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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

動画【クルド・YPJ・日本語訳】ラッカ解放めざすクルド女性組織YPJ司令官

◆クルド関連 ◆各国・各組織声明文 ◆IS以外の武装組織 ◆IS関連

◆IS「首都」ラッカに進撃するクルド部隊の意図
シリア民主軍(SDF)は、11月6日、イスラム国(IS)の拠点都市ラッカ攻略作戦の開始を宣言した。「ユーフラテスの憤怒作戦」と名づけられた作戦は、有志連合の空爆支援も得ながら、各派が共同でラッカに進撃して町を制圧し、IS壊滅を目指すとしている。シリア民主軍(SDF)を主導するのは、クルド組織・人民防衛隊(YPG)だ。

【動画1・日本語訳】クルド女性部隊YPJ司令官ロジュダ・フラット(クルド語)
YPGの女性部門・女性防衛隊(YPJ)で、解放作戦部隊のYPJ部隊作戦司令、ロジュダ・フラットがメディア部門の映像に登場し、クルド語(クルマンジ方言)で作戦の意義を語っている。クルド語はいくつも方言があり、また政治組織によって使う表現、単語が異なる。この司令官が話しているのは、クルディスタン労働者党(PKK)独特のクルド語。「リー・セル・ヴェ・エサシ(=この基盤のもとに)」という言葉が何度か出てくるが、これはオジャラン指導者がよく使う表現。彼女の年齢から推測しても、PKK最大拠点のあるイラク北部カンディルで10年ぐらいはゲリラをしていたと思われる。ISと互角に戦えるクルド勢力の強さの背景には、その志気の高さと、経験を積んだ司令戦闘員が部隊に多数配置され、指揮にあたっていることがある。(YPJ公表映像を短く編集)

ラッカはクルド人もいるが、基本的にはアラブ人の町である。YPG主導の解放作戦は、「クルド地域拡大」を狙うものではない。アラブ人主体のラッカに、クルド人が多くの犠牲を覚悟で進撃するのには、いくつかの意味や政治的思惑がある。YPGは、一義的には「抑圧された住民の解放」を掲げている。また軍事的には脅威の排除がある。ISを打倒しない限り、クルド人居住地域に安全と安定がもたらされず、砲撃や自爆攻撃にさらされる。これに加えて、政治的な意図が大きい。

【動画2・日本語訳】クルド女性部隊YPJ司令官ナスリン・エブドラ(クルド語)
YPJ司令兼報道官、ナスリン・エブドラは、「数千の女性と子供がISの抑圧下にあり、解放作戦の意味は大きい」と話す。これは住民女性全体も含むが、とりわけイラク・シンジャルで拉致されたクルド系住民ヤズディ教徒の女性、子供を示唆している。奴隷として転売された上に、IS戦闘員に妊娠させられているヤズディ女性も多数いると見られ、また子供たちは戦闘員として養成されている。絶望のなかで自ら命を断つ女性もあいついでおり、早期奪還の必要性をYPJは認識してきた。YPG・YPJはヤズディ住民の救出に全力あげ、脱出の手引きをし、トルコ経由でイラクの家族の元に送り届けるなどしている。(YPJ公表映像を短く編集)

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ナスリン司令官は昨年2月、フランスのオランド大統領とパリ・エリゼ宮で会談している。写真右の女性がナスリン司令官。トルコはYPGをPKKと一体とみなしているため、この会談に強く反発した。(フランス大統領府公表写真)

10月中旬、イラク・モスル奪還戦が始まった。この局面で、シリアにおいて、クルド主体の勢力がIS「首都」ラッカ攻略を打ち出して主要勢力となれば、国際的な認知度、支援も期待でき、政治的存在感も高まる。IS壊滅「以後」のシリア情勢でも強い立場を発揮することができる。YPGはクルディスタン労働者党(PKK)の関連組織であり、ラッカ攻略作戦の進展次第では、トルコ国内のクルド政策を左右することになる。ゆえに、ラッカへの進撃は、「クルド対IS」を越え、トルコやイラクの政治情勢、そして各国の中東政策にも影響を与えるものとなる。

YPGは2014年夏に、ラッカ制圧のための「ユーフラテスの火山作戦」を打ち出し、自由シリア軍系の組織と共闘したが、連携は限定的で、また各国の支援も期待ほどは得られなかった。逆にISはモスル制圧で獲得した多量の武器をイラクからシリアの前線にまわし、クルドの町々を攻略していった。

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YPGの女性部門YPJ。学生や農村の女性などさまざまだが、ロジャヴァ(シリア・クルド地域)防衛のために参加した。志気は高いが、その戦闘性ゆえに戦死率もすさまじい。(YPJ映像)

その後、パリやブリュッセルで襲撃事件を引き起こしたISに対する各国の姿勢も変化した。8月末にはISの有志連合軍の空爆支援を受けながら、拠点都市マンビジをSDF・YPGが制圧。米軍との連携も強化され、軍事訓練も重ねてきた。SDFはこのタイミングで、ラッカも一気に攻め落としたい考えだ。

自由シリア軍系組織には、単独でISに対抗してラッカに攻勢をかけるほどの軍事力や結束力はなく、SDF・YPGが有志連合軍、そして国際社会にとって「頼みの綱」となっている。IS壊滅のカギをクルド人が握る構図が生まれている。

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YPGは、2014年9月、IS打倒を掲げた「ユーフラテスの火山作戦」を打ち出した。ISはこれに激しく反発。YPG批判の特集映像まで作り、「共産主義無神論者クルド組織の野望」という視点でYPG・PKKを批判した。ISはクルド勢力を「アメリカの犬」と呼ぶ。他方、クルド側はISを「サウジの手先」と呼んでいる。ISは最近、これまでのYPGという表現を転換し、すべて「無神論組織PKK」と表現を統一するようになった。(IS映像)

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もし、ラッカをISから解放しても、その後は、どうなるのか。ひとつのモデルとなるのが、8月末に解放されたマンビジである。ここはアラブ人が趨勢を占め、ほかにクルド人トルクメン人などがいる都市だ。ISを追い出したSDFはマンビジで軍事評議会と政治評議会を設置、暫定統治が開始された。農村部では部族を取り込み、軍事評議会主体で地元民兵部隊を編成、治安維持と地域防衛にあたらせた。YPG主導のマンビジ軍事評議会が、ISや他組織が町を狙わないよう睨みをきかし、アラブ人や部族が好き勝手にはできなくしている。パワーバランスの逆転に不満を持つ地元アラブ人や地方部族をどう取りまとめることができるかは、「IS以後」のラッカでもポイントとなってくるだろう。写真はマンビジ軍事評議会のもとに編成された地元防衛部隊で、主力はアラブ人。

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