イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画・日本語訳+写真】イスラム国(IS)戦術分析(22)◆戦闘員養成9・各派の軍事キャンプ比較

◆これはサバゲーでなく現実の戦争
これまで9回にわたってイスラム国(IS)軍事キャンプを取り上げてきた。今回は他の武装組織の軍事キャンプ動画も含めて比べてみたい。まるでシリア全土がサバゲー会場になったように思えてしまうが、いずれも今起きている実際の戦争である。そしてこれは内戦という国民どうしの殺しあいであり、同じ地区で暮らしてきた隣人たち、学校で机を並べた同級生が「敵と味方」に分かれ、銃を向けあわなければならない重い現実がある。

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【IS動画・日本語訳】シリア・ホムス軍事キャンプ(2016/01) 一部意訳・転載禁止
2016年1月公開のシリア西部ホムス・IS軍事キャンプでの教練の様子を伝える映像。練度の高さ・低さを見るよりも、こうした軍事キャンプの宣伝映像が各国の若者を惹きつけシリア入りをさせることにつながった点や、IS支配地域内の町々で上映されて青年を勧誘する装置となった側面も押さえておくべきだろう。GoProカメラを装着して撮影した映像も織り込むなど視覚効果も計算している。「カッコよく」見えるが、その先には次々と死んでいったたくさんの若者がいて、彼らが銃を向けた住民がいる。(2016年・シリア・IS映像)

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このホムス県下のIS軍事キャンプの動画公開は2016年1月。同じ場所での写真報告は2015年10月に出ている。写真を先に出して、動画はスピーチを挿入するなど編集したのち公表したと思われる。このキャンプ名は明記されていないが、同県は複数の軍事キャンプが存在した。(2015年・シリア・IS写真)

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軍事に詳しい人から見たら、銃の扱いや個々の動きの練度は高くないかもしれない。だが、これらシリア内のISキャンプで訓練を受けた戦闘員がパリに潜入して、無差別テロを引き起こした現実がある。シリアでの拠点を失っても、別の地や国に伝播し、ここで蓄積された教練マニュアルのもと新たな戦闘員が養成される可能性がある。(2015年・シリア・IS写真)

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IS戦闘員が他の武装諸派と違う点のひとつが「決死性」である。ゆえに軍事教練のなかで信仰武装が重要な位置を占めている。たとえば他組織も自爆攻撃戦術を用いることはあるが、「ここぞ」というときに限定している場合が多い。ISはとにかく自爆を多用し、2度、3度と連続した自爆戦術も得意とする。「いとも安くアッラーのために命を差し出せる」思考にするために、徹底した信仰教育がなされる。(2015年・シリア・IS写真)

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動画では一部の戦闘員がボディーアーマー(いわゆる防弾ベスト)を着用しているが、重くて動きが鈍くなることもあり、ISは実戦ではあまり使用しない。むしろアーマーカバーに爆弾を挿入して自爆ベストにし、敵陣への切り込み一番隊が急襲決死突撃(イングマスィ)をかけるときに着用することが多い。(2016年・シリア・IS映像)

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動画に挿入された音声スピーチは、アブ・オマル・バグダディ(左)によるもの。ISの前身組織、「イラクイスラム国」(ISI)指導者で、2010年、米軍とイラク軍の合同作戦で、「戦争大臣」のアブ・ハムザ・ムハジールとともに殺害された。動画の音声は2007年2月と2009年3月(右)に出された別々のスピーチから引用されている。前指導者の思想が受け継がれていることを示している。

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アブ・オマル・バグダディの名をつけた軍事キャンプ。場所はキルクーク県下のハウィージャ近郊と思われる。中央にある黒い旗がキャンプの隊旗。指導教官はムダリブと呼ばれる。(2014年・イラクキルクーク・IS写真)

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ISがモスルを支配していた際は、アブ・オマル・バグダディの名を冠したモスク(写真)まで建設。ISにとって継承性は重要で、「権威」であると同時に、戦いは受け継がれ絶え間なく続くという意味でもある。もし現在のアブ・バクル・バグダディが死んでも、その名は残り、次の指導者が地下や別の地で、思想を継承し、戦いが続いていくことになる。(2015年・イラク・モスル・IS写真)

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キルクーク県下のアブ・ムサブ・ザルカウィ軍事キャンプ。これまでにも紹介した組体操タワー3段。達成感や一体感を共有する組体操自体はイラク軍などもやっているので、ISだけがとくにこだわりを持っているというわけではない。ただISはこれらを「アッラーとジハードのため」と位置づけている。ジハードのためとはいえ、たいてい3段。日本の小学校が児童に強いるタワー5段は、それを超越するのだからはるかにすさまじい。(2015年・イラクキルクーク・IS写真)

【アハラール・シャム・動画】シリア・軍事キャンプ(2016年) 
ここからは、他の組織の動画で比較してみたい。シリア武装組織アハラール・シャムの軍事キャンプ。場所はシリア・アレッポ近郊地帯。こっちのほうがISよりも戦闘員や部隊行動の練度としては高いように感じる。ただ「決死性」という観点ではまた別の見方になるので、そのへんは練度だけでは測れない。カメラ・アングルも工夫が凝らされている。15分10秒めで「コーラン:戦利品章・60節」が引用され、今回のIS動画に出てくるのと同じ箇所にあたる。格闘訓練のヌンチャク(04分53秒め)は実戦で役に立つとは思わないが、これを見た若者を惹きつけるという意味では効果はそれなりにあったのかも。(長いのでインタビュー部分はカットしました)

自由シリア軍・動画】 水陸特殊作戦部隊(2017年)
自由シリア軍ムウタスィム旅団・水陸特殊作戦部隊キャンプ。撮影にドローンを使うなど工夫している。場所はおそらくアレッポ北部地域。北部の部隊はトルコ軍の資金・装備の支援を受けているため軍備は備えている。ただ部隊によっても様々と思うので一概には言えないが、自由シリア軍はそれほど強くない印象。また「決死性」は高くない。

【アハラル・シャルキーア・動画】(2017年)
自由シリア軍系の組織。映像中盤で「戦利品章・60節」が引用されている。イスラム武装組織は軍事キャンプ映像などでだいたいこの節を引用するのだが、同じ箇所を引用して、互いに敵対し、殺しあう状況は悲しい。出てくる軍用4輪車両はトルコ製装甲車ZPTと思うので、そういうところから関係が見えたりする。

【アル・ハムザ連隊・動画】(2017年)
アレッポ北方に展開する自由シリア軍系組織アル・ハムザ連隊の軍事アカデミー。場所はアレッポ北方。迷彩服はトルコ軍仕様のようだ。ここにもZPT装甲車が映っている。おそらくトルコから供与されたものではないか。クルド・人民防衛隊(YPG)の勢力拡大を阻止すべくトルコ軍は越境介入し、シリア武装組織を支援した。シリア国内の勢力だけでなく、周辺国の思惑が絡んで、「敵の敵は味方」のような複雑な状況となっている。

イスラム旅団・動画】(2013年)
これは冒頭から「戦利品章・60節」。映像はすこし古い2013年。イスラム旅団は、のちに再編されイスラム軍となった。率いていたのはザハラン・アロウシュ司令官。あのキティちゃんのノートを使っていた人である。司令官は2015年12月、シリア空軍の爆撃で死亡。
アルカイダ・動画】アラビア半島のアルカイダ(AQAP)(2016年) 
場所はおそらくイエメン。「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の特殊任務大隊・ハムザ・ザンジバリ司令官軍事キャンプとある。司令官の名はザンジバル出身を表す。ここでのザンジバルはイエメンでAQAPが政権軍と攻防戦を続けてきた都市を指し、ジオンの戦艦のことではない。動画では拳銃と手榴弾のCGの横のコーランのアップで「戦利品章・60節」が映し出される。中東では空手、テコンドー、カンフーとも有名だが、蹴り技が派手なテコンドーがけっこう人気がある。7分48秒めでは「柔道の運動技術」とテロップが出て、背負い投げなどが紹介されている。日本の柔道が殺人や暗殺技術の中に組み込まれるのは悲しい。(長いのでインタビュー部分はカットしました)

【シリア・クルド地域・対テロ特殊部隊・動画】アフリン・2015年)
これはジハード系組織とは違って、シリア・クルド地域の治安警察(アサイシ)所属の対テロ特殊部隊(HAT)の公開訓練。女性隊員もいる。クルド・人民防衛隊(YPG)が戦闘部隊なのに対し、アサイシは警察部隊。HATはラッカでのISとの戦闘にも派遣されている。冒頭部分で、机に手を置いて、オジャランPKK指導者に忠誠を誓っている。トルコ政府からは「テロリストの頭目」とされたクルディスタン労働者党(PKK)のオジャラン指導者。国境を挟んで隣のシリア・クルド地域では指導者として忠誠を誓う。IS壊滅作戦を優先させるアメリカはこのシリア・クルド勢力に軍事支援する状況になっている。

イラク軍・特殊作戦部隊(ISOF)・動画】(2013年)
イラク軍の対テロ任務などを担う特殊部隊で、別名「黄金師団」。フセイン政権崩壊後にイラク軍が再編されるなか、ISOFは米軍特殊部隊グリーンベレーやヨルダン軍特殊部隊の支援をうけて編成された。2010年に米軍との合同作戦で、ISの前身「イラクイスラム国(ISI)」のアブ・オマル・バグダディとアブ・ハムザ・ムハジールを殺害したのもこの部隊とされる。映像はISOFの公開訓練の様子。当初、イラク軍は兵士の構成比も宗派・民族バランスを考慮していたが、政府がシーア派色を強めると、その影響が反映されたものとなっていった。

今回はジハード主義組織を含む動画をいくつか紹介した。各派がそれぞれ武装対峙し、それを利用する周辺国や大国が存在する状況がある点を押さえておきたい。最後にもういちど強調しておきたいが、これは実際の戦闘、戦争であり、殺し合いである。「カッコいい」「自分探し」などとシリア行きを考えたりしないでほしい。地元の青年たちは戦いたくて戦っているというより、国民どうし、友人どうしが戦わざるを得ない状況を強いられている現実がある。

ISにはたくさんの外国人志願者が入り込んだだけでなく、組織中枢まで担い、各国での無差別殺戮をも呼びかけた。外国人が「自分試し」だとか「宗教的信念」のもとにシリアにやってきて、町や遺跡を壊し、あちこちで自爆されたら、巻き込まれた地元住民は、たまったものではない。

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