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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS写真】イスラム国(IS)支配地域であいつぐ「同性愛者処刑」(後編)

◆IS関連

◆処刑で法執行を示し「国家統治」を宣伝する意図も

【この記事には残酷な写真が含まれます】
前回に続けて、ISの支配地域での同性愛者処刑の状況について取り上げる。どの機関が同性愛者を摘発し、処刑しているのか。この記事はISによる統治の実態の一部を伝えるもので、一般のイスラム教徒に対する偏見を持つことは避けてほしい。ISの極端な宗教解釈や無差別殺戮、ヤズディ教徒殺害・女性奴隷化などの行為に対しては、諸外国のイスラム法学者機関から異議も出されている。ただイスラム社会では同性愛を性逸脱とする見方があるのも事実で、そうしたなかで苦しむ同性愛者は少なくない。(前編もあわせてお読みください>>

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これはISが規定したハッド刑の刑罰とされるもの。ネットで出回ったものだが、実際の刑の運用事例とあわせると本物と思われる。ハッド刑はコーランに書かれた言葉をもとに決められた身体罰を含む刑。ハッド刑はサウジアラビアインドネシアなどに存在するが、運用方法も適用も国によって異なる。上記のISの表では、強盗は「路上強盗・追いはぎ」とあるが、家に押し入っての強盗行為でも同様の基準で処罰されている。「同性愛行為をうける側」との規定については、もし強要された場合はどうなるのか、など不明だ。

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同性愛者を逮捕、処刑するのは、ヒスバという機関。ヒスバとは「道徳警察局」で、いわゆる宗教警察である。ヒスバは一般の警察任務に加え、社会風紀の取り締まり、処罰をおこなう。小さな町や村では、ヒスバでなく「イスラム警察」という呼称を使っている場合がある。同性愛者逮捕よりも酒やタバコの摘発活動のほうが多く、商店での賞味期限切れ食品チェックなどもしている。写真は昨年10月、イラク北部ニナワ県で同性愛処刑としてISが公表したもの。

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ヒスバは警察活動に加え、刑の執行もおこなっている。強盗殺人は斬首か銃殺。窃盗は手首切断など刑の執行方法が規定されている。戦乱で法秩序がなくなった社会では、武装強盗が横行する。手の切断刑のような見せしめであっても、一定の犯罪抑止効果になる面があるが、他方で、IS支配下の地域で裁判が公正に行なわれ、弁護制度などが機能しているのかは不明だ。もうひとつの問題は、ヒスバにサウジ、チュニジアなどの出身者がいることだ。住民は「なぜ外国人に取り締まられるのか」という思いがあるうえ、いつ自分が逮捕されるかわからない恐怖に怯えている。写真の茶色いベストがヒスバの制服。「イスラム国・ニナワ県・ヒスバ」とある。

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公開で刑を執行するのは、例えば姦通・不貞の場合は「罰を与えるときは信者たちに立ち合わせよ」とコーランに書いてあることなどが根拠とされる。だがISには、見せしめ刑で権力と支配を誇示し、自分たちの法執行を布告して「国家統治」を認識させる意図もある。写真は先月、シリア北部アレッポ県マンビジでの「同性愛者処刑」を見る人びと。子どもの姿もある。

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実際にヒスバはどうやって同性愛者と判断して逮捕し、イスラム法廷が有罪と審判を下すのか。これについてはわからない。以前、イラクで同性愛売春行為をして捕まった少年を、少年刑務所で取材したことがある。同性愛者が互いに集まる路地があって、いつも相手をする客は顔も名前も知っていたという。こうした情報から特定して逮捕しているとも考えられる。またうわさがある。「あいつはどうもソレらしい」というのは、いまだに日本でもある。シリアやイラクの町のコミュニティーであれば、近所の誰が「それっぽいか」で知られていたりする。これは推測だが、実際の現場では、「同性愛者らしい」として逮捕され、殺されている例もあるのではないかと思う。ただ、「シャリーア統治」はISにとっては誇示したい国家制度の根幹であり、形式的であっても裁判・審問という手続きは経ていると見られる。写真は先月シリア・マンビジでの処刑。

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厳格なシャリーア統治を宣伝し、自分たちこそイスラムの体現者でアッラーの審判の代理人のようにふるまうISだが、じつは戦闘員自身が法律を守っていない場合も少なくない。公金を持ち逃げした幹部戦闘員もいれば、ヒスバが取り締まるタバコも密かに一部の戦闘員のあいだで流通しているという。イラク・モスルの住民は、罪を見逃す代わりにワイロを要求することさえあると話している。写真は突き落とした同性愛者に石を投げつける戦闘員たち。

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昨年、イラクファルージャでの同性愛者を突き落とし処刑として公開された写真。これまでISが処刑を公表した写真はイラク・モスルとシリア・ラッカなど大都市が多い。実際に同性愛者かはわからないうえ、処刑をプロパガンダとしていることにも留意すべきだろう。同性愛とは別に、女性の不倫行為「姦通罪」での処刑については映像が出ることはほとんどなく、公式写真以外には戦闘員が携帯カメラで写したものや支配地域からの住民情報をもとにメディア活動家らが伝えるわずかな情報に限られている。

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昨年11月、ISはシリア東部デリゾールで少年たちにシリア政府軍協力者をゲームのように処刑させる映像を公開した。この動画映像については別の記事で取り上げている。映像記事へ>>
ここで古城に少年を集めて銃を渡す戦闘員(写真の男)は、のちに同性愛行為が発覚して処罰されたといわれている。サウジアラビア出身のアブ・ザイド・アル・ジャジラウィという名で、「軽微な性行為」と伝えられているので、どこまでのレベルか不明であるが、行為を受けた15歳の少年はデリゾ-ルで病院の屋上から突き落とされて処刑されたと言われる。一方、この戦闘員は処刑はされなかったものの、鞭打ち罰を与えられたのち、「イラクの最前線送り」となったと報じられている。クルド系ARA通信社がメディア活動家の情報として伝えたもので、ISに対するネガティブキャンペーンの可能性もあるが、戦闘員にも同性愛者がいる話として知られる。

これまで取材した人びとが何人も殺されたりしている自分としては、ISは早く壊滅してほしいと思っている。一方で、自国の市民を殺す過激組織を壊滅させるためにと、他国の一般市民を空爆で巻き添えにして殺し、「それもやむなし」とどの国の責任も問われないことは、倫理的にも国際法的にどうなのかとも感じている。非道な組織ISに立ち向かおうとする側は、どれだけ正義の存在たりえるのか。いま、このことをあらためて考えさせられている。
(同性愛者処刑・前編)に戻る >>

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