イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【イラク】アバディ首相・イスラム国(IS)に対する戦い「勝利宣言」(日本語訳・全文)(2017/12/09)

ISに「最終勝利」と宣言
2017年12月9日、イラクのアバディ首相は、武装組織イスラム国(IS)に対する「勝利宣言」を発表した。この宣言はイラク政府・軍が、ISに勝利したことを内外に示したものとなる。実際にはアンバルやキルクークの一部地域にIS残存勢力が残っており、最終勝利にはまだ時間がかかるとみられる。以下は「勝利宣言」の全文。(一部意訳)

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ISに対する「勝利宣言」を読み上げるアバディ首相。(イラク首相府写真・2017年12月9日)

アバディ・イラク首相・ISに対する勝利宣言 
(2017/12/09)

慈悲深く、慈愛あまねアッラーの御名において。

【その日、信徒たちはアッラーの勝利を喜ぶであろう。御方(=アッラー)は御心のままに助け給う。全能で慈悲深き御方】コーランギリシア人章:4-5節)

イラク国民の皆さん
皆さんの国土は完全に解放されました。占領された都市、町々はわが国民の心にもとへと取り戻され、解放の夢はいま現実のものとなったのです。

ともに国民として、アッラーの恩寵のもと、わが英雄的な軍の勇敢さと国民の不屈さをもって、多大なる試練と困難のなか、私たちは課せられた責務を果たし、成し遂げたのです。殉職戦死者ならびに負傷者が流した血とともに、国民は確固とした歴史的な勝利を勝ち取りました。これはのちの世代のイラク人すべての誇りとなるものでしょう。

きょう、私たちはイラク国民に呼びかけます。わが英雄たちは、ダアシュ(IS)の最後の拠点をここに一掃しました。最後に残されていた占領地域だったアンバル県の西部各地にイラク国旗を高々と掲げたのです。きょう、私たちの国旗はイラク全土、そして遠隔の国境地帯に至る隅々にまで、高く翻っているのです。

3年という長きにわたり、諸君の勇猛果敢なる部隊が各地の町という町、都市という都市をあいついで解放したのです。彼らの決意と確固たる信念は、敵を震撼させ、他方、わが同胞にとっては歓喜となり、世界からは、諸君が成し遂げた任務に畏敬の念が向けられました。

最も過酷で苛烈なる状況のなかにあって、困難や試練を乗り越え、打ち勝った姿。これこそがイラク人の正真正銘の姿であります。

イラク国民の皆さん。
きょう、皆さんは勝利を高らかに誇りましょう。国民の団結と決意、尊い犠牲があってこそ勝ち得た勝利です。アッラーの祝福をもって、この勝利を確固と守り抜き、国民どうし結束し、祖国に献身し、安全で安心できるイラクの新たな未来を切り開いていこうではありませんか。

この歴史的な機会に際し、私はわが親愛なる国民と勇敢なる戦士たちに、心からの、そして誠実なる祝福の賛辞を贈りたい。きょう、私たちが祝福する勝利は、すべてのイラク人にとって、祝日として後年にわたって記憶されるものとなるでしょう。

3年前に開始された解放作戦は、イラクの勝利の歴史に確固と刻まれます。そしてこれはまた、わが国民の歴史とその民の畏敬に値する神聖なる戦いにおいて輝き続ける灯火となるでありましょう。

殉職戦死者ならびに負傷者のご家族の方々に対しまして、申し上げたいと思います。「皆さんのお子さんたちの血は決して無駄に流れたのではありません。胸を張って、息子さんたちの犠牲献身が、イラクとすべてのイラク国民に確固たる誇りをもたらしたのです。

歴史は語り継ぐでしょう。大アヤトラ、サイード・アリ・シスタニ師が発した奮勇の導標たるファトワ(宗教令)が、わが祖国とすべての聖地を防衛するジハードを招集し、信徒たちはその呼びかけには馳せ参じ、若きも老いも最長におよぶ義勇兵動員をもってわが軍部隊を支え、テロに対する戦いとして、空前の義勇国民の総参集となりました。それによって、民衆動員隊(PMU)やその他の多数の有志参加者を結集させたのです。

イラク国民の皆さん
私たちの勝利は、わが国の分断の局面が到来した状況下にあって、イラクの結束の維持をもって確固としたものとして成し遂げられるのです。

アッラーの称讃のもと、これはイラクと国民の結束であり、大いなる国民的成果を形作るものであります。

私たちは分け隔てなくすべての国民に奉仕するにあたり、同様の決意と決心をもって臨むでしょう。国富を維持、発展させ、また質を向上させつつ、社会正義と法の支配を憲法の統治のもと、また、わが国民各人の自由、信仰、信条の多様性、民族的多様性を尊重しながらなされるものであります。

きょう、私たちは勝利の次の段階を迎えています。ダアシュ(IS)や他のトロリストや腐敗分子らが恐怖におののくなか、他方、わがイラク国民は、いかなる危害からも安全で、かつ治安が確保された統一国土イラクの新たな夜明けを目にしようとしているのです。

我々が成し遂げた勝利、この武器こそ統一です。そして、これは私たちが保ち続け、確固と守り続けなければならないものです。
きょう、イラクとその富は、イラク人すべてのものであります。東西南北にいたる各地で誰もが、安定と治安、発展と繁栄この勝利を享受できるものでなければなりません。

解放された都市や街を再建するのが私たちの次のゴールであり、その歩みを止めてはなりません。これらは。わが国の勇敢なる息子たちが国民を守りぬいてくれたすべての国土におよぶ地域です。

すべての政治家ならびに行政職員には、その責務を誠実に果たすことを呼びかけます。そして、テロが二度と戻らぬよう、平和と安定の確立に向けて尽力することを求めます。

ダアシュ(IS)集団の台頭を招き、わが国の町々を制圧し、数百万のイラク人を故郷から追い立て、筆舌に尽くしがたい惨禍や犠牲、国土の富と資源の多大なる損失を招くことにつながった、宗派利害や先導的な言辞を厳に慎むことをすべての国民に強く求めます。

すべての武器は国家の法的統制のもとに確固と管理運用されることが、わが主権国家を強化し発展させる最良の方途であり、それらはイラクに社会正義、平等、治安をもたらすものです。

腐敗に対する戦いの取り組みは、わが国と国民の解放における延長上にあるものです。イラクがダアシュ(IS)の存在を許さぬごとく、腐敗も存在を許してはなりません。

これはまたもうひとつの戦いでもあるのです。それぞれが自身の場において、積極的に取り組みに加わり、その一部となるものであり、ひとりや個別主体の責任とするのではなく、ともに分担し、社会が共有すべきものであるのです。

みなさんの国はいま、この地域において、その正当なる立場と地位を向上させつつあります。そして私たちはすべてのアラブ諸国ならびに周辺国と新たな関係を再構築してきたのです。また世界の他の国々に対しても同様であります。

これらの諸関係は、国家主権の尊重と互恵的関係のもとに構築されたものであり、互いの内政への干渉とは距離を置くものです。

勝利を導いたすべての方々に敬意を表します。わが勇敢なる治安要員、警察官、軍、民衆動員隊(PMU)、対テロ機関、空軍、陸軍航空隊、ペシュメルガ部隊、ならびに技術部門、医療、物資部門を含む各種すべての部隊、そして支援と協力してくださった市民の皆さん、部族指導者諸氏の方々にも同じく敬意の念を表明したく思います。

加えて、社会インフラや基幹サービスを復旧することを支え、貢献するために献身的に尽力した各省庁、政府機関の職員にも敬意を表します。解放のための任務のあいだ、国民と軍とともにあってくれたジャーナリスト、メディア関係者、芸術家、知識人、すべての自由なる声となった諸氏で犠牲となられた方々、あるいは精神的支援と声援を与えてくださった方々すべてを称え、敬意を表明したく思います。

ダアシュ(IS)の野望は潰えました。この残滓を一掃し、テロリズムが復活するのを許してはなりません。

わが国の若者たちが流した血、安全の喪失とコミュニティの治安、(戦火で)移住を強いられた数百万のご家族の苦悩をはじめ、わが国民は多大なる損害を被りました。このページは上書きして書き換えられねばならず、決して元に戻るようなことがあってはならないのです。

これは最終の勝利宣言でありますが、しかし私たちは警戒を怠ってはなりませんし、わが国と国民をテロの脅威にさらす、いかなる企てをも挫き、阻止するよう対処しなければなりません。

テロリズムは常に脅威であり、このテロに対する私たちの戦いは今後も続くのです。私たちの偉大なる勝利のカギは、結束と調和です。私たちはこれを確固として守り抜かねばなりません。

この(ISとの戦いの)期間中、イラク国民のために尽力していただいた各国の国民、NGO機関、人道支援機関にも感謝したい。

また、祖国を守るためにそれぞれ武器をとって戦ってくれたすべてのイラク人に敬意を表します。殉職者の御霊みたまとすべての負傷者、ならびに犠牲者たちのご家族に敬意を表します。その犠牲の一つ一つがイラクと国民の結束の証しなのです。

イラクの勝利万歳。イラクのすべての子供たちに、安全と繁栄があらんことを。

万有の御主、アッラーにすべての称讃あれ。

ハイダル・アル・アバディ  イラク首相
最高司令官
2017年12月9日

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ISに対する「勝利宣言」のスピーチをするアバディ首相。2014年、モスルが制圧された直後にファトワ(宗教令)を発して「ISに対する祖国防衛の戦い」を呼びかけたシーア派指導者シスタニ師にあらためて謝辞を述べている。(イラク首相府写真・2017年12月9日) アバディ首相のモスル解放宣言全文とシスタニ師ファトワ >>

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ISはシリア内戦の混乱を利用しつつ、イラク各地で勢力を拡大させ、西部一帯の都市を次々と攻略、2014年6月には北部の大都市モスルも制圧した。(写真は2014年当時のモスル攻略戦を伝えるIS映像)

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イラククルディスタン地域のペシュメルガ部隊もIS掃討戦を戦ったが、今回のアバディ首相の「勝利宣言」では一箇所出てくるだけで、クルド地域政府については言及すらしていない。アバディ首相は「イラク国土の統一」と表現していることからも、9月におこなわれたクルド地域独立を問う住民投票を実施したクルド地域政府を強く意識したと伺える。クルド政府が実効統治していたキルクークなどにバグダッド中央政府イラク軍や民兵を送り、緊張は続く。写真はクルド地域政府のバルザニ大統領(当時)。住民投票での前のバルザニ演説全文(2017/09/22) >>

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ISに対する「勝利の日」として、アバディ首相はバグダッドイラク軍の戦勝パレードを閲兵。イラク軍各部隊のほか、シーア派主導の民兵組織PMUもともに行進したが、クルドペシュメルガの姿はなかった。(首相府写真・2017年12月10日)

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後ろの文字は「勝利の日」。(イラク国防省映像・2017年12月10日)

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「勝利の日」閲兵式の米国製エイブラムス戦車。このほか、ロシア製戦車やイラン製機動車両も走行し、現在のイラクの国際関係を示すものともなった。後ろの剣を模した「勝利門」はフセイン政権時代に建てられたもの。(イラク国防省相映像・2017年12月10日)

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イラクのアンバルやキルクークでもISの残存勢力が治安部隊などへの襲撃を繰り返している。西部のスンニ派地域ではISは去ってもシーア派主導政府への不信も根強い。シーア派民兵がIS支配地域だった町や村の青年を報復や金銭目的で拘束する事件も多発。スンニ派勢力や地元部族を政府がどうまとめながら治安回復と復興をするかが今後の大きな課題となる。(イラク国防省映像)