イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【クルド】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(25) クルディスタン「国歌」とクルド独立への思い

◆民族の悲願、「クルディスタン独立」
クルド人の悲願は、クルディスタン独立である。国なき民が歌い継ぐ「国歌」、それがエイ・ラキッブ(おい、敵よ!)だ。クルド民族を抑圧する敵に対し、我々は立ち向かう、その旗を掲げて戦い、クルドの民が倒れることはない、といった歌詞になっている。クルドの歴史は民族分断と過酷な弾圧の繰り返しでもあった。トルコ、シリア、イラク、イランで迫害され、それぞれの地で民族解放闘争が続いてきた。それでも屈さず、戦い抜く民族の不屈の意志が歌に込められている。

【動画・日本語訳】クルディスタン「国歌」エイ・ラキッブ(おい、敵よ!)
クルド語クルマンジ版

これはイラククルディスタンの子どもチャンネルが放映したもの。クルド語は方言があり、イラク地域ではおもにソラニ方言、トルコ地域ではクルマンジとザザ、シリア地域ではクルマンジが話されている。ゆえに、エイ・ラキッブもそれぞれの方言で歌詞がある。映像はイラク・クルドだがイラクでソラニ方言でなく、クルマンジの歌詞。これはクルマンジに近いバディニ方言の町イラク・ドホークに子どもチャンネル局があるため。歌に出てくる「メディア王国」とは、現在のイラン北西部地域に紀元前715~紀元前550年ごろ栄えた王国。

一方で、独立への思いを抱いてきたクルド人がつねに一致団結してきたわけではない。周辺国の政治に翻弄されるなかで、勢力争いや組織どうしの反目も繰り返した。

90年代半ばにはイラク・クルド民主党(KDP)が当時敵対していたクルド愛国同盟(PUK)を排撃するためにフセイン政権と手を結んだことさえあった。これに反撃するために、PUK側はイランの支援を受けた。

また、クルディスタン労働者党(PKK)のオジャラン議長はかつてシリア・アサド政権の保護下のもとに、トルコ軍と戦うゲリラ部隊を拡大させた。

f:id:ronahi:20171112052257j:plain

クルディスタンは「国家を持てなかった世界最大の民族のひとつ」といわれてきた。クルド人は約3500万の人口がありながら、クルドの地・クルディスタンは、トルコ、イラク、イラン、シリアに分断されてきた。総面積をあわせると、日本とほぼ同じ大きさになる。同化などの迫害をうけてきたので、クルド人の人口は推定。分断されたそれぞれの地で、民族運動が続いてきた。ヨーロッパに移民したクルド人も多い。

【動画】エイ・ラキッブ(おい、敵よ!)クルド語ソラニ 

こちらはイラク・クルドで主要なソラニ方言バージョン。アルビルを始めとしたイラク・クルド地域の風景などの映像が盛り込まれていてわかりやすい。歌詞はクルマンジ方言と同じ。兵士はイラク・クルドのペシュメルガ

民族を抑圧してきたはずの「敵」に、クルド人組織自身がそれぞれの思惑で協力関係を作った構図は、現在のクルドをめぐるイラク・シリアの情勢でも起きている。

イスラム国(IS)との戦いで、イラク北西部シンジャルでヤズディ教徒を救出したクルディスタン労働者(PKK)。だがのちにPKKがこの地域での影響力を拡大しようとすると、KDPはPKKを牽制し、トルコとも協力。他方、PKK側はイラク政府と近づくなどKDPとの緊張が続く。 

独立国家を持てなかった民族の悲しみ。そして、クルド組織が互いに対峙する局面では、ときに自分たちの敵をも利用し、また利用されてきたことが、分断民族クルドのもうひとつの悲劇であると言える。

イラク情勢やシリア内戦をうけて、中東地図は塗り替わろうとしている。そこにクルドが果たす役割は大きい。

民族の悲願だったクルディスタン独立の夢が現実のものとなって、「国歌・エイ・ラキッブ」を各地のクルド人が声をあわせて歌うことができる日は来るのか、あるいは再び周辺国や大国の思惑に翻弄され続けることになるのか。

f:id:ronahi:20171111193045j:plain

エイ・ラキッブの歌詞はディルダール(本名ユヌス・ルウフ・1918頃-1948年) の詩がもとになっている。現在のイラク・クルド地域のコヤ(コイ・シンジャック)生まれで、バグダッドで法律を学ぶ。イラン・クルド地域の獄中にあった1938年にエイ・ラキッブの詩をつづったとされる。第2次世界大戦直後の1946年、イラン・クルド地域のマハバードにおいてソ連の後押しのもと建国されたマハバード共和国(正式名クルディスタン共和国)はエイ・ラキッブを国歌とした。マハバード共和国は1946年1月に成立したが、ソ連軍撤退のなか、パフラヴィー朝イラン軍の侵攻によってわずか11か月で崩壊した。歌詞に「革命の赤き色」とあるのは、当時の社会主義的民族解放闘争の影響であると同時に戦いに倒れた烈士の血を象徴している。

f:id:ronahi:20171111195317j:plain

イラク・クルド地域アルビル。民族衣装姿でクルディスタン旗を手にする少女たち。旗は「緑・大地」「白・平和」「赤・烈士の血」で、中央の黄色は太陽を示し、クルド新年ネウロズ(3月21日)を象徴し、21本の光が放たれている。(イラククルディスタン:アルビル・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20171111195341j:plain

イラククルディスタンの学校では、朝礼や行事の際などに、エイ・ラキッブを斉唱する。写真は小学校の朝礼でクルディスタン旗の掲揚で敬礼し、エイ・ラキッブを歌う児童。イラク領にありながら、ここではイラク国歌「マウティニ」(わが祖国)は歌わない。(イラククルディスタン:アルビル・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20171111195410j:plain

10年以上前の写真ですが、韓国軍ザイトゥン部隊がイラク復興支援でアルビルに派兵されていた頃のもの。地元交流イベントで、クルディスタン旗を手にする子どもを抱く韓国軍の兵士。(イラククルディスタン:アルビル・2005年・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20171111195429j:plain

ついでにもう1枚。韓国軍兵士が旗を持ってクルド伝統衣装を着て踊る珍しい様子。この日のためにクルドの踊りを練習したそうだ。韓国軍女性兵士はクルド民族衣装もなかなか似合っていたが、男性兵士は兵隊ゆえに丸刈りだったこともあり、なんだか微妙な感じに。(イラククルディスタン:アルビル・2005年・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20171111195449j:plain

こちらはシリアのコバニ。シリア・クルド(ロジャヴァ)の場合も同じくエイ・ラキッブを歌うが、旗は「ロジャヴァ旗」。クルドの伝統色、「緑・赤・黄(ケスク・ソル・ゼル)」の3色からなり、緑=大地、赤=烈士の血、黄=太陽の光を象徴する。(写真はロナヒTVより)

【動画】エイ・ラキッブ(おい、敵よ!)トルコ・ディヤルバクル 2013

これはトルコ南東部ディヤルバクル。エイ・ラキッブをクルマンジ方言で歌っている。トルコでは、長きにわたって同化政策がとられ、クルド民族運動が徹底的に弾圧されてきた。エイ・ラキッブも歌っただけで、逮捕、拷問されることさえあった。歌うこと自体が命がけのなか、それでも歌い継がれてきた。トルコ南東部での大きな集会では、一斉に声が上がりエイ・ラキッブを合唱する光景が見られる。いまでも自由に歌える歌というわけではないし、オジャランPKK議長の肖像も「分離主義テロ組織の宣伝」とみなされ取り締まり対象だが、警察も手出しできないほどの大集会では公然と掲げられるようになった。

<< 前へ 「歌から読み解く」ISと「ユダヤ陰謀論」

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
新着記事はツイッターで案内しています>>