イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)壊滅作戦~アメリカによるシリア民主軍(SDF)への軍事支援

◆アメリカからの装甲車供与~軍事と政治のはざまで
イスラム国(IS)との戦いを進めるシリア民主軍(SDF)とクルド・人民防衛隊(YPG)は、IS拠点都市ラッカへの包囲網を狭めつつある。有志連合軍は、IS拠点に空爆を続け、米軍特殊部隊はシリア領内でSDFと行動をともにしている。軍事支援も進むが、そこには政治バランスもからみあう。

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アメリカによるシリアのクルド組織への最初の軍事支援が武器弾薬投下作戦だった。2014年10月、シリア・コバニがISに制圧される寸前にまでいたった際、町を死守していたYPGの弾薬はほぼ尽きかけていた。イラククルディスタン地域政府はペシュメルガ部隊の援軍約150名をトルコ国境から派遣。また米軍機は上空からYPG地域に武器弾薬を投下した。このときアメリカはトルコを刺激しないよう、「イラク・クルド政府から頼まれた物資を輸送機で運んできて投下しただけ」と弾薬支援に一応の理由をつけた。YPG地域はわずか2キロ四方しかなく、ISの対空砲撃もあり、一部の投下物資が目標をはずれてIS地域に着地。当時、IS系メディア・アマーク通信はその映像を公開、IS戦闘員が「我々の戦利品だ」などと話している。(写真はIS系アマーク通信・2014年10月)

オバマ政権時代にも、シリア・クルド勢力に小火器などの武器支援、特殊部隊による戦闘訓練は行なわれてきたが、その実態が大きく報じられることはなかった。NATO同盟国トルコへの配慮が理由のひとつだ。トルコはYPGをクルディスタン労働者党(PKK)と一体の組織とみなし、アメリカもPKKについては「テロ組織」と規定している。アメリカにとっても「YPGに武器供与」となれば、「ISというテロ組織を壊滅させるために、別のテロ組織を支援している」と国際社会に受け取られかねない。ゆえにアメリカ側はおおっぴらには公表しなかったし、YPGもアメリカからの具体的な援助内容を伏せてきた。

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米軍は2015年10月にもSDFへの武器弾薬投下作戦を行なっている。このときはシリア東部ハサカのISとの前線に向けて、AK-47、M-16などの自動小銃と弾薬あわせて50トンが、戦闘機の援護を受けたC-17輸送機編隊によって投下された。その際、「シリアのアラブ連合組織への武器支援」とされ、シリア・クルドという表現を意図的に使わなかった。この表現が現在にもつながっている。写真は投下作戦について説明する有志連合報道官、米軍のウォレン大佐(当時)。(2015年・米国防総省映像)

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これが今年1月下旬に映像で確認されたアメリカが供与した装甲車輌、インターナショナル・アーマード・グループ(IAG)社のガーディアン。ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーのサイトではフォード社のF550をベースに装甲化したタイプとしている。(SNSで出た写真)

ISが拡大し、世界各地で襲撃事件を繰り返すようになると、有志連合軍は一致してIS対抗勢力への支援を拡大した。有志連合軍はサイト上で連日、作戦状況を広報しているが、イラク軍やイラク・クルド地域ペシュメルガ部隊への支援や連携映像は詳細に伝える一方、シリアでの作戦は空爆映像を除いてほとんど出さない。やはりトルコへの配慮が大きいからだろう。

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装甲車輌供与はトランプ大統領就任のタイミングが重なったこともあり、「トランプからのプレゼント」とも報じられた。米国防総省報道官は、一連の報道について「以前から予定されていた支援策の実行であり、ISと戦うシリアのアラブ連合組織に装甲車輌を供与した」とした。このときもアラブ連合組織とし、クルドやYPGとの表現を避けた。右のIAG装甲車はSDFの旗だが、後続のトラックはYPGの旗である。

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一方、トルコ・メディアはこの支援を「アメリカがテロ組織に装甲車を供与」とする扱いで報じた。トルコ政府はアメリカに対し、武器支援の懸念を表明し、「YPGがISを追い出した後に獲得した地域がトルコの安全保障上の重大な脅威となる」と伝えている。またトルコ軍はYPG拡大阻止のため、IS掃討を名目にシリアに越境介入している。写真はトルコの新聞紙面。

YPG主導のSDFがISへの攻勢を強め、IS「首都」ラッカ包囲にまで及ぶ状況となったいま、アメリカはYPG・SDFをISと戦える有効な対抗勢力と明確に認めるようになった。当初アメリカが支援していた自由シリア軍系組織が離合集散するなか、クルド側は頑強にISと戦い抜いてきた。またIS対策に強硬姿勢で臨むと表明してきたトランプ政権の誕生も重なっている。

もちろんアメリカはPKKがトルコで自爆攻撃や武装襲撃をする組織であることを十分に知っていて、YPG・SDFに全幅の信頼を置いて軍事作戦を進めているわけではない。とくにアメリカ製の武器をYPGがトルコ軍に対して使うことを懸念している。これまで一連の作戦には、小規模ながらクルディスタン愛国同盟(PUK)のペシュメルガ特殊部隊が一部同行している。イラク・クルド地域の、それも方言がまったく異なるPUK部隊がシリアにいるのは、「監視役」として、YPG・SDFが暴走しないようにしているため、と自分なりには推測しているところだ。

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アメリカからの武器供与報道については、YPGのレドゥル・ハリル司令官兼報道官も直ちに声明を出し、「我々は対IS戦において、有志連合からの装甲車などの武器支援を受けてはいない」とした。このYPG声明は一応は事実である。しかし実際のところを言えば、SDFを主導しているのはYPGで、戦闘現場でその装甲車輌を使っている戦闘員にはYPGも含まれている。あくまでも武器を供与した相手はISと戦うアラブ連合組織としておいたほうがアメリカには「都合がいい」という背景もある。そしてYPG側も犠牲を払ってラッカ攻略戦を戦うには、アメリカの求めるままに動くのではなく、独自の大義や政治方針、そして思惑がある。(画像はYPG・2017年2月1日付声明)

シリア内戦が始まり、YPGが結成された当時、「実質的にはPKKと見られてるんだから、PKKの名前でいいのに」と思った。のちにYPGがアラブ組織と合同でシリア民主軍(SDF)を編成したときには、「また新組織か。ややこしい」と感じた。ところが、こうした「使い分け」が、ときに組織にとって政治的には有効である現実を知った。
世界的な脅威となったIS。その戦いのなかにも、各国や各派の思惑がからみあい、「共通の敵=IS」を相手にしながら、軍事と同時に、政治が複雑に動いている。

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先月24日、米中央軍(CENTCOM)司令官ヴォーテル大将がシリア・コバニとラッカ近郊の前線地帯に入り、クルド部隊と接触した。ラッカ攻略をめざす「ユーフラテスの憤怒作戦」の最終的な詰めをした模様だ。司令官は昨年5月にも現地入りしている。先月には、米軍地上部隊の増派に言及するなど対IS戦への積極姿勢を見せ、今後さらに支援が拡大するのは間違いない。トルコの反発が予想されるが、このタイミングでの司令官訪問には、ホワイトハウスがISの即時的壊滅の計画策定提出を国防総省に求めたことも影響しているのではと米メディアは伝えている。司令官の訪問直前には、共和党・マケイン上院議員も現地を視察。これらの大物がシリア現地に行くのは、関係国に対するアメリカの意志表示でもある。写真は先月6日、フロリダの基地でのトランプ大統領とヴォーテル大将。(米中央軍公表写真)

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今回、ヴォーテル大将のシリア入りにあわせ、米中央軍はツイッターで「シリア北部」としていくつかの写真を出した。それでも政治的配慮が見られ、YPGを示す旗や部隊章などは出さないようにしている。(米中央軍公表写真)

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これは2014年1月のコバニ。当時、戦闘激化でYPGが戦闘員を増やすなか、戦闘服が足りず、セーターにジーンズ姿も。武器はシリア政府軍やヌスラ戦線から鹵獲するなどしてかき集めた。(2014年1月・撮影・アジアプレス・玉本)

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それから3年経っていまはこんな状況に。場所はシリア・クルド地域のアフリンと思われる。これはHAT(対テロ特殊部隊)の女性隊員。YPGが軍事戦闘組織である一方、HATは治安警備組織(アサイシ=警察)に属するが、基本的には地域防衛を担う両輪として一体の機構といえる。シリアで銃といえばカラシニコフばかりだったなかで、クルド組織がこれだけの装備を持てるまでになったのは、武器供与を伺わせるものでもある。左はCAA RONIキットをつけたハンドガンで、右の自動小銃オーストリア製のステアーAUGではないだろうか(間違ってたらすみません)。(SNS写真より)

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