イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【シリア民主軍SDF声明全文】イスラム国(IS)「首都」ラッカ陥落【写真8枚】

◆SDFが「ラッカ解放宣言」
10月20日シリア民主軍(SDF)司令部はラッカにおいて、「ラッカ市はイスラム国(IS)から解放された」と宣言した。ISは今年7月、イラク・モスルでも敗退し、今回、シリアでのISの最大拠点都市を失ったことは組織的に大きな打撃となる。一方、ISの一部勢力はいまもシリア東部地域に残存して戦闘を続けている。以下はラッカ解放宣言全文。(一部意訳)

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ラッカを制圧し、「ISから解放された」と宣言するシリア民主軍(SDF)。(2017年10月20日・SDF公表写真)追記:宣言を読み上げるタラル・セロ司令・広報官はこの1か月後、消息を絶ち、トルコが支援するシリア反体制派系組織支配地域に入ったことが判明。実質的にSDFを裏切ってトルコに「寝返る」事態となる。続報で詳細を伝える予定)

ラッカ解放宣言・声明
シリア民主軍(SDF)
(2017/10/20)

シリア民主軍(SDF)総司令部の名において、ラッカの中心地から名誉をもって、わが軍がテロリスト・ダアシュ(IS)犯罪集団との大決戦において、その首都とされた場でダアシュを倒し、ラシードの都市でありユーフラテスの花嫁たる町、ここラッカを解放したことを、本日、ここに宣言するものである。
訳注:ラシード=アッバース朝第5代カリフで、8世紀末にラッカに居城を置いたハールーン・アル・ラシードを指す)

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SDF(シリア民主軍)のタラル・セロ司令官(写真中央)。

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我々はこの歴史的勝利を全人類、とりわけシリアでテロの犠牲となり深い悲しみを被った、烈士たちのご家族に捧げるものである。

この思いのもと、地域の解放のために主要な役割を果たした英雄的なわが烈士たちを追悼する。ラッカの戦いにおいて、戦死烈士たちこそが、この偉大な勝利を導いた者たちである。

またこの戦闘において負傷した英雄的戦士諸君に敬意と感謝を表明する。彼らの一日も早い回復と、再び戦線に復帰することを願っている。

この高貴なる勝利を可能としたのは、ラッカ解放作戦に殉じた烈士たちがいたゆえである。その地々には、(戦死した)655名におよぶシリアのクルド人、アラブ人、トルクメン、シリア正教徒、アメリカ人、イギリス人、ならびに世界各国からの参加し戦死した烈士たちの血は、この地でひとつになった。解放戦の過程では、45万の住民をラッカ一帯から成功裏に退避させ、安全地帯へ移動させることができた。

SDFに参加したすべての部隊ならびに諸勢力、SDFを支援してくれた方々、シンジャル女性防衛隊(YJŞ)、シンジャル抵抗隊(YBŞ)、アサイシ(治安警察)各部隊、自主防衛隊、地域共同体防衛隊(HPC)、SDF各隊、国際義勇旅団、そして作戦に参加した有志連合軍とその軍事アドバイザー各位に謝意を表明する。戦闘現場での軍事展開は特筆に値するものであった。
訳注:YJŞとYBŞはヤズディ教徒から編成された部隊)

また、国際社会に向けて真実を伝えて人道のための責務を果たした報道関係者各位にも敬意を表する。

ラッカ市民評議会、地域の有力諸氏、部族長各位が我々の部隊に精神的、物質的両面での支援を申し出てくれたことに深く感謝する。我々の勝利は、テロリズムとその非道さに対する勝利である。この解放戦はこれらとの対峙を決する最終章であり、シリアでのテロリズムとの戦いであり、これはコバニ抵抗戦から始まったのである。

この抵抗の戦いの精神は、コバニ攻防戦で戦士たちが134日にわたって繰り広げた戦いで示された精神そのものである。この攻防戦において世界に類を見ない最も卑劣なるテロ組織に対し、戦士たちが打ち勝ったのだ。これに続くテロリストたちの敗北が、ラッカ攻略戦であり、この戦いもまた134日間続いた。この戦いをもって、すべての人道を脅かしてきた最大の軍事テロ組織は壊滅へと至った。

SDF司令部たる我々は、ラッカ市と近郊村落部における行政運営をラッカ市民評議会に委ねることを明言する。市内と近郊部の市民の安全を確保するために、ラッカ市内治安部隊に治安任務を委ねる。我々はラッカ県のすべての圏域境界線を、あらゆる外的脅威から防衛することを確約する。ラッカ県住民は、非中央集権化された民主シリアの基盤のもとに守られることとなるだろう。このような形を通してこの都市の住民が自らの手で統治を進めることとなろう。

自由と平和と調和を希求する国々と勢力、ならびに人道的諸機関、国際人権組織が、ラッカ市と近郊村落地域を再建し、戦火と破壊のなかかで被った被害から復興へ向けた鋭意尽力に参加することを呼びかける。

この宣言をもって我々はラッカ全市を解放し、ラッカに再建と安定をもたらす新たなる使命を担うものとする。このためには団結と連帯が求められる。ゆえに我々はラッカの全住民、アラブ人、クルド人トルクメン、シリア正教徒が町と近郊地域の再建と復興の取り組みと、全住民の意志を代表する民主行政機構を設置することにともに参画することを呼びかける。
訳注:SDFがここで表現するシリア正教徒=スリヤニはシリア正教会のほかにアッシリア人などの他のキリスト教徒系住民も含めた意)

戦死烈士たちの意志は永遠に消えることはない。負傷者の一日も早い回復を願う。
テロに死を、その加担者に恥辱を。

シリア民主軍(SDF) 総司令部

2017年10月20日

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10月20日、シリアでのISの最大拠点都市だったラッカは、激しい攻防戦の末にシリア民主軍(SDF)に制圧された。SDFはクルド・人民防衛隊(YPG)のほか、アラブ人やトルクメンキリスト教徒などシリア反体制武装諸組織、地元部族民兵団、国際義勇部隊から編成される。写真はラッカでSDFの旗を掲げる戦闘員。(2017年10月・SDF写真)

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ラッカ戦ではアメリカが武器供与。写真の装甲車(IAGガーディアン)はアメリカが供与したもの。トランプ政権になってから支援が拡大した。トルコはSDFを「クルディスタン労働者党(PKK)系のテロ組織」とするトルコは強く反発してきたこともあり、武器は軽・中火器レベルに限定された。(2017年10月・SDF写真)

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クルドYPG主導のSDFはラッカ攻略のための「ユーフラテスの憤怒作戦」を昨年11月開始。ラッカを北部・西部・東部の3方面から包囲する形で作戦が進められた。6月にはラッカ市内への突入戦へと進み、10月20日に「解放」を宣言した。一方、東部戦域では、現在もISが展開するユーフラテス川東部・デリゾール方面域の攻略を目指す「ジャジーラの嵐作戦」が進められている。ジャジーラはカミシュロ、ハサカを含むシリア北東の地域を指す。図でいうと、デリゾール右の黒いISエリアを制圧していく作戦。(勢力図は2017年10年20日時点)

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【IS写真】ISは「イスラム国」を宣言したものの、ラッカをその首都とすると公式に発表したことはない。だがイラク・モスルと並んで高級幹部や中枢機能が集中しており、実質的な「首都」となっていた。写真はISドローンによるラッカ空撮。右にある川がユーフラテス。(IS映像・2017年7月)

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【IS写真】自爆突撃や狙撃などで攻防を続け、ISメディア部門もラッカ発の宣伝映像を多数公開。写真はISが9月に公開した映像のもので、ラッカ攻防戦でIS戦闘員がSDF拠点に自爆車両突撃するようす。ドローンで上空から撮影している。ドローン映像をモニターしながらで自爆車両運転手を無線で標的に誘導指示する例も増えた。(IS映像・2017年9月)

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【IS写真】ISは「ラッカでの戦いに呼応して世界各地でテロを」などと宣伝映像を通じて呼びかけた。写真は、単独型決起テロを呼びかけるオーストラリア出身とみられるIS戦闘員。(IS映像・2017年8月)

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【IS写真】SDFによるラッカ攻略戦は、米軍主導の有志連合軍と空爆支援のもとに進められた。SDF側は戦闘前に多くの市民を安全地帯に一時避難させた。だがすべての住民が避難できたわけではなく、空爆では一般市民の巻き添え被害もあいついだ。写真はISが公開した、米軍A-10サンダーボルト攻撃機とみられる機体。「アッラーの御意のもとまもなく墜落することになろう」とするキャプション。(IS映像・2017年7月)

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今回のSDFの「ラッカ解放宣言声明」はアラビア語版とクルド語版で出された。声明の最後に出てくる言葉、「シェヒッド・ナミリン=烈士は死なない(戦死者は死したとしてもその意志は永遠に消えることはない)」は、クルディスタン労働者党(PKK)とYPGの常用句で、その影響力がうかがえる。画像はクルド語の声明部分。

「ユーフラテスの憤怒」作戦・これまでの流れ(おもな声明一覧)
第1段階・開始声明 (2016/11/06)    第2段階・開始声明 (2016/12/10)
第2段階・戦果報告 (2017/01/16)    第3段階・開始声明 (2017/02/04)
第3段階・第2攻勢 (2017/02/17)    第4段階・開始声明 (2017/04/13)    
タブカ・ダム制圧声明
(2017/05/12)
ラッカ突入・大攻勢戦開始声明(2017/06/06)
ラッカ解放宣言 (2017/10/20)