イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS動画・日本語訳】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(24) イスラム国(IS)と「ユダヤ陰謀論」

◆「すべての背後にユダヤ」~陰謀論の危うさ
「すべての背後にユダヤがいる」。
イラクにはこうした言い回しがある。それは国際政治の場面だけではない。例えば、車がパンクした。ピクニックで雨が降ってきた。「くそ、ユダヤのしわざ」。
みんながそういう言い方をするわけではないけれど、ある意味、日常生活でのツッコミだったりする。

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【IS動画・日本語訳】「真理の兵士たちよ、いざ進め」(一部意訳)

ジハード主義者がユダヤ人を侮蔑的に表現するときによく使われる表現が「猿や豚の子孫」で、歌に出てくる「猿の子孫」はユダヤ人を指す。この映像が出たのは2014年6月頃だったと思うのでイスラム国(IS)の宗教歌(ナシード)としては古い部類なのだが、映像は文字が踊り、ラップ音楽のクリップでも通用しそうな編集になっている。おそらくこのころにISに「腕のいい」編集スタッフが加わったのだと思う。この映像に前後して、一眼レフの動画モードで背景をぼかした映像にしたり、斬首処刑をまるで映画のシーンのように見せるなど、残虐さを「カッコよさ」に変える流れが出来上がっていった。これらの映像に感化されてISに入った外国の若者たちは少なくない。

9・11事件はユダヤ陰謀論というのがいまでも渦巻いている。イスラムキリスト教世界の対立を煽るためとか、世界を戦争に陥れてユダヤ資本の軍需産業が儲けるためだとか様々な言説がまことしとやかに語られてきた。その後のイラク戦争、そして「アラブの春」も仕組まれたものであり、現在のイスラム国(IS)の台頭に至るまで、すべて「ユダヤの陰謀」と信じて疑わない人もいる。

9・11事件から始まった「テロとの戦い」は16年に及び、アメリカ合衆国史上、最も長い戦争となっている。そしていつ終わるかもわからない。もしユダヤ資本が軍需産業を操っているのだとすれば、これほどおいしい話はないだろう。

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この画像の元の出どころはわからないのだが、「ISの背後にユダヤ」という陰謀論や風刺でやたらと使われる。

イラク戦争後で言えば、確かに様々な局面で何らかの「陰謀めいたもの」を疑わせる怪しい要素はたくさんあった。米軍がファルージャスンニ派武装勢力掃討作戦をし、多数の住民が巻き添えで犠牲となったとき、シーア派が一致団結して占領反対の声を上げた。ところがちょうどそのタイミングで、シーア派の聖地で爆弾事件があいつぎ、両宗派が対立し、のちに殺し合いが始まった。あの時は、誰かが仕組んだんじゃないかとさえ思った。

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イスラム世界でよく出回っている「ユダヤ陰謀論」のネタのひとつがコカコーラのロゴ。いやまあ、そう読めないこともないだろうが、とりあえず、これを最初に「発見」したやつはすごい…。

だが陰謀論はあやうい論理で、「陰謀」と決めつけた段階で思考は停止する。そればかりか、「すべて陰謀」という結論を導くために、都合のいい証拠を拾い集めて切り貼りし、誰かを攻撃する材料にもなってしまう。本当に陰謀をするなら、もうちょっとわからないようにやるだろうと言おうとも、陰謀論者にしてみれば「わざと怪しい要素をまぎれこませることが陰謀のコツ」となってしまう。

先日、ユダヤ系英国人のテレビディレクターと会う機会があったので、「陰謀論」についてきいてみた。 彼はこう言って、笑った。

「国際政治の闇から、蚊に刺されたことまで全部ユダヤの仕業にされるんだぜ。俺たち、どんだけすごいんだよ」。

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もうひとつがペプシ。PEPSIに隠された意味が Pay Each Penny Save Israel (払え・わずかな小銭も・イスラエルを救う)というやつ。ちょっと無理すぎると思うが、イランの国営テレビがやってた反シオニスト・キャンペーンにも使われたりしたので、ネタとして笑えなかったりする。

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ユダヤ・十字軍同盟を徹底非難してきたISはというと、意外にもコカコーラやペプシに対して、さほどガチにはならなかった。2015年のIS支配下のモスルの市民生活を伝える公式プロパガンダ写真にも、コカコーラが映り込んでいる。消そうと思えばいくらでも消せたはずなのだが…。(2015年・IS写真・モスル)

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以前の記事、「歌うジハード戦士」でも取り上げたチュニジア出身のIS戦闘員アブ・アハマド。SNSにアップされたプライベート写真がネットでネタにされて、「コカコーラを飲んで、アディダスを着て、ナイキを履いてるジハード戦士」と笑いものにされた。アブ・アハマドは2014年のシリア・コバニ戦を経て、2015年、イラク・サラハディンでイラク軍基地に自爆突撃して死亡。

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近現代のイラクにおいてはユダヤ人は迫害にさらされ、ほとんどのユダヤイラク人は国外に逃れることとなったが、ユダヤ人家屋の一部はいまもイラクに残っている。写真はスレイマニアにあったユダヤ家屋で、アーチ状のレンガの組み方などからイラク人には、一目でユダヤ人家屋とわかるという。(イラク・クルド自治区スレイマニア・撮影:坂本)

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IS宣伝映像にはパレスチナ出身とみられる戦闘員が登場し、イスラエルユダヤを非難したことがある。さらにパレスチナハマスファタハまでも批判した。ところが、ISは組織としては、イスラエルユダヤ関連機関への主だった攻撃はしていない。(2015年・IS動画・シリア・アレッポ

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2003年、トルコ・イスタンブールで起きたユダヤ教シナゴーグ爆破事件では23名が死亡。大東方イスラム突撃戦線(İBDA-C)が犯行声明を出した。一方、のちに台頭して各国で襲撃事件を繰り返し、世界的な脅威にまでなったISは、欧米で市民の無差別殺戮を繰り返したものの、イスラエル関連施設には攻撃をしてこなかった。ここでも「ISの背後にユダヤ」という陰謀論が渦巻く。(2003年11月・イスタンブール・撮影:坂本)

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