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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画・日本語訳+写真22枚】イスラム国(IS)司令官アブ・ワヒブとは

◆IS関連

◆米国防総省、「空爆で死亡」と発表
5月9日、アメリカ国防総省は、武装組織イスラム国(IS)の司令官アブ・ワヒブが有志連合の空爆により死亡したと発表した。作戦は5月6日で、イラク西部ルトバで、車両に乗ったワヒブとほか戦闘員らを殺害したとしている。アブ・ワヒブはISの中でも最も有名な司令官のひとり。アブ・ワヒブの非道ぶりを知らしめたのが、シリア人トラック運転手3人の殺害映像である。

【動画・日本語訳】司令官アブ・ワヒブ トラック運転手殺害 (一部意訳・転載禁止)
(一部ボカシを入れていますが残酷映像も含まれます)
この映像は2013年、「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の頃に公開されたもの。幹線道に勝手に検問を作り、トラック運転手を尋問しているのがアブ・ワヒブ。普通の運転手をアラウィ派というだけで殺害するなど残虐さが際立つ。アラウィ派はシーアの一派でシリア・アサド大統領もこの宗派に属する。「ヌサイリ」はアラウィ派への蔑称としてスンニ派過激組織が使う。イラク・シリアとも礼拝をしないムスリムは多いが、スンニ派でないことなどを理由に殺害。映像の最後に映るわずかなシーンからは、死体は吊るされ放置されたことがわかる。撮影者は「ムスリム女性が陵辱された」と運転手に言い、戦いを正当化するが、のちにISは千人を超えるヤズディ教徒女性を拉致・奴隷にして陵辱している。

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写真右の腰のベージュ迷彩のポーチ状の袋が自爆ベルトで、起爆ケーブルが延びているのがわかる。アブ・ワヒブ(本名:シャクル・ワヒブ・アル・ファハダウィ)は1986年生まれ。アンバル大学で学び、イラク聖戦アルカイダに参加。イラク駐留米軍に拘束され、南部のキャンプ・ブッカに収容されていたが、のちにサラハディン県のティクリート刑務所に移送される。2012年に110人の収容者とともに脱獄。イラクイスラム国(ISI)に加わったとされる。大学ではコンピューター科学を学んだとも報じられている。

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ISでいちばん有名な写真がこれではないだろうか。中央にいるのがアブ・ワヒブ。右にいるのがISスポークスマンのアブ・ムハマド・アドナニ。見るからに「悪の結社」の写真なのだが、こうしたポーズを決めたような宣伝映像が外国からの志願兵をひきつけた。黄色い旗には「シェイク・アブ・イブラヒム軍事キャンプ」とあり、撮影場所が軍事訓練拠点だったことを示す。

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「アンバルの獅子」として知られるアブ・ワヒブ。イラク聖戦アルカイダは宗派抗争で混乱に陥ったイラクでISIとして台頭、そしてシリア内戦に乗じてISISとなり、その後、破竹の勢いでイラク西部、シリア東部にまたがる地域の町や村を制圧し、2014年6月にISとなり、「カリフ国家」を宣言するまでになった。

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アブ・ワヒブはかなりのナルシストと思われる。ポーズをキメた写真が異様に多い。ISスポークスマンのアドナニは、音声スピーチはたくさん公表されているが、写真はアブ・ワヒブのほうが圧倒的だ。写真右では携帯式防空ミサイルを持っている。

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RPG-7ロケット砲をかまえる。

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こんなポーズ写真がたくさんある。

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「南部の軍事キャンプ訪問時の写真」とあるが、イラク南部はシーア派地域でISは拠点を持っていない。「南部」といってもバグダッド西南あたりではないだろうか。

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脇にかけているのが自爆ベルトだろう。いつでも死ねることを示すアイテムとして幹部にとっては重要なアイテム。戦闘員にとって死ぬことは「殉教」なので、彼らが望むことでもある。だが、アブ・ワヒブの死亡が事実ならば、組織にとって軍事的にも、戦闘員の志気においてもダメージとなるだろう。

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イラク軍情報部(イスティクバラット)は高額な懸賞金をかけて、情報提供を呼びかけた。写真左はアブ・ワヒブの国民身分証とされるもの。本名シャクル・ワヒブ・アル・ファハダウィではなく、ここでは「イーサム・ハミス・ハマド」とある。写真右はISI時代のアブ・ワヒブ。胸のチェストリグには「イラクイスラム国(ISI)は残り続ける」とある。ISは、一般に万歳を示す「アーシュル」という言葉を使わずに、「バーキヤ」(残り続ける=永劫に)と表現する。

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太い眉と黒髪は特徴的で、その後、空爆が激しくなるとマスク姿で登場することが増えるが、この髪ゆえに特定されるなどしている。

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左の写真の肩章の部分には「アッラーのほかに神はなし、ムハンマドアッラーの使徒なり」とある。ISの黒い旗と同じ言葉なのだが、なにもこんなところにまで…。

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ハンヴィーに乗るアブ・ワヒブ。「ジハード戦士兄弟・アブ・ワヒブ・アンサリ(アッラーよ、彼を守りたまえ)」とある。

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ターバンの上に、マウントつきヘルメット。アブ・ワヒブはその風貌ゆえにネットでネタにされてきた。「猿の惑星」になぞらえたり、黒ベレー姿から「超劣化版ゲバラ」と揶揄された。だがISの中間幹部たちはこぞって一緒に記念写真を撮ったりと、内部的なカリスマ性は高かった。

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イラク軍から奪ったハンヴィーの前に立つ。これまで何度も空爆での死亡が伝えられてきたが、その後、IS公表映像でワヒブと思われる姿が確認されるなどして死亡説は打ち消されてきた。

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写真左の自動小銃は、オーストリア製のステアーAUGに見える。幹部には戦闘で鹵獲した珍しい武器が「献上」されることもあると言われる。

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指を1本立てるのは「神はアッラーのみ」。右はモスクの説教壇に立っているものと思われる。

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赤い丸で囲んだように、2013年後半から2014年前半のあいだに両手にひどい火傷を負ったようだ。右は2014年夏に制圧後のモスルに登場したときのものだが、手は見せないようにしていると思われる。黒い戦闘員は彼の警護隊。

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2014年7月にモスルに登場したときのもの。わずかに見える手がやはり火傷痕のようになっている。この時、ワヒブが歌を仲間と歌っている動画映像>> 

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アンバルで今年1月に公開された写真。モニター画面で作戦を説明するのがアブ・ワヒブと推測される。火傷痕を隠すためか、彼だけ黒い手袋をしているのがわかる。ブーツはいつもワヒブが履いているものと同じようだ。

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同じくアンバルでの作戦。両脇の2人の自爆突撃戦闘員を送り出すようす。特定されるのも織り込み済みではあるのだろう。

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以前書いた、「決死隊」の記事で、M113装甲戦闘車で自爆出撃する戦闘員を送り出していたのがアブ・ワヒブ。やはり両手は見えない。胸の白いカードは無線機の周波数リスト。写真は昨年11月なので、この頃から、顔にはボカシが入っていたようだ。

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今年3月のアンバルでの写真が、おそらくIS写真に映った最後のものではないだろうか。右の茶色い男がアブ・ワヒブと思われる。手を重ねるのは、バグダディ師への忠誠の唱和

これはテロップなしです。機関銃を前転して拾い上げ、連射するアブ・ワヒブ。ナルシストというのもあるだろうが、イラク聖戦アルカイダザルカウィの映像が死後も繰り返し使われるように、アブ・ワヒブもそうしたことを意図して撮らせたのではないだろうか。

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アブ・ワヒブが有志連合の空爆で死亡したことを伝える米国防総省報道官。具体的な殺害について会見で出すということは、事前に位置情報を伝えた情報要員が地上にいたか、空爆後にISの通信を傍受して死亡を判断したということでもある。ただアブ・ワヒブはこれまで何度も死亡説が出ているので、実際に殺害されたかどうかは不明。確定されるのはISが公式に認めた場合である。IS幹部のアブ・アリ・アンバリは3月に空爆での死亡が伝えられたが、ISは沈黙していた。4月末、イラク北部での作戦名に「アブ・アリ・アンバリ作戦(アッラーよ、彼を受け入れたまえ)」と付けたことでISが死を公式に認めたものとなった。「受け入れる」とはアッラーに殉教者として受け入れてもらうことを意味する。今後、IS側の作戦でアブ・ワヒブの名が冠され「アッラーよ、彼を受け入れたまえ」と出れば、死亡を認めたことになる。ただ幹部が死んでもISは公表しないこともあるため、動向が注目される。

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