イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【シリア民主軍SDF声明全文】イスラム国(IS)ラッカ攻略 大攻勢戦を宣言【動画+写真8枚】

◆IS「首都」ラッカに突入へ
シリア民主軍(SDF)は、イスラム国(IS)が事実上の「首都」としてきたラッカへの大攻勢戦を開始する声明を発表した。SDFは昨年11月、ラッカ攻略を目指す「ユーフラテスの憤怒」作戦を開始、米軍を始めとした国際有志連合軍の支援を受けながら、ラッカを西・北・東の3方面から包囲する形で、ISの軍事的要衝を制圧してきた。トランプ政権になってからは、米軍地上部隊の増派やSDFへの支援も拡大している。今回、ラッカ突入への大攻勢が開始されたことで、対IS戦は大きな節目を迎えたことになる。以下は声明全文。(一部意訳)

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ラッカでの総攻撃戦を声明を発表するSDF(シリア民主軍)、クルド組織・人民防衛隊(YPG)ほか、アラブ勢力トルクメンキリスト教徒などの合同部隊。今回の声明では「ラッカ解放の大攻勢戦」という言葉が使われている。「大決戦」というニュアンを含み、総攻撃戦への強い決意を示したものとなっている。(2017年6月6日・SDF写真)

ラッカ解放のための大攻勢戦に関する声明
シリア民主軍(SDF)
(2017/06/06)

長き反撃戦を経て、わが軍部隊ならびに共同でテロリストに対して作戦を遂行する勢力は、その英雄的な伝説の歴史を刻んできた。歴史的なコバニ攻防戦からテルアブヤッド、ハウル、シャダーディに至る戦い、そしてデリゾールやラッカ近郊の村々、これらの地域にある複数のダムの解放戦など、これら地域の住民をテロリストから解放し、住民の生存を確保するための歴史的な数々のステップが踏み出されてきた。

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SDF(シリア民主軍)のタラル・シロ司令官。


きょう、我々は、「ユーフラテスの憤怒」作戦室司令部の名において、ラッカ解放へ向けた「大攻勢戦」を開始したことを宣言する。ラッカは、テロリスト集団がテロの首都としてきた場所である。

この大攻勢戦は、以下の部隊の参加のもと開始される。

ジャイシェ・スワール(革命戦士軍)、アクラド戦線、民主北部旅団、部族連合部隊、マガウィール・ホムス旅団、シクール・ラッカ、リワ・アル・タハリール(解放師団)、セルジュク・トルクメン旅団、サナディード軍団、スリアニ軍事評議会、マンビジ軍事評議会、デリゾール軍事評議会、自主防衛隊、ヌフベ軍団、YPG・YPJ、(人民防衛隊・女性防衛隊)。
訳注:一部の参加組織名称については、声明で読み上げられたものと、のちに文書で公表されたものとで異なるため、ここでは文書版をもとに列記)

また、この大攻勢戦は、ラッカ市民評議会、シリア民主評議会(MSD)、ならびに地域部族の指導的人士たち、この地域のわが人民の協力のもとに進められる。

ラッカ解放を目指すこの大攻勢開始の吉報をここに告げるとともに、わが軍は高い志気と大規模な準備のもと、戦う準備が万端整ったことを宣言するものである。

地上でのパートナーたちである国際有志連合軍と戦闘計画を策定し、その実行の準備はできている。ケレチョホでの攻撃で見たごとく、多くの勢力がこの歴史的作戦を阻むべく徹底した企てを加えてきたが、こうした攻撃や企ては無駄に終わってきた。
訳注:ケレチョホでの攻撃=4月末、トルコ軍がシリアに越境して北東部ケレチョホ山付近のYPG施設を空爆し20人が死亡した事件)

これらの企てや攻撃の目論見に反して、我々は意志を強固なものとし、テロリズムに対する怒りを確認し、その戦いへの決意をさらに高めさせるものとなった。ゆえに、すべてのケレチョホで犠牲となった烈士たちが我々の道を照らしてくれたのである。

ケレチョホで殉死した烈士たちの記憶を胸に刻み、我々はこの大攻勢戦を成功裏に成し遂げ、歴史的勝利を烈士たちの御魂に捧げるであろう。

ここにあらためて、我々はラッカ住民に対し、敵(=IS)の中心施設、標的となる場所、戦闘地域からできるだけ離れるよう呼びかける。わが軍部隊が任務を遂行できるよう、住民が結集し、わが軍を手助けしてくれることを求めるものである。また、ラッカの青年たちに向けては、自身が暮らす地を解放するために、わが軍部隊への参加招請を継続する。

この歴史的な日において、いまこの段階へと到達できた我々のために命を捧げた烈士たちに敬意を表し、また(負傷した)英雄たちの傷が回復することを願うものである。ここにあらためて、「ユーフラテスの憤怒」作戦の名のもと、この大攻勢戦に参加する全軍・勢力の戦士、司令官たちに敬意を表明する。また、国際有志連合軍に感謝を表明する。

これに加えて、テロリストに抗する、すべての宗派・宗教からなるわが人民、そして戦闘現場でわが軍部隊を取材し、進行状況を伝える報道関係者に挨拶を送るものである。

シリア民主軍(SDF) 総司令部
2017年6月6日

YPG動画・日本語訳】ラッカ近郊でISから解放された村落(一部意訳)

3月末にYPGが公開した映像で、ラッカ近郊でISから解放された村のようすを伝えている。SDF・YPG部隊はISとの戦闘にあたり、地元住民の安全路を確保して、仮設キャンプなどに避難させ、戦闘地域での被害を抑えようとしている。ISは住民の移動を阻止し、「人間の盾」にしている。一方で、有志連合の空爆で民間人が巻き込まれている現実もある。村落からISを排除したあとも、住民や地元部族の協力を取りつけたり、潜伏したIS戦闘員を摘発するため村を巡回している。(2017年3月・YPG映像

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ラッカ大攻勢戦開始を受け、ISとの戦闘に出撃するSDF部隊。(2017年6月・SDF映像)

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ラッカ攻略を目指す「ユーフラテスの憤怒」作戦は、昨年11月に開始。作戦は有志連合の航空支援、米軍地上部隊と連携しながら、ラッカを包囲する形で4段階の作戦が進められてきた。今回、いよいよラッカ市内に入る総攻撃戦が開始されることになる。(地図は2017年6月上旬時点の情報をもとに作成)

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今回の声明では「ケレチョホで死亡した烈士」について言及している。これは4月末に起きたトルコ軍によるシリアでの越境空爆事件を指している。SDFの主力部隊であるクルド勢力・人民防衛隊(YPG)の拠点をトルコ軍戦闘機が爆撃し、20人が死亡。写真は死亡したYPG・YPJ戦闘員。トルコ軍はイラク・シンジャルでも爆撃。トルコはクルディスタン労働者党(PKK)をYPGの関連組織とみなし、空爆は「PKKが武器をトルコに運び込もうとしたのを阻止するため」としている。今回、国際社会が注目するラッカ攻略戦の声明で、SDFがあきらかにトルコを批判する形でこの事件にあえて言及したことは、今後のラッカ攻略やシリア北部情勢にも影響するものとなるだろう。(2017年4月・YPG写真) 

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トルコは、PKKとつながりの深いYPGを主導勢力としてラッカ攻略を進めることに強く反発し、アメリカに再考を求めてきた。だがトランプ政権は、IS掃討を優先させる方針。「自分ならISを手早く片付けてみせる」が米大統領選の公約でもあり、ラッカを攻略できれば、「テロの首都を制圧した大統領」として大きなポイントになる。クルド側も、戦闘での犠牲は大きいが、将来的にはシリア・クルド地域の国際社会での承認につなげることができる。写真は先月、ワシントンでトランプ大統領と会談したエルドアン大統領。(2017年5月16日・ホワイトハウス映像)

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アメリカは「PKKはテロ組織」としながらも、YPGについては、IS掃討作戦で唯一的に有効に戦える戦闘組織として武器支援を拡大するなど「政治的立場」を分けている。4月末にはケレチョホがあるマリキーヤ(クルド名デリク)に米軍部隊が一時展開し、トルコを抑制。米軍シリア派遣部隊の指揮官がトルコ軍による空爆の被害現場を視察した。写真はトルコ軍に誤認されないよう星条旗を掲げる米軍のストライカー装甲車。(2017年5月・ロジャヴァ・ニュース映像)

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IS側は、SDFと有志連合軍によるラッカ攻略戦を「十字軍同盟がイスラム教徒とそのウンマ(共同体)に仕掛ける戦争」として総結集を呼びかけ、欧米諸国などでの単独襲撃を含めた「決起」を扇動している。宣伝映像では各国指導者が並ぶ背後に十字軍騎士が描かれ、イスラムキリスト教世界との対立構造に仕向けようとしている。ただし9・11事件の際、ブッシュ大統領は「テロとの戦い」を表現したときに十字軍という言葉を使っている(のちに訂正)。ゆえにISが作り出した用語というわけではない。ISの規定では、十字軍諸国と同盟関係にある日本もこの十字軍同盟に入る。(2017年4月・IS映像)

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4月末、ISのラッカ県メディア部門は巨大な軍事キャンプで100人以上の訓練兵が戦闘訓練をするようすを紹介。また高齢者を含む住民もラッカ死守に立つよう先導し、総力戦で臨むとしている。ラッカに潜入してIS軍事拠点の位置をSDF・有志連合軍に教える情報要員を「背教徒スパイ」として処刑する映像もあいついで公開している。決死戦の構えを見せ、自爆攻撃を含む激戦となるのは間違いないが、ISは部隊の一部や幹部、その家族はラッカ東部のデリゾールに移動させ温存を図る可能性が高い。(2017年4月・IS映像)

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せっかくなので、ずいぶん前の写真ですが、ラッカでクルド人の農家を取材したときのもの。当時はカミシュリでのクルド民衆蜂起が各都市に飛び火した時期で、アサド政権の情報機関(ムハバラット)があちこちで目を光らせていて、観光客のふりをして取材。クルド人の民家に泊めてもらいながら移動した。シリア内戦が始まって数年後には、この地域はIS支配下に。ラッカはアラブ人が趨勢の町だが、いまクルド勢力がISとの戦いで重要な役割を担い、国際社会が注目するような状況になるとは思ってもみなかった。このとき出会ったたくさんの人びとが、いま取材や現地情報などを手助けしてくれている。(2004年・撮影)

「ユーフラテスの憤怒」作戦・これまでの流れ(おもな声明一覧)
第1段階・開始声明 (2016/11/06)    第2段階・開始声明 (2016/12/10)
第2段階・戦果報告 (2017/01/16)    第3段階・開始声明 (2017/02/04)
第4段階・開始声明 (2017/04/13)    タブカ・ダム制圧声明 (2017/05/12)

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