イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画・日本語訳】イスラム国(IS)統治下のシリア・マンビジで何が起きていたか(1)写真29枚

◆ISがマンビジ統治した約2年半と市民生活
シリア北部アレッポ県マンビジ(またはマンベジ)。武装組織イスラム国が支配を続けたが、クルド組織・人民防衛隊(YPG)主導のシリア民主軍(SDF)の攻勢を受け、先月末、陥落した。ISがマンビジ支配を始めたのは2014年初頭。およそ2年半にわたる「統治」を、おもにISが公開した動画・写真で振り返る。ISはどのような統治を行ない、何を目指そうとしていたのか。プロパガンダ映像であることに留意しつつも、極端な宗教解釈に基づく統治の実態、空爆と各派との戦闘のはざまに置かれた住民たちの生活などに目を向けてみたい。IS写真については、すべてマンビジとして公表されたものを集めた。今回は第1回。(第1回第2回第3回第4回

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【IS動画】「カリフ国に抱かれた暮らし」(一部意訳・転載禁止)
2014年に公開されたISの宣伝映像。アレッポ県マンビジの市民生活を紹介し、バグダディを指導者とする「カリフ国」の統治のもとで、市民生活がいかに幸せかをアピールしたものとなっている。当時、ISが急速に台頭する中、戦闘員が略奪して回っている、といった噂が一部に広まっていたこともあり、ISは、治安が保たれ住民は安全だ、と映像で強調したと見られる。住民はIS支配を受け入れるほかにすべもなく、また空爆にもさらされた。またいつ自分がスパイとして処刑されるかもしれず、戦争や恐怖と隣り合わせの「安全」でもあった。

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【2013年・ISの統治以前】 写真は、2013年にメディア活動家がマンビジで撮影したと見られるもの。この頃はまだ各派の旗が混在している。マンビジは2012年7月頃に反体制派がアサド政権機関を追い出し掌握したといわれる。2014年初頭には、IS(当時ISIS)が他派を駆逐し、支配を固めた。

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地図は2014年2月頃の各派の勢力分布。写真右は、IS(この当時はイラク・シリアのイスラム国・ISIS)が2014年初頭にマンビジを制圧した際、電波塔にISの黒い旗を立てる様子。

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2014年初頭にスンニ派反体制勢力を駆逐し、マンビジ一帯を制圧。写真は当時公開されたIS映像。このあとISはマンビジ周辺でスンニ派反体制勢力を撃破し、勢力を広げていった。(マンビジ・2014年)

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マンビジを制圧した際の映像。戦闘員が互いに抱き合い、勝利を祝っている。(マンビジ・2014年)

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アレッポ県でISが掌握した大きな町がマンビジとアル・バブ。内戦前のマンビジの人口は10万人前後とされる。アラブ人、クルド人トルクメンなどが暮らしてきた。(マンビジ・2014年)

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ISが2014年初頭にマンビジを制圧した際の映像。赤い丸は、戦闘員の背後に映っていた女性。左の女性はコート姿にタイトなスボンだ。のちにこういう格好は、宗教警察ヒスバの取締りの対象となっていく。(マンビジ・2014年)

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動画にも出てきたマンビジの「イスラム裁判所」。黒く塗られた建物が異様だ。IS支配とともに、シャリーアイスラム法)による統治が始まった。(マンビジ・2014年)

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マンビジで2014年にISが開設したシャリーアのための女性機関。「ヒジャブは礼拝と同じ義務」とし、女性に対し全身をすっぽり覆う黒いヒジャブ着用を布告。イスラム圏では頭部を覆うのはヒジャブ、全身はアバヤ、顔はニカブなど呼称も地域によって異なるが、ISは全身を覆う着衣をヒジャブと呼んでいるようだ。ISがマンビジ統治を始めて、しばらく生活した後に脱出した住民に取材したところ、女性がヒジャブを着ければ出歩くことはできたが、外出そのものが減り、市場での食材の買い物も家族の男性に頼むことが多くなった、と話した。これはIS統治下の町で共通している。(マンビジ・2014年)

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マンビジの警察署。当時はまだISISで、イスラム警察とある。2014年6月には「イスラム国」を宣言し、宗教警察ヒスバなどの機構が支配地域で整備されていく。(マンビジ・2014年)

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近郊には農村地帯が広がることもあり、野菜や果物は流通していたようだ。だがガソリンなどは欠乏しているため、輸送コストがかかり、一般住民にとって生活は楽ではない。内戦が続く限り、ISが町から出て行ったとしても安定した暮らしがやってくるというわけではない。(マンビジ・2015年)

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IS支配地域では、市場で買い物をするのも男性が多くなった。(マンビジ・2015年)

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ヒツジのひき肉をのせたパン。(マンビジ・2015年)

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薄いナンに、ひき肉やチーズをのせたもの。シャワルマやラハマジュンは一種のファストフード。美味しそうである。(マンビジ・2015年)

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マンビジのスナック菓子の工場。「ポテト」とあるので、原料はジャガイモと思われる。(マンビジ・2015年)

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機械から出てくるスナック菓子。(マンビジ・2015年)

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工場でパッケージに詰められるスナック菓子。 「メイド・イン・シリア」か、「メイド・イン・イスラム国」か、パッケージにどう表記されているかが気になる。(マンビジ・2015年)

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チョコ・キャンディー工場。ISは「国家」を知らしめるために支配地域のあらゆる風景を写真報告するところが、他の武装各派と異なる点でもある。(マンビジ・2015年)

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製造工程を経て、できあがったチョコ・キャンディー。(マンビジ・2015年)

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きちんとパッケージ詰めされているようだ。IS地域のほかのシリア各地に流通しているかは不明。(マンビジ・2015年)

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これは量り売りのお菓子屋さん。(マンビジ・2015年)

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ナッツとピスタチオを混ぜたもののように見える。(マンビジ・2015年)

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左端は、とんがりコーンのようなスナック菓子。右手前はカラムーチョのような形状。(マンビジ・2015年)

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右端はマーブルチョコのようなお菓子。(マンビジ・2015年)

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バクラワやカダエフといった甘いお菓子。日本で言うところのおまんじゅうやようかんのような感じで、おやつで食べるほかには、来客時にふるまったりする。(マンビジ・2015年)

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トーブを売る商店。シリア式ストーブ(ソビハ)の典型で、灯油タンクがストーブの上についている。(マンビジ・2015年)

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マンビジは、ユーフラテス川が近いこともあり、魚も流通する。油でフライにするなどして食べる。(マンビジ・2016年)

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商店にとっては、IS戦闘員も大切な「お客さん」である。とくに外国人戦闘員は、地元戦闘員より給料も高い。この店では迷彩帽や、覆面用マスクを販売しているようだ。(マンビジ・2016年)

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「マンビジの市場の活動」として紹介された写真。この地域で流通する紙幣は基本的にシリアポンド。ISが「国家」を主張するために大々的に宣伝した、「イスラム国通貨・ディナール」は実際にはほとんど見られないようだ。(マンビジ・2016年)

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ISは安全のなかの市民生活を映像で強調してきた。確かに強権支配によって、戦乱地域にありながら強盗などの犯罪には一定の歯止めがかかったかもしれないが、同時に、空爆にもさらされ、戦争と隣り合わせの生活でもあった。ISが独自に抱いた「理想国家」のイメージのもとに、男性はヒゲを伸ばし、女性はヒジャブ着用を強いられ、衛星放送の視聴も禁じられた。イスラムに反するとみなされると、公開処刑を含む厳しい刑罰が課された。(マンビジ・2016年)

次回、IS統治下のマンビジ(2)に続く>>

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