読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【ヌスラ戦線動画・日本語訳】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(18) ヌスラ戦線(1)ISとの違いは何か

◆歌から読み解く戦争 ◆IS以外の武装組織 ◆IS関連

ヌスラ戦線とIS、その違いを左翼運動に置き換えてみる

例えば、中核派革マル派と何が違うか、と聞かれて答えることのできる人がどれほどいるだろうか。当人たちは互いに殲滅を誓い、殺し合いまでしてきたのだから、「違い」どころじゃないだろうが、周囲からすれば同じにしか見えない。同様に、ヌスラ戦線とイスラム国(IS)の理論や目指すものの違いを、普通のシリア人が説明できるものでもない。

【動画・日本語訳】「勝利は永続的に」(一部意訳・転載禁止)
映像は、ヌスラ戦線によるシリア内務省への自爆攻撃の戦果を紹介するビデオから。このクリップに映るのは、ダマスカス地域軍事キャンプとされる。数年前の映像なので現在のIS映像に比べて見劣りするものの、その後、ヌスラ戦線も宣伝映像に力を入れるようになった。

シリア内戦初期は、ヌスラ戦線は「イラクイスラム国(ISI)」のシリア支部という扱いだった。ところがのちに分岐し、衝突する。

ISIはのちにISとなるが、その目的とするところは、バグダディ師をカリフとするイスラム国家建設で、その統治原則をシャリーアイスラム法)に置く。そしてそれを世界に広げることを目指す。ヌスラ戦線もシャリーアをもとにしたイスラム社会の再興やカリフ制については共通しても、バグダディのような特定個人を担ぎだしてカリフに据えた統治を志向しているわけではない。ヌスラ戦線は主目的をシリアにおけるセウラ(革命)とし、現下の具体的な方針をアサド政権の打倒としてきた。また、国際組織アルカイダと連携してきたとは言え、ISのように国外で市民を狙った無差別攻撃を積極的に呼びかけてはいない。

f:id:ronahi:20160804203855j:plainシリア内戦初期にヌスラ戦線が急速に台頭したのは、ISIに参加し軍事戦術やゲリラ戦法を学んだシリア人らが地元に戻って、高度な作戦を展開できたのも理由のひとつだ。写真はヌスラ戦線の軍事キャンプ。

少し無理やりに左翼運動に置き換えるなら、ヌスラは一国革命主義であり、ISがシリア・イラクを拠点にアフガン、エジプト、西アフリカ、フィリピンに支部を作り、各国からの戦闘員を受け入れてジハード戦士として鍛えて送り出すところは、国際根拠地から、武装闘争を輸出して全世界同時革命戦争を志向した赤軍派のようなものだろうか。ISがヌスラ戦線を「脱落一派」と批判するあたりは、成田空港反対闘争における北原派と熱田派の構図にさえ見えてくる。

ISが台頭し、支配地域に多数の外国人戦闘員が流入し、シリア・イラクの支配地域で「カリフ国」を宣言し、そこで訓練を受けたジハード戦士がヨーロッパに散って武装攻撃を敢行する。そうした状況を世界は目の当たりにしている。

f:id:ronahi:20160804205051j:plainややこしいのだが、これはヌスラ戦線の映像。左は「シャム(シリア)のアルカイダ-ヌスラ戦線」とあり、ヌスラ戦線の旗。右はいまでこそISの旗というイメージが定着したが、もともとは別のイスラム過激組織も使っていた。右の旗の下にも「アルカイダ」という文字がある。シリア内戦の初期は、ヌスラ戦線もこうしたミックスしたアイデンティティだった。のちに旗は意識的に使い分けるようになったようだが、シンボル自体は否定していないので、このロゴを使ったからISだ、というものでもない。

アルゼンチン人ながらキューバ革命の英雄となったゲバラは、ボリビアで革命闘争を継続しようとし、その途上で倒れた。そして死後もゲバラに魅かれる人は多い。アフガンのアルカイダ軍事キャンプで訓練を受け、のちにイラク聖戦アルカイダを率いたヨルダン人、ザルカウィは、反米闘争を戦う中で米軍に殺された。イラク人にとっては、外国人過激派がイラクを無茶苦茶にしたという思いは根強いものの、ゲバラと対比して考えるなら、「イスラムという”世界革命戦争”に散った戦士」のような扱いで、過激ジハード主義者がいまでも彼を称えている思考回路の一端も見えてくるのではないか。

共産主義運動が衰退したなかで、ゲバラの革命ロマンが今でも一定の人びとの心を捉え続けるように、いつかISやヌスラが壊滅したとしても、ジハード主義運動は過激主義を志向する者たちを惹きつけることだろう。そして、いつかまた内戦や紛争のようなタイミングが来れば息を吹き返すかもしれない。

f:id:ronahi:20160804205616j:plain自爆攻撃に向かうヌスラ戦線の戦闘員。司令官アブ・ムハンマド・アル・ジョウラニに忠誠の言葉を残し出撃した。帽子には「ヌスラ戦線」の文字が縫いこまれている。ISと同様、ヌスラ戦線も自爆戦術を得意としている。

f:id:ronahi:20160804203547j:plainヌスラ戦線も、自分たちで独自解釈したシャリーアイスラム法)を統治原則とする共同体(ウンマ)建設を掲げている。一定の住民福祉もおこなっているが、同時に厳格なシャリーア統治を支配地域で進めている。写真はシリア・イドリブのヌスラ地域での、姦通罪とされた女性の公開銃殺。処刑前、子どもにひと目だけでも会わせて欲しいと女性が懇願するが、聞き入れられず、頭を撃ち抜かれている。映像は公式で公開されたものではなく、携帯で撮影したものがネットに流れたと思われる。背後の赤い文字が「ヌスラ戦線」。

<< 前へ  【IS】歌から読み解く(17)トルコ語「ジハードの道」<<

>> 次へ【ヌスラ戦線】歌から読み解く(19) 「ナシード(宗教歌)は武器」>>

◆IS・イラク・シリア・クルド情勢の
新着記事はツイッターで案内しています>>

広告を非表示にする