イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS声明・日本語訳】イスラム国(IS)広報官アブル・ハサン・ムハジール「いまにきっとわが言葉を思い出すときが来よう」(全文)【1】前編

◆「忍耐もって戦え」繰り返す【声明前編】
武装組織イスラム国(IS)は12月5日、アブル・ハサン・アル・ムハジール広報官の音声声明を公開した。8月に空爆で死亡したアドナニのあとを継いで広報官となってから初めての声明となる。イラク軍とクルド・ペシュメルガ部隊が有志連合軍の支援を受けながら進めるモスル奪還戦に加え、シリアでのクルド・人民防衛隊(YPG)やトルコ軍との戦いにも言及。「忍耐をもって戦え」と何度も繰り返しており、各戦線でISが厳しい状況に置かれていることが伺える。以下、全文を2回に分けて掲載。(おもに英語版をもとに訳出・一部意訳・コーランの引用は岩波文庫版から声明後編(2)はこちら>>

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イスラム国・広報官声明(音声スピーチ・テキスト) 
「いまにきっとわが言葉を思い出すときが来よう」(前編) 後編>>
アブル・ハサン・アル・ムハジール
アッラーよ、彼を守りたまえ)

まこと、アッラーにすべての称讃あれ。我らはアッラーを讃え、お力添えとお赦しを請い、心の悪と行ないの因果からの庇護をアッラーに求めるものなり。アッラーがお導きになる者は迷うことなく、アッラーが迷わせる者は導かれることはなし。並びなき御方、アッラー以外に神はなしと我は証言するものなり。ムハンマドアッラー下僕しもべであり、使徒たることを我は証言するものなり。彼と、そのご家族、ご教友、そして審判の日に従う従者に格別の平安と祝福あれ。以下、かくのごとく。

高貴なるアッラーは、かく仰せになった。

【彼らと戦うがよい。きっとアッラーは汝らの手で彼らを罰し、彼らを辱め、汝らを助けて彼らを撃ち、そして信者たちの胸を癒して下さろう。心に積もる恨みを晴らして下さろう。アッラーは御心にかなうものの悔悟を赦したまうだろう。アッラーは全知、英明であられる。それとも汝ら、このままでそっと放っておいて戴けるとでも思ったのか。汝らの中で(神の道に)奮戦し、アッラーと使徒と信者たちのほかにはひとりも心を許す相手をつくらなかったのは誰々とアッラーもまだご存知ないこのままで。汝らの所業は、アッラーが全部ご存知であるぞ】(悔悟章:14-16節)

アッラーの大道ゆく各地のジハード戦士たちへ。おお、赤く燃える石炭をその手に握るごとく耐え抜いているカリフ国の兵士たちよ。おお、この宗教と名誉の護り手たちよ!己れの心をアッラーの御為にいともやすく犠牲として差し出す準備ができている者たちよ!イスラムの故郷を血をもって守りぬき、正面きって史上もっとも傲慢不遜極まりなき十字軍に立ち向かいたる者たちよ!勇猛と確固たる心をもって、不信仰者の国々と背教者の軍勢を恐怖せしめた者たちよ!忍耐と不撓不屈で全世界を震撼せしめた者たちよ!

ここに助言するは、アッラーの使徒(彼に祝福と平安あれ)がアブドッラー・イブン・アッバースにかくお述べになった御言葉。

アッラーの御心にそわぬ形で、万物があなたの益をなそうとしたところで、それはかなわぬこと。アッラーの御心にそわぬ形で、万物があなたに害をなそうとしたところで、それはかなわぬこと。あなたが忌み嫌うものに耐えることは、より良きことと知れ。勝利は忍耐のもとに訪れる。救いは苦悶ののちにもたらされる。安堵は難苦ののにちにもたらされる】ハディース:アハマドによる伝承) 

まこと、ウマル(=ウマル・イブン・ハッターブで第2代正統カリフ)はアブスの民の首領たちにこう問うた。「何をもって戦ったのか?」。 彼らはかく答えた。「忍耐をもって。我らが敵とまみえるとき、必ず忍耐をもって立ち向かった」。サラフたち(=初期イスラムの信奉者)のなかにもかく言う者がいた。「我らの誰もが死や負傷の痛みを忌み嫌う。だが、忍耐をもってすれば、そのありようは変わる」。 

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アブル・ハサン・ムハジール声明は、ドイツ語、トルコ語、ロシア語など各言語で刊行される機関誌ルミーヤ(Rumiyah)でも掲載された。これまでのアドナニ広報官と比べるとコーランの一節からの引用は少ないが、詩が挿入されていたり、戦争と殺戮を扇動する文に宗教性や格調の高さを持たそうとするところは共通しているようだ。

 

 

かくて、忍耐強くあれ。おお、ジハードを戦う兄弟同胞たちよ。不屈たれ、そして歓喜せよ。アッラーの御為に、またアッラーによって、諸君は勝利するのだ。いま諸君が経験しているこの苦難は、幾多の苦難のたんなる一遍にすぎぬ。この苦難は、アッラーがその下僕にお慈悲としてお授けになったものであり、それによって善行と悪行とが区別され、そののち、大いなる真理とより重き責任が諸君に用意されるのである。この苦難は、まことのところ贈り物であり、それに先立って難しいものなどない。そびえる山々がうち崩され平地にされるがごとくの苦難の幾多を諸君は経験してきた。いやさて、諸君はそこで忍耐強くあり、頑強不屈であった。むしろ諸君は、より強固な決意と大いなる抵抗力をもって、これらの苦難を克服してきた。イラクとシリアの軍勢たちよ!イスラムのグラバ(奇妙なる者)たちよ!

訳注:グラバ=「奇妙なる者」は、ムハンマドの言葉「イスラムは奇妙なるものとして始まり、奇妙なるものに立ち戻る。ゆえに奇妙なる者たちに祝福を」による)

虚構の陣営は、この世俗世界によって欺かれ、欲望によって惑わされ、自惚れに満ちたもの。悪魔が鼻のなかに傲慢さを吹き込んだ。かくして、それは膚浅のうちに立ち現れ、自ら不遜さを宣し、怒りを噴出させ、恐怖におののき、大攻勢を開始したのであった。それは、歴史がかつて目にしたことなきほどの、イスラムの在り処とカリフの地に対するものであった。 

ここに到来したるは、十字軍のアメリカとヨーロッパ、旧共産国ロシア、マギ・イラン(訳註:ここでのマギは「ゾロアスター崇拝のイラン」の意)、世俗国家トルコ、クルド無神論者、ラフィダ(=シーア派の蔑称)、ヌサイリ(=アサド政権アラウィ派)、サハワ(=スンニ派武装諸組織)と民兵ども、圧政のアラブ諸国、その兵士ども、これらすべてがひとつの陣地をともにし、最新兵器を装備し、それぞれが薄汚いメディアをもって、同じスローガン「イスラムとその民の撲滅」を呼号した。それは、すなわち(このアードの民の不信仰者たちのごとく)【我らより強い者がどこにいる】(フッスィラ章15節)と同じ論法である。

 (訳註:アードの民=偶像崇拝の一族のひとつとしてコーランで言及され、アッラーを信じず傲慢尊大な態度をとったため滅ぼされたとされる)

 これらの者どもは、その力と武器をもって諸君に挑みかかり、最前線には配下の部族からなる下劣な背教者をヒツジの生贄のごとく配置し、諸君の領地を接収すべく差し向けたのである。かくて、諸君はあやつらに対する戦いにおいて、忍耐と堅忍、辛抱、不撓の努力への助力を(アッラーに)請い求めよ。

ラフィダ(=シーア派)どもは、その敵意をむき出しにし、報復の野心をたぎらせ、タラファルを押さえ、スンナの民(訳註:スンニ派を指す)を苦痛に打ちひしがせんとの策謀を抱いて、軍馬率いる兵力をもってイスラムの居地とタラファルの地に分け入った。

 (訳註:タラファル=モスル西方の都市。スンニ派シーア派の混住地域でトルコ系住民が多い。2014年にISが制圧してからはシーア派住民をあいついで処刑、追放し、シーア派モスクや墓地も徹底して破壊。現在、イラク政府軍と連携するシーア派民兵部隊が攻略を目指して作戦を展開している) 

かくして、アッラーの敵に息をつかせる猶予を与えてはならず、敵が防衛線を要塞化するのを許してはならぬ。敵との戦いにはいっさいの慈悲を見せず、戦闘現場では容赦なく無慈悲に臨め。無知の者、慇懃無礼なる者、信仰なき者、この現世には勝利など微塵もなき者どもと見なし、戦え。

あの者ども(=シーア派)は、十字架信仰者(=キリスト教徒)に操られ、戦闘と戦争に己れの居場所を見出し、この地域を分断してマギ集団のラフィダども(=シーア派イラン)の政府にこの地と民を差し出す目論見を成し遂げんとしているのである。

かくして、2つの軍勢は向き合うこととなった。
【あの者の首を刎ね、指の一本一本を打ち切ってやれ】(戦利品章:12節) 

あの者たちの車列を破壊せよ。陣地を急襲せよ。あの者たちをその聖域において悲嘆の淵に叩き込め。災厄をみまい辛苦を味あわせてやるがいい。アッラーはすぐさまあの者どもに打ち勝つ力を諸君らにお与えになる。退却など考えることすらならぬ。

アッラーの御前にあって退却をなすというならば、それは己れの名誉からの退却であり、そこにはいかなる守護者も与えられぬ。敗北して見捨てられた者たちがアッラーに不平を唱えるごときの、信仰そのものからの退却である。高貴なるアッラーの御言葉をつねに心に刻め。

【信徒の者よ、汝ら敵軍に出遭ったら、しっかりと腰を据えて、アッラーの御名を何遍も唱えよ。さすれば、必ず幸福を得よう。そしてアッラーと使徒(ムハンマド)の言いつけをよく守れ。決して喧嘩口論などして志をぐらつかせ、ついには順風に見放されるようなことがあってはならぬぞ。どこまでも頑張りとおせ。まこと、アッラーは辛抱強き者の側につきたまう】(戦利品章:45-46節)

そして、崇高なる御方(=アッラー)のこの御言葉:

【同志として共に戦う人びとを有った預言者がその幾人あったことか。彼らは神の道での戦いのためならばどのような目に遭っても意気阻喪せず、弱気にならず、決して志を屈しなかった。アッラーは忍耐強い人びとを好みたまう】(イムラーン家章:146節)

アッラーに我らは誓う。我らがここに目にするのは崇高なるアッラーが、十字軍、背教徒、無神論者の者どもを死へと引きずり込もうとなされていること。アッラーの御意のもと、あの者どもからの攻勢をついぞ最後のものとし、我らがあの者どもの故国に襲いかかるであろう。唯一なる御主にいっさいを託した者として、唯一無二なる御方、アッラーからの信をもって我らはこの言葉を言う。おお、イスラムの民よ、ラッカの獅子たちよ!

おお、武勇と名誉と尊厳の者たちよ! 淫らで無神論の不信仰の女にムスリムの地が略奪されるかどうかがまさに直下の問題。この女の仲間どもが、それに置き換わる男を据えられず、その名において邪悪を溢れたぎらせ到来したること。

訳註:ここではラッカ攻略をめざすクルド組織・人民防衛隊YPGの女性部隊YPJに言及している)

 むしろ、これらの者は不信仰に満ちた逸脱の民、この地上における偶像崇拝の集団であり、己れの虚構と、イスラムやその民に対する戦争を支える輩徒。

かくて、御主のもと、言ってくれたまえ、諸君よ。クルドの無神論者の罪が撃退されず、あやつらの思いのままの状況が到来するというのか。アッラーが、かようなることお許しにはせぬ。

それはすなわち、淫らで神を信じず、堕落し、下劣で愚かで悲惨な不信仰の女どもがなす、諸君の信仰に敵対する戦争、シャリーアイスラム法)の不在、モスクの冒涜、男たちへの屈辱、諸君の女たちや妻たちを未亡人にさせることから救えぬ状況である。

もしこれらが到来するなら、人生のいっさいの善も、いっさいの価値も失われるだろう。いまこそ真実の時であり、諸君が誓いを果たす時であると知るのだ。おお、ジハードに立つムスリムよ、3つの課題が諸君の前にあり、それ以外を望む輩徒どもには災厄を与えよ。アッラーシャリーアに統治される大地、信仰に拠って立つ戦いとしての責務ゆえにこそなす敵の攻略、そして、長きにわたりその誠実さの先に求められてきた殉教。

しかとあるわが心、解き放たれたこの魂。
これぞ不名誉を拒否したるもの、
そして研ぎ澄まされしわが剣。
魂との別離を誰が怖れようものか。
別離なるもの今生の終わりたるものか。
魂が身体に宿っているうちに、それを高みへと昇らせよ。
シリアの地でなけば、イラクに。
臆病者に善はなく、
ただ屈辱と窮乏に満ちた人生が待つのみ。
わが熱情と惆悵を責めるあの者ども。
だが、火は燃えることをもって責められようか。

 (後編に続く)

IS・アブル・ハサン・ムハジール声明【後編】に続く>>

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写真はアブル・ハサン・ムハジール広報官の今回の声明公表の翌日に、IS支配地域、イラクキルクーク県」(おそらくハウィージャ)で住民に音声CDが配布された様子。全住民に配るわけでないので、あくまでプロパガンダ写真であるが、今回の声明を大きく位置づけようとしていることが伺える。(IS写真)

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前広報官アドナニが8月に死亡し、後継として任命されたのがアブル・ハサン・ムハジール。まだ公式には写真は公開されていない。名前は組織名であるが、IS内でムハジールは「IS地域への移住者」として使われる場合が多く、シリア、イラク人以外の外国からの戦闘員の可能性が高い。(IS写真)

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IS週刊機関誌アン・ナバア(第58号)に掲載されたムハジール声明。タイトル「いまにきっとわが言葉を思い出すときが来よう」はコーランの信者章:44節から。

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イラク・モスル西部の町、タラファル近郊にはおもにシーア派民兵部隊が迫っている。モスルからラッカに抜けるISの補給線を分断して包囲する形で激しい戦闘が展開されている。ISは、イラク軍、クルド・ペシュメルガシーア派民兵の3方面での戦線を構え、有志連合の空爆も加えられている。写真はタラファルでのIS部隊。(IS写真)

IS・アブル・ハサン・ムハジール声明【後編】に続く>>

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