イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS声明・日本語訳】イスラム国(IS)広報官アブル・ハサン・ムハジール「耐えよ。まことアッラーの約束は真実」(全文)【1】全4回 (2017/04/05声明)

◆劣勢のIS、「忍耐と不屈」を呼びかけ【声明 1/4】(全4回)
イスラム国(IS)アブル・ハサン・アル・ムハジール広報官は、4月5日、音声声明を公表した。非常に長文であるが、ISの思考や過激主義を読み解く資料として全文を4回に分けて掲載する。この声明は「公式に初めてアメリカのトランプ大統領に言及」とメディアで報じられたもの。ただし声明内ではトランプを名指しておらず「下劣な愚か者」とある。(そこだけ読みたい方は4回目参照)声明内での「シャム」は大シリア(シリア、レバノン、ヨルダンを含む地中海沿岸レヴァント地域)であるが、ここでは実質的にシリアを指している。以下全文の第1回。(IS側の原註釈と、こちら(坂本)でつけた訳註があるので注意してください。おもに英語版をもとに訳出・一部意訳・コーランの引用は岩波版から)【1】【2】【3】【4】

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IS機関紙アン・ナバア(第75号)に掲載されたムハジール声明。
今回の声明(2017/04/05)の要旨:
(1) 困難な状況でも忍耐と不屈の心で戦い抜け。殉教すれば天国の報奨が与えられる
(2) 十字軍諸国や不信仰者に加担するイスラム学者、指導者、武装諸派は裏切り者
(3) いまは一時的退潮局面だが、いつかはバグダッドエルサレムアラビア半島テヘランイスタンブール、ローマも征服する
(4) アメリカよ覚悟せよ、かつてイラクで失敗したように再び敗北する
(5) サウジのムスリムよ、奮い立て
(6) アメリカ、ロシア、ヨーロッパの同胞よ、立ち上がれ

イスラムアブル・ハサン・アル・ムハジール 広報官声明
「耐えよ。まことアッラーの約束は真実」(1/4)

まこと、アッラーにすべての称讃あれ。我らはアッラーを讃え、お力添えとお赦しを請い、心の悪と行ないの因果からの庇護をアッラーに求めるものなり。アッラーがお導きになる者は迷うことなく、アッラーが迷わせる者は導かれることはなし。アッラーのほかに神はなし、並びなき御方、と我は証言するものなり。ムハンマド(祝福と平安あれ)がアッラー下僕しもべであり、使徒たることを我は証言するものなり。以下、かくのごとく。

崇高なるアッラーは、かく仰せになった。
【信徒の者よ、汝ら敵軍に出遭ったら、しっかりと腰を据えて、アッラーの御名を何遍も唱えよ。さすれば、必ず幸福を得よう。そしてアッラーと使徒(ムハンマド)の言いつけをよく守れ。決して喧嘩口論などして志をぐらつかせ、ついには順風に見放されるようなことがあってはならぬぞ。どこまでも頑張りとおせ。まこと、アッラーは辛抱づよい者の側につき給う】(戦利品章:45-46節)

また崇高なるアッラーはこもう仰せになった。
【耐えよ。まことアッラーの約束は真実である。あのような無信仰のやからにたばかられて、汝までぐらつくようなことがあってはならぬ】ギリシア人章:60節)

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4月5日付で出されたアブル・ハサン・ムハジール声明。タイトルの「耐えよ。まことアッラーの約束は真実」は、コーランギリシア人章(=ビザンチン章)60節から。

 

 

たとえ苦難と困難にあろうとも、たとえ幾多の勢力が悪徳のもとに集結しようとも、たとえあまたのロケット砲撃や空爆の爆撃音が鳴り響こうと、これは忍耐、不屈、そしてアッラーのお約束の確かさであるのだ。

御主に信を置き、確固と抱く者たちは、堅固で揺ぎなく、(アッラーからの)報奨を待ち望み、前へと行軍を続け、決して己れの背を(敵に)見せぬ者たち。彼らは、無力や困惑、あるいは日和見や失心のなかに怖れおののいて挫けるようなことのなかった者たち。いやむしろ、彼らは逸脱の道を排して、闇夜になかに真実の光を夾叉きょうさし、己れの血をもって導きの燈火ともしびを灯す者たち。

彼らは御主の啓典(=コーラン)によって自らを滋養し、預言者(祝福と平安あれ)のスンナ(=慣行)に則って歩み、営為をなしてきた。 彼らは、
勝利がまさしくアッラーからもたらされるのであり、人員や装備の数で勝利が決まるのではないということを知っていた。まことアッラーは強大なる御方、そのお力に勝る者はなし。

まことアッラーは、強勢や人員を引き高めんとした者をお捨てになる威力至高なる御方。万事をお命じになるごとくに、あらゆる方途のもとに、その御意志によってすべてを正しく相応なる場所に配置されるがごとくに。アッラーこそ至賢なる御方であらせられる。

まことアッラーは、勝利を司るにおいては、全能至賢なる御方、勝利が授けられるべき者に、勝利をお授けになる。御方がご自身の下僕しもべを見棄てるときは、誰あろうとお見棄てになる。弱々しさや不備あろうとも、御方が司るものから逃れることなどできぬ。
アッラーはその御言葉を確固と仰せになっている。
アッラーが助けてくださるなら、もう誰ひとり汝らを負かす者はいない。だがもし(アッラー)が見棄て給うたなら、一体だれが神なきあとの汝らを助けてくれるものか。されば、信者はみんなアッラーにおすがり申すことが第一】(イムラーン家章:160節)

そう、まことアッラーのお約束は真実。御方が信仰の下僕しもべたちにお命じになるごとく。ゆえに御方のスンナ(=慣行)と創造物におけるその賢知たるは、絶えず永続せしもの。御方がお望みになればいつあろうと苦難をお下しになり、いつあろうとお取り除きになる。諸天や地上においていかなるものも御方の権能を奪うことなどできぬ。 アッラーが物事をお命じになるとき、「かくあれ」と御方がひとたび発すれば、かくあるのだ。御方はこう仰せになり、そのお言葉は真実である。
【一体汝ら、過ぎた昔の人々が経験したような(苦しい試み)に遇わずに(楽々と)天国に入れるとでも思っておるのか。(昔の人たちは)みんな不幸や災禍に見舞われ、地揺れに襲われ、しまいには使徒も信者たちも一緒になって「ああ、いつアッラーのお助けがいただけるのか」と歎いたほどではなかったか。いや、なに、アッラーのお助けは実はすぐそこまで来ておるのだが】(牝牛章:214節)

そしてまことアッラーのスンナ(=慣行)が求めしものは、御方の命令に実直たることなしにして、あるいは御方に立ち返る真摯さなくして勝利は成し遂げられぬということであり、ゆえにアッラー御教みおしえを最もよく護持する者、そしてアッラーの敵に対しジハードの大いなる力をもって立ち向かう者、さらにアッラーとその使徒(祝福と平安あれ)に至誠をもって忠実に尽くす者であり、その者こそが最大の擁護者であり、従順なる者であり、気高き者なのである。

おお、イスラムウンマ(共同体)よ、時は流れ、今日、歴史は繰り返している。いまここに到りしは、ダールル・イスラムが置かれた状況のごときありよう。幾世代のなかで、幾多の大きな出来事が去来した。それらはウンマ全体に消すことのできぬ禍根を残し、癒えがたき深い傷を負わせてきた。
訳注:ダールル・イスラム=一般に「イスラムの地」「イスラムの居地」「イスラム世界」を指すが、ここではかつてのイスラム世界を防衛する幾多の戦いを経た時代を重ね合わせている。声明では「イスラムの地」と「イスラム国」を同義的に並べようとしている用法が見受けられる)

これは先人から学んだ教訓なのであり、ムスリム参集地を実際的な破壊へと導く危うき坂道と、奈落の深みに至ること-それはイスラム教そのものが根絶やしにされることに他ならぬ - から引き留めるための方途である。 かくして、ここに襲来したのは十字軍アメリカとそれに結託する同盟国。イスラムの地とカリフの地を攻撃せんと再来したのだ。歴史において、不信仰者の国々が、あらゆる宗教や教義の違いを越えて総結集したことなどなかったことである。

スンナの民(=スンニ派)を僭称する者どもと共謀し、背教徒の支配者や邪悪なイスラム学者や礼拝を司る者 - そこにはジハードを宣布し、真理の道に従う方途を説く者さえも含まれる-これらの者どもすべては、カリフ国のイスラムの息子たちに敵対して不信仰者の国々の一群となった輩徒なのである。

だが、かつての時代状況や侵奪と、今日、いま我らが経験していることは異なっている。当時のムスリム国家は自ら最悪の状況に至っており、本来、宗教があるべき姿と御主からかけ離れ、タイファ(原註※1)の諸王が分断していた。ゆえにアッラーは、敵方を導き入れ、諸王国の内裏も、そこにいる子孫も打ち壊し、一掃させたのである。
原註※1タイファまたはタワーイフヒジュラから5世紀後にアンダルース(=イベリア半島)においてカリフ制国家の崩壊ののちに登場した分裂諸国)

しかし今日、イスラムの地に対するその攻撃の熾烈さや、東西くまなき地から仕掛けられる戦いにあっても、カリフの地にあるムスリムの状況はかつての時代とは違うのだ。イスラム国はイスラムの地のために立ち、防衛する存在であり、不信仰者の国々に繋がれた隷従と服従の桎梏から解放するために、イスラム青年たちの熱情を打ち鍛えながら、信仰を確固と抱く者を奮い立たたせた。
彼らこそ、自身のウンマを防衛するため、熾烈で命を懸けた戦争に勇んで挑み参じた者たちであり、あらん限りの力とあらゆる手段を尽くし、戦いの現場で奮闘を惜しまず、敢然と対峙し、反転攻勢に打って出た者たちであった。

カリフ国は、アッラーの恩寵と報奨のもと、ムスリムたちをしっかりとその宗教につなぎとめている。他方、圧政側のイスラム学者や、その悪辣なる宣伝機関は民衆の前に立ちはだかり、邪道へと迷い込み、十字架の民とその従僕となった背教に堕ちた支配者どもに導かれながら、イスラムの民を低みに落とし込めて屈辱にまみれることを求めている。

だが、アッラー勝利をお認めなり、カリフ国は、病いが何であるかを知り、その治療の方途は何かを認識した。アッラーの御意によるアッラーの御為の大道においても非難する者からの雑言を恐れずして
、この病いはイサ・ブン・マルヤム(平安あれ)にその旗が渡されるまで続く。(=イサ・ブン・マルヤムは、イエス・キリストを指す)
訳注:ここはコーラン・食卓章の「ユダヤ人やキリスト教徒を仲間にしてはならない」「心に病いを持つ者はユダヤ人やキリスト教徒のもとに走るが、いずれ敗者となる」という節を意識させる箇所になっている。十字軍に協力する支配者やイスラム学者は敗北することを示唆しようとしている。イサ(イエス)に「平安あれ」とついているのは、イスラムではイエスも預言者の一人としてみなしているため)

おお、イスラムウンマ(共同体)よ。まこと我らこそアッラーからイスラムの名誉を授けられた者たち。ゆえに、その他のいかなる名誉も望んではならぬ。ウンマの原初に形作られた姿をおいて、それ以降のいっさいの形にも、我らはウンマの姿を変えることはない。

一神教を自覚した者のみが、そしてワラーゥ・バラァ(=信仰への忠誠と、信仰に敵対する者への姿勢)に生きた者こそが、己れの宗教を通して名誉を授かることができた。順境にあっても、逆境にあっても、苦難にあっても、盛隆にあっても、あまたの敵が立ちはだかり辛苦が増そうとも、これこそがその者の人生のすべての事象のありようとその方途を決定づけてきたのである。その者はアスタナに顔を向けてなどいないし、圧政者どもとかかずらうことなどしないのだ。決してないのだ!
訳注:アスタナ=シリア情勢と停戦をめぐってカザフスタン・アスタナで、シリア反体制組織諸派の一部とシリア、ロシア、イラン、トルコ、国連などが続けている会合)

いやむしろ、この者こそは不信仰者の国民どもに対し、次のように言って、宗教の結びつきのもとに留まり、預言者たちの父の例えを護持している。
【「わしらはもうあなたがたと縁切りです。それからアッラーをよそにしてあなたがたが崇めていらっしゃる(邪神ども)とも。わしらはもうあなたがたなぞ信じられません、わしらとあなたがたの間にはもはや敵意と憎悪あるのみ、あなたがたがアッラーだけを信仰するようになるその日まで」と】(調べられる女章:4節)

これぞ導かれし信仰者(=ムスリム)のあるべき姿であり、それ以外のものはすべて罪なしたる不信仰者の姿。万有の御主のシャリーア(=イスラム法)の道から逸脱し、これを書き換えた輩徒であった。

◆声明【2】につづく >>   【1】【2】【3】【4】

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イラク北部モスルをISが制圧したのは2014年6月。近郊も含めて200万の人口を誇ったイラク第2の都市で、イラク軍・警察を撃破したことは、ISにとって「アッラーを信じれば必ず勝利できる」という自信につながり、イラクとシリアで一気に領土を拡大していった。旧日本軍が「神風が吹くから負けるわけがない」と中国大陸から東南アジアへと戦線を広げ、欧米列強を駆逐していったメンタリティーに似ているともいえる。いま劣勢のISは、「殉教して天国へ」と戦闘員に総玉砕戦を迫る。これも戦争末期の日本軍と共通する部分があるかもしれない。写真はモスルでイラク軍から奪った大量のハンヴィーを連ねて走行するIS。(2015年・IS映像)

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昨年10月に始まったイラク軍によるモスル奪還戦で、ISは町の大部分を失った。いまISが残る西部地区で激しい攻防戦が続く。写真は戦闘の前に礼拝するIS戦闘員。(2017年・IS映像)

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モスル市内で戦うIS戦闘員。戦闘や空爆によって犠牲となる市民もあいついだ。(2017年・IS映像)

◆声明【2】につづく >>  

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