イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画+写真26枚】イスラム国(IS)戦術分析(16)◆戦闘員養成3・対人格闘「ジハード戦士のカラテ道」

◆ISの対人格闘術~空手も取り入れる【動画+写真26枚】
中東では空手を始めとする格闘技の人気は高い。カンフー映画の影響も大きく、知っている日本人の名前はと聞くと、「ジャッキー・チェン!」とごちゃまぜの答えが返ってくるほどだ。イスラム国(IS)は、対人格闘訓練に空手的な要素を取り入れている。実際の戦闘現場での白兵戦の可能性は少ないにしても、武道が格闘術として取り込まれ、戦闘員の鍛練の一部を担い、また、宣伝映像を通じて若者たちを感化している。IS軍事キャンプシリーズ、今回は、ジハード戦士の対人格闘術。

【IS動画・日本語】アブ・ハムザ・ムハジール軍事キャンプ(2016年) 一部意訳
今年2月に公開されたイラクファルージャのキャンプ。IS軍事キャンプの映像では、コーランの戦利品章:60節「出来る限りの武力と繋いだ馬を準備し、アッラーの敵に恐怖を与えよ」が繰り返し引用されている。これは各地のキャンプで共通していて、戦闘員訓練の精神的支柱のひとつをなしている。映像の最後で街頭を行進しているのは、数か月にわたる訓練課程を修了した卒業パレードである。ジハード戦士となったことを住民に「お披露目」するためで、各キャンプで行なわれている。軍事レベルや戦闘員の錬度を見るよりも、こうした軍事キャンプ宣伝映像で感化される若者を世界各地で作り出している点をおさえておくべきだろう。

f:id:ronahi:20161015021650j:plain

ISの宣伝写真は残酷映像が多く重い気持ちになるのだが、これだけは笑った。「イスラム国・軍事キャンプの身体鍛練」とあり、空手が取り入れられていることをアピールしている。イラク・ニナワ県(おそらくモスル)で2015年11月公表写真。

f:id:ronahi:20161015021658j:plain

覆面からのぞくヒゲが少し赤茶けている。ロシアか東欧系の戦闘員ではないだろうか。拳がごついようなので、空手経験もそれなりにあると思われる。

f:id:ronahi:20161015021712j:plain

胸にはISのロゴ。空手道着は上衣の裾が少し長く、ひざ上まである。イスラム戦士仕様を現地であつらえたものではないか。

f:id:ronahi:20161015021730j:plain

黒帯の黄色い刺繍を拡大するとKARATEとある。指立て伏せで「カリフ国のジハード道」を究めようというのか。

f:id:ronahi:20161015021740j:plain

中東では、空手、カンフー、テコンドーなどの道場がけっこうある。やはりジャッキー・チェンの映画の影響は大きい。なかでも、派手な蹴りを多用するテコンドーの人気は高い。カンフー、テコンドーと空手を混同していて、すべて日本の武道と思われていたりする。写真は一応、空手のようだ。

f:id:ronahi:20161015021755j:plain

写真はモスルと推測されるので、背後の水辺はチグリス川ではないだろうか。メソポタミアの地で、空手がこうした組織に使われるのは複雑な気持ちである。

f:id:ronahi:20161015022007j:plain

「我々は強いぞ」と誇示するよりも、カッコよさをアピールして若者や子どもを感化させて、戦闘員への憧れを抱かせる宣伝効果もある。実際にこういうのが欧米や東南アジアの若者の心を捉え、各地での過激な事件につながっていたりする現実がある。

f:id:ronahi:20161015031359j:plain

「背後から銃を突きつけられた際の反撃」らしい。その連続写真。拳銃はグロックに見える。

f:id:ronahi:20161015031432j:plain

すばやく体をひねる。

f:id:ronahi:20161015031445j:plain

銃を持つ手を払いのける。

f:id:ronahi:20161015031457j:plain

脇に突きの一撃。お前はもう死んでいる、というより、お前らもう死んでくれ、と言いたいぐらいISのせいでたくさんの住民が命を落とし、数千人のヤズディ教徒女性が拉致され、レイプされた。空手道が泣いている。

f:id:ronahi:20161015022111j:plain

イラク・ニナワ県の軍事キャンプとして2014年に公開されたもの。モスル制圧後に公開されたキャンプ映像で、ISがもっとも高揚していた時期である。右の男が武道を教えている。足の部分の漢字のような文字は読み取れない。映像では、とび蹴りが多いので、テコンドーではないだろうか。(2014年・イラク

f:id:ronahi:20161015022131j:plain

イラクキルクークのアブ・オマル・バグダディ軍事キャンプの身体教練で正拳突き。(2015年・イラク)

f:id:ronahi:20161015022155j:plain

フラート県セイフ・アル・バハル軍事キャンプでの格闘訓練。けっこう泥だらけになっている。フラート県は、イラクとシリアの国境をISが「解体」して独自に作った県。 (2016年・イラク)

f:id:ronahi:20161015022213j:plain

これは動画に出てきたファルージャのアブ・ハムザ・ムハジール軍事キャンプ。棒を叩きつけて折る訓練は各地でやっている。こういうのは実戦で役立つかどうかより、根性を鍛えたり、宣伝効果を狙ったりする意図のほうが大きいようだ。(2016年・イラク

f:id:ronahi:20161015022228j:plain

ナイフによる格闘訓練。カラシニコフの銃剣と思われる。キャンプ名のアブ・ハムザ・ムハジールはエジプト人で別名アブ・アユーブ・マスリ。アルカイダを経て、イラクに入り、ザルカウィ率いるイラク聖戦アルカイダで活動。ザルカウィの死後、組織を引き継ぎ、イラクイスラム国(ISI)で指導的役割を果たした。2010年、米軍とイラク軍の合同作戦での死亡が伝えられた。(2016年・イラク

f:id:ronahi:20161015022245j:plain

ファルージャは今年6月、イラク軍によって奪還された。この映像の場所のキャンプはもうないだろうが、ファルージャ近郊に残存した勢力が別の場所で訓練を再開する場合は、アブ・ハムザ・ムハジール・キャンプの名が引き継がれたりする。左の旗が、訓練隊の隊旗。(2016年・イラク

f:id:ronahi:20161015022302j:plain

格闘訓練と言っても、近代戦において実際に近接格闘が戦闘現場で起こる確率はそれほど高くない。だが戦闘員の心身鍛練と、宣伝効果の面では大いに有効であるようだ。写真はキルクーク。(2015年・イラク

f:id:ronahi:20161015022315j:plain

これもキルクーク。アブ・オマル・バグダディ軍事キャンプ。いまのアブ・バクル・バグダディの前のイラクイスラム国(ISI)指導者がアブ・オマル・バグダディで2010年死亡。その名前をとって、名づけられた。ISの旗の右横にあるのが隊旗。(2015年・イラク

f:id:ronahi:20161015022331j:plain

シリア西部ハマのキャンプ。火の輪をくぐるのは、ISだけでなく、武装各派が共通しておこなっている。(2015年・シリア)

f:id:ronahi:20161015022343j:plain

同じくシリア・ハマ。シリア政府軍は基本的に兵役制で、イラク軍は志願制。ISは一応、志願制だが、息子を戦闘員にしろと家族に迫ったり、地元部族に人員供出を求める場合もあるといわれる。悲しいのは、戦乱で困窮状態になった家族を養うためにひと月50ドル前後の給料で戦闘員になることを強いられ、前線に送られる青年が少なくないことだ。(2015年・シリア)

f:id:ronahi:20161015022356j:plain

シリア・イラクの農村部の青年には、小学校しか行ったことがない者がいる。体育で集団行動を学ぶ機会がなかった戦闘員が多数いるなかで、規律と統制ある行動を短期間で教えるのも軍事キャンプの任務。さらにいつでも死ねる覚悟を持たすために、教義を都合よく解釈して、「宗教的大義」を持たせる。銃器の扱いに加え、身体教練とシャリーアイスラム法)、教義学習がセットになってISの戦闘員訓練プログラムに組み込まれているのはこうした背景もある。(2015年・シリア)

f:id:ronahi:20161015022418j:plain

教官の正拳突きで、ジハード精神は注入されるのか。(2015年・シリア)

f:id:ronahi:20161015022431j:plain

ナイフによる格闘訓練。ナイフ格闘術は知られているが、ISが銃に着剣しての銃剣訓練はこれまでのところ確認されていない。(2015年・シリア)

f:id:ronahi:20161015022446j:plain

教官が拳銃をかわして、ねじ伏せる。シリア・ハマでの訓練風景。(2015年・シリア)

f:id:ronahi:20161015022526j:plain

同じくシリア・ハマ。こういうのは実戦で有効というより、演武的なものだろうが、あなどれない面もある。例えば、パリやブリュッセルで市民襲撃事件を起こした戦闘員らは、こうした軍事キャンプで訓練を受けてヨーロッパに送り込まれている。(2015年・シリア)

<< 前へ  IS戦術分析(15)◆戦闘員養成2(軍事キャンプ日課表)<<

次へ>> IS戦術分析(17)◆戦闘員養成4・各地に広がる軍事キャンプ(アフガニスタン編)

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
新着記事はツイッターで案内しています>>