イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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動画【PKK・日本語訳】クルディスタン労働者党(PKK)カラユラン司令官「8・15武装闘争開始33周年」声明・全文

◆ゲリラ戦力強化をアピール
クルディスタン労働者党(PKK)カラユラン司令官は、武装闘争開始33周年にあたり、ゲリラ戦闘員を前に演説集会を開いた。場所はイラク北部カンディルの山岳地帯とみられる。8月15日はPKKが武装闘争を開始した記念碑的な日として位置づけられ、毎年、戦いに殉じたゲリラを「烈士」として追悼するとともに、闘争方針を明示してきた。動画は短縮バージョンで、全文テキストのほうが、総括や闘争方針などが詳しく述べられている。以下は動画(短縮版)とテキスト全文書き起こし。(一部意訳)

【動画・日本語訳】PKKカラユラン司令官8・15声明クルド語)転載禁止

ムラット・カラユラン司令官は、トルコで死刑判決を受けて拘置中のオジャラン議長につぐ実質上のナンバー2。「クルディスタン自由ゲリラ」とあるのは、PKKが近年用いている表現で、クルディスタン解放ゲリラというニュアンス。元の動画は30分ぐらあって長いので、短いバージョンに字幕をつけました。(2017年8月・PKK公表映像)(詳細なテキストは以下の全文参照) 

PKKカラユラン司令官8・15声明 (演説)2017

同志諸君、まずもってすべてのクルディスタン自由ゲリラ戦士の名において、8・15決起躍進33周年とオジャラン指導者を祝福したい。ゲリラ戦士としてオジャラン指導者への忠誠と敬愛の念をここにあらためて表明する。クルディスタンと中東の人民、烈士同志の母たち、すべてのわが同志たちの新たな再生の日を祝福したい。

この大いなる抵抗の日を勝ち取ってきたのは、クルディスタン解放闘争の歴史を自身の血で刻んできた英雄的な烈士たちである。偉大な烈士アギット司令官に続いた、革命に殉じた烈士たちを追悼し、彼らへの約束をあらためてここに誓うものである。わが烈士たちが安らかに眠ること願っている。諸君はつねに武器をとり続け、諸君の旗はかつてなきほど高々とたなびき、その大義は勝利を収めるであろう。

8・15決起がもたらした前進は、破壊の淵からわが人民を救っただけでなく、クルディスタンの民族的成果を幾多にも獲得するものであった。それはなによりも、(クルド人民を)再生に導く革命を打ち立てるものであった。

クルド社会は、知的、社会的、そして女性における革命を基軸として再生された。8・15決起躍進は、4つに分断されたクルディスタンのすべてで主要な役割を果たしてきた。北クルディスタン(トルコ・クルド地域)におけるこの戦争が、8・15精神のもとになされたものでなければ、南クルディスタンイラククルド地域)と、ロジャヴァ革命(シリア・クルドでの革命)は、いずれも成し遂げられなかったであろう。

いま、中東では戦争が続いている。中東は再編されるということを誰もが知っている。解放闘争とクルド人民はこの戦争の最前面にあり、これによってクルディスタンの敵たちは怒りに打ち震えている。

敵たちはあらゆる方向から攻撃を加えている。とりわけ植民地主義者トルコは、我々のオジャラン指導者、わが人民、わが運動を攻撃している。この2年においては、その攻撃は熾烈を極めてきた。

彼らはまずもってイムラルへの攻撃を加えてきた。
訳注:イムラル島=オジャランPKK指導者がトルコで死刑判決を受け、拘置されているブルサ沖の島)

イムラルで加えられる隔離拘禁と精神的拷問は、クルディスタンの抹殺政策を意味している。現在、イムラル島でなされていることは、すなわちわが人民の意志と未来に対する攻撃なのだ。

我々、クルド人民とその運動は、もはやこれらを容認することはできない。彼ら(=トルコ政府)が、イムラル・システムとクルド人民にいかに敵対しようと無駄である。エルドアンは、今日、自身が生き延びているのは、オジャラン指導者のおかげであることを知るべきだ。すでに言ったことをあらためて繰り返そう。オジャラン指導者の安全が危険にさらされるなら、トルコのすべての指導者たちの身に危険が及ぶと認識しておくがいい。
訳注:オジャラン指導者に万が一のことがあれば、トルコの指導者たちを攻撃するという意味)

この事実は、誰もが知っておくべきことである。我々、クルディスタン自由ゲリラ戦士は、オジャラン指導者の兵士である。我々は自己犠牲精神に満たされた精鋭部隊であり、その使命は、クルディスタン全域の安全を確保することである。

もしクルディスタン・ゲリラ戦士がシンジャルの救援に駆け付けなければ、ヤズディ住民のコミュニティは完全に破壊され、世紀に記録されるさらに過酷な大量虐殺がシンジャルで起きただろう。
訳注:2014年8月、イスラム国(IS)はイラク北部シンジャル一帯を一斉襲撃。住民殺戮が起き、女性や子供が拉致されるなか、一部住民はシンジャル山で包囲され、孤立した。クルド自治政府ペシュメルガ部隊が住民を起き去りにして撤退したなか、PKKと人民防衛隊(YPG)は9月、シリア側からISの前線を突破してヤズディ住民の一部を救出した)

クルディスタン・ゲリラ戦士が、コバニでの抵抗戦と支援の求めに応えて駆け付けなければ、コバニは消滅し、今日までダアシュ(IS)に占領されていたことだろう。もしダアシュがいまのように敗北していなければ、中東全域でより強力に猛威を振るい、人類全体にとって多大な災厄となっていただろう。

クルディスタン・ゲリラ戦士は、課された使命と責務を確固として果たしてきた。いま、これまで以上に勝利的にその任務を遂行するであろう。トルコ国家と軍は、地上でわが軍に対する戦いを維持できはしない。ゆえにこそ空爆を遂行し、自身の課題と守ることに必死になり、存亡をかけているのである。だが植民地主義者トルコは、こうした方途をもってしては生き残ることなどできない。知らしむべきは、AKP-MHPファシズムは、その植民地主義の歴史において最弱の状況を迎えているということである。
訳注:AKP=エルドアンが率いるトルコ公正発展党、MHP=トルコ極右政党の民族主義者行動党)

もはや自由クルディスタン到来の現実をいかなる力をもってしても阻止できないのだ。クルディスタン自由闘争の重要な局面にあって、我々は次の2つを呼びかける。まずもって、民族的統一が招集されねばならず、この重要な局面にあって、わが人民の利益に最大限に応えなければならない。4つに分断されたクルディスタンのすべての地域が共通の民族的戦略を創出し、自由クルディスタン大義のもとの責務を果たすため、一致団結せねばならない。

次の呼びかけは、クルディスタンの青年たちが歴史的かつ重要な局面にあってその役割を果たさねばならないということある。これはクルディスタン防衛部隊を拡大し、強化するうえで、重要な戦略的課題である。クルドの青年たちは、いかなる場を問わず、防衛部隊の戦列に結集すべきである。自身が参加する部隊にかかわらず、重要なことは、クルディスタン防衛部隊を強化することが求められているのであり、その隊伍に加わり、崇高なる任務を果たすことが問われているのだ。

バクール(北=トルコ・クルド地域)を始めとするクルディスタン人民は、AKP-MHP体制が、その終焉を迎えつつあるということである。ファシスト体制はトルコと世界の両方で閉塞状況に陥っている。わが人民の闘争、トルコとその周辺地域の民主勢力、そしてクルディスタン自由ゲリラ戦士は、勝利するのである。

敵は劣勢局面にありながら、虚構を振りまき、未曽有の心理戦争を仕掛けているが、クルディスタン自由闘争はそれをはるかにしのぐ高揚を勝ち取っている。

わが闘争は、クルディスタンだけの自由解放闘争ではない。全中東における革命闘争を同時に意味しているのだ。トルコ植民地主義者に対する勝利を収めることができるなら、クルディスタンが解放されるばかりでなく、トルコもまた民主国家となることがもたらされるであろう。

シリアにおけるロジャヴァ革命が勝利するならば、クルド人民だけでなく、アラブ人民も自由と民主主義にうちに暮らすことが成し遂げられる。言い換えれば、クルド革命は、中東革命となったのであり、人民の自由と民主主義の革命となったのである。オジャラン指導者が切り開いた地平に基づく革命闘争は、クルディスタンにおいて高揚し、これにともなって中東革命が創出されることとなろう。

クルド運動として我々は、次に34周年を迎える8・15を大いなる勝利の年として刻みたい。34年にわたる前進は、クルディスタンの年であり、オジャラン指導者の解放を勝ち取る前進の年となろう。クルディスタン自由ゲリラ運動は、その屈強さを断固として示してきた。

しかしながら、その屈強さだけでは十分とはいえない。クルディスタン自由ゲリラ戦士は、勝利する部隊でなければならないからだ。アポロ教育隊ならびに他の軍事キャンプでの総力活動と軍事教練は大いなる重要性があることを確認したい。

33年におよぶ経験を経て、総力集中を強化し、人的資質、心身、専門知識をいっそう深化させ、近代的で高度なゲリラ戦力を創出せねばならない。これが我々の目標である。次の34年めにあっては、8・15精神の勝利に基づく勝利の行進をもって、高度ゲリラ戦力を確固たるものとするであろう。これをもって、我々はクルディスタン人民の期待に応え、戦いに殉じた烈士同志たちの思いを実現させるのである。

この決意のもと、わが人民と同志たちの再生の日をあらためて祝福したい。8・15精神に貫かれた我々の前進は、必ずや勝利へと向かう。

8・15 精神万歳!
オジャラン指導者万歳!

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8月15日は、1984年にPKKがトルコ軍に対し最初の銃火を放った日とされる。PKKはこの日(8月15日)を15・Tebax (パズデ・テバハ)と呼び、「武装闘争開始記念日」と位置づけてきた。「再生の日」と繰り返し出てくるのは、解放闘争によって抹殺攻撃にさらされていた民族や文化、歴史の「再生」としてあらたな命を勝ち取った日という意味でPKKが近年用いている表現。今年で33周年めにあたり、PKKが建党された1978年11月27日よりも、1984年8月15日のほうが重要視されている。詳細については昨年の「8・15決起32周年声明」参照 >>>

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PKKは、1978年結成。当時、世界各地の民族解放闘争が社会主義的な性格を有していたごとく、クルド民族運動各派も左翼的性向が強かった。当時のPKK党旗にも「鎌と槌」がみられる。ソ連崩壊など共産主義の退潮もあって、社会民主主義路線を押し出し、共産主義色を弱めたが、封建的社会の解体や女性解放などの理念はいまも継承されている。女性ゲリラが多いのもこうしたイデオロギーを背景とする。1999年にオジャラン議長がトルコ当局に逮捕されると、一時、PKKの名を下ろし、中央指導評議会のもと部分的な穏健路線をとる。武装闘争路線は堅持しながら、組織改編を経て、再びPKKに戻る。

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PKKとその周辺組織の相関図。クルディスタン共同体連合(KCK)に包括される民主連合主義がPKKの方針となってきた。トルコで爆弾事件を繰り返してきたクルディスタン自由の鷹(TAK)は、PKKの別働組織とされるが、今年1月以降、目立った事件を起こしていない。推測だが、シリアのクルド組織・人民防衛隊(YPG)が主導するシリア民主軍(SDF)にアメリカがイスラム国(IS)壊滅作戦のための武器支援を強化する方針を決めたなかで、トルコでの民間人殺傷や爆弾事件は停止するという暗黙の合意をアメリカとPKKが交わしたのではないかとも思われる。アメリカでのシリアでのクルド勢力後押しは、将来的にはPKK主導のシリア・クルド自治区の国際的承認にもつながってくる。

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動画の冒頭に挿入された歌は、有名なPKKの革命歌。「赤い花が咲き誇る」という曲名でトルコ語。歌っているグループはコマ・ベルホエダン。トルコではかつて厳しいクルド同化政策がとられてきたため、PKKの初期の歌や出版物にはトルコ語が多数見られた。これまでの闘争を回顧するような映像では、過去の有名な曲が意識的に挿入されている。「赤い花」はゲリラ戦士を指すと同時に、70~80年代のPKKの共産主義路線を象徴する「赤」を示唆している。いまもって戦闘員をゲリラと呼ぶのもその影響から。 

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PKKは近年の声明でさらなる戦闘員増強を打ち出してきた。今回の映像では、約400名のゲリラが映っている。場所はカンディル山脈地帯にあるアポロ軍事キャンプと思われる。イラク北部だが、PKKが活動する主要地域はおもにトルコである。一方、イラククルディスタン自治政府との緊張関係からイラク北西部シンジャルのシリア国境近くでもPKKが拠点化を進めている。カンディル山脈一帯はイラン北東部への出撃拠点ともなっている。