イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【シリア・クルド】イスラム国(IS)掃討作戦~シリア民主軍(SDF)元報道官トルコ「寝返り」事件(4)トルコ政界スキャンダルと対米外交戦(写真11枚)

YPG「エルドアン政権スキャンダル隠しにタラル・セロ証言利用」
シリア民主軍(SDF)司令・報道官、タラル・セロのトルコへの「寝返り」事件の真相はいまだ不明のままだ。クルド・人民防衛隊(YPG)側は、トルコ政界スキャンダル、レザ・ザラブ事件まで持ち出して、「トルコの策略」と非難。アメリカとトルコの緊張した外交関係のなかで起きたタラル・セロの「亡命劇」。それぞれが応酬を繰り広げる。
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イスラム国(IS)拠点都市、ラッカの攻略戦では、近郊の農村部から包囲し、市内に突入した。2017年7月、市内中心部への最終突撃戦を前に声明を読み上げるタラル・セロSDF司令・報道官。トルコへの「寝返り」は、このラッカ攻略を果たした直後に起きる。(2017年6月・FURAT-FM映像)

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トルコ・アナドル通信がタラル・セロのインタビューを報じた直後、SDFメディア部門ムスタファ・バリ司令官は声明を出し、「タラル・セロはトルコに脅迫を受け、拉致されたもので、証言内容はでっち上げ、虚偽」とした。過去、SDFの別の司令官のひとりが何者かに暗殺されたこともあるなど、SDF内部も揺れてきたなか、今回はタラル・セロ報道官というトップがいきなり敵対相手に寝返って、数々の「内部情報」を暴露。まるで戦国時代のようだ。(2017年11月・SDF写真)

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タラル・セロの「寝返り」後に、YPG報道官ヌリ・マハムードがクルド系ANF通信(PKK系)のインタビューに答えている。「タラル・セロは個人的な経済問題を抱え、また子ども2人はトルコにいて、当局から脅迫を受けていた」としている。「トルコ情報機関MiTが仕組んだもので、その背景にはレザ・ザラブ事件で政権腐敗が明らかになるなか、アメリカが供与した武器がテロ組織PKKに流れているとトルコが印象操作するため」と語っている。(ANF通信記事・2017年12月7日)

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YPG報道官が指摘したザラブ事件とは何か。レザ・ザラブはイラン生まれのアゼリ人実業家・金投機家トレーダーで、トルコとアゼルバイジャンの国籍を持つ。トルコとイランの政財界に太いパイプを持ち、経済制裁下のイランへの送金迂回、マネーロンダリングなどで2013年、トルコ当局がが拘束。ところが事態は急展開…

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レザ・ザラブ事件では、エルドアン(当時・首相)政権の内務大臣ら3閣僚の子息らがトルコ検察当局に逮捕された。トルコ国営ハルク銀行を足掛かりに米が経済制裁を科すイランの迂回送金ルート構築に関与したとされた。当時、ハルク銀行の執行役員だったベラット・アルバイラク(写真)はエルドアンの娘婿で、事件への関与が浮上して一大スキャンダルとなった。ところがエルドアンは強権を発動し、「これは司法クーデターだ」などとして検察や捜査関係者を解任。ザラブら容疑者は釈放される。アルバイラクはのちにエネルギー資源大臣に。2015年にトルコ軍がロシア軍機撃墜した際、「ISとの石油売買を仕切っている人物」とロシア側に非難されたのが彼。(追記:アルバイラクは2018年7月には財務大臣に就任)(写真はトルコ・カナルDテレビ映像より)

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レザ・ザラブ事件にはさらに第2幕があり、トルコとアメリカの外交問題へと発展する。2016年、レザ・ザラブはアメリカでFBIに逮捕される(写真左)。イラン経済制裁に違反し、マネーロンダリングなどの容疑がかけられたうえ、米検察はザラブ人脈にエルドアンの妻エミネ夫人の名を上げ、トルコ政府中枢と深い関係を指摘。ザラブ側の弁護団ジュリアーニニューヨーク市長やミュケイジー元米司法長官らが加わり、エルドアン大統領と会合を持っていたことも明らかになった。事件の登場人物が超豪華な面々になり、さらに話題をさそっていった。写真右はレザ・ザラブの妻で歌手のエブル・ギュンデシュ。

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2017年3月、米司法当局とFBIは、「レザ・ザラブと共謀し、対イラン経済制裁に関する米国法に違反した容疑」などでトルコ国営ハルク銀行のメフメト・ハカン・アティラ副頭取をニューヨークの空港で逮捕。国営銀行の副頭取まで逮捕される事態に。(写真右FBIの逮捕時の映像)

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トルコ国営放送TRTが2017年12月公開した英語動画。米で司法取引に応じて、トルコ政府中枢の関与を「暴露」したレザ・ザラブをこき下ろしている。「米刑務所の看守を4万5千ドル(=約500万円)で買収し、自分の拘置房に電話、酒、タバコ、マリファナを融通させた」などとしている。国営メディアまでこんな状態に。(2017年12月・TRTワールド)

【動画】エブル・ギュンデシュ・ビデオクリップ

レザ・ザラブが米検察当局との司法取引に応じた展開をうけて、トルコ政府は、アメリカに「寝返った」レザ・ザラブに報復的措置をとり、ザラブと家族、関係者らのトルコ国内の資産が差し押さえられた。これにはザラブの妻で歌手のエブル・ギュンデシュも含まれると報じられた。政財界スキャンダル、対米外交戦に芸能ゴシップまで重なった。せっかくなので彼女のビデオ・クリップをどうぞ(歌うまいよ)

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さらにトルコ当局は、2017年10月、駐イスタンブール米領事館のトルコ人職員を「ギュレン派クーデター未遂事件に関与」などとして逮捕。またトルコ系米国人のNASA科学者も拘束。両国の関係は悪化し、互いに渡航ビザ発給停止措置にまで発展し、報復の応酬になっている。トルコ政界スキャンダルやイラン制裁、ギュレン派、軍事クーデター未遂事件、シリア情勢でクルド支援深めるアメリカの姿勢などをめぐって熾烈な駆け引きが続く。写真は2017年5月、訪米したエルドアン大統領。(2017年・ホワイトハス公表映像)

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YPG報道官ヌリ・マハムードは「トルコはロジャヴァ(=シリア・クルド地域)での我々の民主革命を破壊するためにあらゆる方法を使い、反体制派組織やISまでも支援してきた」と主張。またANF通信インタビューでは「11月のタラル・セロ事件を利用し、PKKがシリア北部を支配していると情報を拡散させ、米国からの武器供与を阻止しようと画策している」としている。(2017年11月・YPG映像)

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トルコとアメリカ、そしてクルドのあいだで謀略や情報戦の応酬が続く。ISという「共通の敵」との戦いのなかにも、それぞれの思惑が交錯し、政治の駆け引きで事態が動いている。(2017年12月・アナドル通信写真)

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「ユーフラテスの憤怒」作戦・これまでの流れ(おもな声明一覧)
第1段階・開始声明 (2016/11/06)    第2段階・開始声明 (2016/12/10)
第2段階・戦果報告 (2017/01/16)    第3段階・開始声明 (2017/02/04)
第3段階・第2攻勢 (2017/02/17)    第4段階・開始声明 (2017/04/13)    
タブカ・ダム制圧声明
(2017/05/12) 
ラッカ突入・大攻勢戦開始声明
(2017/06/06)
ラッカ解放・勝利宣言 (2017/10/20)