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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【IS動画2本】イスラム国(IS)・イラク北部駐留トルコ軍への攻撃

◆IS関連 ◆クルド関連

◆モスル近郊、民族・文化・宗教が共存してきた町バシーカ
~ISが制圧し歴史遺構破壊

武装組織イスラム国(IS)は有志連合の空爆作戦の効果もあり、一部で劣勢が伝えられるものの、局所的には、対峙する戦線を突破して進撃したり、継続的に自爆車両突撃やロケット砲攻撃などを加えている。ことし4月19日には、イラク北部モスル近郊に駐留するトルコ陸軍の基地にISの対戦車ミサイル弾が撃ち込まれ、戦車が被弾。攻撃にはロシア製の誘導ミサイル「コルネット」が使われたとみられる。このほかロケット砲攻撃もあいついでおり、IS系メディアはいずれもその映像を公開している。

【IS動画1】対戦車誘導ミサイルによるイラク・バシーカのトルコ軍基地攻撃(2016/04/19)
今年4月19日での攻撃でISが発射した対戦車誘導ミサイルはロシア製「コルネット」とみられる。トルコ軍M60T戦車はM60(パットン)をイスラエルの軍需産業が改修、強化した戦車。(ISニュース部門アマーク通信映像)

イラク北部に派兵されているトルコ軍はおもな目的は2つ。IS攻勢のために、クルド・ペシュメルガ部隊に軍事支援をおこなうことに加え、トルコ国境の山岳地帯から越境攻撃してくるクルディスタン労働者党(PKK)の動きをイラク側でも封じるためである。

トルコは90年代半ばからすでにクルド政府との軍事協定のもと、イラク・クルド地域内でのトルコ軍の駐留を部分的に認めてきた。クルド自治地域の主要政党、クルディスタン民主党(KDP)にとってPKKは「やっかいもの」だったからだ。いま、ISの台頭で地域の軍事バランスが変わるなか、PKKは対IS戦で存在感を見せ付け、イラク・シリア北部に足がかりを築きつつある。

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トルコ軍M60T戦車がISに攻撃されたことを伝えるトルコの新聞(右)。この攻撃で、トルコ軍側も反撃し、IS戦闘員数十人を殺害している。

「ISとの戦い」という建前に加え、イラク・クルド政府とトルコ政府の双方には、この地域でISに対する戦いで連携するとともに、シリアだけでなくイラク北部にも勢力を広げるPKKをなんとか排除したいという共通の思惑がある。

大都市モスルの奪還戦にはクルド部隊とイラク軍との共同作戦が不可欠だ。ところがイラク中央政府は、トルコが勝手に主権を侵害して政府の承諾なく自国領土内で軍事活動することを強く非難してきた。さらにクルド地域への予算配分をめぐっても財政を強力に締め上げ、険悪な状況が続いている。

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コルネットミサイルがM60T戦車に被弾したものの、この攻撃での死者は出なかったもようだ。(トルコメディアが報じた写真)

ISという共通の敵を相手にしながらも、同盟関係にある国や各勢力が互いに政治的意向で動き、心の底では信頼していない現実がある。米軍を始めとした有志連合も加わる戦いだが、アメリカにとってはシリア・ラッカ進攻戦でPKKを母体とする人民防衛隊(YPG)の協力が不可欠だ。

一方、PKKはトルコ国内でクルド問題に強硬姿勢をとるエルドアン政権にかつてないまでの戦争路線を打ち出し、都市部で爆弾事件を繰り返す。さらにロシア軍機撃墜事件でトルコとの関係が険悪になったロシアに急接近している。「敵の敵は味方であるだけでなく、『今日の味方』は明日の敵でもある」。それをわざと天秤にかけさせて同盟相手からの妥協や譲歩につなげたりしている。IS壊滅へ向けた戦いの難しさはここにある。

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イラク北部には複数のトルコ軍拠点がある。モスル近郊のバシーカ・ゼリカン基地は、ISとの地上戦が本来任務ではなく、クルド・ペシュメルガ兵と地元アラブ人などの軍事訓練支援である。同様に米軍やドイツ連邦軍も、対IS戦のために武器供与に加え、軍事訓練支援任務のためにクルディスタン地域に派兵されている。トルコ軍が駐留するもうひとつの目的は、イラクから国境づたいに越境攻撃してくるクルディスタン労働者党(PKK)の動きを牽制することだ。対PKK戦略のためにトルコは90年代半ばからクルド政府と軍事協定を結んできた。

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写真左がISが支配する大都市モスルから約30キロの地点にあるバシーカのトルコ軍ゼリカン基地。写真右は、トルコ国境近くのバマルニ基地で、ここではPKKの動きを牽制する。(地元メディア写真より)

【IS動画2】トルコ軍バシーカ基地へのロケット砲弾攻撃とドローン空撮(2015/12/28)
バシーカ基地はこれまでにもくりかえし砲弾が撃ち込まれるなどしている。映像はISが「カチューシャ」と呼ぶロケット弾を、基地に発射する様子。ISは基地上空にドローンを飛ばし、煙の上がる着弾地点を確認し、被害状況を「ライブ映像」で記録している。(ISニュース部門アマーク通信映像)

f:id:ronahi:20160610221652j:plainバシーカを含めイラク北部のクルディスタン地域に派兵されているトルコ兵は1000から2000名とされる。このほか、各都市にも各国との連絡調整要員がいるといわれる。ISの攻撃では殉職者もあいついでおり、この写真はISがトルコ語で発行する機関誌「コンスタンティニイェ」が、今年3月のバシーカでのISの砲撃で戦死したトルコ兵の葬儀を伝えたもの。「バシーカで戦死した背教徒トルコ軍兵士」などと侮蔑的に記述している。

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モスルから約30キロの位置にあるバシーカは上部メソポタミア圏に位置し、多様な宗教、民族、文化が共存してきた。アラブ人、クルド人イスラム教徒、クルド系のヤズディ教徒、シリア正教などだ。写真左はヤズディ教の聖塔クッブ。写真右はシリア正教の教会と聖職者。すでにいくつもの聖塔や教会がISによって破壊された。(バシーカで。2004年・撮影:坂本)

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バシーカには民族や宗教の違いを超えたコミュニティーがあった。中央にいるのはイスラム教徒のクルド女性。右端の女性はこの地方のヤズディ女性の伝統衣装。ISの侵攻をうけて、住民のほとんどはクルディスタン地域に避難した。(バシーカで。2004年・撮影:坂本)

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以前、バシーカを訪れたときに見せてもらったゴマから抽出したペースト。この村の秘伝と言う。まろやかで、あまりのおいしさに感嘆した。「日本に輸出できるかも」と思ったほど。ISの台頭で町もコミュニティーも破壊されてしまった。(バシーカで。2004年・撮影:坂本)

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ISにとっては大都市モスルの防衛ラインの要衝のひとつがバシーカ。その先には、クルディスタン地域政府の首府アルビルがあり、双方の激しい攻防が続く。バシーカ近郊にはアッシリア帝国の栄えたニネヴェの町があるほか、ニムルド遺跡や楔形文字の粘土板が出土した歴史遺構が数多く残っている。ISはこれらの歴史遺産を、「偶像崇拝・多神崇拝」などとして爆破したり、ブルドーザーであいついで破壊している。写真はバシーカを進撃するIS部隊。(ISニュース部門アマーク通信映像)

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