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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イラク・モスル市内でISを内部から攻撃するナクシュバンディ軍・声明文(日本語訳)

◆IS支配地域内でのナクシュバンディ軍の反乱戦闘
イラク第2の都市、モスルを支配するイスラム国(IS)への攻撃が17日、開始された。戦闘は「IS 対 イラク軍・クルド・ペシュメルガ・有志連合軍」だけではなく、モスルのなかでも衝突が起きている。モスル奪還作戦と時を同じくして、イラク・ナクシュバンディ教団軍(JRTN)が、モスル市内でISに対する戦闘行動を開始し、声明を発表した。声明では、ISのことを「過激テロ組織」としている。民兵部隊とあるのは、ISと敵対するシーア派民兵組織のこと。以下は声明文の要旨。(一部意訳)

ナクシュバンディ教団軍 声明

慈愛あまねきアッラーの御名において

【不当な目に遭わされた者が、相手に敢然と挑みかかることは許される。アッラーは、彼ら(信者)を力強く援助なされ勝たせて下さろう】(訳註:コーラン・巡礼章:39節)

アッラーの大いなる真理

ナクシュバンディ教団軍・軍事広報

モスルにおけるテロ組織ならびにテヘランのムッラー配下の民兵集団の行動に関する声明

おお、信仰者(=ムスリム)による抵抗の徒たちよ
おお、名誉あるイラクの息子(末裔)たちよ
おお、アラブ・イスラム諸国の息子(末裔)たちよ 

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ナクシュバンディ教団軍は、正式には「ナクシュバンディ教団人士の軍」。ナクシュバンディはイスラムスーフィズムの一派。旧フセイン政権のバアス党再興を志向し、バアス党残党勢力も一部合流していて、宗教とイラクナショナリズムが融合した組織的性格を持つ。信仰共同体やバアス党支持層のほかに部族など様々な潮流もあり、宗教だけが主体の武装組織というわけではない。バアス党再興勢力のなかにはナクシュバンディグループに批判的な勢力もある。

我々は、わが軍(ナクシュバンディ教団軍)に忠誠を誓いたる者、誇りあるイラク国民。我らは、宗派抗争にさらされ、土地を追われた国民のため、人口構成バランスの改変や悲惨な虐殺といったあらゆるテロリズムから、宗教と祖国を防衛せんと続けるものである。

我々は、モスル市を占領する過激主義テロリストにその鉄拳をもって勇猛果敢なる打撃を加えるだろう。わが軍指導部は、全軍・全部隊に対し、ニナワの各地域で武器をとって戦闘作戦を決行する命令を発した。高度かつ広範な陣形での急襲電撃戦をとり、テロリストの狙撃兵、自爆要員などに対処することを優先項目とし、また住民被害を避けながら、車両破壊、爆破攻撃、道路、建物、橋梁への仕掛け爆弾攻撃を加えよとする命令である。これは過激テロ組織が展開するにニナワ県全域、とりわけモスル市内において彼らを標的とするものである。

わが軍の諸部隊の一部は、2016年10月16日の日曜夜に戦闘を遂行し、月曜の朝には、モスル市内、(チグリス川の)両岸部で多数の戦闘作戦を敢行した。わが軍の戦闘員は各種の武器をもって、テロリストが布陣する地区を破壊し、一連の作戦において、テロ組織の主要司令機関の数箇所をロケット砲によって破壊する戦果を獲得した。

また、敵司令機関の排除を開始し、わが軍戦闘員は数百の戦闘作戦を遂行、テロリスト多数を死傷させ、市内の農業地区、スエズ交差道、センハリブ橋から敗退させた。

わが軍は引き続き、モスル市内において、テロ組織を疲弊させ、完全に不能状態に陥らせるために、戦闘を継続する。テロ組織を一掃し、モスルを再興し、敵の軍事力を無力化することを目指す。昨夜と今朝の戦闘において、わが軍側に1名の殉教者が出た。アッラーがその御魂(みたま)を大いなる天国にお受け入れになるだろう。

過激主義テロ組織と戦闘においてわが軍が戦列布陣を展開した際、テヘランのムッラー(=宗教指導者)に忠誠を誓う、いわゆる人民動員隊(ハシュド・アル・シャアビ)の世俗民兵組織がモスルに口実をつけて侵入した。わが方の忠実なる情報要員は各移動地点において、これら民兵テロリスト部隊の犯罪的行為を監視、把握している。

アッラーは偉大なり。勝利はアッラーのみによってもたらされる。

アジズ・アル・ハキム ナクシュバンディ教団軍・軍事司令

1438年ムハラム月16日
2016年10月17日

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2011年に公開されたナクシュバンディ教団軍の映像。旗はフセイン政権時代のイラク国旗。フセイン政権崩壊後、バアス党再興を目指し、米軍、イラク政府に対し武装攻撃を加え、またナクシュバンディに敵対したアルカイダから同胞を防衛することも組織の目的とした。のちに台頭したISとは、シーア派主導のイラク政府攻撃という点で一致を見たものの、決裂し、批判に転じている。

ISという組織は一体のように見えるが、内部は複雑で、ISは各地を制圧すると、地方部族や地元の様々な組織、勢力に協力させて統治を進めてきた。ナクシュバンディ教団軍は当初、ISと連携したものの、のちに決裂したといわれる。

クルド・ペシュメルガ部隊准将によると、ナクシュバンディ教団軍は以前からISと衝突していたが、攻撃が顕著になったのは4、5か月ほど前からという。 ペシュメルガ准将は、モスル内部の情報要員が伝えてきた話として、10月15日にISに対する戦闘が発生し、ISが使っていた家屋と車両が焼かれ、ナクシュバンディ教団軍の17人がISに逮捕されたと、アジアプレスの取材に対し明らかにしている。またモスルで高い地位にあったIS司令官のひとりで、エジプト人のダウド・アル・ムスリがナクシュバンディ教団軍と思われるグループによって殺害された、とも話した。

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ナクシュバンディ教団軍と関係のある人物としては、フセイン政権下で革命評議会副議長だったイザット・イブラヒム・ドウリが知られている。フセイン政権崩壊時に逃亡し、バアス党再興運動を地下で組織した。2015年死亡が伝えられ、本人と見られる検死写真も公表されたが、のちに健在をアピールする映像が出ており、生死は不明。バアス党再興勢力のなかにはナクシュバンディ派に批判的なグループもある。国旗も軍服もフセイン政権時代のものを使用している。

モスル市内での反乱戦闘の規模はまだ不明だが、内部での攻撃が続けば、IS戦闘員に与える影響は小さくない。サウジなどから入り込んだ外国人戦闘員は別にしても、地元のイラク人戦闘員らには心理的に動揺が出てくるだろう。

生活苦でしかたなくISに加わった青年、地元部族の動員で入隊させられた者などは、思想的に強固でなく、シーア派主導の政権には反対でも、バアス党が掲げたイラクナショナリズムには心を動かされる者もいる。内部反乱が拡大すると、離反したり、政府軍に投降する可能性も出てくる。

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2011年公表のナクシュバンディ教団軍の女性部隊。手榴弾の使い方を教えている。

シリアでクルド・人民防衛隊が進めてきた「ユーフラテスの火山作戦」も、外部からの戦闘攻勢に加え、内部の抵抗勢力を組織して反乱を引き起こし、ISを両面から崩壊させるというものである。ナクシュバンディ軍がイラク政府と連携しているかどうかは不明だ。今回の反乱戦闘が、政府軍による総攻撃に呼応したものなら、IS追放後のモスルでの地位について密約を交わした上で行動を起こしたとも考えられる。モスル奪還戦ではISに対するイラク政府軍・ペシュメルガ部隊との戦闘が大きく伝えられるが、IS支配地域内部からの抵抗戦や離反の動きも注目されるところだ。

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ISはモスル市内で反乱分子やスパイ摘発を強化し、処刑を繰り返している。先日ISが公開した映像では、GoProタイプのカメラを戦闘員が装着して、ショットガンで頭を撃ちぬく様子を映している。(モスル・IS映像)

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