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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画・日本語訳】イスラム国(IS)統治下のシリア・マンビジで何が起きていたか(3)写真32枚

◆カリフ国宣言から2年~行政機構構築し「国家」を宣伝
武装組織イスラム国(IS)が「国家」を宣言したのは2014年6月。それからちょうど2周年にあたる今年6月末、アレッポ県広報局は、県下での行政機関の活動をまとめた宣伝映像を公開した。撮影場所のほとんどがマンビジとその近郊地帯だ。この映像公開から2か月後には、マンビジはクルド・人民防衛隊(YPG)主導のシリア民主軍(SDF)に攻略され、陥落する。(第1回第2回第3回第4回

【動画】「カリフ国宣言から2年」(2016) 一部意訳・転載禁止
一部にラッカやアル・バブなど他の町の映像が挿入されているが、ほとんどはマンビジでのISの活動を紹介した内容で、シャリーアイスラム法)統治のもと「理想国家」がいかに正しく運営されているかを強調している。映像は、ザカート(喜捨)、司法、メディア、宗教警察、教育、行政の項目に分けて、それぞれが連携する構成に仕立ててある。第1回で紹介した2014年の映像と比べると、カメラワークや編集技術、構成力が格段に向上しているのがわかる。

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2013年に公開された映像で、当時は「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)。場所はマンビジではないが、同じアレッポ県下の地方部での初期の食料配布を伝えている。この頃は支援物資配布とされている。ザカート制度を確立させる以前から住民への食料を配布していた。こうした支援はクルド組織も同様に行なっているのだが、ISIS台頭時は、野蛮な殺戮集団というイメージがすでに広がっていたこともあり、「ムスリム住民に奉仕するジハード戦士」を宣伝映像に盛り込んでいた。家々を回って袋を配っている。袋に詰められているのは「コメ5キロ・砂糖4キロ・サラダ油4キロ・乾燥パスタ4キロ」とある。どのぐらいの頻度で物資が配られたかは不明。(2013年)

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2015年1月公表の写真では、ザカートとして配布リストで管理されている。これはアレッポ県の国内避難民キャンプでの食料配布。左写真の箱にはWFP(世界食糧計画)や赤新月社の文字が見えるが、その上に、IS旗の紙が貼り付けてあるようだ。箱を流用しただけか、自分たちの成果にしている、と見るか、それでも住民には一応物資を配っている、と見るか。 (アレッポ県ダル・アル・ファタハ近郊・2015年)

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ISはマンビジを制圧すると、行政機構の再編にも着手した。職員のベストには、「農営局」とある。公務員すべてが戦闘員というわけではなく、もとから地元公務員だった者もいる。(マンビジ・2015年)

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マンビジ近郊のファルーク・ダム。ISは、治水灌漑網を農村地帯に整備し、収穫が豊かになった、と宣伝する。治水・電力設備は、ISが予算を投じて新たに建設したというわけではないのだが、補修も含めてその計画的行政運営を説明している。(マンビジ近郊・2014年)

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戦乱で食料や物資が流通しにくくなり、物価も高騰するなか、農業生産を安定させ、住民に食料を安定供給しているとISは強調。収穫量増大が、ひいては生活困窮世帯へのザカート扶助へとつながったと説明する。(マンビジ・2016年)

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マンビジのパン工場。シリアはだいたいこの薄いナン。オーブンから出てくるとふくらんでいるが、のちにぺったんこになる。「敵の空爆攻撃にもかかわらず、住民への食料供給を維持している」と説明。(マンビジ・2015年)

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IS機関が発行したザカートに関するパンフレット。表のように詳細にザカート供出基準が定められている。ザカートはイスラム教の五行のひとつで、IS独自の制度というわけではない。一般にザカートは制度としての喜捨と、自由意志による寄付的な意味も含む喜捨(サダカ)がある。制度ザカートは、現金の場合、1年以上所有する財産、あるいは年収などから算出し、その2.5%を供出するとされる。現金以外にも農作物や家畜を出す場合があるが、牛、ヒツジ、ラクダなど種類によって頭数の下限・上限が異なる。(IS・ヒンマ文庫パンフ)

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これは制度ザカートを支払う住民。名前を登録して、1年分を払ったことを証明する。都市によっては、支払い済み証明カードが発行される。ISの解釈では、ザカート供出を拒否することは、コーランムハンマドに背くことを意味するので、それ自体が不信心とみなされる。係官の肩には弾帯ホルスターが見えるので、戦闘員系の職員ではないだろうか。(マンビジ・2015年)

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マンビジのザカート事務所の様子を伝える写真。ザカートはイスラム社会における相互扶助・貧者救済のセーフティネットとして機能してきた面がある。ISが公開したザカートの宣伝映像は多い。「国家」を名乗っているので、ムスリム住民の生活保障は、イスラムの教えに則って行なっていることを強調する意図があるとみられる。(マンビジ・2016年)

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ザカート対象住民名簿や給付記録がコンピュータ管理になっていることを伝えている。(マンビジ・2016年)

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これは現金でのザカート配布。どのぐらいの間隔で配布されるかは説明されていない。現金だけの場合や、食料だけ、あるいは現金と食料を複合したザカートがあるようだ。(マンビジ・2015年)

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受け取りを管理するリスト。受け取った者は拇印を押している。これらのザカート扶助活動は「ISが世界に見せたい写真」であることは留意しておきたい。実際に社会福祉制度が機能しているかをプロパガンダだけで信じるべきではない。(マンビジ・2015年)

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窓口で現金を手渡す例。顔はぼかしてプライバシーには一応配慮しているのがわかる。毎月のように定期的なものかは不明。食料を配る場合もある。イラクの場合は、フセイン政権時代から国民に等しくコメやサラダ油などの食料を配給する制度があり、その後も続いてきた。イラクではそれをISが引き継いだわけで、「成果」というものでもない。一方、シリアでの困窮家庭には、たとえシンボリックな配給制度だったとしても、戦乱で収入を絶たれている世帯も多く、高齢者や未亡人世帯にとっては一定の生活の助けになった面がある。(マンビジ・2015年)

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ISは支配地域のそれぞれの県に知事を任命して、県行政を統括する。左はISが据えた「アレッポ県知事」が出した文書で、マンビジに旗を600本設置せよ、という指示。他には、下水設備補修や、マンビジ・ジャラブロス間の道路整備など作業命令が記されている。ネットで出回ったものだが本物と思われる。右は、マンビジの巨大な旗。

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マンビジのイスラム裁判所の前の大通りで旗を設置する作業員。(マンビジ・2015年)

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公共工事も行政が管理。雇用創出と道路整備を示し、住民に奉仕していることを伝えている。(マンビジ・2015年)

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戦乱のなかで住民が望むのは、とにかく安全と、明日の食料と仕事の確保である。厳格な戒律による社会統制や、いつスパイとして処刑されるかもしれない恐怖や空爆があるものの、ISが敗走しても次の支配者もどんな集団かわからない。結局、力ない住民は、その統治者に従うしかない。(マンビジ・2016年)

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市内バスの運行を説明する写真。実際に定期運行されているのかは写真だけでは読み取れない。(マンビジ・2016年)

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マンビジでは有料かどうかは不明だが、他の都市では公共バス交通機関の無料運行を伝えている例がある。(マンビジ・2016年)

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マンビジ近郊での農業を伝える写真。ISはこうした日常風景の写真も多数公開している。他組織が住民生活をあまり伝えないなか、ISは「国家」としてその姿を積極的に宣伝してきた。(マンビジ・2016年)

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チーズづくり。(マンビジ・2016年)

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養鶏場のひよこ。(マンビジ・2015年)

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鶏肉として食肉加工されたり、鶏卵設備なども別にある。ISは宣伝映像では、こうした食肉加工もシャリーアの規定に則って処理されていると説明する。(マンビジ・2015年)

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養蜂農家の蜂蜜生産。このほか、マンビジを含むアレッポ一帯はオリーブから抽出されるオリーブ油も産品。オリーブが原料のアレッポ石鹸で知られる地域だが、戦乱で経済は大きなダメージを受けた。(マンビジ・2015年)

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これはIS支配地域の各地に看板として掲げられている写真。「人工の法律を踏みつけよ」とあり、足の下には憲法・刑法と書かれた本。ISは、「近代法は人間が作った人工の法律」と呼び、これに対してシャリーアイスラム法)は「アッラーから与えられた絶対的な法律」と捉えている。このためISにとっては、近代法シャリーアを比べるという問題の立て方自体が成立しない。近代法の検察官・弁護士といった司法制度の概念も異なっている。裁判官はイスラム法規に従って裁定を下す。またシャリーアに異議を唱えることは、アッラーが定めた法規に背くことになる。ISが裁判の現場でどういう司法体系をとっているかは不明な部分が多いが、厳格といわれるサウジアラビアシャリーアよりもさらに極端な解釈で運用しているのではないだろうか。

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マンビジ近郊のダル・アル・ファタハでの窃盗罪に対するハッド刑の執行の写真。公開の場で、ナタで手首を切り落とす。ハッド刑はコーランなどに規定された、身体罰を含む刑。 (マンビジ近郊・2015年)

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中央にあるのが切り落とされた右手。こちらでボカシを入れたが、元の写真はそのまま写っている。左のボトルは消毒液。(マンビジ近郊・2015年)

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マンビジでの同性愛者の処刑。同性愛は「罪」とされ、高い建物から突き落としたり、石投げによって殺す。この時は、石投げによる処刑。足元にたくさんの石が用意されていて、戦闘員が手に石をとっている。観衆のなかには子供の姿も見える。(マンビジ・2015年)

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赤いターバンで目隠しされて連れ出されるのが「同性愛者」とされた男性。ISの解釈したシャリーアによって処刑される。同性愛者処刑については過去記事の解説参照>>(マンビジ・2015年)

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昨年7月に公開された写真。パルミラ遺跡から盗まれた彫像の一部。アレッポ県内に持ち込まれたものを押収し、マンビジ裁判所が窃盗犯の処罰と彫像の破壊を命じた。(アレッポ県・2015年)

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彫像は盗掘者が国外などに売ろうとしていたものと思われる。ISはこうした彫像は偶像崇拝として破壊の対象としている。(アレッポ県・2015年)

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彫像をハンマーで叩き壊す戦闘員。シリアの遺跡当局者はメディアに対し、パルミラ墓所から盗まれた彫像8点と見られるとしている。ISによってたくさんの歴史文化遺産も失われている。(アレッポ県・2015年)

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