イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS写真】イスラム国(IS)支配地域であいつぐ「同性愛者処刑」(前編)

◆「イスラム法」を独自解釈して布告

【この記事には残酷な写真が含まれます】
フロリダ銃撃事件は、容疑者の動機や背景は今もって不明な部分が多いが、武装組織イスラム国(IS)系メディアは事件直後に「イスラム国戦闘員が同性愛者ナイトクラブを攻撃」と伝え、襲撃を称賛した。ISはこれまで支配地域で同性愛者の公開処刑をあいついでおこなっている。ISが同性愛を罪とし「死刑」と規定する根拠は何か。そしてどのように刑が執行されるのか。この記事は、IS支配地域の実態を伝えることが目的である。同性愛についてはイスラム諸国や法学者でも様々に見解が異なり、ISの極端な宗教解釈が、イスラムの全般的なものとは受け取らないでいただきたい。(この記事には後編もあります)【前編】【後編】

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これはIS機関が発行したパンフレットで、シャリーアイスラム法)とハッド刑に関するもの。一般にシャリーアとは、コーランと預言者ムハンマドの言行録をもとにイスラム法学者が規定した法律である。ISは独自に解釈したシャリーアを布告し、社会の「統治原則」としている。コーランに書かれた言葉をもとに罪を規定して与えられる刑罰はハッド刑と呼ばれる。ISが「同性愛の罪」を規定しているのは赤い丸で囲んだ部分。同性愛は「ルート」と定め、死刑となっている。イスラム社会における罪としての同性愛の捉え方は難しいが、「男性間での挿入性行為」という認識があるだろう。ISの場合、何を基準に同性愛とみなしているかは不明な部分が多い。

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写真は昨年1月、ISがイラク・モスルで同性愛者男性を建物から突き落として処刑したときのもの。このとき3人が同時に突き落とされているのが映っている。ISは、同性愛行為をした側・受けた側の両方とも死刑としている。

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刑の執行前に、審判の内容が読み上げられる。審判は裁判官が下すが、同性愛者の逮捕と死刑執行は宗教警察がおこなっている。

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突き落とされる下には、倒れている別の男性が見える。同性愛を指すルートとはコーランに出てくルート(または「ロト」)のことで、旧約聖書のソドムの逸話と同じ箇所にあたる。性的逸脱などで乱れた町が神の硫黄の火で滅ぼされる話だ。聖書では、神はロトの一家は助けたが、逃げるときは後ろを振り向くなと命じられたのに妻だけは後ろを振り返り、塩の柱にされた。コーランでは、ルートは神が遣わした預言者の名前。ルートを通じ、性に乱れた町の住民に悔い改めよと告げるが、人びとはそれを聞かず、結局、町は天から降る石の雨によって滅ぼされる。ルートの妻の部分は「町に残って死んだ」となっている。預言者ルートは、イブラヒム(聖書ではアブラハム)の甥とされる。

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昨年7月、シリア・タドムル(パルミラ)での「同性愛者へのアッラーの審判」として公開された映像。建物から男性が突き落とされる。タドムルは今年3月、シリア政府軍が奪還した。ISが「同性愛の罪」の根拠とするのはいくつかあるが、そのひとつがコーランのこの節。【またルートを(遣わした)、それはその民に言った。お前たちは、以前のどの世でも誰も行なわなかったほど淫らなことをするのか。お前たちは情欲のため、女でなくて男に赴く。まこと、お前たちは言語道断な者たちである】(高壁章:80 -81節)

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落とされても死なずにまだ息がある場合は、戦闘員が石を投げつけて殺す。高所から付き落として殺すのは、ハディース(言行録)などの伝承が「根拠」とされる。

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シリア・タドムルでの映像のなかで、処刑した男性の遺体を丁寧に水で洗い、埋葬する様子も加えている。「刑を執行したあとは、遺体は手厚く取り扱う」とプロパガンダ映像に入れ込んでいる。

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同性愛者とされた者は突き落としだけでなく、銃殺や斬首での処刑もある。昨年5月、イラク・モスルで斬首される男性。このときは、占い師が「魔術信仰」として同時に斬首されている。

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同性愛のほかに、異性間の不倫行為は「姦通罪」とされる。既婚の場合は石投げによる死刑。未婚の場合は鞭打ち100回と土地追放。写真は女性で、姦通罪を犯したとして石投げで処刑されている。

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IS英語機関誌ダービクでシリア・ラッカでの同性愛者処刑として掲載された写真。英語圏に向けたダービク誌では、「性的逸脱がHIVなどを蔓延させた」などと記述。西欧社会の「性」に対する価値感を批判しているが、同性愛禁止の根拠とする文献は支配地域向けのパンフとは若干異なっている。

同性愛についてはヨーロッパのキリスト教諸国でも近代まで刑罰が課される国があった。宗教をどう解釈し、現代社会と適合させるかについては、宗派や国や地域で異なる。処刑については、例えば日本でも死刑制度はある。もし、日本でその執行を公開の場でやるとなったらどうなるだろう。密室の絞首刑は容認されて、公開なら残忍なのか。公開処刑だけをもって「酷い」とするのではなく、武装集団が宗教を掲げて”国家”を名乗り暴力で支配し、同性愛者を含む住民を次々と殺害していること、スパイの処刑を子どもにさせ宣伝に利用していることなど、ISの残虐性は何にあるのか、については整理して押さえておくべきだろう。(後編もお読みください)後編につづく>>

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