イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【イスラム国(IS)】パンクスからIS妻になった英国人サリー・ジョーンズとは・息子ジョジョは捕虜処刑映像~米軍ドローン攻撃でサリー死亡報道(3)写真19枚(全3回)

◆サリーの夫は空爆死、幼い息子は捕虜処刑映像に
サリーがIS勧誘や英国でのテロを呼びかけただけでも十分深刻だったが、さらに衝撃の事態が起きる。2016年、ISが公開した捕虜処刑映像に、息子ジョー(愛称ジョジョ)とみられる子供が映っていたのだ。そして2017年6月、米軍ドローン攻撃でサリー死亡が報じられる。(写真を含め英メディア報道と、サリーを番組で報じた英TVプロデューサーからの情報をもとにしています。撮影時期と情報が前後する場合もあります)全3回
【第1回】【第2回】【第3回】

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2016年8月、IS・ラッカ県メディア部門は敵対勢力の捕虜を次々と殺害する映像を公開。ISに対峙するクルド勢力の捕虜を、エジプト、イギリス、チュニジアウズベキスタン出身とみられる子どもが銃殺。右から2番目に立つ少年はサリーの息子ジョジョではないかと報じられた。ジョジョはシリア入り後、アブ・ハムザの名をつけられたが、映像ではアブ・アブドラ・アル・ブリタニと名が出ている。(2016年8月・IS映像・一部をぼかしています)

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ISはラッカ発映像で敵対するクルド組織の5人に囚人服を着せて銃殺する映像を公開、そこに映っていたのが、サリーの次男ジョジョとみられる青い目の少年だった。ジョジョならこのとき11歳。「サリーの息子が処刑映像に登場」との報道に英国社会では大きな衝撃が広がり、ジョジョの祖母は苦しい心境を英紙に語っている。(2016年8月・IS映像)

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サリーはシリア・ラッカを拠点にしていたが、イラクに行ったことも。「チグリス川でピクニック」とツイッターに投稿している。当時、IS地域から刻々とメッセージを発信するサリーは「IS有名人」のひとりだった。書き込まれたメッセージにリプライするなど、IS妻と世界がライブでつながる状況になっていた。

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サリーはツイッター発信を宣伝戦術としたのか、投稿することで承認欲求を満たしたのかはわからない。米海軍特殊部隊NAVY SEALsの個人アドレスのリンクを「殺害リスト」として投稿もした。ツイッターフェイスブックの運営がアカウント凍結対策を強化したものの、新たなアカウントで発信が繰り返された。ただしかつてのような野放し状態に比べると発信は減った。またIS関係者は相互メッセージのやり取りを、テレグラムなど別のSNSに移していった。

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2015年11月に英TV・チャンネル4で「IS支える英国女性たちの実像」という番組が放送された。番組では女性ディレクターが身分を隠し、過激主義に関心を持つ女性になりすましてロンドンの地下ネットワークに潜入し、1年にわたって隠し撮り取材。そこではシリア入りをコーディネートする女性の地下ネットワークの存在が明らかに。(Channel4番組より)

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番組内では、なりすました取材者が「ニカブをかぶりたいけど母が許してくれないの」とシリアにいるサリー・ジョーンズにメッセージを送る。するとサリーは「(イスラム国に)移住してはどう?」と返信し、航空券についてアドバイスする。潜入取材では英国内でシリア行きをサポートする女性も追っている。(Channel4番組より)

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この番組を制作した英国人プロデューサー氏とは自分も何度か一緒に仕事をしたことがあって、いろいろ教えてもらった。番組では潜入取材者が隠し撮りを続けるも、最後には地下グループのリーダー格の女性から疑われて取材中止までが映っている。「リーダー女性の顔を放送して大丈夫だったのか」とプロデューサー氏に聞いたところ、女性はすでにテロ関連容疑で治安当局に逮捕されたという。(Channel4番組より)

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このプロデューサーのチームは、英国のIS支援ネットワーク隠し撮り取材だけでなく、別番組で英極右組織にも潜入。そこでは「現代の最大の標的はユダヤより、移民とイスラム」とする過激なヘイト思想と排外主義的政治目標が語られる。プロデューサー氏によると、どちらの番組も反響があったが、極右潜入番組のときは脅迫があり、また治安機関が傍受した極右組織の通信でプロデューサー氏の名が挙がっていたことから、身辺に気をつけるようアドバイスがあったそうだ。ISと極右、いずれの過激主義も英国社会が直面する深刻な問題だ。(ITV番組より)

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英Skyニュースは、ラッカから出てシリア民主軍(SDF)に収容されたIS妻でサリーを知るという女性をキャンプで取材。サリーは英国に帰国したいと言っていた、と話す。事実であれば、サリー自身が望んでISに加わり、テロ扇動やIS志願者リクルートをしておきながら、帰国を望むのも勝手な話ではある。ただ、ISに入ったことを後悔する気持ちになっていたのかもしれない。一方、息子ジョジョは幼いころにサリーに連れられてシリアに入り、過激主義洗脳教育を受けて捕虜処刑までさせられている。ISの「被害者」とも言えるが、サリーとともにドローンで殺害されたなら酷なことだ。(Skyニュース映像より)

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2017年6月、サリーはラッカ南東マヤディーンで米軍ドローン攻撃を受け、死亡と報じられた。各紙は詳細な画像入りで殺害作戦成功を伝えた。米軍ドローン、プレデターからヘルファイアミサイルが発射されたという。サリー、この時、50歳。暗殺リストにリストアップされ標的となったIS女性はサリーが初めてとされる。息子ジョジョも一緒に死亡したとされるが、サリーとは別の場所にいたとも伝えられ、生死は不明。サリーの死亡はほぼ間違いないとみられている。(画像:英タブロイド各紙がサリーの死を伝えた記事より)

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英軍もIS掃討作戦を戦う有志連合に参加してきた。写真は有志連合軍・副司令官で英軍のルパート・ジョーンズ少将。IS志願の英国出身者がシリア・イラクに入り、自爆攻撃や住民殺害を繰り返し、他方、英軍がシリア・イラクで軍事作戦を展開する構図に。(有志連合・CJTF-OIR映像より)

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写真は2014年にISメディアが公表したシリア・イラクの国境盛土を破壊する写真。英国の中東政策をさかのぼれば、ISが「西側列強・キリスト教十字軍によるイスラムの地の分割」と批判するサイクス・ピコ協定も、もとはといえば英仏が引いたイラク・シリア分割線である。その場所が世界を脅かすテロ震源地になり、英仏軍が派遣される悲しき「皮肉」となっている側面もある。(2014年6月・ISメディア・HAYAT・ISリポート・第4号より)ISの国境解体映像 >>

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写真はシリア・ラッカでのISへの英空軍のドローン攻撃(サリー殺害の米軍ドローンとは別の映像)。日本とヨーロッパでは状況も背景も異なるが、例えば日本人が数百人単位で紛争国に入って過激組織に加わって住民を処刑したりテロを扇動し、実際に支持者が日本国内で無差別に市民殺傷して、その紛争国に自衛隊を派遣して容疑者らをドローン攻撃で殺害、さらに巻き添えで地元住民にも犠牲が出てしまう状況を想像できるだろうか。これがこの数年、欧米各国がISとの関係で直面してきた現実でもある。(英国防省映像)

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右はサリーがドローン攻撃で死亡したことを伝えるThe Sun紙のトップ見出し、「白い未亡人・抹殺される」。IS問題はシリア・イラクでの紛争だけでなく、ヨーロッパ、そして英国国内のテロ対策に直結する深刻な課題となっていた。無差別殺傷や爆弾事件があいつぎ、また戦火から逃れてきた難民の受け入れをめぐる政策も左右する問題だった。

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英国出身の子どもがIS処刑映像に登場したのは、サリーの息子ジョジョだけではない。それに先立つ2月、車に閉じ込めた「スパイ」を子どもが遠隔爆破リモコンで爆破し殺害させる映像がある。イサ・デア(4歳)とみられ、母グレースは「私は西側の人質を殺す最初の英国人になりたい」とSNS上に書き込んでいる。父はスウェーデン国籍のアブ・バクルで、戦闘で死亡したとされる。英国出身でIS地域入りした子どもは少なくとも50人いるといわれる。(2016年・IS映像)

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ニュースサイト・バーミンガムライブは2018年10月、「サリーは生存していた可能性」とする情報を伝えている。シリア・クルド組織YPGに拘束されたカナダ出身IS戦闘員ムハンマド・アリ(アブ・トゥラブ)の証言として、シリアのハジンまたはシャファハに潜伏しているのではないかとしているが、真偽は不明。その後も生存情報や身柄拘束報道は出ていない。(写真はAFP映像より)

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これまでにIS入りした英国出身者の戦闘員と女性・子どもはあわせて800人前後とされる。IS拠点が陥落するなか、拘束された戦闘員やIS家族の本国送還も今後、大きな問題となるだろう。

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かつてはパンクスだったサリーが変遷を経たのち、なぜ過激組織ISに惹かれ、シリア入りするに至ったか、その動機は不明のままだ。100人いれば100の個々の背景がある。既存社会への反発や、人生への悔悟が宗教に向かわせたのか、サリーが心寄せたジュナイドへの思いからか、理由は様々だろう。ISによって多くの住民、異教徒が苦しめられ、彼女のテロ扇動が欧米で無差別テロを誘発することにもつながった現実や、息子の運命までも変えてしまったことを見るならば、サリーの人生を「パンクでアナーキーな生き方」とするにはあまりに悲しみに満ちている。

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過激主義に惹かれる一定層の人間が存在するのは宗教に限ったことではなく、左翼、右翼含め、いつの時代でもある。ISに関連したマンチェスター爆弾事件やウェストミンスターでの襲撃など、いくつもの市民殺傷事件が起きた英国だが、ほとんどのイスラム教徒はISのような過激主義と無縁で暮らしている。ロンドン市長パキスタン系のイスラム教徒であり、市民に支持されている点も押さえておきたい。写真は2017年3月に起きたロンドン車両暴走殺傷事件の現場、ウェストミンスター橋で手をつないで犠牲者を追悼するイスラム教徒の女性たち。(写真はロイター)

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