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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画+写真28枚】イスラム国(IS)戦術分析(19)◆戦闘員養成6・ジハード戦士の「軍人精神」

◆IS軍事キャンプの信仰武装教育【動画+写真28枚】
イスラム国(IS)が軍事教練で重視してきたのが、「信仰による武装」である。IS軍事キャンプでは、武器の扱いや身体鍛錬に加え、独自に解釈したコーランとその教義、そしてシャリーアイスラム法)の学習が徹底されている。今回はIS軍事キャンプにおける信仰武装に着目する。ジハード戦士にはどのような「軍人精神」が教え込まれるのか。

【IS動画・日本語訳】イラク・ニナワ県軍事キャンプ(2015/12) 一部意訳・転載禁止
2015年12月にISが公開したイラク・ニナワの軍事キャンプ(おそらくモスル)。映像の中盤に音声スピーチが挿入されている。これはかつて「イラクイスラム国」(ISI)のアブ・ハムザ・ムハジール(本名アブ・アユーブ・アル・マスリ)が戦争省大臣の地位にあった2008年4月に出したスピーチと思われる。2010年に死亡したISI時代の指導者のスピーチを盛り込むことで、組織の継承性や一貫性のなかに現在のISを位置づけようとしていることが伺える。コーランの引用が出てくるが、あくまでもIS独自の解釈である。一般住民や異教徒の殺戮を正当化する根拠として信仰や教義が利用されていることにも留意しておきたい。

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動画映像では、軍事学習に加え、教官が「戦争に一切の容赦はない」と説いている。「信仰で強く武装されたジハード戦士」を宣伝する意図があると見られる。(2015年・イラク・IS映像)

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食事風景も紹介されている。こうした映像は、IS支配地域内では、町ごとに置かれた広報ブース(メディア・ポイント)や村のモスクなどで上映されるため、地元少年たちに戦闘員の生活を魅力的に見せる効果がある。また世界に向けては、ISが軍事キャンプを体系的に統括・運営していることを宣伝している。(2015年・イラク・IS映像)

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レーズン入りのピラフの中央には鶏肉、そのまわりに煮込んだ羊肉。こういう料理は、イラクでは一般に「ルッズ・ワ・ヤブサ」と呼ぶと思う。これをナンとあわせて食べる。現在は各戦線で戦況が逼迫しているので、これほどの食事が確保できているかは不明。(2015年・イラク・IS映像)

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テロップには「軍事キャンプ・宿営施設」とある。ISはいくつもの敵と戦っており、「国家財政」に占める軍備費の割合は高い。こうした宿営施設は撮影用セットではなく、一応、実際に存在すると思われるが、宣伝映像は自分たちをいかに強大で装備や兵員が豊富であるかを見せようとする点も押さえておくべきだろう。(2015年・イラク・IS映像)

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動画の音声で出てきたアブ・ハムザ・ムハジールは、イラク聖戦アルカイダ機構をザルカウィから引継ぎ、その後、ムジャヒディン・シューラ評議会を経てイラク・イスラク国(ISI)を立ち上げた指導者のひとり。エジプト出身で、2010年に死亡。高名な指導者だったこともありファルージャではISの軍事キャンプにその名が冠されている。写真の黒い隊旗にはアブ・ハムザ・ムハジール軍事キャンプとある。このキャンプについては、戦闘員養成3の動画で取り上げている。(2014年・イラク・IS映像)

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シリア・ダマスカス県管区の軍事キャンプで携帯コーランを手にするIS訓練兵。かつてのソ連軍はマルクス・レーニン主義を軍事ドクトリンとし、日本軍は天皇の軍隊として軍人勅諭・戦陣訓が精神支柱に据えられた。ISが掲げるのは、独自解釈したコーランの教えに基づく「アッラーの兵士」の精神であり、その目的はジハード戦士としてウンマイスラム共同体)防衛と、一神教の旗の下に地上を征服し、シャリーアイスラム法)統治を成就させること、そしてそれに攻撃を加える敵、つまり不信仰者、背教徒、異教徒の殲滅である。また敵前で背を見せ逃亡することは不名誉であり、アッラーの大道で殉教して義務を果たせ、と教え込まれる。(2015年・シリア・IS映像)

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IS支配地域内の各地の街頭に掲げられているポスター。「啓典が導き、剣が支える」とある。ISはこの思考のもとに動いている。啓典はアッラーから諸々の預言者に下された啓示の書で、最高位にあるのがムハンマドに下されたコーラン。「啓典が導き~」はISが独自に作った言葉ではなく、13世紀のイスラム学者イブン・タイミーヤによるとし、他のジハード主義組織も用いている。コーランによる信仰領導と、銃による武装で勝利が授けられることを意味する。バグダディが「カリフ就任」を宣言した2014年7月の演説でも使われた言葉だ。ただしジハードや武装についてはイスラム学者のあいだでも解釈は様々で、ジハードとはウンマイスラム共同体)のために尽力奮闘し、敵に攻撃されたときの防衛行動とする見解もあり、「信仰は剣で勝ち取ることがアッラーの命令」などとして異教徒殺戮までも正当化するISの排他的、攻撃的な解釈には批判が出ている。

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イラクキルクークのアブ・オマル・バグダディ軍事キャンプで、教義について学ぶようす。教練メニューに信仰・教義学習が明確に組み込まれている。指導教官が教義を戦闘員に説くのは、「アッラーのために」と惜しまず命を差し出し、敵前で逃亡せず、斬首や自爆を信仰上の義務として遂行できるジハード戦士を量産する目的がある。(2015年・イラク・IS映像)

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映像では、教官が訓練兵に質問を交えてやりとりしながらジハード戦士が学ぶべき教義について教えている。なかでも重要なのがアキーダ(六信)「唯一神アッラー・天使について・啓典・預言者・来世・定め」であり、これらに加えてコーランの戦利品章、悔悟章などから戦いに関連する節(アーヤ)、ハディースの伝承、シャリーアイスラム法)などが教え込まれる。(2015年・シリア・IS映像)

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訓練兵がそれぞれ携帯コーランを手にしている。様々な地域から参加した戦闘員は信仰の度合いも様々で、イスラムについての知識も開きがある。これをISが独自に解釈した信仰規定や教義で戦闘員を一体化するのも軍事キャンプの役目といえる。やみくもに銃を振り回すだけの集団でないことがわかる。(2015年・シリア・IS映像)

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これはイラク北部タラファルにあるアブ・イサ軍事キャンプ。タラファルはトルコマン(トルコ系住民)が多く、スンニ派シーア派のトルコマンの武装組織あいだでずっと戦闘が続いてきた。ISが2014年に町を制圧すると、シーア派住民を処刑、追放し、シーア派モスクや墓地を徹底して破壊した。地元ではトルコ語が話されているため、トルコからの戦闘員も多い。ホワイトボードの文字はトルコ語だ。(2015年・イラク・IS映像)

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タラファルのトルコマンが話すのはトルコの標準トルコ語と比べるとアゼリ語に近く、アラビア語の単語も混ざっている。それでも言語を共通とするため、トルコ人戦闘員が多い軍事キャンプが置かれ、またトルコからの家族移住者の拠点のひとつともなってきた。アブ・イサ軍事キャンプの映像も、トルコ語を話す戦闘員が多数登場している。現在、タラファルではシーア派民兵部隊・人民動員隊(PMU)とイラク軍が合同で奪還戦を展開し、激しい攻防が続いている。(2015年・イラク・IS映像)

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イラクキルクークのアブ・オマル・バグダディ軍事キャンプ。戦闘員はコーランのほかに、教義や戦闘員心構えが書かれたパンフを携帯する。戦闘時に繰り返し唱える念唱(ズィクル)や、ジハード戦士の「戦陣訓」を繰り返して読む。(2015年・イラク・IS映像)

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これもキルクークのアブ・オマル・バグダディ軍事キャンプ。30人前後が1回の訓練で養成されたようだ。「体力鍛練・武器戦術習得・信仰教義」の3つの柱が軍事教練の基本になっている。これらを習得してようやく戦闘員となれる。(2015年・イラク・IS映像)

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前回のイエメン軍事キャンプでも触れたアラブの軍隊式駆け足、ハルワラ。ここも同じくキルクーク。(2015年・イラク・IS映像)

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アメリカの星条旗を標的にRPG-7ロケット砲を発射。星条旗に上には「十字軍同盟」と書かれている。ISの規定では、十字軍同盟には日本も一応含まれることになる。アブ・オマル・バグダディ軍事キャンプ。(2015年・イラク・IS映像)

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イラク・ディアラの軍事キャンプ。これまでに紹介した軍事キャンプ映像に共通するのは、教練課程における教義・信仰学習で、コーランハディース(言行録)から同じ箇所が引用されている点。
【かれらに対して、できる限りの武力と 多くの繋いだ馬をもって備えよ。それによってアッラーの敵、あなたがたの敵に恐怖を与えよ】(戦利品章:60節)
「力は弓術によってつけられることを知れ」ハディース)などで、現場で適当にコーランの言葉を持ち出しているのではなく、教練指導マニュアルに基づいて信仰武装教育が行なわれていることがわかる。(2015年・イラク・IS写真)

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ISはシリア人、イラク人などの地元戦闘員(アンサール)と、ヨーロッパ、アジアなどからの外国人戦闘員(ムハジール)から構成される。同じムスリムとはいえ、育った文化も言語も思考も信仰への距離感も違う。また外国人の方が給料が多く、部隊内の戦闘員感情も複雑だ。ISと戦うイラクの治安部隊やクルド・人民防衛隊(YPG)に聞いたところ、外国人は決意してIS入りしているため、思想が強固で、拘束する際に自爆する場合が比較的多く、他方、地元戦闘員の一部には、家族を養うために仕方なく入隊した者がおり、投降して内部情報を話すこともあるという。(2015年・イラク・IS写真)

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「カリフ国兵士の身体鍛錬」とある。ISが軍事キャンプで教義・信仰の教育を徹底するのは、ジハード戦士としてバグダディに忠誠を誓い、いつでも死ねる覚悟を持たすこと、そして思想的・信仰的弱さからくる逃亡や転向を防ぐこともある。(2015年・イラク・IS写真)

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ここもディアラのキャンプ。狙撃の訓練のようだ。(2015年・イラク・IS写真)

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RPG-7発射講習。適当な訓練だと、戦闘現場で同士撃ちなど味方に犠牲をもたらす結果を招いたりする。武器の扱いや集団行動はきっちり教えている模様だ。(2015年・イラク・IS写真)

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ニナワ県モスルを制圧して間もない頃に出されたアブ・アッザム・アンサリ軍事キャンプの映像。訓練兵たちを前に、ジハードの大義についてコーランを引用しながら説いているようす。その内容を要約すると:

ムハンマドの伝承には『アッラーの大道でなら何度、戦って殺されようと本望』とあり、コーランには『アッラーの大道を往く者は渇き、疲れ、空腹に苦しめられ』『そのことが善行として記録される』とあるのだ。アッラーのために戦った者、殉教した者にはアッラーからの大いなる報奨が授けられる」

などと訓練兵にジハード軍人精神を教えている。当時は、モスル制圧で資金も潤沢にあり、さらなる戦線拡大のため戦闘員を大量に養成していた時期である。(2014年9月・イラク・IS映像)

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イラク西部アンバル県のアブ・イブラヒム・ザイディ軍事キャンプ。「名門キャンプ」のひとつで、黄色の隊旗が特徴。ISがよく使う表現に「お前たちが生きることを望む以上に、我々は死を望んでいる」という言葉がある。戦場で命を惜しまず敵に突撃していくISの戦術が、武器装備ではるかに上回るイラク軍と互角に戦えた理由である。一方、神がついているから負けるわけがない、といった旧日本軍にも見られた極端な精神主義がIS戦闘員消耗を招き、大局的には戦闘を維持できずに各戦線で敗北している側面がある。(2015年・イラク・IS写真)

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アンバル県は、スンニ派の強固な地盤であり、フセイン政権崩壊以降、反米武装勢力の活動も活発だった。ISの台頭で武装各派が編入・統合されていった。(2015年・イラク・IS写真)

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ジハード戦士養成の軍事教練を達成すると、組体操タワーで一体感を高める。各地のISキャンプで共通しており、以前のアフガン・キャンプと同様、ここでも3段である。タワー5段をさせる日本の小学校は、何のための戦士を養成しようとしているのか、気になるところだ。死をもいとわぬ社畜戦士の養成でないことを願いたい。(2015年・イラク・IS写真)

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軍事キャンプで教練の全課程を修了すると、「卒業のお披露目」というのが各キャンプで行なわれる。街頭に繰り出して、ジハード戦士になったことを住民に披露する。これもアンバルのアブ・イブラヒム・ザイディ軍事キャンプ。(2015年・イラク・IS写真)

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軍事キャンプ卒業のお披露目は、町の中心部で円陣を組んで、バグダディへの忠誠を表明する言葉(バヤア)を唱和する。(2015年・イラク・IS写真)

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昨年5月、空爆での死亡が報じられたIS軍事部門最高幹部のひとり、アブ・ワヒブ。アブ・イブラヒム軍事キャンプの黄色い隊旗を持っている。笑顔の写真はめずらしい。IS公式写真でなく、戦闘員が個人でSNS上にアップしたものと思われる。アブ・ワヒブについてはこちら>>

IS軍事キャンプ戦闘員養成シリーズまだ続く予定です

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