イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画ほか写真13枚】イスラム国(IS)掃討作戦~住民たちにとっての「おそロシア」空爆

カフカス出身戦闘員とロシア軍の空爆
民間人を巻き添えにする前提の空爆に「良い」も「悪い」もないと思うが、反体制派のシリア人のあいだには、シリア政府軍とロシア軍の戦闘機の空爆は「ひどい」「あらい」という声が多い。シリア政府軍はミサイルだけでなく、焼夷効果の高い「たる爆弾」やサリンを装填した化学兵器を自国民に投下してきた。

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【ロシア軍・動画】シリア・IS拠点への空爆

2015年、ロシア軍がラッカとアレッポでの空爆として公開した映像。ロシア軍はシリア政府の要請を受けて、2015年9月30日以降、シリア領内で反体制派武装組織拠点に対する空爆作戦を開始。映像の冒頭では、スホーイ戦闘機(Su-34)が爆弾を投下している。(2015年10月・ロシア国防省公表映像)

アサド政権を支援するロシア軍は2015年9月以降、シリア領内での空爆を続けている。アレッポで活動していた市民記者は、アサド政権もひどいがロシア軍の爆撃も容赦ない、と話した。武装組織の軍事拠点だけでなく、明らかに住民が多数いる地区にもミサイルを撃ち込んできたという。

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【IS動画・日本語】ロシア出身戦闘員が「警告」 (一部にボカシ処理をしています)

2015年9月のロシア軍によるシリア空爆開始直後、イラク「ジャジーラ県」発で公開された映像。ジャジーラ県とはイスラム国(IS)がイラク北部ニナワ県を勝手に分けて作った県で、タラファルやシンジャルがある地域。ロシア・ダゲスタン出身と思われる戦闘員2人がロシア政府を批判。冒頭ではシリアのロシア軍司令官が空爆作戦について述べる映像を挿入。映像では、戦闘訓練を見せて「カッコよさ」を、コーランを複数引用して「宗教性」を持たせる演出をしている。映像自体は単調だが、シリア空爆開始直後に直ちに反応して、ロシア出身戦闘員がメッセージを発するISメディア部門の即応性を示すものとなった。(2015年10月)

米軍主導の有志連合の爆撃がロシアより「マシ」とは思わないし、いずれも多数の市民が巻き添えで死んでいる。ロシア軍と米軍を比べてどちらが精度が高いか、民間人の被害が少ないかの統計があるわけではない。ただ、住民のあいだには、ロシアの爆撃は怖いといった「おそロシア伝説」みたいなのがあったりする。

【ロシア軍・動画】シリア・IS拠点に向け、爆撃機からの巡航ミサイル発射

シリアのIS拠点に対して、ツポレフ爆撃機(Tu-95)が上空から巡航ミサイル(Kh-101)を射出する様子。標的がIS施設だけならいいのだが、建物周辺には近隣住民がいたり、標的施設内部には家族もいたりする。巻き添え被害が出るとわかっていても爆撃が遂行されるのが戦争の現実。(2017年9月・ロシア国防省映像)

【ロシア軍・動画】シリア・カリブル巡航ミサイルでIS拠点を攻撃

海からも「おそロシア」。戦闘機だけでなく、海上からも地上のIS拠点にミサイル攻撃が加えられている。(2017年6月・ロシア国防省映像)

今回のIS動画では、ロシア連邦のダゲスタン出身と見られる戦闘員が登場する。ロシアからシリアに入り、ISを含む武装組織の戦闘員となった者は2500人前後とされる。なかでもカフカスコーカサス)地域にあたる一帯のチェチェンやダゲスタンなどの出身者が多く、家族で移住した例も見られる。イスラム圏であることに加え、内戦初期の段階からシリア行きのルートが構築されていたことがうかがえる。このほか中央アジアなどの旧ソ連圏を含めると、シリア内戦に加わった者はさらに増える。

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【IS写真】ISが地上からロシア軍機を撮った写真。ISメディアではこうした敵機の場合には、「アッラーよ、彼らに恥辱を下し給え」といった文言がついたりする。ISはアメリカもロシアも、十字軍同盟(タハルフ・サリビーン)や、圧政・専制・邪神(タグート)といった言葉を用いて、ISやムスリム住民に攻撃を加える結託同盟と批判してきた。(IS写真・2016年・シリア・ホムス

ISの宣伝映像ではこれまでにもロシア出身の戦闘員がプーチンを批判、ロシアでのテロを扇動してきた。これに対してロシアはシリアの地で爆撃を続け、その結果、シリア住民が次々死んでいく構図になっている。米軍もロシア軍も誤爆や巻き添えで民間人に被害が出ても責任が問われることもない。

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【IS系アマーク通信】アマーク通信が今年7月公開したデリゾールでのロシア軍機による空爆被害。国際社会では化学兵器使用には批判の声は上がるが、人の命を奪う点では通常爆弾も同じだ。ISとは関係のない子どもが犠牲となっている現実に、どれほど関心が注がれているだろうか。(IS系アマーク通信・2017年7月・シリア・デリゾール)

シリアとイラクの混乱は、両国の政府やISを含む武装組織だけのせいではなく、周辺国や大国の思惑が絡み合うなかで、解きほぐせない状態になってしまった。多数の難民を生み出しただけでなく、内戦の磁場に引き寄せられるように外国人が入り込んだ。戦闘と空爆のなかで、逃げ場のない住民が犠牲となっている。

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【ISIS・フルカーン映像】2014年に公開された映像。当時の「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に合流したロシア、カフカス中央アジアなど出身と思われる戦闘員ら。アブ・オマル・シシャニ(中央・2016年死亡)の立会いのもと、バグダディ指導者への忠誠(バイア)を表明している。シリア内戦初期に別のイスラム武装組織に加わってISに移行した者や、IS台頭後にシリア入りして参加した者などがいる。アラビア語がわからないような戦闘員もバグダディへの忠誠の言葉を唱和している。IS忠誠式の動画 >>

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【IS機関誌】 ISはロシア語の機関誌「イストーク(上段)を発行、2015年5月~2016年5月までに4回出ている。2016年9月からは各言語で発刊される「ルミーヤ」ロシア語(下段)に移行し、13号(今年9月)まで続く。このほかISの重要文献や戦闘員が携帯するジハードの意義を説いたパンフもロシア語に訳されている。ISの文書・動画のロシア語での発信は、ロシア国内だけでなく、中央アジアなどのロシア語圏の若者たちにも影響を与えるものとなっている。

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おそロシア」をネタにするときによく使われるやつ。これは1999年、プーチンが首相時代のチェチェン武装勢力に関しての発言で、元は「ロシアの戦闘機はすべてのテロリストの拠点を爆撃してしている。やつらが空港にいるなら空港で仕留める。便所で捕まえればそこがやつらの死に場所だ」。ロシアのイスラム過激組織壊滅への強い姿勢を示すものでもある。

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【IS映像】ISメディア・ハヤートが制作したカフカスコーカサス)を特集した映像では、ロシアの歴史をさかのぼってイスラム教徒がいかに過酷な経験を強いられてきたかを伝え、「ジハード」を称賛。旧ソ連共産主義体制下でのイスラム抑圧や、その後のチェチェン紛争といった背景が、現在につながる過激主義の動因となってきた。以前から自爆攻撃や襲撃事件はあいついでおり、シリア内戦によってロシアにイスラム過激主義が突然広がったというわけではないが、中東情勢が連動して「ジハード」の舞台を創出し、シリアに大量の戦闘員志願者が流入した。それが今度はロシア国内に向けて過激主義を発信、扇動することになった。(IS映像・2016年)

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【IS映像】ISはシリア・イラクでの台頭にともない、カフカス地域を、「県」として承認。カフカス発でいくつかのプロパガンダ映像が公開されている。おもにチェチェン、ダゲスタン出身戦闘員が多い。2016年に公開された「カフカス県」発の映像では、バグダディへの忠誠を表明し、司令官アブ・ヤスィール(右下)が「プーチンとその忠犬どもを標的にする」などと話す。映像では、ダゲスタンでの自爆攻撃のほかに「ロシア情報要員・背教徒の処刑」として銃で頭を撃ち抜く様子が挿入されている。(IS映像・2016年)

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【IS系FURAT映像】 今年8月に公開された映像で、元は前月にジャジーラ県発で出たもの。ロシア出身とみられる少年ハッターブ・アル・ルスィは捕虜とみられる男の首をナイフで切り落とす。腰には自爆ベルトを装着し、「おい、ロシアよ、お前たちはカリフ国(イスラム国)に対し、戦争を仕掛けている。我々はお前たちのもとへと至るだろう」と話す。家族でIS地域に入った者も多数いて、子どもが過激主義で教育され、実際に捕虜やスパイの処刑をさせられている現実がある。IS崩壊後、これら子どもたちの出身国への帰還や心のケアも今後、問題となるだろう。

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【IS系FURAT映像】 8月のFURATの映像後半では8月に起きたシベリア・スルグトでの刃物による無差別襲撃事件の犯人とみられる男も登場。斧も映っている。犯人は市民8人に切りつけ、警官によって射殺されている。ロシアで引き起こされる数々の襲撃事件の声明や、カフカス地域での戦闘員のメッセージがIS支配地域からネットで発信される「流れ」ができてしまった。

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アレッポ・ロシア軍】2016年12月、シリア・アレッポにはロシア軍が展開。反体制派武装組織が去った地区に入り、爆発物処理や治安警備をする活動をANNA通信が伝えている。このロシア軍憲兵大隊は、おもにチェチェン人からなる部隊で、司令官ムハシェヴィチ少佐(写真左)もスンニ派イスラム教徒。「(シリアに入り込んだ外国人戦闘員のせいで)シリア住民はチェチェン人に悪いイメージを抱いてきた。わが部隊が住民に役立つ活動をして、チェチェンにも良き同胞がいると住民が思ってくれたらうれしい」と語っている。(写真はANNA映像より)。元のANNA配信動画はこちら >>

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アレッポ・ロシア軍】 ANNA映像では、アレッポ市内で住民に食料配布や医療支援活動をするロシア軍部隊の様子も紹介。親ロシア系の通信社映像に留意しつつも、これはこれで、シリア内戦とロシアの関わりを伝えた別の一面でもある。(ANNA映像より)