イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS動画+写真29枚】イスラム国(IS)戦術分析(20)◆戦闘員養成7・軍事キャンプ運営構造

◆軍事キャンプ統括する兵務庁【動画+写真29枚】
イスラム国(IS)支配地域の各所で運営される軍事キャンプ。ここで新規戦闘員が訓練を受け、各部隊に配置される。ジハード戦士を養成する軍事キャンプを統括するのは兵務庁と呼ばれる機関。キャンプはどのように運営されているのか。

【IS動画・日本語訳】空爆への怒りから戦闘員に(2016/07) 一部意訳・転載禁止

2016年7月公開のISプロパガンダ映像。「実話をもとにした再現ドラマ」仕立てになっていて、米軍主導の有志連合やロシア軍などによる空爆での市民の犠牲を目の当たりにした青年が、戦闘員に志願するというストーリー。空爆への怒りから青年が向かった先は「戦闘員登録事務所」。軍事キャンプで訓練を受け、前線に配置されるまでが描かれている。

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今回の映像で、軍事キャンプ入隊後に青年が手にしているパンフレットは、ISの出版機関ヒンマが発行した「イスラム教徒の義務」に関するもの。映像では空爆への復讐心を煽るだけでなく、モスクや礼拝、イスラム、信仰を想起させるシーンを意図的にいくつも盛り込んでいる。「イスラム教徒全体が攻撃にさらされ、これに対し立ち上がることは信仰上の義務」という構図に仕立て上げようとしている。

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 映像にはラッカにある「戦闘員志願者登録事務所」が出てくる。これは新規戦闘員をリクルートしたり、入隊志願者の受付相談窓口となっている場所。自衛隊で言うところの地方協力本部に相当する。(2016年・IS映像)

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この画像は昨年公開されたイスラム国の「国家」構造について解説した映像のシーン。IS軍事キャンプを統括するのは兵務庁(ディワン・アル・ジュンド)で、その下に軍事キャンプ運営部が置かれている。例えば日本の場合、警察は都道府県単位で、自衛隊は方面隊が単位となっている。ISの部隊運用は基本的に支配地域内の「県」管区単位になっていて、軍事キャンプもその下に運営される。あくまでも構造上のことで、戦況が悪化した現在、実際にどこまで機能しているかは不明だ。(2016年・IS映像)

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シリア・アレッポ県管区のシャダッド・アル・テュニスィ軍事キャンプ。(2014年・シリア・IS写真)

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この写真が公表された当時はISが最も支配地域を拡大させていた頃。Tシャツにはキャンプ名がプリントされている。(2014年・シリア・IS写真)

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近接格闘訓練。(2014年・シリア・IS写真)

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雲梯(うんてい)を使った訓練。こうした基礎体力養成訓練はISではタドリバット・バダニと呼ばれる。(2014年・シリア・IS写真)

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現在、ISはアレッポ県下でかなりの支配地域を失っており、このキャンプの場所も存在しないと見られる。だが、キャンプ名は別の地域で受け継がれ、同名のキャンプが復活したりする。(2014年・シリア・IS写真)

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ロープ渡り訓練。いわゆる「モンキー」をしている。(2014年・シリア・IS写真)

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軍事キャンプにおける訓練兵の医療IDカード。軍事キャンプが兵務庁のもとで運営されていることがわかる。組織内部での名前はクンヤと呼ばれ、本名とは違うコードネームをつける。軍事キャンプの段階からクンヤを名乗っているようだ。このIDカードはアブ・シャミル・シシャニという名なので、チェチェンからの戦闘員と思われる。(SNS写真より)

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シリア民主軍(SDF)が今年2月にラッカ県下のISの軍事キャンプがあった場所を制圧した際のもの。キャンプで使われていた軍事教練ノート。「イスラム国・兵務庁・ハムザ・ブン・アブドル・ムルタブ軍事キャンプ」とあり、これもキャンプが兵務庁の統括のもとにあることを示している。左は「預言者の道に従いしカリフ制」とある。これはISが作った言葉ではなくて、預言者ムハンマド亡きあと、継承者としてのカリフのありようについて語られてきたもの。ISはこれを根幹思想のひとつとしていて、「自分たちがカリフ制を再興したことは預言者の方途に則ったものである」と独自に規定している。過去記事の国境解体映像のなかで、昨年死亡したアドナニ広報官がこの言葉を繰り返している。(2017年・SDF映像)

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こちらはシリア・ホムスのアリン・アスワド軍事キャンプ。教練段階でギリースーツ(偽装網)をかぶっているのは珍しい。(2015年・シリア・IS写真)

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指導教官が訓練兵の間近に容赦なく実弾を撃ち込んでいく。(2015年・シリア・IS写真)

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シリアの土漠地帯での教練。(2015年・シリア・IS写真)

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軍事教練や演習は模擬弾など使わずに実弾や実際の爆弾が基本。このため教練過程で負傷する例も相当あると思われる。(2015年・シリア・IS写真)

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IS軍事キャンプには指導指針がある。左がIS軍事キャンプにおける戦闘員の精神的指導教程書のひとつで、タイトルは「一神教の教則」。独自解釈に基づくシャリーアイスラム法)理解や、一神教ムスリムの義務のほかに、ISが敵とみなす多神偶像崇拝者、不信仰者などについて解説している。軍事部門とは別に、宗教部門が信仰やイデオロギー部分を担当し、宗教的指針や原則を与えている。この文書を執筆したのはISの高級幹部でイスラム学者、トルキ・アル・ビナーリ(写真右端)とされる。バーレーン出身でシリアに潜伏しているとみられていたが、5月末、「ラッカまたはデリゾールで空爆で死亡か」との未確認情報が出た。握手をしている相手は、ドイツ出身の元ラップ歌手で、IS戦闘員となり、死亡説が報じられたアブ・タルハ・アルマニ(デニス・クスペルト Deso・Dogg)。

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これはイラク北部モスルのアブ・ムサブ・ザルカウィ軍事キャンプ。2014年6月、IS(当時はISIS)は大都市モスルを制圧、銀行から多額の現金を奪った。2015年8月の写真だが、このときは財政が豊富で、戦闘員を大量養成していた。訓練兵用のジャージまで揃えている。(2015年・イラク・IS写真)

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ここでもIS恒例の組体操タワーで志気を高める。RPGロケット砲やPK機銃を構える姿は勇ましいが、3段タワーの下の段は腰がかがんでいる。その点では組体操タワー5段をがっちり直立できるまでやらされる日本の小・中学生のほうが厳しい試練を課されているのかもしれない。(2015年・イラク・IS写真)

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ジャージの背中にはザルカウィ軍事キャンプの文字がプリントされている。モスルはイラク軍の奪還戦で陥落も近いとみられるので、もうこのキャンプは存在ないだろう。ISのスタイルとしては、キャンプが消えてもまた別の場所で同じ名前のキャンプを引き継いだりするので、支配地域を失って地下闘争に移行してもザルカウィ・キャンプが再び登場することもありうる。(2015年・イラク・IS写真)

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訓練の最後には、忠誠式というのがある。右手を差し出して、「カリフ」であるバグダディ指導者への忠誠(バヤア)を表明する言葉を唱和する。「ムスリムのカリフへの忠誠」とキャプションがつけられている。 忠誠式とは>> (2015年・イラク・IS写真)

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今回の軍事キャンプなどの宣伝映像は、対外的にはISの強さや決意性を見せつけるのに使われると同時に、IS支配地域内でも住民に向けて各所で上映される。これは街角に設置された広報宣伝のためのメディア・ポイントと呼ばれる場所。戦闘報告だけでなく、斬首などの残虐な処刑映像も大型モニターで見せている。街頭の映像に見入る子どもの姿もある。軍事キャンプの映像は、若者や子供を戦闘員に駆り立てる効果もある。写真はイラク・モスルのメディア・ポイント。(2016年・イラク・IS映像)

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メディアポイントでは映像をDVDで配布したり、USBメモリーにコピーするサービスもおこなっている。小さな町や村ではモスクで上映したり、大型モニターテレビ付き広報宣伝カーで巡回するなどしている。(2016年・イラク・IS映像)

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2016年公開の「ダマスカス県管区」の軍事キャンプ。ダマスカス周辺でも一部地区で登場したり、IS共鳴組織が活動している。(2016年・IS映像)

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都市部の軍事キャンプは、学校の跡地などが使われ、教室やグランドが活用されることが多い。ただ空爆などの標的となるため、常時設置をしているというわけではないようだ。(2016年・IS映像)

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ISが他の武装組織と違ったのは定期的に給料が出たこと。扶養家族によって手当もつくため、入隊した者も結構いた。戦乱で生活の糧を失ったり、学校閉鎖などもあり、家族を養うために戦闘員となった若者もいる。いまは戦局が悪化し、給料が減っているとか出ていないといわれる。(2016年・IS映像)

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「カリフ国・軍事キャンプの課程修了」とあるので、軍事教練の全過程を終えた戦闘員のお披露目訓練と思われる。(2016年・IS映像)

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ロープ降下。学校の建物のように見える。壁にはたくさんの銃弾の痕が見える。 (2016年・IS映像)

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建物の突入訓練。一般に突入攻略はカタハミーンと呼ばれたりするが、最近では軍事教練の段階から、こういうのもイングマスィ(突撃決死隊)と総称されることが増えている。(2016年・IS映像)

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もともとイングマスィは自爆も含めた急襲コマンド突撃なので、最近、軍事キャンプでの教練段階からイングマスィとする表現が増え始めていることは、戦況悪化のなかで戦闘員に決死性を突きつける運用になっているのではないかと推測される。イングマスィ>>

IS軍事キャンプ戦闘員養成シリーズまだ続く予定です

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