イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

〔トルコ〕イスタンブール爆弾事件・警察バスを狙った自爆【クルド組織TAK声明全文】

◆TAK「クルディスタン自由のタカ」が再び自爆攻撃

6月7日、トルコで再びクルド武装組織・クルディスタン自由の鷹(TAK)による爆弾攻撃事件が起きた。今回は警察バスが狙われ、警官・市民あわせて11人が死亡、40人に及ぶ負傷者が出た。(TAKについては過去記事を参照)エルドアン大統領は爆弾攻撃を非難し「卑劣なテロに立ち向かう」と述べた。TAKは、クルディスタン労働者党(PKK)から分岐した組織とされているが、これまでの自爆した戦闘員のほとんどがPKKで活動していた人物である。またPKK系の組織も、武装組織イスラム国(IS)の爆弾事件で民間人犠牲が出れば非難声明を出すが、TAKが市民を殺傷しても非難したり、制止を求める行動はとらない。トルコ治安当局はPKKの司令系統のもとにある組織と見ている。PKK組織関係図はこちらを参照

f:id:ronahi:20160612162141j:plain6月7日に起きた爆発はイスタンブール旧市街のベヤズィット地区で起きた。イスタンブール大学にも近く、外国人観光客も多く訪れる場所だ。写真は事件を伝えるトルコ紙。地元紙は、爆発物は盗難車に積まれたと見られ数名が現場まで乗りつけ、うちひとりが車内に残り、機動隊バスが通過するタイミングにあわせて自爆、と報じている。

こうした事件が起きるたびに悲しくなるのだが、クルド人すべてが無差別殺傷を支持しているわけではないし、かれらの思いを一言で表現できるものではない。これまでのクルド抑圧政策を知る人びとからすれば、文化的権利ははるかに拡大された。それは自分たちの犠牲のもとに勝ち取ったと感じているし、シリアでのクルド人の戦いもそうした延長として見ている。トルコでかつてないまでにイスラム色を打ち出し、大統領の権限強化を推し進めるエルドアン政権には強い怒りも感じている。だが、じつはPKKの過激戦争路線にも多くが疲れきっている。そしてトルコ政府内にもクルド問題の解決を模索する勢力がいる。ダウトオール首相が辞任するにいたった理由の一つが、クルド問題をめぐるエルドアン大統領との意見の食い違いだった言われる。

f:id:ronahi:20160612162241j:plain

f:id:ronahi:20160630104944j:plain

TAKが6月10日付けで公表した声明。TAKは「PKKから分岐した組織」と自称するものの、PKKのオジャラン指導者への忠誠を掲げている。写真左は、イスタンブール自爆攻撃を実行した「烈士」としてTAKが公表した女性、組織名エイレム・ネウロズ。1984年生まれでディヤルバクル出身だが、おもにアンタルヤで活動していたとしている。TAKで自爆攻撃をした女性としては3人めとなる。以下はイスタンブール自爆攻撃声明の全文

TAK戦士がファシスト・トルコ国家の心臓部に再び攻撃を敢行
報道機関ならびに社会世論へ    クルディスタン自由の鷹(TAK)2016/6/10

2016年6月7日、午前8時40分、イスタンブール・ベヤズィットにおいて、我々はトルコ国家の特別部隊を攻撃した。「烈士ロジハット・ムンズール報復戦」と名づけられたこの作戦は、クルディスタンでの汚い戦争に対する反撃であり、また虐殺された烈士アシヤ同志の追悼戦である。この自決作戦は、クルディスタンで遂行される汚い戦争と空爆攻撃に対するものとして敢行された。ジズレ、ヌサイビン、シュルナックで烈士の血が流されたごとく、これに対する報復戦闘がなされるだろう。敵が攻撃を継続するなら、我々の戦闘もさらに激化させることになる。 トルコ国家は、この攻撃で特別部隊側に10名以上の被害が出たにもかかわらず、実際の死者の数を隠蔽せんとしている。一連の攻撃での民間人犠牲についての責任は、クルド人民に対する野蛮なる戦争攻撃を力づくで推し進めるファシスト・AKP(訳註:公正発展党)にある。この戦争に沈黙し続けるトルコ人民は、今後も犠牲者となり続けることになるだろう。
トルコへの渡航を計画する旅行者に我々は再度、警告する! 諸君らは我々の標的ではないが、トルコは諸君らにとって安全な場所ではなくなった。
平和を悔いる者がいようとも、我々はすでに戦争を開始したのだ!
TAK万歳!
クルド人クルディスタン万歳!
オジャラン指導者万歳

f:id:ronahi:20160612163615j:plain
TAK声明にある、烈士ロジハット(29歳・写真左)とムンズール(30歳・写真中央)とは、今年4月、トルコ北西部ボルで「PKK容疑者」として治安部隊が家宅捜索した際に死亡した2人。烈士アシヤ(写真右)は、4月末にブルサで自爆した女性戦闘員(24歳)を指すと見られる。爆発はモスク近くで起き、13人が負傷。別の標的に向かう途中で誤って自爆したのではないかとする報道もあったが、TAKは「AKP出先機関を狙った」などとした。

市民の無差別殺傷が「正義と民主主義の戦い」と正当化されるものではない。声明のように「民間人の犠牲の責任はお前たちにある」とするならISと同じである。
ここで「武装闘争では何も解決しない」と私たちが言うのは簡単だ。だがPKKの思考の根底には、「多くの流血の中で、自分たちが奪われた言葉の権利、自由の価値を実力で獲得してきたのであり、これは民族自衛戦争なのだ」という意識がある。これがロジャヴァ(シリア・クルディスタン)でのクルド闘争にも貫かれている。

IS掃討戦では、ロジャヴァにおいてPKKを母体とするシリア・クルドの人民防衛隊(YPG)は不可欠の勢力で、シリア国内で米軍特殊部隊が対IS戦の訓練までおこなっている。こうした政治的に有利で重要な局面で、トルコでの戦争激化路線は、何を意味するのか。クルド系出版社の編集者はこう言っている。「昨年の総選挙でのクルド系政党の勝利をエルドアンに無効にされ、PKKは選択肢を失い、かなり追い込まれたのではないか」。果たしてそれだけだろうか。

f:id:ronahi:20160612170146j:plainトルコ南東部ではPKKが青年を組織し、シリア・人民防衛隊(YPG)を模した市民防衛隊(YPS)を編成。写真はジズレのYPS女性戦士教育隊。「トルコ治安部隊の住民弾圧に抗する」として結成されたが、革命ロマンチシズムや、シリアでのクルド闘争に感化されて志願する若者たちもいる。治安部隊と激しい市街戦を繰り広げ、双方に多数の死傷者が出ているうえ、民間人も巻き込まれている。トルコ兵と地元若者との際限なき流血に心を痛める住民も少なくない。(YPS公表写真より)

PKKはこれまで何度も内部闘争を繰り返してきた。だがこの間の動きを見ると、指導部内の戦争主導派に振り回されているだけでもないように感じる。むしろ、3月にシリア北部の連邦化を一方的にに宣言したように「IS壊滅以後」をすでに見据え、ロシアや周辺国とのあいだで何らかの確約を得る自信があるのか、対IS戦での貢献に見合う「見返り」まで算段しているのではないだろうか。いまYPG地域はIS掃討をめざすアメリカの支援を受け、拡大している。

このかんの動きを見ていると、PKKーYPGはシリアでの地域制圧をトルコに認めさせる代わりに、トルコ南東部での戦争を縮小させたり激化させるなど、「駆け引き」に使っているのではないか、とさえ思えてくる。トルコ治安部隊とクルド組織が衝突を続けるなか、兵士、警官だけでなく一般の市民にも犠牲が出続けることになる。

広告を非表示にする