イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【シリア・クルド】人民防衛隊(YPG)司令官インタビュー(2)〔アーカイブ〕写真14枚

◆YPG司令官「必ずコバニからISを駆逐し再建する」
シリア北部コバニにイスラム国(IS)が大規模な侵攻戦を開始したのは2014年9月。圧倒的な武器と兵力で進撃してきたIS部隊に対し、クルド組織・人民防衛隊(YPG)、女性防衛隊(YPJ)は抵抗戦で挑んだ。戦いは134日にわたって続き、多数の死者を出しながらもYPGはISをコバニから退却へと追い込んだ。YPG部隊を指揮したマハムード・ベルホェダン司令官を現地でインタビュー。その2回目。(第1回はこちら >>

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YPGのマハムード司令官はメディアの前面に登場することがほとんどなく、2015年初頭コバニからISを駆逐した「勝利宣言」でテレビカメラの前でスピーチしたのはその珍しい例。(2015年1月・コバニ:クルド系ニュース映像より)

YPG司令官:マハムード・ベルホェダン・インタビュー(2/2)

◆坂本:米軍・有志連合はいま空爆という形でYPGを支援していますが、これは現状ではYPGにとってどれほど効果的なことなのでしょうか。YPGは別の形の支援を望んでいるのでしょうか?

司令官: 空爆は有効であり、ダアシュ(IS)に対して間違いなく効果を発揮している。ただ空爆は地上での戦いが連携し、それが強力でなければ意味のないものである。ISと直接的に地上で戦っているのは我々である。だが我々の武器は十分とは言えない。メインはカラシニコフ銃だ。一方、ISはあらゆる種類の重火砲や戦車を含めた兵器を有し、コバニでの戦線に大量に投入している。ゆえに我々がISを確実にこの地域から排除するには、強力な武器が必要であることを各国は理解して支援してほしい。これまでのところ、米軍機が武器弾薬を我々の部隊に部分的に投下したが、いずれも重火器ではなかった。弾薬や手榴弾程度だ。
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◆なぜアメリカはYPGへの武器支援に積極的でないのですか?
司令官: それはアメリカに聞いてみてほしい。こちらこそ聞きたいことだよ。(笑)

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【IS】 コバニ市街地に侵攻したISのT-55戦車。ISが9月に一気にコバニ攻略を目指した背景のひとつは、イラク・モスルを6月に掌握してイラク軍から奪った大量の兵器・武器を保有していたことだった。そのとき鹵獲した武器で8月のイラク・シンジャルを制圧。そして9月、コバニ攻略を目指した。(IS映像)

アメリカがYPGに支援弾薬を投下したのは、これまでに一度きりだったのですか?

司令官: 一度きりだ。あらためて強調したいのは、我々には重火器が必要ということだ。この地域一帯からISを排除するためには、重火器や高度な武器が絶対的に必要だ。我々は、シリアの別の反体制派グループからは、いかなる武器もまわしてもらっていない。一方でシリア反体制派はISとヌスラ戦線を背後で支援した例がある。過去の例で言えば、我々が防衛していたセレカニエ(アラブ名:ラアス・アル・アイン)での戦闘において、反体制派がヌスラ戦線やISのために中型火器を融通していた事例があった。しかし我々の側は世界のいかなる国からも武器を受け取ってはいない。だがヌスラ戦線とISはシリア反体制派から様々なルートを駆使して武器を入手したり、融通してもらっている。

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【有志連合】米軍主導の有志連合はIS拠点や戦車に空爆を続けた。地上のYPGがイラク・アルビルにある有志連合作戦司令部に地上のIS位置情報を伝え、標的が選定された。写真は有志連合が公開したコバニ近郊でのIS車両へのピンポイント爆撃。トルコが「YPGはクルディスタン労働者(PKK)党傘下のテロ組織」としていることもあり、政治的配慮から米軍はYPGへの武器支援は限定的なものとし、コバニ戦では弾薬程度にとどまった。(有志連合軍:CJTF-OIR公表映像)

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【YPG】YPGはISの猛攻の前に、多数の死傷者を出す状況に追い込まれた。YPGは戦闘員を増強し総力抵抗戦を呼びかけた。戦況が逼迫するなか、シリアだけでなくトルコからもクルド青年の志願があいついだ。写真はYPGのシリアのクルド戦闘員が軍事訓練を終え、「戦士としての忠誠の誓い」(ソンド)を唱和する様子。(YPG映像)

◆司令官としての軍事的観点から、コバニからISを駆逐し、この地域から完全に町を取り戻すのにあと何か月、何年かかると思いますか?

司令官: 具体的に予定している軍事攻勢の内容と時期はここでは話せないが、非常に短期間で駆逐する見通しをもっている。近いうちに奪還できると見ている。必ず駆逐し、奪還を果たす。
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コバニを奪還したあとはどうしますか? コバニ西方のジャラブロス方面と現在ISが展開する東方戦域に戦線を広げ、ラッカ方面までIS掃討戦を広げるのですか?

司令官:まずはコバニの勝利を目指す。さらにギレ・スピ(アラブ名テル・アブヤッド)を解放し、その後はロジャヴァ東西をつなげたい。

ISとの戦いは防衛戦だけではない。ISの脅威を排除するには掃討戦を続けなければならない。我々はISが存在する限り、戦い続ける。どの前線にも進撃する。もし日本にISがいるなら、我々が日本まで追って行って仕留めてやるよ。(笑)

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【IS】 武器弾薬が尽きかけていたYPGに向け、米軍機は支援弾薬を上空から投下。銃弾、手榴弾、RPG砲弾などだった。投下物資の一部は目標をはずれ、IS地域に落下。ISは「戦利品」として映像を公開した。(2014年・IS系アマーク通信)

YPGの戦闘員の総数はアフリンからカミシュロまでロジャヴァ全体で何人いるのですか? またコバニではどのぐらいの戦闘員が戦っているのですか?

司令官: いま敵との戦いの真っただ中にある。司令官として自軍側の総兵員数など具体的な数は公表できないが、敵を倒すには十分な兵力は確保しつつある。コバニで過酷な戦いを強いられたのは事実で、わが方はたくさんの戦士を失った。だが、その何倍も敵を殺害した。敵をコバニから排除するだけの部隊と戦闘要員を確保できるだろう。

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【IS】 ISのコバニ侵攻は2014年9月に始まり、11月頃にはコバニ市街地の半分近くまで制圧した。ISの外国人戦闘員も多数、前線に展開した。(2014年・IS系アマーク通信映像)

ISには外国人戦闘員が多数加わっていますが、他方、YPG戦闘員の構成はどうなのでしょうか。コバニ攻防戦でクルド人、外国人の入隊志願者が急に増えたという状況はありますか?

司令官: ロジャヴァだけでなく、各地のクルド人がYPGに志願している。クルド人以外に地元アラブ人もいる。いまのところYPGには外国人戦闘員はそれほどいない。だがコバニでの抵抗戦が世界的に知られて以降、アメリカやヨーロッパからやってきた志願者もいる。近いうちにこれらの義勇兵の存在も公表されることになるだろう。

彼らがYPGに入隊を求める理由として、我々YPG・YPJがISと戦っているだけでなく、世界の自由と人間的価値、人道主義のために戦っているからである。ゆえに各国から志願する者がいる。
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ISは戦闘での恐怖心を克服するために薬物を使っているということですが、事実でしょうか?

司令官: それは事実だ。戦闘時に覚醒剤や興奮剤のような薬物を服用して、恐怖心を取り除き、銃弾を浴びせるなかでも突撃してくる戦闘員を我々は実際にたくさん見てきた。また所持品からも薬物の実物を押収している。

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【IS】ISは自爆車両攻撃を繰り返し、町の中心部へと侵攻をはかる。写真はコバニでYPGの拠点に自爆突撃するトラック。荷台に円筒状の爆弾を満載しているのがわかる。(2015年1月・シリア・コバニ・IS映像)

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【IS】ISは自爆突撃を2波、3波と連続して繰り返す戦術で、コバニ東部・南部の市街地を制圧していった。写真はYPG陣地への自爆車両攻撃で爆発したIS映像。(2015年1月・シリア・コバニ・IS映像)

◆コバニの町が砲撃と戦闘で破壊されているのを目の当たりにしました。コバニ出身の司令官として、町の惨状をどう思いますか?

司令官: ISとの戦いは過酷な戦争であり、たくさんの家々が破壊された。確かに残念だが、もしコバニから追い出せたなら、そのあとは大したことはない。

破壊されても我々の手で建て直すことができるからだ。だが、ひとたび町を失えば、取り戻すのは容易ではない。住民は土地を失い、永久に故郷に戻れなくなる。だからこそ我々は多大な犠牲を払ってこの町を守り抜いている。

君のような日本人記者がこの戦いの只中に、そして対IS戦争の最前線まで来てくれたことに感謝したい。我々は、ISをコバニから駆逐して奪還し、再建してみせる。(了)

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コバニ中心部でのISによるすさまじい自爆車両攻撃の現場。白い車の後ろにビルがあったが、爆弾を満載した車両の爆発で建物は倒壊した。地面は1メートル以上の深さで大きくえぐられていた。(2014年12月・撮影:坂本)

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コバニ攻防戦での司令官マハムード・ベルホェダン。YPGにとってもっとも過酷な戦線での指揮を担ってきた。コバニ戦ののち、アフリン地域の総司令となる。トルコがアフリン攻撃を準備するといわれるなか、YPGが防衛態勢を固めていることもうかがえる。(2017年・クルド系ロナヒTV映像)

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【YPG】 2017年1月、YPGが公開した映像。アフリン総司令として部隊を前に訓示するマハムード司令官。これまでYPGが公式メディアで彼の顔を公表することはなく、おそらくこの時が初めてではないか。(YPG映像)

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【YPG】 シリア北部のクルド地域は大きく分けてアフリン、コバニ、ジャジーラ(カミシュロ)の3エリアがある。これに加え、ユーフラテス西のシャバハ・マンビジ戦線、東のデリゾール戦域、ラッカ、ハサカ方面などISとの各前線に部隊が展開している。それぞれの地区と前線に指揮官が配置され、またラッカからのIS掃討を目指す「ユーフラテスの憤怒作戦」では作戦指揮官も置かれる。(2015年・YPG映像)

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【YPG】 当時のコバニ司令官はマハムード・ベルホェダン。ではYPG全部隊を率いる総司令官は誰なのか。その名はシパン・ヘモとして知られる。ところがこの「人物」はいっさいメディアには登場しない。YPG戦闘員も多くが目にしたことはない。YPG司令部所属の戦闘員ですらマハムード・ベルホェダンのコードネームがシパン・ヘモと言う。一部のトルコメディアもシパン・ヘモをマハムード司令官の写真で紹介している。シパン総司令がクルド系TVで電話インタビューを受けている音声を聞いたことがあるが、マハムード司令官とは少し声が違っているように聞こえた。ISやトルコ当局の追跡と特定を避けるためというのも理由だろうが、YPGはあえて総司令官について不明瞭にし、謎めいた人物としているようだ。マハムードとシパンが同一人物か、いずれ明らかになるだろう。(YPG写真)

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