イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【シリア・クルド】コバニ県知事インタビュー(3)〔アーカイブ〕写真8枚(全4回)

◆ISが世界の脅威となるなかで
2014年6月、イスラム国(IS)が「国家」を宣言すると、勢力拡大の動きはさらに加速した。戦闘員志願者を募ると同時にリアビアやアフガンでの支部建設を進め、さらに欧米での襲撃をも呼びかけた。アメリカがこれまで支援していた自由シリア軍が離反や内部対立を繰り返すなか、米軍主導の有志連合は、ISと互角に戦えるクルド・人民防衛隊(YPG)への軍事支援に動きだす。一方、「YPGはクルディスタン労働者党(PKK)傘下のテロ組織」とするトルコはこの動きを強く警戒。コバニ県知事アンワル・ムスリム氏は、有志連合との連携やトルコに対する見方について話した。現地取材アーカイブの3回目。(インタビューは2014年12月末)
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インタビューに答えるアンワル・ムスリム・コバニ県知事。ISに包囲されたなか、戦える者は誰もが銃をとる状況に追い込まれていた。政治家で弁護士のアンワル氏の傍らにもライフル銃があった。「ISに町を占領されると二度と取り戻せない住民の犠牲が出ない戦闘地区であれば、空爆で家屋が破壊されてもやむを得ない」と暫定自治行政当局は苦渋の決断を下した。(シリア・コバニで)

アンワル・ムスリム・コバニ県知事インタビュー(3/4)

◆坂本:コバニ県行政当局は、アメリカにも支援を求めました。その結果、コバニのIS拠点に対する空爆作戦が始まり、いまも続いています。これはコバニ当局者の皆さんの要請に対し、アメリカが応えたものですか、それともアメリカ側がやってきて、空爆支援について向こうからアプローチしてきたのですか?

アンワル氏: 私たちは国際社会全体に向け、テロ集団ダアシュ(IS)と戦うための呼びかけをしました。これに対し、40カ国が呼びかけに応えました。それらの国々は肯定的に応え、その中にはアメリカもありました。そしてアメリカ主導のもと国際的な有志連合が空爆作戦を進めています。世界の脅威であるISに対し、私たちが民族として戦っていたため、彼ら(アメリカ)が私ともとにやってきて、私たちもこれに応えました。

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【IS】ISはコバニを包囲し、市街地への入り口を固めていたYPG拠点を次々と制圧しながら町のなかに攻め込んだ。(IS映像)

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【IS】コバニ市内を進むIS部隊。とくにコバニの南部と東部地区が激しい攻防戦となった。(2015年1月・IS映像)

◆現実にはアメリカやヨーロッパ諸国はYPGをPKKの一部と見なしています。アメリカがISに対し、軍事行動や空爆をしているのは、自分たちの国に脅威と感じるゆえであって、ロジャヴァでのクルド人自治獲得の支援が目的ではないように見えます。それは皆さんが目指すゴールとは異なっているのではないでしょうか。アメリカやEU諸国に完全な信頼を置いて、ともに活動や作戦を進めることはできると考えていますか?

アンワル氏: PKKはテロリストではありません。クルドのために戦う組織です。トルコには2000~2500万人のクルド人がいます。

彼らは民族的権利を持つことなく暮らしてきました。トルコでは、ただ「自分の言語」を話したというだけで数え切れないほどの人びとが投獄されたのです。彼らは権利を奪われた状態におかれてきました。言葉の権利、文化の権利もなく、クルド人の歴史そのものも否定されてきました。こうした背景から、クルドの民族的権利を取り戻す戦いがトルコで高揚したのです。

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米軍主導の有志連合軍はコバニのIS拠点に戦闘機や攻撃型ドローンで空爆を続けた。YPGは、地区ごとのIS部隊の布陣情報を有志連合に伝えた。ISはYPGを「背教徒・十字軍の輩徒」などとし、宣伝映像で批判を繰り返した。写真はISが撮影したコバニ上空の戦闘機。(2015年1月・IS映像)

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IS拠点に着弾した有志連合軍の戦闘機からの爆撃。建物の向こう側はIS部隊の陣地。IS側も砲撃を加えてくる。砲撃と空爆で多くの地区が破壊された。(2014年12月末・撮影:坂本)

◆PKKの武装闘争の過程で、トルコでは一般市民も犠牲となった過去があります。ゆえにトルコも欧米諸国も「テロ組織」と指定しているのではないでしょうか?

アンワル氏: YPG・YPJもPKKもいずれもクルド人の権利のために戦っている組織です。ゆえにクルドを弾圧してきたトルコ政府の一方的な主張だけを受け入れて「テロリスト」などと呼ぶのは正しくありません。PKKはバクール(北クルディスタン=トルコ・クルド地域)はクルド民衆のために戦う組織であり、トルコ国内の民主主義と平和のために戦う運動体です。 

トルコはNATOメンバーでもあり、従ってアメリカやヨーロッパ諸国もトルコに歩調を合わせる形でPKKに対する姿勢をとり、PKKを「テロ組織」のリストに入れました。私たちはこの自由と民主主義のために闘う運動をテロリズムとはみなしませんし、国際社会はPKKへの見方を見直すべきと思います。PKK指導者オジャラン氏は、「平和への歩み寄り路線」を打ち出しています。私たちはこのプロセスに協力したいと思っています。

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戦闘が激しかったコバニ南部前線地域のIS拠点。手前は空爆で吹き飛ばされた建物。IS戦闘員の死体が埋まったままだった。この向こうはすべてIS地区で背後の丘の先はラッカまで続く。(撮影:坂本)

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【YPG】コバニでISと攻防戦を戦うYPG戦闘員。(2014年12月・YPG映像)

◆ISはシリアだけでなく、その影響力を外部にも急速に拡大させつつあり、ヨーロッパ諸国やアメリカは「世界の脅威」と見なすようになっています。そのISと対決し、コバニから排除するために何が必要でしょうか。また、世界はISとどう向き合うべきと考えますか?

アンワル氏: まず何よりも、人道的な安全回廊(コバニとカミシュロの間をつなぐ地域を結び住民のための安全地帯を人道的に確保するという意味)を構築することが重要です。なぜならコバニはISによって包囲され、戦闘と関係のない一般住民が身動きできない状態で、苦しんでいます。

他方で、ISと戦うYPGのための武器と弾薬が必要です。彼らは人道のためにISのテロ集団と戦っているのであり、そのためには武器・弾薬が必要なのです。国際社会には、最前線でISと戦うYPGへの支援を求めたい。

すべての人が知っているごとく、ISはコバニの敵、クルド人の敵だけではありません。アメリカ、ヨーロッパそして日本も含む世界の脅威であり、敵でもあるのです。リビア、サウジなど各国から入り込んだ戦闘員がいて、ISが存在し続け、拡大すれば、シリア、イラクだけでなく、各国の市民に対し、テロを企てるでしょう。ゆえにこのテロ集団に対し、軍事的、政治的に世界各国が一致して対処しなければなりません。

政治家は政治を担い、軍事指揮官は戦闘任務を担っています。しかしISを掃討するには、コバニの地上戦だけを戦うのではなく、国際社会が軍事支援に加え、政治的な包囲網を構築し、団結してISに打ち勝たなければなりません。
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シリア国境沿いに展開したトルコ軍の戦車。トルコはPYD・YPGを「クルデスィスタン労働者党(PKK)と一体のテロ組織」と見なしている。また米国やEU諸国もPKKをテロ組織に指定しているが、ISと戦うYPGについては別組織という扱いで、トルコ政府はYPGに軍事支援しないよう関係国に求めてきた。(2014年12月・撮影:坂本)

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国際支援を訴え、イラクのフアード・マアスーム大統領(中央)に会うアンワル・ムスリム・コバニ県知事(右から2番目)。左から2番目の女性はギュルタン・クシャナック・ディヤルバクル市長(当時)。(2014年・クルド系ANF通信写真より)

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