イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画・日本語訳】イスラム国(IS)掃討作戦、「テロとの戦い」のなかでの空爆犠牲者

◆繰り返されてきた空爆と住民被害
9・11事件の報復でのアフガニスタン空爆、そしてイラク戦争後の混乱、シリア内戦に乗じ台頭したイスラム国(IS)。米軍の「テロとの戦い」は15年におよび、その過程で多数の住民犠牲も出てきた。空爆と民間人巻き添え。いまもずっと同じことが繰り返されている。他方、ISは被害を巧みに宣伝に利用し、復讐を呼びかける。

【有志連合動画】有志連合によるIS爆弾車両施設への空爆(音声なし・一部意訳)

ISは意図的に住宅地や学校、モスクの近くに軍事物資や爆弾車両製造工場を置くことがある。またIS地域に潜入する情報要員が伝える標的情報が誤っている場合もある。そうしたなかで地区が空爆され、住民が死傷すると、「罪なきムスリムの子どもや女性が狙われた」とする。爆撃する側も、標的の破壊効果があると判断すれば、巻き添え犠牲が出るとわかっていても爆撃を遂行することもある。映像は、有志連合が今年2月末に公開した「モスルでのIS爆弾車両施設への空爆」の映像。(2017年2月・CJTF-OIR映像・音声なし)

【IS動画】空爆と住民被害見舞金(一部意訳)

2015年5月公開の「イラク・モスルでの空爆被害」を伝える映像。ISのザカート(喜捨)配布部門が空爆被害を受けた住民に見舞金を配る様子を紹介している。見舞金が支配地域で制度として犠牲者全員に給付されているのか、宣伝のためだけなのかは不明。住民は双方の戦闘のはざまで逃げることもできず、犠牲となれば、ISはその死や犠牲を宣伝映像に利用する。ISは映像で「十字軍 VS ジハード戦士」ではなく、ムスリムイスラム教徒)が被害者となっていると描く。 「十字軍 VS イスラム」の構図で空爆被害を伝え、これが各地のムスリム同胞に向けたシリア・イラクでのジハード参加の招請や、復讐心を煽って欧米諸国での報復決起の理由付けとして利用されてきた。(IS映像・2015年・イラク・ニナワ県モスル)

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【IS画像】イラク、シリアでは、クラスター爆弾白リン弾も使われ、ISは機関紙で取り上げてきた。左はクラスター爆弾、右は白リン弾。右画像では白リン弾が身体機関に及ぼす被害や退避方法まで詳述している。自らの被害と爆弾の非人道性を押し出すが、IS側も戦闘現場で化学成分を含んだ砲弾を使用するなどしてきた。(2017年・IS機関紙ナバア・93号/85号) 

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【IS写真】IS機関誌ルミーヤが掲載した、モスルの医療施設に向けて白リン弾が使用されたとする写真。ISはプロパガンダを通じて、民間被害を強調する。ISも病院を標的に自爆攻撃をしてきたが、こうしたことについてはISメディアでは公表していない。ISはムスリム住民の被害を宣伝で伝えるが、住民を「人間の盾」に使ったり、支配地域外の住宅地に向けて砲撃している。犠牲者はいずれもムスリムである。(2017年・IS機関誌ルミーヤ12号)

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【IS系アマーク通信】米軍主導の有志連合、そしてロシア軍は「テロ組織掃討」の名のもとに軍事作戦を続け、その結果、子どもや女性が巻き添えとなってきた。何よりも悲しいのはシリア、イラクとも政府が自国民に向けて爆弾を落としているという事実である。誤爆や巻き添え被害が起きても「すべてISが悪いから仕方ない」で片づけられ、調査はされず、作戦指揮官が責任を問われることもない。(2017年・ラッカ・IS系アマーク通信)

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ファルージャ空爆少し時を遡ってみる。これは2004年にイラクファルージャが米軍の武装勢力掃討作戦で空爆された時のもの。このとき米軍はクラスター爆弾も使っている。戦闘のはざまで700人を超える住民が死亡。墓地が足らずサッカー場に遺体を埋め、墓石がないので道路の敷石に名前を書いていた。イラクでは当時からいまにいたるまで、同じことがずっと続いてきた。ISの台頭は、こうしたいくつもの事件の延長線上で生来した事態でもある。そして内戦に陥ったシリアにも空爆と住民被害が広がることになった。(2004年・イラクファルージャ・撮影・坂本)

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ファルージャ空爆ファルージャでの米軍による空爆で重傷を負った女性。バグダッドの診療所に搬送されてきた。流産したうえ、家族と親戚あわせて20人が亡くなった。空爆では、標的を外れて民間人が巻き込まれる「誤爆被害」だけでなく、民間人が死傷しても目標を破壊する上での「想定内犠牲」を前提として爆撃が遂行される。「戦争とはそういうもの」とはいえ、テロ組織壊滅のために市民の犠牲が容認されてきた現実はあまりに不条理といえる。(2004年・イラクファルージャ・撮影・坂本)

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ファルージャ空爆2004年のファルージャ空爆の頃といまと違う点は何かというと、当時は地元スンニ派住民や武装組織に、シーア派が支援を表明していたこと。イラク占領に抗する反米闘争という愛国主義的性格があったためだ。この写真はバグダッドスンニ派地区のモスクにシーア派が「ファルージャ空爆非難・反米抵抗闘争連帯」で結集し、ブッシュ打倒を叫んでいた。いまではありえない宗派合同礼拝の反米集会である。のちにイラクナショナリズムではなく、宗派アイデンティティが前面に押し出され、スンニ派シーア派の宗派抗争が先鋭化し、両派の武装組織が殺しあう状況に。もうひとつ当時と現在が異なるのは、以前はネットでの動画環境は限られたものだったのが、いまISはネットを通じて空爆被害映像を伝え、世界のムスリムに向けてプロパガンダを直接発信して報復を扇動しているという点である。(2004年・イラクバグダッド・撮影:坂本)

ISは、異教徒を殺害・奴隷化したり、子どもに捕虜処刑や自爆突撃を強いる過激組織である。一方、その掃討作戦のなかで、ISとは何の関係もない住民が犠牲となっている現実も押さえておくべきだろう。 空爆への報復として、ISは拘束したスパイを処刑し、プロパガンダ映像で公開してきた。
これについては 次回 >> (空爆情報伝えるスパイ処刑)
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