イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画・日本語訳+写真24枚】イスラム国(IS)戦術分析(23)◆陣地攻略戦(1)

◆砲撃・自爆・突撃・爆破トンネルの連携戦術【動画+写真24枚】
戦況悪化で支配地域を大きく失っているイスラム国(IS)。だがその最盛期の2014~2015年にかけては、破竹の勢いでシリア・イラク各地を制圧していった。ISが仕掛けた敵陣攻略戦とは。IS独特の戦術に加え、戦闘員はどのような精神武装がなされていたのかを連続で振り返り、検証する。

動画のロードに時間がかかる場合があります
【IS動画・日本語訳】シリア・デリゾール・攻略戦(1) 一部意訳・転載禁止

2015年5月にISハイル県(カイル)メディア部門が公開した映像で、場所はシリア東部デリゾール。戦いを勇ましく、勝利的に描いたこれら宣伝映像やジハード招請が、外国から戦闘員志願者を呼び込む装置ともなった。ただしこれはISが「世界に見せたい」プロパガンダであり、成功した作戦の影にはその何倍もの失敗した戦闘がある。IS大本営の宣伝手法では、勝利は「アッラーの恩寵」、苦戦や敗北は「アッラーが与えた試練ゆえに耐えよ」とし、声明でも「忍耐ののちに勝利がある」の表現が並ぶ。ISはこの「耐えろ、辛抱せよ」を何年間もずっと繰り返してきた。映像に出てくる「ヌサイリ」はISがアサド政権・アラウィ派やシリア政府軍を呼ぶときに使う。

f:id:ronahi:20180212144941j:plain

動画タイトル「アッラーからの勝利とすみやかなる征服」は、コーラン・戦列章13節から。このハイル県発「アッラーからの勝利」シリーズは、いずれもデリゾール一帯での戦いを記録したもので、PART1(2015年5月)~PART5(2016年10月)まで出た。動画シリーズごとの5つのバナー。今回の動画はPART1で、デリゾール・ハウィージャ地区の攻防戦。

f:id:ronahi:20180212072548j:plain

今回の動画の冒頭で出撃する戦闘員のなかには、ウイグル人の老人(左)が映っている。このムハンマド・アミン(当時80歳)と名のる老人は、アレッポ県メディア部門インタビューにも登場している。孫4人・娘・妻でIS地域入りを果たしたと話しており、家族はおそらくマンビジにいたと推測される。「軍事訓練を受け、戦闘任務を希望したが許可がでず、警戒任務をしている」とアレッポ県映像で話していた。その後、マンビジ近郊からデリゾールの前線に移動したとみられる。老人と一緒に映るアジア系戦闘員(右)は動画の最後でシリア政府軍から奪った戦利品を紹介している。トルコ語系の言葉を交えて話しているので、老人の家族か、あるいはウイグルなど中央アジア系出身ではないか。(2015年・IS写真・シリア)

f:id:ronahi:20180212072604j:plain

ムハンマド・アミンはインタビューで「モスクでイマムをしていた。中国政府の迫害にさらされてきた」と話す。「80歳のジハード戦士」はIS戦闘員のなかでも有名だったようで、SNSでは戦闘員が撮ったとみられる写真(右)も出回った。ウイグル老人の映像は他の宣伝動画にも使われ、外国人志願者獲得や戦闘員の士気高揚に利用された。

f:id:ronahi:20180212072620j:plain

この動画が公開された2015年5~6月頃の勢力図。ISは6月末、ラッカ上方のトルコ国境の町、テルアブヤッドをクルド・YPGに制圧されたものの、まだこれだけの広大な地域を支配していた。デリゾールは周囲をISが制圧したなか、シリア政府軍側が軍事空港と一部地区を死守。この「陸の孤島」にアサド政権が物資と兵員を空輸して補給し続けた。このかん激しい攻防戦で双方に多数の犠牲が出たほか、空爆で地元住民にも死傷者があいついだ。

f:id:ronahi:20180212072636j:plain

ハウィージャ地区戦闘を前に、作戦概要を説明。ノートPCがあるのがわかる。ドローンで空撮した攻略目標の敵布陣を確認するなどして作戦を策定する。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072651j:plain

5~10人前後のグループは部隊の最小単位で、分隊、班に相当し、一般にファリークやメジュムアと呼ばれる。それぞれに分隊長、班長が置かれている。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072711j:plain

作戦では複数のBMP-1のほかにT-55戦車、野戦砲、対空機関砲なども投入。大規模な攻略戦だったようだ。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180602110424j:plain

ハウィージャ地区攻略戦に出撃するIS戦闘員。白いポリ容器は爆薬が詰まった即製爆発物(IED)で、アブワ・ナスィファと呼ばれる。導火線に着火すると数秒で爆発する。敵陣の防壁や建物破壊のほか、仕掛け爆弾として使われる。小型のものは投げ込み弾にもなる。(2015年・IS写真・シリア)

f:id:ronahi:20180602120329j:plain

大規模な攻略戦では、自爆や部隊突撃の前に砲兵部隊が攻撃を加え、敵の反撃力をそぐ。車体には「ハイル県・重砲大隊」とある。自衛隊は方面隊が最大の運用単位だが、ISは基本的に「県」が部隊運用・指揮系統の単位になっていた。戦況が悪化し、「県」そのものが解体して、指導層が死亡、拘束、潜伏したなか、かつてのような運用指令系統は維持できていないものと思われる。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072808j:plain

自爆する目標までに障害物、遮蔽壁がある場合は、ブルドーザーなどでまず侵入路を切り開く。動画の突撃作戦では、ホイールローダーで進路上の壁と建物を壊して道を作り、アブ・アリ・アンサリの自爆戦車が突撃していく。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072826j:plain

自爆に使われた戦車はT-55のように見える。起伏ある盛り土や防護堀のある場所でもキャタピラで突進し、満載した爆弾を爆破させる。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072844j:plain

シリア政府軍側もロケット砲撃などで応戦したようだが、自爆戦車は突破し目標に到達、自爆した。動画ではカメラ2台で別角度から撮影している。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072910j:plain

ISハイル県メディア部門は2015年5月6日付の写真速報で自爆突撃作戦で戦闘員アブ・アリ・アンサリの「殉教」を伝えている。動画が出たのが5月11日なので、わずか5日間でこの作戦経過を編集し、テロップやナシード(歌)を挿入して宣伝映像に仕立て公開している。(2015年・IS写真・シリア)

f:id:ronahi:20180212072927j:plain

この日の作戦でISが出した声明。シリア政府軍のジャミアーン歩哨検問所に戦車で自爆突撃したアブ・アリ・アンサリを「殉教戦士」としている。現在でも自爆殉教作戦のたびにこうした声明が毎日のように出ている。声明をもって公表されるのは、あくまでも成功した作戦である。目標到達前に車両が破壊されたり、自爆要員が射殺、拘束されたような失敗作戦については伏せられ、自爆突撃はなかったことにされる。(2015年5月6日付・ISハイル県声明)

f:id:ronahi:20180212072940j:plain

自爆突撃後、後続部隊が進撃。自作した装甲で固めたブルドーザーの後尾に随伴し、敵陣に近づいていく。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212072958j:plain

シリア政府軍戦闘機が飛来して、爆撃を加える。IS映像では対空機関砲での迎撃シーンを見せながら「敵機の攻撃は無意味」とする。実際にはそれなりの効果はあるものの、旧式のシリア軍戦闘機では誘導ミサイルなども十分に装備しておらず、ピンポイントでの目標破壊の精度は高くはなかった。ロシア軍機の空爆が開始されるのは、これから4か月後。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212073019j:plain

砲撃と自爆を組み合わせた攻撃のなか、ISが次第に敵陣との間合いを詰めていく。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212073032j:plain

この動画で驚かされたのは、地上での攻略戦に先立って、シリア政府軍拠点建物の付近まで地下にトンネルが掘られていた点である。対峙が続いてきた地区とはいえ、かなり掘り進んでいたようだ。ISは塹壕戦やトンネル戦術を多用。ムハンマド時代のイスラム軍勢が、ペルシア人土木技師でイスラムに帰依したサルマンの構築した塹壕戦(ハンダクの戦い・627年)で勝利した故事もあって、ISは塹壕への思いがひときわ強い。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212073051j:plain

ISトンネルは空爆からの退避壕やゲリラ戦としての移動用のほか、敵陣を地下から爆破する戦術でも使われてきた。坑木支柱が奥まで伸びていて、時間をかけて掘ったものとみられる。(2015年・IS映像・シリア) サルマンの塹壕戦についてはイラン襲撃の動画でも言及>>

f:id:ronahi:20180212073103j:plain

ドラム缶サイズの大型ポリ容器に爆薬が詰められ、いくつもが標的の下まで運ばれている。シリアではこの大型容器は水などを入れる用途で使われる。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212073116j:plain

地下で爆発させ、標的建物を爆破。かなり大きな爆発なので、相当の爆発物が運び込まれたとみられる。同様のトンネル爆破戦術は別の戦線でも使われている。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212073129j:plain

敵陣を攻略したあと、鹵獲した武器・弾薬を見せるのがIS映像の手法である。アッラーから与えられた戦利品として、次の戦闘で使われることになる。(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212073142j:plain

一般に軍隊は自軍の戦死者の死体写真を出すことはないものだが、ISは戦死した戦闘員の死体や顔を積極的に公開し、「アッラーの大道で殉教者となった」と称える。殉教者を顕彰する写真には「アッラーよ、彼を受け入れ給え」などの言葉が添えられる。動画では「この戦死したエジプト人兄弟同胞はアッラーのおかげで3か月間腐敗することなくその姿をとどめている」とある。(一部ぼかしています)(2015年・IS映像・シリア)

f:id:ronahi:20180212153716j:plain

ISが戦闘員に配っているミニ・パンフレット。「殉教を達成することの喜び」とするタイトルで、「ジハードに立ち、アッラーの大道で戦死して殉教者となることは誉れ」とし、その意味・意義をコーランなど独自解釈で引用している。アラビア語(左)以外に各言語でも出され(右はボスニア語版)、外国人戦闘員も「殉教の意義」を共有できるようになっている。殉教を信じて敵弾のなかを死をも恐れず突撃していった者もいるだろうが、実際の現場では逃亡や降伏する例もあいついだ。(2015年・IS出版部門ヒンマ)

<< 前へ  IS戦術分析(22)◆戦闘員養成9(各派軍事キャンプ比較)<<

次へ >> IS戦術分析(24)◆陣地攻略戦(2)