◆連続2波の自爆突撃で基地攻略【動画+写真25枚】
前回に続き、シリア東部デリゾールでの戦闘。攻撃目標はシリア政府軍ミサイル大隊基地。今回の動画では、出撃準備から負傷兵救護、攻略突撃、2波連続の自爆攻撃といった一連の戦闘経過が時系列で編集されている。ただし前回同様、これは「ISが世界に見せたいプロパガンダ」であることに留意したうえで、戦術検証の参考としていただきたい。
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ミサイル大隊基地周辺では対峙が続いてきた。動画の攻略戦があったのは2015年9月。今回の動画の基地攻略の流れはこんな感じになる。もちろん攻撃目標の規模や陣形によって、奇襲戦や夜襲、機甲戦などを使い分けるのは一般の軍隊と共通するので、この動画の戦術がフォーマットというわけではない。ただ特徴的なのは自爆突撃を作戦全体のなかに組み込んで敵陣にダメージを与え、後続部隊が突入して攻略する形を重用している点である。必要に応じて、2波、3波と連続自爆攻撃をかけることもある。 |
出撃前は事前にドローンで偵察したうえで作戦計画を立てるのが当たり前となった。動画の攻撃目標はシリア政府軍ミサイル大隊基地。ISにほぼ包囲されたデリゾ-ルで、「生命線」ともなっていた広大な軍事空港エリアの近郊に置かれた施設がミサイル大隊基地。ISにとって軍事空港制圧は政府軍の補給を断つことにつながるため、繰り返して攻撃を加えた。ただ、今回のミサイル大隊基地は攻略できたものの、その後、ISが軍事空港の本体部分を制圧することはできなかった。 |
ISほかジハード系組織では、戦闘員は互いに「兄弟」(アヒ)と呼びあう。これは一般にムスリムが信仰で結ばれた同胞を呼ぶときに使うので、過激主義とは別である。IS映像で「兄弟同胞」とテロップが出るのも、戦士同胞として「兄弟」の呼称をつけている。一方、クルドYPGは仲間どうしでどう呼ぶかというと「ヘヴァル」。クルド語で友人という意味だが、「同志」というニュアンスで使う。 |
敵陣地に向けて出撃する戦闘員。前回でも触れたが、即製爆発物(アブワ・ナスィファ)を手にしている。ポリ容器タイプとボール型タイプ。ボール型はベルトがテープで巻きつけてあって、いくつも首からぶら下げられるようになっている。投げ込み弾や壁破壊などに使う。 |
右がボール型即製爆発物。シリアでISが使ってたもの。15~20センチほどの導火線がついていた。着火すると数秒で爆発する。キャベツほどの大きさなので、遠くまで投げられるものではないものの近接戦で敵が潜む建物に放り込むとか壁爆破ができる。左の小型のものはおもに投擲弾などに使われる。(シリア・撮影・坂本) |
戦闘ではまず遠方から砲兵大隊が一斉砲撃を加え、先発の突撃部隊の接近路を開く。 |
ISは様々な教宣出版物を体系的に発行してきた。これはIS出版部門ヒンマが発行したパンフ。「アッラーの大道に立つ戦士のためのズィクル」とするタイトルで、ズィクル(唱念)の言葉を列記してある。戦闘員が携帯できるよう2つ折りでポケットサイズになっている。(IS出版部門ヒンマ) |
動画には救護班が出てきて前線で負傷兵を救護するシーンが映る。ISはこんなシーンまで細かに編集で盛り込んでいる。「敵弾のなか兄弟同胞を救護する姿」を見せることで、仲間の結束の強さを印象づけることもアピール。どの戦争にもあてはまるが、救護される戦闘員もいれば、救出できずに息絶える者もいる。戦闘や爆撃で手足を失った戦闘員も少なくない。 |
動画で自爆青年アブ・アイマンが、「ジハードの戦列に加わらず座視したまま沈黙するのか」という言葉を述べていたが、このISパンフにも同じ言葉が並ぶ。ISの定義するジハードや信仰意識を戦闘員らが共有していることがうかがえる。動画とともに世界に向けても発信されるこれらの出版物が、欧米などでの単独型テロを扇動する役割も果たした。(IS出版部門ヒンマ) |
2人が自爆車両として使ったのは、T-55戦車(左)とBMP-1歩兵戦闘車(右)と思われる。敵陣の防御が堅固な場合や起伏のある地形のときに、戦車などキャタピラ車両が使われる。爆発物の搭載量も多くできる。 |
自爆突撃で死んだ戦闘員アブ・アイマンの顔を重ね合わせ、「殉教戦士」として描いている。無線の会話まで盛り込まれている。このあとBMP-1のアル・ホムスィも自爆を遂げる。これがさらに宣伝として使われる。 |
自爆攻撃で敵陣にダメージを与え、部隊が政府軍陣地に総員突撃をかける。猛攻の前に政府軍兵士が逃げ出す姿が映しだされる。この数か月前にはパルミラがISに制圧されたこともあり、「政府軍がデリゾールから撤収するのでは」との噂までで出たほどだった。戦況は切迫していて、政府軍の士気にも少なからず影響があったと思われる。 |
敵陣制圧後は、敵の死体のほか、敵から奪った戦利品(ガナイム)を並べた映像を公開するのがISの宣伝手法となっている。写真はミサイル基地制圧作戦後、ISがシリア政府軍から奪い取った武器・弾薬の数々。(2015年・シリア・IS写真) |
鹵獲した武器は「戦利品」となり、次の戦闘で使われる。ISには戦利品の運用規定があり、統治機構上では「歳入・戦利品庁」(ディワン・ファイ・ワ・ガナイム)が管理し、敵からの接収弾薬や武器を戦況や必要に応じて他の戦線にも割り振るなどしていた。ただし戦線によっては武器・物資供給が不足した部隊も出たようで、どこまで効率的に機能できていたかは不明。(2015年・シリア・IS写真) |
動画ではカットしたが、最後に戦闘記録を撮影していたメディア部門要員が戦死したシーンが映る。戦闘員同様、「殉教者」とされる。これらの実際の戦闘の記録に、巧みな編集とナシード(宗教歌)による効果が加えられる。「ジハードの理想像」としてプロパガンダが作り上げられ、各国からIS志願者をさらに呼び込む装置ともなった。 |
基地攻略後にも周辺の状況を伝える写真報告がいくつか公開されている。写真は基地制圧後に警戒にあたるIS戦闘員。(2015年9月・シリア・IS写真) |
同じく基地制圧後の写真で、防衛警戒任務(リバートまたはラバート)の様子。7人で分隊を編成しているようだ。(2015年9月・シリア・IS写真) |
これもリバート任務。中央はおそらくロシア系の戦闘員ではないだろうか。リバートは前線防衛や警戒歩哨のことで、その任務にあたる戦闘員はムラビトゥーンと呼ばれる。(2015年9月・シリア・IS写真) |
(IS内部の用語や軍事用語については不明な部分もあるので加筆・修正する場合があります)