イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【ヌスラ戦線動画・日本語訳】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(19) ヌスラ戦線(2)「ナシード(宗教歌)は武器」

◆組織で歌詞も変わる~指導者称え士気を高揚
新組織に移行したヌスラ戦線。ヌスラ戦線のテーマソングのように、よく知られてきたのがこの「ヌスラに挨拶を」だ。歌っているのは、アブ・ハジャール・ハドラミというイエメン人で、「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)のジハード戦士ながらナシードの歌い手(ムンシッド)として数多くの歌を残している。 イラクに渡ったのち、シリアに潜入し、2007年に逮捕される。イエメン当局に引き渡され投獄されるも、2011年に脱獄。昨年7月、米軍のドロ-ンによる空爆で死亡したと報じられた。

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【動画・日本語訳】「ヌスラに挨拶を」(一部意訳・転載禁止)
歌詞は韻を踏んでいる言葉を並べて憶えやすい作りになっているようだ。いわゆるISの処刑歌のようなのは「仲間どうしみんなで合唱できる歌」ではないので、こういう節回しの歌のほうが戦闘員が士気を高めるときに歌われると思われる。戦争につきものの歌。そこからは各派の主張や思考が読み取れる。(音源しかなかったのでヌスラ映像をつないでいます)

このナシードにはアブ・ハジャールが歌う同じメロディーで、別の歌詞「国家に挨拶を」(サラミ・アラ・アル・ダウラ)がある。国家(ダウラ)はイスラム国(IS)のことで、ヌスラではなく、ISやバグダディを称えるものになっている。ヌスラ版とどちらが先に出たのか定かはないが、ISはメディア戦略に長けているので、IS版のほうが知られているようだ。このほかにもタリバンや別のイスラム武装組織も同じメロディーをもとに独自に歌詞を変えたものが作られている。

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ナシード歌手、アブ・ハジャール・ハドラミ(本名ガリブ・アハメド・バアガイティ)は1986年イエメン・ハドラマウト生まれ。アルカイダ系メディアのインタビューで、ナシードの役割について、「ジハード主義のナシードは、アッラーの敵をなぎ倒す武器であり、イスラムと信仰を防衛する方途のひとつ」と語っている。アルカイダのほか、ヌスラ戦線やイスラム国(IS)のシンパ以外のジハード主義者からも広く知られる存在だった。ヌスラ戦線の「お抱え歌手」というわけではない。昨年、イエメンでアルカイダメンバーらとともに乗っていた車両が米軍のドロ-ン攻撃を受け死亡と報じられた。

ヌスラ戦線はIS同様、シャリーアイスラム法)統治は志向するものの、バグダディのような具体的な特定の個人をカリフとして担いだりはしてこなかった。ヌスラ戦線の闘争は、実質的にはシリアにおけるアサド政権打倒の戦いであり、ゆえに、政権が打倒されたり、支配地を確立できたなら、条件次第で各派との共同統治や交渉の余地がありうる。ここがISと異なる点で、新組織シャム・ファタハ戦線に移行しても引き継がれるだろう。

もともと当時のイラクイスラム国(ISI)で戦闘経験を積んだメンバーが多数いたヌスラ戦線のジョラニ司令官が、のちに「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)から分岐し、敵対関係となり、アルカイダザワヒリ師に忠誠を表明した真相はよくわかっていない。バグダディとの不和、決裂があったといわれるが、シリアの武装組織から聞かれるのは、「バグダディはいったい何者で、何を根拠にカリフを名乗っているのか」というものなので、そうしたことが影響したのかもしれない。

個人を称えることはどこの組織もやっている。これまで公式にはほとんど姿を現さなかったジョラニ司令官だが、彼を称賛する歌はいくつかある。ISがバグダディを、そしてクルド・人民防衛隊がオジャランを称えるように、戦闘組織には団結心を高めるカリスマ的指導者はつきものだ。そして、いつの時代も、戦争に歌が使われてきた。

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