イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【シリア・クルド】イスラム国(IS)掃討作戦~シリア民主軍(SDF)部隊編成(写真・図 11枚)

◆YPG主導で進むシリア北東部でのISとの戦い
10月にISの「首都」とされたラッカを制圧したシリア民主軍(SDF)。それを主導するのはクルド・人民防衛隊(YPG)だ。そしてその母体となったのはクルディスタン労働者党(PKK)である。アメリカはPKKを「テロ組織」とする一方、IS掃討作戦を迅速に進めるために、SDFには武器支援し、空爆や米軍地上部隊派遣などで連携してきた。PKKの武装闘争に苦しめられてきたトルコは、シリア北部でのSDF勢力拡大を警戒する。SDFにはどのような組織が参加しているのか。

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シリア民主軍(SDF)に参加・共闘する武装諸派。合計の兵力規模は5万人前後とされる。多様な組織の連合体であるが、実質的にはYPG主導。赤い枠で囲んだ部分は、主観ながら、PKKの影響度が強い組織。シリアのキリスト教系組織はシリア正教やアッシリア人組織。このほかSDFには各国の左翼義勇兵らが参加する国際自由大隊(IFB)なども参加。自由シリア軍系は諸派乱立し、SDFと共闘するのはラッカ近郊の部隊などで、ほかのアラブ人地域ではSDFには批判的。

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ラッカでのISとの戦いを続けるSDF部隊。SDFが結成されたのは2015年10月。「民主主義と世俗主義によるシリア建設」を目的とする。クルドYPGがIS掃討戦を進めるなかで、地元アラブ人を組織化して広範な武装部隊を編成し、また建前上はYPGと切り離すことでアメリカなど外国からの軍事・物資支援を受け入れやすくする狙いもあった。(2017年・SDF写真)

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米大統領選で「自分ならISを早期に壊滅させる」とアピールしてきたトランプが大統領になって以降、SDFへの武器支援は顕著になった。写真はアメリカが供与した装甲車両。(2017年・SDF写真)

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アメリカは支援武器を小型・中型火器や装甲車などに限定し、トルコの反発にも配慮している。迷彩の装甲車はアメリカがSDFに供与したIAGガーディアン。(2017年・YPG映像)

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2017年12月時点のおおよそのシリアの勢力図。クルドYPGにとっては、北部のクルド地域での自治が主要目的。クルド人戦闘員の多大な犠牲を出してもアラブ人が多い町、マンビジ、ラッカ、デリゾールで対IS戦争を進めてきたのは、政治カードにできるという思惑もある。国際的な後ろ盾を持つことができなかったクルド民族が自治地域を獲得し、世界に承認させるには、どれだけカードを持っているかも重要になる。シリアはイラクのような大型油田はないが、デリゾール東部には中小規模の油田地帯が点在し、将来的な政治交渉でアサド政権と北部「クルド自治区」実現の交渉材料にもなりうる。 

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SDFは、ラッカ攻略を目指す「ユーフラテスの憤怒作戦」での勝利を宣言。その後、デリゾール方面のIS残存部隊を北部、東部から追撃する「ジャジーラの嵐」作戦を展開。ジャジーラとは、シリア北東部一帯の地域を指す。(2017年・SDF写真)

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ISとの戦いでは、戦死者もあいついでいる。戦死すると顔写真・氏名・入隊日・戦死日などが公表される。(2017年・SDF写真)

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IS残存部隊を地域から排除するには、地元部族の協力が欠かせない。部族側は周囲の政治状況や力関係、協力へのメリット・デメリットなどを考えながら判断する。写真はデリゾール近郊の部族に協力を求めるSDF。(2017年・SDF写真)

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写真はISが7月に公開した映像。前線でSDF戦闘員を拘束し、「こいつがブタ野郎だ」とISが言う。ISはSDFを「PKK無神論者」とし、諸派連合や地元部族のSDF協力を批判。IS広報官アブル・ハサン・ムハジールの6月声明でも、イラク・シリアでの戦いを、ムハンマド時代のイスラム軍勢が部族連合軍と戦った故事を持ち出し、「野合・結託した部族連合に対するカリフ軍勢の戦い」と表現した。(2017年・IS映像)

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SDFの「顔」となってきたタラル・セロ司令・報道官は、11月、突然、姿を消し、トルコが支援するシリア北部の反体制派地域に入ったとされる。突然の「トルコへの寝返り」にYPGも騒然とし、トルコ情報機関MiTの謀略工作・介入であると非難している。タラル・セロ司令官自身はクルド人ではなく、シリアのトルクメン(トルコ系住民)の出身でセルジュク大隊司令官だった。詳細>>

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ラッカ中心地で勝利を語るYPJナスリン・アブドラ司令官の背後にあるのはオジャランPKK指導者の肖像。「オジャラン思想によって勝利は導かれた」などと話す。クルド人であるオジャランの肖像を、アラブ人地域で大々的に掲げるのは余計な反発につながるのではないかとも思うが、国際的な宣伝効果は大きい。ISを駆逐したあとはSDF系の住民委員会が町や村を統治することになり、この統治システムはオジャランの民主コンフェデラリム思想に基づくものとなる。アラブ人が多い地域では、治安回復と復興に期待を寄せつつも、クルド主導による統治機構への移行に不安を抱く住民も少なくない。(2017年・YPG映像)

「ユーフラテスの憤怒」作戦・これまでの流れ(おもな声明一覧)
第1段階・開始声明 (2016/11/06)    第2段階・開始声明 (2016/12/10)
第2段階・戦果報告 (2017/01/16)    第3段階・開始声明 (2017/02/04)
第3段階・第2攻勢 (2017/02/17)    第4段階・開始声明 (2017/04/13)    
タブカ・ダム制圧声明
(2017/05/12) 
ラッカ突入・大攻勢戦開始声明
(2017/06/06)
ラッカ解放・勝利宣言 (2017/10/20)