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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

米大統領選挙・民主党広報映像「カーン大尉」(日本語訳)

◆IS関連 ◆各国・各組織声明文

◆アメリカでのイスラムをめぐる「国民分断」を利用するIS
アメリカの大統領選挙戦が大詰めを迎えるなか、10月21日に民主党ヒラリー陣営が公開した選挙広報映像は、多くのアメリカ人の心を揺さぶった。イラクで殉職したイスラム教徒のフマユン・カーン陸軍大尉の父親が登場し、トランプ氏に「あなたの“アメリカ“に私の息子の居場所はあるでしょうか」と問いかけている。

【動画1・日本語訳】米民主党広報映像「カーン大尉」 (1分)

わずか1分の短い選挙広報映像だが、確かに心を動かされる。ただ、戦死者遺族を広報映像に登場させる選挙のありようはどうだろうか。息子を亡くした家族がトランプを問う思いはわかるが、民主党ヒラリー陣営はこれを演出したわけである。例えば、日本の選挙で、殉職した自衛官の遺族が、自民党共産党の選挙広報に登場する姿はあまり想像したくない。それほど、イスラムが今回の大統領選挙の争点となっていることを示すものでもあるといえる。映像の最後に「ヒラリー・クリントンはこの広報メッセージを承認します」とあるのは、選挙広報として決まっていて、真正の広報でニセモノではないという意味で挿入されている。

カーン大尉の父キズル氏はパキスタン出身で、ドバイで働いたのち、1980年にアメリカに移民してきた。2004年、カーン大尉(当時27歳)はイラクのバクーバ駐屯地での任務中、タクシーに偽装した自爆車両攻撃で死亡。キズル氏はイスラム教徒の米兵戦没者家族として、今年7月の民主党全国大会に招かれ、トランプのイスラム教徒への中傷を批判するスピーチをした。

【動画2・日本語訳】米民主党全国大会「カーン大尉の父親スピーチ」(7分30秒)

フィラデルフィアでの民主党全国大会で大きな反響を呼んだ故カーン大尉の父親のスピーチだが、トランプは、「横に立つカーン大尉の母親はなぜ黙ったままだったのか、何も語れないのか」とイスラムと女性を結びつける形で批判した。これには共和党有力政治家も反発し、国のために戦った戦没者の遺族を侮辱すべきではないとトランプを非難。また、ABCテレビインタビューで、「あなたは何の犠牲も払ってこなかった」とキズル氏が発言したことを問われたトランプは、「自分はたくさんの雇用を生み出し多大な犠牲を払ってきた」と答えている。

イスラムをめぐっては、今回のアメリカ大統領選挙の大きな争点のひとつとなってきた。武装組織イスラム国(IS)のシリア・イラクでの台頭や、アメリカで相次いだ銃乱射事件などを受け、トランプは事態が明らかになるまでイスラム教徒の一時入国禁止を主張している。これに対し、クリントンは、問題を起こしているのは過激ジハード主義テロリストであって、一般のイスラム教徒と混同すべきでないとする。

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第2回のテレビ討論会(10月10日)でも、カーン大尉の家族への侮辱問題が取り上げられ、トランプは「大尉は英雄だった」とする一方、「自分が大統領だったらイラクに派兵しなかっただろうから、大尉はいま生きていただろう」と答えている。そして「過激イスラム・テロ問題を曖昧にし、難民を見境なく受け入れようとしている」としてクリントンを批判した。

この問題には、ISも強く反応している。7月末に公開されたIS機関誌ダービク(第15号)では、カーン大尉の墓碑の写真が使われ、十字軍の手下となった「イスラム学者」は棄教者であるとし、イスラム教徒にアメリカでのジハードを呼びかけている。アメリカ大統領選でイスラムをめぐって国民の分断を望み、利用しているのはISである。いま、アメリカ国内での状況は、ISの術中にはまりつつあるかのようだ。どちらが大統領になろうと、アメリカは、終わりなき「テロとの戦い」を続けることになる。

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IS機関誌ダービク(第15号)にはアーリントン国立墓地のヒマユン・カーン大尉の墓碑の写真が転載され、「背教徒として死ぬことを覚悟しておけ」とキャプションが付けられている。

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