イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【シリア・クルド】イスラム国(IS)掃討作戦~「シリア民主軍(SDF)への供与武器がPKKへ」と、トルコに「亡命」の元報道官(3)写真12枚

IS掃討作戦の背後でシリア情勢めぐる駆け引き
シリア民主軍(SDF)の顔となってきたタラル・セロ司令・報道官の「トルコ亡命劇」。トルコ・アナドル通信インタビューでタラル・セロは「SDPとクルド・人民防衛隊(YPG)にアメリカが供与したIS掃討作戦のための武器が、クルディスタン労働者党(PKK)に渡っている」と「証言」。掃討作戦を通じて関係を深めるアメリカとクルド勢力にトルコの危機感が強まる。
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トルコに事実上「亡命」したタラル・セロ元SDF司令・報道官が、アナドル通信でこれだけSDF・YPGに不都合な話をしたにもかかわらず、この段階ではSDFもYPGもタラル・セロを厳しく非難してはいない。YPGやPKKは、組織から離脱したり、背いた者は「ハユン(裏切者)」と呼ぶのが通例だが、これまでの段階ではタラル・セロに対してはこの用語を使わず、「アナドル通信での“証言”はトルコ当局の書いたものを読まされた」としている。写真左は2016年、IS掃討後のシリア・マンビジでのタラル・セロ。(2016年8月・SDF映像)

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ロシア・スプートニククルド語版が2017年12月に伝えた、アメリカのシリアのYPG・SDFへの武器供与の移送拠点ルートと武器の種類とする図(拡大)。ハンヴィやクーガー装甲車の支援はあっているが、米国製戦車誘導ミサイルTOWはトルコが問題視しているので違うと思われる。ただ、もし供与があるとすれば、直接シリアへではなく、イラク支援の割り当て分を回す可能性がある。実際にはシリアへはカラシニコフ銃やRPG-7などが多く送られている。スプートニクはロシア宣伝機関といわれるものの、クルド語セクションはわりと独自に編集する余地があって、なかには有用な記事も。(追記:2018年6月、スプートニククルド語セクションは終了)

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シリアで有志連合軍が武器供与や戦闘訓練する様子。この米中央軍公表の写真はいずれもクルド・YPGなど記章や旗は意図的に写り込まないようにしていた。名目上は「ISと戦うアラブ人連合組織と精査されたシリア諸組織(VSO)への武器支援」。下の女性戦闘員はアラブ人だけでなく、クルド人もけっこういると思われる。(2017年2月・米中央軍写真)

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これも米中央軍公表写真。米軍の支援プログラムには、戦闘や射撃訓練も含まれる。またフランス軍もこれら訓練を教えている。写真右はシリアを訪れたトロクセル米統合参謀本部上級アドバイザー。結びつきを深めるシリア・クルド勢力とアメリカの関係に、トルコは焦燥感をつのらせていた。(2017年2月・米中央軍写真)

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書類上は「アラブ人連合組織」に武器を渡したことにして、実質的にアメリカのYPGへの武器供与を可能とする手法は、世界の脅威となったISを掃討する作戦を進めつつ、NATO同盟国トルコの批判をかわすためでもあった。今回、タラル・セロがシリア・SDF・YPGがPKKの指示下にあると「証言」したことの意味は大きい。アメリカは以前からPKKを「テロ組織」としているが、その関連武装組織に国防総省が武器供与と多額の援助したことになり、米国内法違反にもつながりかねない。アメリカに揺さぶりをかけたいトルコ当局の思惑が見え隠れする。(2017年2月・米中央軍写真)

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これはYPG映像。YPG戦闘員はどんな記章かというと、部隊章のほかにオジャランPKK指導者の肖像などを付ける。左の戦闘員の記章はオジャランの顔。文字はクルド語で「ベ・セロク・ジヤン・ナーベ=(オジャラン)指導者なくしては我らの人生はない)」。トルコの反発を招くので、米軍公表写真ではこういうのが映り込まないようにしている。(2017年7月・YPG映像)

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米軍特殊部隊は早い段階から直接シリアに入り、IS壊滅作戦でSDF・YPGと連携してきた。クルドメディアが報じた映像で、いずれも米軍特殊部隊兵士。米兵がおそらく個人的にYPG章をつけていたものと思われる。これにトルコは強く反発。その後、米軍もこうした行為に慎重になった。右の米兵は、YPG章(黄)に加え、女性部隊YPJ章(緑)もつけている。(2016年5月・クルディスタン24映像)

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一方、こちらはマンビジ境界線に展開するロシア軍。写真左写真中央クルドの新年ネウロズの集まりでのもの(2017年)。中央はYPG章をつけているうえに、背後にはオジャランPKK指導者の肖像。写真右はYPG主導のマンビジ軍事評議会の記章をつけるロシア兵(2016年)。これも個人的に兵士がもらったものをつけているだけだが、ロシアもYPGと関係を作っていることをトルコ・メディアは危機感をもって伝えた。(トルコ・atvニュース映像)

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アメリカはIS壊滅を優先させるため、SDFへの武器供与を続け、トランプ政権になってからは支援がさらに増加した。写真左トランプ大統領と米中央軍司令官ヴォーテル大将(2017年3月)。 写真右は2016年5月、シリアのSDFを訪れたヴォーテル大将。右端にはタラル・セロの姿もある。(いずれも米中央軍公表写真)

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国防総省の次年度会計リストにあるアメリカがシリアSDFへの供与武器(拡大)。2017年のAKー47=10,200丁から、2018年では25,000丁となるなど大幅増強。昨年のと比べるとAK1丁あたり(整備キット・スリング付き)の調達単価は525ドル(2017年)から、なぜか798ドル(2018年)に。2018年だけでもPKM機関銃(1500丁)、RPG-7ロケット砲(400門)、SVDドラグノフ狙撃銃(95丁)、120ミリ迫撃砲(60門)など。これまでの支援分もあわせるとかなりの武器が供与されている。赤枠で囲んだ部分には「国防総省は武器が誤って使われるのを防止するために監視する」とある。これは具体的にはSDFからPKKに供与武器が流れないようチェックするということで、トルコからの批判を念頭に置いているもの。

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ホワイトハウスは2017年5月、「シリア・クルド組織含むアラブ連合組織と、精査されたシリア諸組織(VSO)への武器支援増強」を発表。武器のほか、軍用・民生車両、ブルドーザー、通信機器なども含まれる。アメリカ側の会計書類上ではYPGの名は出ていないが、実際にSDFを主導するのはYPG。写真はアメリカが供与した軍用車両ハンヴィで、デリゾール近郊のIS掃討の「ジャジーラの嵐」作戦に向かうYPG部隊。(2017年9月・YPG映像)

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2017年8月、マティス米国防長官がトルコを訪問した際、「トルコ側はシリアSDFへの米国の武器支援がテロ組織PKKに渡っていると証拠写真を提示」とトルコ・メディアは伝えている。写真はトルコ南東部シュルナク県ウルデレで国境警備隊が押収したとされるAT-4携行対戦車弾。シリアSDF経由でなければ、PKKがイラク・シンジャルなどのISとの戦闘で奪ったものをトルコでの戦線に回した可能性もある。(2017年8月・ヒュルリエット紙)

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タラル・セロはアナドル通信インタビューで「アメリカは支援した武器がどうなろうと関心を払っていない」「武器はSDFからYPGへ、そしてPKKに渡った」と証言。実際に武器の一部がPKKに流れている可能性はある。だが今回のタラル・セロのトルコ「寝返り」事件が、トルコ・アメリカの外交関係が緊張している状況で起き、トルコのアフリン侵攻まで視野に入れた話が出るなど、一連の「暴露証言」がトルコ側に有利な内容となっていることも押さえておきたい。(2017年12月・アナドル通信写真)

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「ユーフラテスの憤怒」作戦・これまでの流れ(おもな声明一覧)
第1段階・開始声明 (2016/11/06)    第2段階・開始声明 (2016/12/10)
第2段階・戦果報告 (2017/01/16)    第3段階・開始声明 (2017/02/04)
第3段階・第2攻勢 (2017/02/17)    第4段階・開始声明 (2017/04/13)    
タブカ・ダム制圧声明
(2017/05/12) 
ラッカ突入・大攻勢戦開始声明
(2017/06/06)
ラッカ解放・勝利宣言 (2017/10/20)