イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【ヌスラ戦線・声明動画・日本語訳】新組織・シャム・ファタハ戦線(シリア征服戦線)への移行を宣言

アルカイダとの関係を解消し、新組織へ
7月28日、シリアのイスラム武装組織、ヌスラ戦線が、これまで関係を保ってきたアルカイダとの関係を解消するとの声明を出した。これにともない、これまでのヌスラ戦線の活動は停止し、新たな組織としてシャム・ファタハ戦線(シリア征服戦線)に改編すると宣言。その動画による声明は以下。中央にいるのが、これまでヌスラ戦線を率いてきたアブ・ムハンマド・アル・ジョラニ司令官。

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【動画・日本語訳】新組織「シリア征服戦線」結成宣言(一部意訳)
字幕は英語から翻訳。声明内でシャム(レバント・大シリア)とある部分は、組織活動の場としては実質的にシリアを指しているので、シリアにしています。会見にあわせて新ロゴの巨大な背景ボードを作る念の入れよう。左の白い服の男は、アルカイダザワヒリを支えてきたエジプト人、アハマド・サラマ・マブルクではないかとされている。シリアの地でともに戦ってきたのではあるだろうが、「外部集団とは連携しない」とする宣言としてはどうなのか。

ヌスラ戦線の新組織への移行宣言については、すでにいくつかのシリア・イスラム武装組織各派からこれを歓迎する趣旨の声明も出されているので、事前の「根回し」はあったとも見られる。武装組織「イラクイスラム国」(ISI)は、ヌスラ戦線をシリアの支部と位置づけて「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)として併合する意図だったが、その後、分岐し、敵対と衝突を経て今日に至っている。ISは、ヌスラ戦線を「脱落ジョラニ一派」「棄教戦線」と侮蔑的に呼んでいて、今回の新組織も批判材料にするだろう。

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左がこれまでのヌスラ戦線の旗。上の文字は、シャハダ(信仰告白)である「アッラーのほかに神はなし、ムハンマドアッラーの使徒なり」。今回公表された新組織・シャム・ファタハ戦線(シリア征服戦線)のロゴ(右)では、組織名がメインで、シャハダはてっぺんの丸い部分に小さく配置されている。 

注目を集めた、ヌスラ戦線のアルカイダとの関係解消と新組織結成宣言をどう見るか。その背景はわからないが、アメリカ・ロシアの空爆に耐えられず追い込まれたというより、何らかの取引をしたのではないかとも感じている。例えばアメリカはクルディスタン労働者党(PKK)を「テロ組織指定」しているが、その関連組織、シリア・クルド人民防衛隊(YPG)は、IS壊滅戦の頼みの綱として、米軍の特殊部隊や武器まで送って支援している。ヌスラ戦線の扱いも、「IS以後」を見据えて、シリアの新たな統治体のなかで一定の地位とエリアを確保させる代わりに、アルカイダとは対外的には一応、縁を切れ、というようなやりとりもあったのではないか。

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新組織・シャム・ファタハ戦線(シリア征服戦線)結成宣言にあたって出された告知写真。ニコッとしているジョラニ司令官の写真を使ったのは何かのメッセージか、穏健路線転換への布石か・・・。

こればかりは、読みが正しい、誤っているというのはどんな学者やウォッチャーにも通用しない。当事者の武装各派でさえ、この2~3年先に、シリア情勢がどう動くかなどわからないなかで戦っている。

将来、内戦の「落としどころ」に至ったときに、どれだけ有利な状況か、どれだけ地域を確保しているかによって自分の組織の政治的地位も取り分も変わってくる。それぞれの組織が「大義」を掲げ、大国の政治的思惑と駆け引きのなかで、たくさんの血が流れてきた。

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