イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS動画・日本語訳+写真25枚】イスラム国(IS)戦術分析(24)◆陣地攻略戦(2) デリゾール・ミサイル大隊基地制圧

◆連続2波の自爆突撃で基地攻略【動画+写真25枚】

前回に続き、シリア東部デリゾールでの戦闘。攻撃目標はシリア政府軍ミサイル大隊基地。今回の動画では、出撃準備から負傷兵救護、攻略突撃、2波連続の自爆攻撃といった一連の戦闘経過が時系列で編集されている。ただし前回同様、これは「ISが世界に見せたいプロパガンダ」であることに留意したうえで、戦術検証の参考としていただきたい。

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【IS動画・日本語訳】シリア・デリゾール・攻略戦(2) 一部意訳・転載禁止

前回の「アッラーからの勝利」PART1から4か月後にISハイル県(カイル)メディア部門が公開したPART2で、デリゾールのシリア政府軍ミサイル大隊基地の攻略戦の記録。自爆出撃する2人の戦闘員が、「殉教突撃」に赴く意義を語る。前回よりもさらに演出が凝らされていて、2人の戦闘員を複数のカメラで撮影し、コーランを複数個所引用しながらジハードを呼びかける姿を映し出す。救護班が負傷者を救出する様子のほか、後半ではIS広報官アドナニの詩も挿入。緻密に編集された宣伝動画が世界に向けて発信されていった。(2015年9月・シリア)

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ミサイル大隊基地周辺では対峙が続いてきた。動画の攻略戦があったのは2015年9月。今回の動画の基地攻略の流れはこんな感じになる。もちろん攻撃目標の規模や陣形によって、奇襲戦や夜襲、機甲戦などを使い分けるのは一般の軍隊と共通するので、この動画の戦術がフォーマットというわけではない。ただ特徴的なのは自爆突撃を作戦全体のなかに組み込んで敵陣にダメージを与え、後続部隊が突入して攻略する形を重用している点である。必要に応じて、2波、3波と連続自爆攻撃をかけることもある。

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出撃前は事前にドローンで偵察したうえで作戦計画を立てるのが当たり前となった。動画の攻撃目標はシリア政府軍ミサイル大隊基地。ISにほぼ包囲されたデリゾ-ルで、「生命線」ともなっていた広大な軍事空港エリアの近郊に置かれた施設がミサイル大隊基地。ISにとって軍事空港制圧は政府軍の補給を断つことにつながるため、繰り返して攻撃を加えた。ただ、今回のミサイル大隊基地は攻略できたものの、その後、ISが軍事空港の本体部分を制圧することはできなかった。

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戦闘開始前、隊長が作戦概要説明。ISは隊長をアミール(エミール)と呼ぶ。アミールには長・指揮官または王子・領主などの意味がある。ISは歴史上のイスラム軍勢で使われた用語を意識しているようだ。幹部指揮官・指導層はシェイク(師)の称号をつけて呼ばれる。バグダディ指導者は「アミールル・ムッミニーン」(信徒の長)とされる。アミールは英語にも転用されていて、海軍提督を表すアドミラルはアミールが語源とされる。アラブ首長国エミレーツ首長国・首長領地という意味。

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ISほかジハード系組織では、戦闘員は互いに「兄弟」(アヒ)と呼びあう。これは一般にムスリムが信仰で結ばれた同胞を呼ぶときに使うので、過激主義とは別である。IS映像で「兄弟同胞」とテロップが出るのも、戦士同胞として「兄弟」の呼称をつけている。一方、クルドYPGは仲間どうしでどう呼ぶかというと「ヘヴァル」。クルド語で友人という意味だが、「同志」というニュアンスで使う。

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敵陣地に向けて出撃する戦闘員。前回でも触れたが、即製爆発物(アブワ・ナスィファ)を手にしている。ポリ容器タイプとボール型タイプ。ボール型はベルトがテープで巻きつけてあって、いくつも首からぶら下げられるようになっている。投げ込み弾や壁破壊などに使う。

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右がボール型即製爆発物。シリアでISが使ってたもの。15~20センチほどの導火線がついていた。着火すると数秒で爆発する。キャベツほどの大きさなので、遠くまで投げられるものではないものの近接戦で敵が潜む建物に放り込むとか壁爆破ができる。左の小型のものはおもに投擲弾などに使われる。(シリア・撮影・坂本)

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この動画では戦闘シーンだけでなく、戦いの前にコーランを読んだり、礼拝する姿が挿入されている。宗教性を押し出し、戦いがジハードであると印象づける意図もあると思われる。

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戦闘ではまず遠方から砲兵大隊が一斉砲撃を加え、先発の突撃部隊の接近路を開く。

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突撃を前に、分隊長と思われる男がコーランの一節を引用し、「アッラーの御名を唱えよ」と説く。こうした現場でIS戦闘員が何を思いながら戦うかというと、ズィクル(唱念)である。ズィクルは一般に「アッラーを称え、苦悩を取り除き、心を堅固にする」ものとして、イスラム教徒が日常的に念じる言葉であり、過激主義とは関係ない。IS戦闘員は戦闘現場でこのズィクルを念じ、自身の戦いがアッラーの大道のためのジハードであることを確認しつつ、自己を奮起させている。

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ISは様々な教宣出版物を体系的に発行してきた。これはIS出版部門ヒンマが発行したパンフ。「アッラーの大道に立つ戦士のためのズィクル」とするタイトルで、ズィクル(唱念)の言葉を列記してある。戦闘員が携帯できるよう2つ折りでポケットサイズになっている。(IS出版部門ヒンマ)

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IS戦闘員がズィクルを念じながら戦う姿を、例えば仏教に置き換えると、南無阿弥陀仏とか般若心経を唱えながら敵弾のなかを突撃するような感じといえばいいか。ズィクル自体はイスラム教徒の信仰行為・義務のようなものであり、信徒の心のありようを示すものでもある。過激主義と混同すべきではない。

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動画には救護班が出てきて前線で負傷兵を救護するシーンが映る。ISはこんなシーンまで細かに編集で盛り込んでいる。「敵弾のなか兄弟同胞を救護する姿」を見せることで、仲間の結束の強さを印象づけることもアピール。どの戦争にもあてはまるが、救護される戦闘員もいれば、救出できずに息絶える者もいる。戦闘や爆撃で手足を失った戦闘員も少なくない。

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以前、シリアでISの前線を取材した際、殺害されたIS戦闘員の所持品のファースト・エイドキットを開けてみた写真。包帯やアンプル、鎮痛剤と感染症の薬などが入っていて、パッケージはトルコ語アラビア語とさまざまだった。(シリア・撮影・坂本)

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今回の自爆突撃は2人で、連続2波攻撃の作戦。出撃を前に、2人ともコーランを引用しながら、最後の言葉を遺す。組織内部名(クンヤ)はアブ・アイマン・アッ・シャミ(左)とアル・ホムスィ(右)なので、いずれもシリア人と思われる。宗教的辞句を入れ、自爆突撃に赴く彼らを複数のカメラで撮影し、周到な演出もなされている。そもそもシリア内戦がなければ、こんなことをする必要がなかった若者もいると思うと複雑な気持ちになる。

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動画で自爆青年アブ・アイマンが、「ジハードの戦列に加わらず座視したまま沈黙するのか」という言葉を述べていたが、このISパンフにも同じ言葉が並ぶ。ISの定義するジハードや信仰意識を戦闘員らが共有していることがうかがえる。動画とともに世界に向けても発信されるこれらの出版物が、欧米などでの単独型テロを扇動する役割も果たした。(IS出版部門ヒンマ)

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2人が自爆車両として使ったのは、T-55戦車(左)とBMP-1歩兵戦闘車(右)と思われる。敵陣の防御が堅固な場合や起伏のある地形のときに、戦車などキャタピラ車両が使われる。爆発物の搭載量も多くできる。

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自爆突撃で死んだ戦闘員アブ・アイマンの顔を重ね合わせ、「殉教戦士」として描いている。無線の会話まで盛り込まれている。このあとBMP-1のアル・ホムスィも自爆を遂げる。これがさらに宣伝として使われる。

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自爆攻撃で敵陣にダメージを与え、部隊が政府軍陣地に総員突撃をかける。猛攻の前に政府軍兵士が逃げ出す姿が映しだされる。この数か月前にはパルミラがISに制圧されたこともあり、「政府軍がデリゾールから撤収するのでは」との噂までで出たほどだった。戦況は切迫していて、政府軍の士気にも少なからず影響があったと思われる。

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敵陣制圧後は、敵の死体のほか、敵から奪った戦利品(ガナイム)を並べた映像を公開するのがISの宣伝手法となっている。写真はミサイル基地制圧作戦後、ISがシリア政府軍から奪い取った武器・弾薬の数々。(2015年・シリア・IS写真)

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鹵獲した武器は「戦利品」となり、次の戦闘で使われる。ISには戦利品の運用規定があり、統治機構上では「歳入・戦利品庁」(ディワン・ファイ・ワ・ガナイム)が管理し、敵からの接収弾薬や武器を戦況や必要に応じて他の戦線にも割り振るなどしていた。ただし戦線によっては武器・物資供給が不足した部隊も出たようで、どこまで効率的に機能できていたかは不明。(2015年・シリア・IS写真)

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同じくミサイル大隊基地制圧後に「戦利品」として公開した写真。自走機関砲ZSU-23-4も。ロシア語でシルカの愛称で呼ばれるが、ISもだいたいシルカと呼ぶ。(2015年・シリア・IS写真)

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動画ではカットしたが、最後に戦闘記録を撮影していたメディア部門要員が戦死したシーンが映る。戦闘員同様、「殉教者」とされる。これらの実際の戦闘の記録に、巧みな編集とナシード(宗教歌)による効果が加えられる。「ジハードの理想像」としてプロパガンダが作り上げられ、各国からIS志願者をさらに呼び込む装置ともなった。

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基地攻略後にも周辺の状況を伝える写真報告がいくつか公開されている。写真は基地制圧後に警戒にあたるIS戦闘員。(2015年9月・シリア・IS写真)

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同じく基地制圧後の写真で、防衛警戒任務(リバートまたはラバート)の様子。7人で分隊を編成しているようだ。(2015年9月・シリア・IS写真)

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これもリバート任務。中央はおそらくロシア系の戦闘員ではないだろうか。リバートは前線防衛や警戒歩哨のことで、その任務にあたる戦闘員はムラビトゥーンと呼ばれる。(2015年9月・シリア・IS写真)

(IS内部の用語や軍事用語については不明な部分もあるので加筆・修正する場合があります)

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