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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画】クルド労働者党(PKK)、トルコ軍ヘリをミサイルで撃墜(PKK軍事声明全文)

◆トルコ軍・PKK、戦闘激化のゆくえ

クルディスタン労働者党(PKK)は、5月13日、トルコ軍攻撃ヘリコプター・コブラを携帯式防空ミサイルで撃墜した。戦闘が起きたのはトルコ南東部、イラク国境近くのハッカリ県チュクルジャ。イラクから越境したPKKゲリラが、頻繁に軍を襲撃し、トルコ軍も精鋭部隊を投入して掃討作戦を展開する地域だ。

【動画】PKKによる携帯式防空ミサイルのでトルコ軍ヘリ撃墜
PKK側は、ヘリ撃墜映像を15日、ウェブ上で公開。攻撃には携帯式防空ミサイル(MANPADS)が使われている。PKK側は撃墜したのは攻撃ヘリコブラAH-1としている。

トルコ政府は昨年からPKK掃討作戦を強化し、PKK側は全面戦争を宣言するなど衝突は激化している。これまでに治安部隊、PKK双方の犠牲はあわせて1000人以上とされ、多数の市民も衝突に巻き込まれている。なぜここまでPKKが先鋭化したかというと、シリアでのクルド組織YPGの躍進によるクルド解放闘争の高揚と、エルドアン大統領の強硬姿勢への反発がある。昨年、エルドアンはクルド政党が躍進した6月の国民議会総選挙を無効化し、やり直しを命じた。また名誉職だった「大統領」の地位に実質的な権限を付与し、憲法改正に向けても動き出した。政府に批判的なメディアの記者をあいついで逮捕、投獄するなどもしている。PKKとの対話は拒否し、これまで以上に強硬な姿勢に出ている。

f:id:ronahi:20160516220229j:plain左はトルコ軍によるヘリ墜落と一連の戦闘における殉職者に関する報道発表(5月13日付)。 当初、軍は「ヘリ墜落は技術的問題による事故」としていた。右は殉職したヘリ搭乗員。(トルコ軍公表写真)

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トルコ・ハッカリ県チュクルジャはイラク国境の山岳地帯にある町。PKKはイラク側から山を越えてトルコ側に出撃してくる。トルコ軍は戦闘機でイラク側のPKK軍事キャンプへの越境空爆を続けていて、PKKには数百におよぶ死者が出ている。(地図作成:坂本)

PKKはトルコで爆弾闘争に加え、南東部の都市で若者を中心に武装部隊、市民防衛隊(YPS)を結成し、軍や警察との市街戦を繰り広げる事態となった。


現在、PKKが掲げるのは、

①オジャラン指導者釈放
②南東部クルド地域の大幅な自治権
③トルコ民主化
である。(詳細はカラユラン・ネウロズ声明動画参照
死刑判決を受けて収監中のオジャラン指導者釈放は現在のところ不可能と思われるが、南アフリカ民族会議のマンデラ議長が長期投獄を経て、のちに大統領になったように、「トルコ南東部・クルド自治地域議長」という構想もPKKは将来的に描いているといわれる。「トルコからの分離独立」はオジャランが逮捕されて以降は掲げなくなったが、将来的な射程には入れている。だがエルドアン大統領がトルコ国家分断につながる自治要求を受け入れる見込みは低い。

f:id:ronahi:20160516220307j:plainPKKの軍事部門・人民防衛軍(HPG)が発表した声明(5月15日付)。PKKは「一連の戦闘でトルコ軍兵士48名が死亡」としているが、トルコ軍はこの戦闘での殉職兵士はヘリ墜落も含めて8名としている。政府に協力する地元治安要員も含めて死者数をPKKが公表したとも考えられる。

以下はPKKの軍事部門・人民防衛軍(HPG)が公表したハッカリ県チュクルジャでのヘリ撃墜と一連の戦闘に関する軍事声明全文。(一部意訳しています)

ジョレメルグ・チェレのアシュテ村地域における革命的作戦行動

5月13日早朝、わがゲリラ部隊はジョレメルグ・チェレ・アシュテ村(訳註:トルコ名・ハッカリ・チュクルジャ・チュウル村)において、トルコ占領軍に対する革命的作戦行動を遂行した。この作戦は、アメッド(訳註:ディヤルバクル)で戦死した同志、アザッド・シセル、チェクダル・アメッドならびにハクルク地域(訳註:イラク北部PKKキャンプ)でのゲリラ戦士たちの追悼報復戦闘である。アシュテ村一帯の丘陵部にはトルコ軍60名が展開し、わがゲリラ部隊に対する敵対戦闘を続けていた。1時間におよぶ戦闘でわが部隊は、トルコ軍48名以上を殺害した。うち15名の遺体は、当該戦域で爆撃が続いているため現場に残されたままである。また、複合型兵器2基を含む赤外線大型カメラ1基も破壊した。

また戦闘では、攻撃ヘリコブラ1機を撃墜し、搭乗員2名が死亡した。さらに敵方の120mm迫撃砲、A-4機銃も破壊した。戦闘には、トルコ軍無人偵察機と連携してコブラ攻撃ヘリ3機、戦闘機4機が投入され、集中攻撃が加えられた。わが方においては、革命戦士が英雄的に戦うなかゲリラ2名が戦死した。戦死した同志の詳細については後日、公表される。

トルコ大統領府の意向を受けた親戦争主義メディア機関は、わがゲリラ部隊によるこの戦闘の実態を隠蔽するために虚偽で覆った。わが方が映像をもって公表する報告がこの戦争の真実である。
2016年5月14日 人民防衛軍(HPG)

PKKとその関連組織、シリアの人民防衛隊(YPG)は武装組織イスラム国(IS)との戦闘を続けており、今回、ヘリ撃墜に使われた誘導ミサイルはISから鹵獲した可能性もある。携帯式防空ミサイルが国境を越えて持ち込まれているのであれば、トルコ軍にとっては大きな脅威である。アメリカにとって対IS戦 においてYPGの戦闘力は不可欠であり、軍事的な支援をおこなっている。他方、NATO同盟国であるトルコへの配慮もあり、YPGに供給した武器がPKK に流れ、トルコで使用されることがないようYPG側に強く求めてきた。だが、昨年11月のトルコ軍戦闘機によるロシア軍機撃墜で、ロシアはPKKに接近しており、ロシアからの武器支援がYPGに向けておこなわれれば、それがPKKに流れ、トルコで使われることもありうる。

クルド問題での進展を検討していたともいわれるダウトオール首相が辞任するなど、エルドアン大統領は強硬さを増すばかりである。2013年3月の一時停戦で漂っていた平和的な空気はいまや消え去り、流血の衝突のなかで兵士、ゲリラ、市民の犠牲があとを絶たない状況となっている。問題解決への出口が見えないなか、さらなる戦闘激化に突き進もうとしている。

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