イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画】イスラム国(IS)壊滅の空爆作戦で住民巻き添え被害も

◆逃げられぬ住民、増える犠牲
米軍主導の有志連合、そしてロシア軍は、イスラム国(IS)に対する空爆作戦を続けている。アメリカがトランプ政権になって以降、IS壊滅戦が加速したこともあり、空爆回数は増えた。有志連合側は精密爆撃を強調するが、巻き添えで死傷する市民も絶えない。「テロとの戦い」のなかで多数の住民が犠牲となり、ISはそれを宣伝に利用する。

【動画1】有志連合映像・精密爆撃について(一部意訳)

空爆は軍事的には確かに効果があるし、ISを短期間で壊滅させるには有効な手段である。IS重要幹部の多くが、地元潜入要員の情報をもとにピンポイントで狙われ殺害されてきた。有志連合側は、広報映像で「精密爆撃」を紹介し、住民被害を極力少なくする努力をしているとアピールする。一方で、誤爆や巻き添え犠牲について、住民死傷者の統計や被害詳細は有志連合からは積極的に公表されず、人権モニター団体などがまとめたものを通して実態の一部が伝えられる程度である。(2017年4月・CJTF-OIR映像)

f:id:ronahi:20170811015232j:plain

【有志連合】有志連合には欧米だけでなく、ヨルダン、サウジなどの中東諸国も参加。シリア・イラクでの空爆作戦は、軍や軍需産業にとっては実戦データを集め、改良兵器を使用できる有効な場である。IS壊滅戦が兵器の実験場や見本市ともなっているのはこの戦争のもうひとつ姿でもある。有志連合は連日、IS拠点への空爆状況をサイト上で公表するが、住民巻き添え被害の詳細について具体的に触れられることはほとんどない。(CJTF-OIR写真)

f:id:ronahi:20170811015445j:plain

【IS写真】ラッカのIS拠点上空に飛来した米軍のA-10攻撃機とみられる機体。ISは、「十字軍同盟がムスリムを標的としている」といった構図で描こうとしている。 (2017年7月・ラッカ・IS写真)

f:id:ronahi:20170811015509j:plain

【IS写真】機関砲で対空攻撃をするIS戦闘員。 (2017年7月・ラッカ・IS写真)

【動画2】IS系アマーク映像「ラッカでの空爆での住民被害」

SDFは住民の退避路を開きながら、民間人被害を抑えようとしているが、それでも犠牲は出る。有志連合側は空爆や砲撃によって住民の巻き添え被害が出る前提で、「犠牲もやむなし」と作戦を続けている。民間人被害について犠牲者の把握や補償、国際法上の責任も問題とされないまま、「テロ組織を壊滅させるため」と、民間人殺害が黙認されている現実もある。この映像の後半で男は、「十字軍同盟の空爆ムスリムと子どもが犠牲になっている」と話す。(2017年5月・ラッカ・IS系アマーク通信映像)

【動画3】IS系アマーク映像「ラッカでの米軍による爆撃と負傷住民」

有志連合やロシア軍は空爆は「精密爆撃」だけではない。シリアの人権監視団体はIS壊滅戦の現場でクラスター弾白リン弾なども使用されているとしている。これは先月18日、IS系アマーク通信が伝えた「ラッカでの米軍による爆撃と負傷住民」とする映像。爆弾の種類にについての説明はないが、これは空爆でなくラッカ近郊に展開する米軍地上部隊による砲撃と思われる。IS系映像ではあるが、広範に被害が及ぶ爆弾で住民が犠牲となっている現実があるのは事実だ。(2017年7月・IS系アマーク通信映像)

f:id:ronahi:20170811020749j:plain

【コバニ戦シリア・コバニがISに制圧されかかっていたとき、有志連合がIS拠点を爆撃したときの写真。数百メートル先のIS拠点に着弾すると地面や建物が大きく揺れた。このとき、住民はトルコに難民として避難し、町のIS地域にはIS戦闘員しかいなかった。クルド組織・人民防衛隊(YPG)は、「ISに奪われたら町は2度と戻ってこない、住宅地を破壊してもかまわないからISを叩く」という決断をし、有志連合にIS陣地を日々詳細に伝え、上空から絶え間なく爆弾が投下された。(2014年12月・コバニ)

【動画4】コバニ戦・IS拠点への空爆

同じ場所で撮った動画はこれ。このときは米軍機による空爆と思われるが、有志連合の他の国も爆撃に参加していたほか、無人航空機(攻撃型軍用ドローン)も投入されていた。IS側からはカチューシャ(ロケット弾)も撃ち込まれるなど激しかった。コバニ攻防戦では、ISが武器や物資を送り込んでくるラッカからの幹線道では住民がいるのであえて空爆を控え、コバニの戦闘地域にISが入ったのを狙って爆撃していた。ラッカ戦では状況は少し違って、いまも住民が市内に多数の残っているため、巻き添えを避ける空爆は容易ではない。(2014年12月・コバニ・撮影:坂本)

f:id:ronahi:20170811071652j:plain

【ラッカ】有志連合機がラッカ住民に向け上空から投下したビラ(いわゆる伝単)。ラッカで反ISの地下メディア活動を続ける組織「ラッカは静かに虐殺される」が昨年SNSで公開したもの。住民にラッカからの脱出を促している。実際には生活がある上、周辺農村では農地や家畜もあるため、脱出も容易ではない。(2016年・「ラッカは静かに虐殺される」写真@Raqqa_SL)

ISは「ムスリム住民が殺されるから報復をする」などとして欧米でのテロを正当化する。ISによるテロ犠牲者については悲しみと怒りをもって詳細に伝えられ、ホワイトハウスエッフェル塔もライトアップをして追悼する。他方、テロ組織壊滅のために空爆の犠牲になっている住民について、その数や名前がどれだけ伝えられているだろうか。それがいまの「テロとの戦い」の別の側面でもある。

ISが空爆被害を、どのように宣伝映像で伝え、利用しているかについては 次回 >>

<< 前回:シリア民主軍(SDF)、ラッカでISとの攻防

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
新着記事はツイッターで案内しています>>