イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS声明・日本語訳】ラスベガス銃乱射事件・イスラム国(IS)が「犯行声明」のナゾ

ISは「イスラム国兵士が攻撃」とするも真偽不明
10月1日夜、アメリカ・ネバダ州ラスベガスでコンサート会場を狙った銃乱射事件が発生。59人が死亡し、負傷者は540人以上にのぼった。銃を乱射したのはスティーブン・パドック容疑者(64歳・現場で死亡)。事件後、イスラム国(IS)は「イスラム国兵士アブ・アブデルバル・アメリキが群衆を銃撃」などとする声明を公表したが、パドック容疑者との関係は不明。声明では「IS兵士」とする根拠などは触れておらず、謎が残る。ISが事件をプロパガンダに利用したとも考えられる。以下は声明全文。(一部意訳)

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【IS声明・アラビア語事件翌日の10月2日付でISが出した公式声明。銃撃は「バグダディ師の呼びかけに応えて」とある。ISが声明の文言のなかにバグダディの名を入れ、「その呼びかけに応えた」とするスタイルはこれまでなかったのではないか。バグダディは9月28日に声明を出し、「アメリカはジハード戦士の脅威にさらされているのだ」などとしている。ラスベガスでの銃乱射がISと関係したものかは不明だが、「ISが関与」とする宣伝効果や、社会不安につけ込むことをIS側が意図して声明が出された可能性もある。

イスラム国【アメリカの都市ラスベガスでの十字軍隷従どもに対する祝福されし攻撃戦で、約600名を死傷せしめる】

[アメリカ] 1439年 ムハラム月 12日(ヒジュラ暦

アッラーのご助力のもと、そして信徒の長、アブ・バクル・アル・フセイニ・アル・クライシ・アル・バグダディ師(アッラーよ、彼を守り給え)の呼びかけに応え、十字軍同盟を標的とし、アメリカの都市ラスベガスにおいて綿密な監視行動を経て、カリフ国(=イスラム国)の兵士「アブ・アブデルバル・アル・アメリキ」(アッラーよ、彼を受け入れ給え)は、機関銃数丁と弾薬を装備し、ホテルから見下ろすコンサートに向け、群衆に銃撃を敢行した。兵士の弾薬が尽きるまで600名を殺傷せしめたのち、殉教者となった。

すべての栄誉はアッラーとその使徒、そして信徒にある。だが多くの者はこれを知らない。

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カントリー・ミュージックの会場を狙って、マンダレイ・ベイ・ホテル32階の部屋から銃が乱射された。銃を撃ったのはスティーブン・パドック容疑者(64歳)とされる。死者は59人に上り、単独犯による犠牲者数では米国の近代史上、最悪の銃乱射事件となった。容疑者は警官隊が部屋に突入前に自殺と報じられている。(メディアが報じた写真より)

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【IS系アマーク通信】事件直後にIS系アマーク通信は速報として「ラスベガス攻撃実行者は、イスラム国兵士で、十字軍同盟諸国を標的にせよとの呼びかけに呼応して攻撃を実行」(上)とし、さらに、「ラスベガスで作戦を遂行した攻撃者は数か月前にイスラム教に改宗」(下)と伝えた。そののち、IS公式声明が出された。ISと関係があったか、改宗したかなど根拠は示されておらず真偽は不明。ISはこれまでにもトルコ・ディヤルバクルでの爆弾事件やエルサレムでのイスラエル警官襲撃など、実際には関係がなかった事件でも関与を表明しており、今回の銃乱射を根拠もないまま「自分たちが実行」とするのは初めてではない。一方、トルコ・イスタンブールの空港襲撃など「ISの犯行か」と報じられながらもISから声明が出なかった事件もある。

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【IS系バッタール映像】事件翌日、IS本体ではないものの、複数のIS関連・共鳴組織の名で動画が公開された。10月2日、アル・バッタールは、銃撃事件のニュース映像をつなぎ合わせて約2分の動画に編集、「イスラム国に対する攻撃はすべてのムスリムへの攻撃」などと英語テロップをつけて公開した。ニュース映像をつなぎ合わせただけの動画でも「IS系が犯行を認めた」「アメリカをこれからも狙う」とするプロパガンダ・メッセージは拡散する。

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【IS系ハッターブ映像】10月4日には、別のIS共鳴組織と思われるアル・ハッターブが2分49秒の動画を公開。同じくニュース映像が使われている。

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【IS系ハッターブ映像】ニュース映像に加え、パドック容疑者の顔写真とともに、「アブ・アブデルバル・アル・アメリキ」とテロップを入れている。ISが主張するように実際にパドック容疑者がイスラム改宗したのか、ISと関連があったのかは不明。

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【IS系ハッターブ映像】映像では、IS指導者バグダディの音声「十字架の守護者どもよ、イラクでお前たちが味わったごとく、シリアでの代理戦争は、お前たちに意味なきものとなるのだ」(2014年1月スピーチ)と、IS広報官アドナニ(昨年死亡)の音声「あの者どもの地において諸君らが成すものは小さきことであろうと、我らがこの地で成すこと大いなること以上のものであり、歓迎される」(2016年5月スピーチ)がそれぞれ引用されている。

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パドック容疑者はホテル32階のコーナースイートルームから銃を乱射。米捜査当局もメディアも、容疑者がISと関係があった可能性は伝えていない。

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銃撃が始まったのは夜10時ごろ。警官隊が部屋に突入時には銃で自殺していたと報じられている。(写真はビルド・エクスプレス)

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部屋からは多数の銃器・弾薬が発見されている。写真左は2つのソファをつなぎ合わせている。写真右はパドック容疑者の死体とみられる。容疑者の動機が不明なことに加え、銃弾が多数発砲されながら熱を持ったはずの薬莢で絨毯が焦げていないとか、自殺したとされる容疑者の死体の足が銃の下にあるなど、「不自然さ」を指摘するコメントや憶測がネットで出回った。(写真はビルド・エクスプレス)

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銃乱射では、ライフル銃や拳銃あわせて23丁が部屋に持ち込まれた。警察の突入に備え、カメラも設置していたとされる。容疑者の動機については不明のままだ。(写真はビルド・エクスプレス)

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報道をもとにしたイメージだとこういう感じになる。DDM4ライフルX4丁、FN-15タイプX3丁、AK-47X1丁などが銃撃現場から見つかったうえ、セミオートマチック銃を連射可能にするバンプストックも使用していたと報じられている。事件が起きたネバダ州は銃規制が緩いとされるが、単独犯としてこれだけを揃え、乱射事件にいたった動機や経過は未解明。(銃器には詳しくないので、写真が違ってたらすみません)

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パドック容疑者の家。実際にもしISと関係があったなら、ISは「戦果」を誇示するためにパドック容疑者とのかかわりを出してもいいはずだが、これまでのところ声明以外の情報は出ていない。ただ、一般に戦争というものが敵を混乱させるためにあらゆる手を使って、デマの流布も含めた情報戦を駆使するように、ISにとっては「十字軍同盟との戦争」を戦っているのであり、ニセ情報であろうと米国社会に不安を与えたり、プロパガンダ戦に利用できれば有効とみなしているのではないか。(写真はABCテレビより)

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【IS機関紙ナバア】事件後の10月5日付で発行されたIS機関アン・ナバア。2ページ目で銃乱射事件を「ラスベガス攻撃戦」などとして画像入りで取り上げた。また記事中でも、声明と同じく「イスラム国兵士・アブ・アブデルバルが攻撃を遂行」などとしているが、IS兵士とする根拠は示していない。また記事中では、昨年フロリダで起きたゲイ・クラブを狙った銃乱射事件についても言及している。(画像はIS機関紙アン・ナバア・第100号より)

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事件翌日、トランプ大統領は、ホワイトハウスでコメントを発表。「銃撃は悪の所業」として犯人を非難、犠牲者を追悼した。(ホワイトハウス公表映像)

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【IS声明・英語】声明はアラビア語と英語の両方で出されたが、英語版は誤記が見られる。タイトルの「600名を殺傷し」とすべき部分が、「600名が負傷し、ケガし」とダブっている。ISは通常、「アッラー(Allah)」を用いるが、英語声明ではGodも混在。また、バグダディへは「彼を守りたまえ」とするのが通例のところを、「祝福したまえ」とある。これまで諸外国での大規模な殺傷事件では、残虐な犯行であっても「格調の高さ」を誇示しようとする声明を出してきた。シリアのIS支配地域ではメディア部門の関連施設も被害を受けており、組織内部で人員が消耗したり、混乱が生じていることも推測される。