横断幕も「テロ組織宣伝」の罪になりうるが、現場で警察の動きを警戒しながら姿を現したりする。赤い忍者っぽく見えるのは、着衣で身元を特定されないための革命的コスチュームで、靴も特定されないように、靴の上から靴下をすっぽりかぶせて履いたりする。(2015年・MLKP系メディア写真より)

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【トルコ国内・MLKP】 左翼のデモや街頭で現われる武装要員はミリスと呼ばれる。写真はトルコ国内。MLKPの赤覆面のミリスがショットガンや拳銃を手にし、シリア北部で戦死した仲間を追悼する横断幕を掲げている。(2016年・MLKP系メディア写真より)

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【トルコ国内・MLKP】 写真はトルコ・イスタンブールのガジ地区で銃で武装して登場したMLKPのミリス。この地区は労働者とアレヴィ教徒が多い。(アレヴィについては第1回参照)。武器・爆弾を所持してるので、警察の家宅捜索でも特殊部隊が突入したりする。(2016年・MLKP系メディア写真より)

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【トルコ国内・MLKP】 このガジ地区はMLKPだけでなく、他の武装左翼諸派も拠点にしている。ミリスが武装して地区に登場するのは、警察権力からの防衛のほか、他セクトへの威力誇示やプロパガンダの意味がある。シリアでは、国際社会の脅威だったISとの戦いの前線に立ち、戦死者を出しているMLKPだが、トルコ国内での武装闘争では市民も巻き込まれてきた。そうした面も相対的に見ておくべきだろう。(2016年・MLKP系メディア写真より)

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【トルコ国内・MLKP】 今年5月、党大会に際し声明を発するイスタンブールのMLKPミリス。銃や火炎瓶を手にしている。横断幕は「第6回党大会に栄光あれ」。声明では「党の戦列を打ち固め、労働者、被抑圧人民の闘争を高揚させ、(エルドアン政権の)公正発展党AKPを一掃せよ」などとしている。左から2番目の銃は、その上のガジ地区での銃っぽいので、同じ人物かも。(2019年・MLKP公表写真より)

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【トルコ国内・MLKP】 これはトルコ武装左翼各派が路上でよくやる爆弾横断幕(ボンバル・パンカルト)。スローガン横断幕の下に爆発物を置いて、プロパガンダをおこなう。これを警察署などの前とかでなく、労働者地区の路地や商店街に置いたりするので、「労働者人民の支持」が得られるかどうかは微妙。写真はMLKPの爆弾横断幕。(2015年・MLKP公表写真より)

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【トルコ国内・MLKPほか左翼】 ロジャヴァ(シリア・クルド地域)での戦いに連動し、トルコ国内ではMLKPを含む武装左翼各派が地下連合組織を結成し、連続放火を繰り返している。軍事関連産業の工場やエルドアン政権に協力する企業を「反革命機関」などと規定し、今年6月からの2か月間だけでも20件以上の放火を起こしている。(2019年・MLKP系メディア写真より)

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【MLKP】 MLKPの「革命烈士」となったアイシェ(デスタン)。そして、その戦いに続け、と党組織がさらなる結集を呼びかける。写真のスローガンは「蜂起から革命へ - デスタン精神で勝利を!」。シリア北部で拠点化を狙うトルコ左翼に呼応して、国内の武装左翼が活動を活発化させることをトルコ政府は警戒している。

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【シリアで戦死・MLKP・アイシェ】 写真に残るアイシェの顔はどれも笑顔でいっぱいだ。抵抗運動のヒロインがイラク北部で左翼ゲリラに、そして内戦下のシリア内戦に向かい、ISとの前線で戦死。まるで映画のようだが、これはいま起きている現実の戦争のなかの悲しいひとつの物語である。彼女と同様に戦闘現場に加わる者たちにも、そして彼ら、彼女らが銃を向けて戦う相手にも、またそれぞれの物語があり、たくさんの命が失われてきた。(MLKP系SNS写真より) 

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