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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画・日本語訳】イスラム国(IS) なぜトルコを狙うのか~世俗主義・民族主義を批判

◆IS関連

イスラム政党率いるエルドアン政権も「敵」と規定するIS
6月28日に起きたトルコ・イスタンブール・アタチュルク空港襲撃は、武装組織イスラム国(IS)の関与が報じられている。ISはトルコをどう位置づけ、なぜ狙うのか。ISの宣伝映像ではトルコ出身の戦闘員が何度も登場し、世俗主義を国是としてきたトルコを批判してきた。そのひとつがこれである。

【IS動画・日本語訳】「トルコ・民族主義の火の手」(8分16秒・一部意訳)
映像では、トルコ出身の戦闘員がオスマン帝国解体以後、近代トルコ成立において国是となった世俗主義民族主義を批判。昨年公開された映像で、この頃はまだIS支配地域への移住を積極的に呼びかけていた。トルコ人だけでなく、クルド語(クルマンジ方言)を話す戦闘員も登場する。ISはクルド人を敵視していると思いがちであるが、ISが敵視しているのはクルディスタン労働者党(PKK)とその関連組織、人民防衛隊(YPG)である。ISにとっては指導者バグダディに忠誠を表明する限り同胞であり、それ以外は民族、信仰に関係なく敵となる。映像の最後にはIS地域が「理想郷」のように描かれる。戦争と隣り合わせの日常や異教徒殺戮の実態は隠され、こうした宣伝映像を信じ込んでIS入りをしたトルコ人も少なくない。(映像は短く編集)

◆「オモテとウラ」の使い分け
IS映像では、トルコを民族主義世俗主義国家と批判する。だが、建国の父ケマル・アタチュルクの掲げた世俗主義と対立してきたのがエルドアン大統領である。彼自身も、イスタンブール市長時代に「イスラム主義的な詩を朗読した」として罪に問われ実刑判決を受け、服役している。世俗主義の守護者たる軍部と激しい権力闘争を重ね、ついには「右派クーデター計画」を理由に世俗派の軍高官を一掃した。外交的にはパレスチナ支援船事件でイスラエルに強硬姿勢をとったのもエルドアンだ。それでもISはトルコを「背教政府」とし、激しく批判する。

f:id:ronahi:20160713075000j:plainISがトルコ語で発行する機関誌コンスタンティニイェ。トルコの世俗主義に加え、エルドアン政権とアメリカの同盟関係や、クルドPKKの民族主義を批判している。ISがトルコで起こしたとされる自爆攻撃事件についての声明や記述はない。ISにはトルコ出身の戦闘員2000人前後が加わったといわれ、国内にも協力者は多い。左上の白いヒゲの戦闘員はいつもIS映像に登場するトルコ人。ブルサ出身のアブ・アマル(45歳)で、妻と3人の子どもともにシリア・ラッカに移住した、とトルコ紙ヴァタンは報じている。

さて、ISのトルコ批判はあくまでも「建前」の部分が多い。ISはトルコ軍に攻撃を加え死者も出ているが、実際には、「敵の敵は味方」の論理の中で、クルド勢力を共通の敵とするトルコ政府と情勢に応じてさまざまなレベルで関係してきたと言われる。ISの関与が指摘される昨年のトルコでの自爆攻撃では、スルチ(33人死亡)、アンカラ(103人死亡)での事件ともクルド人の集まる場が標的となった。ゆえにクルド勢力は、エルドアン政権が背後でISと結託しているという認識だ。

トルコ政府にとっては、YPGがシリア北部に勢力圏を固めることは、安全保障上の大きな脅威である。クルド側がISとの戦いで消耗することを願っているというのがホンネのところだろう。またロシア戦闘機撃墜事件でロシア国防省エルドアン一族がISとの石油取引に関与としてトルコを批判したが、これは以前から指摘されてきたことでもあった。

f:id:ronahi:20160713075048j:plainクルド勢力に対する場面では、トルコとISが通じていると思わせる現場を取材でいくつも見てきた。シリア・コバニの攻防戦の際、ISはとトルコ国境警備隊の検問所を超えて大型爆弾車をシリアに入れ、クルド側陣地で自爆攻撃を敢行している。またIS戦闘員が堂々とトルコに越境してクルド・人民防衛隊(YPG)に銃撃を加えることもあった。写真の銀色のサイロがトルコ側で、すぐ左横は国境警備隊隊舎だ。IS戦闘員がサイロに入り込んでYPGを攻撃した際には、トルコ警備隊は阻止しなかった。壁の手前はYPG陣地。サイロにはYPGが応戦した銃弾の痕がいくつも残っていた。写真はシリア側から撮影。(2014年12月・シリア・コバニ撮影:坂本)

f:id:ronahi:20160713160855j:plainこのサイロを撮影した2か月前、英国人人質、ジョン・キャントリー氏はコバニに連れてこられ、ISのために「レポート」をさせられていた。左後方にサイロが見える。丘にはトルコ軍が展開。(2014年10月・IS映像)

パリ、ブリュッセルバングラデシュ襲撃事件では、ISはいちはやく声明を出した。ところが今回のイスタンブール空港襲撃だけでなく、これまでにIS関与とされるトルコでの爆弾事件では明確な公式声明を出していない。

一連のトルコでの事件で声明が出ないのは、イスラム圏でムスリム同胞も巻き添えにした攻撃ゆえに「戦果」として宣伝しない、という見方もあるが、エジプト、サウジアラビアチュニジアでの襲撃では、「背教政府の膝元で攻撃」とする声明がこれまでに何度も出されてきた。とにかくトルコ、IS、クルドをめぐる動きは怪しいことが多すぎる。暗躍する各勢力の当事者でさえ、次はどうなるかわからないなかで駆け引きを繰り返しているのではないかとさえ感じる。

f:id:ronahi:20160713075134j:plainトルコではこれまでもイスラム過激主義が存在してきた。以前は大東方イスラム突撃戦線(İBDA-C)などの組織が連続爆弾事件を起こしている。シリアが内戦に陥ってからは、トルコのイスラム過激勢力は、シリアのアルカイダ系組織とISの2つの大きな潮流に合流。一方、シリア・トルクメンの支援になると、宗教、民族と多様なベクトルが交錯する。写真は2003年11月、イスタンブールユダヤ教施設(シナゴーグ)が爆破された際のもの。İBDA-Cが攻撃を認める声明を出している。この数日後にはHSBC銀行とイギリス領事館に爆破攻撃が加えられている。イスラム過激主義による事件は、ISの台頭で再びあいつぐことになる。(2003年11月・イスタンブール・撮影:坂本)

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