イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【IS動画・日本語訳】歌から読み解くシリア・イラクでの戦争(14) イスラム国(IS) 「処刑歌」歌手マヘルの死

◆ISトップシンガー「追悼映像」~昨年空爆で死亡
武装組織イスラム国(IS)の宣伝映像で使われる数々の歌を手がけてきたマヘル・ミシャールについては、以前書いたので先にそちらを読んでいただければと思う。マヘルは昨年7月、シリア東部で空爆によって死亡し、ISは今年1月に彼を追悼する動画を公開した。生前の彼の映像でつながれ、シリア内戦に参加した「思い」を本人が語っている。そこからはISに惹かれる外国人戦闘員の思考の一端も伺える。

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〔動画〕「いや 彼らは御主のもとで生きている」  【一部意訳・転載禁止】
ISの宣伝映像に挿入されるマヘルのナシード(宗教歌)はパソコンの音声編集ソフトで収録・編集しているのがわかる。マイクとヘッドホンはオーディオ・テクニカ製のようだ。ISのナシードは、複数のコーラスのものもあるが、たいてい1人の歌い手がいくつもの音程で歌い、それをデジタル複製で重ねる手法が用いられている。歌手のほかに、支配地域内の町を巡回して啓発イベントをしていたほか、戦闘にも参加していたようだ。最後の「クルド無神論者」というのは左翼的性格の強いクルド・人民防衛隊(YPG)を指している。
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〔動画〕「この世を照らしたイスラム国よ」(転載禁止)
マヘルが歌うISナシードで有名なもののひとつ。「ISは嫌いだがマヘルの歌声は美しい」とするSNSの書き込みがいまでも見られるのも彼のこの声にある。(ISの歌に日本語訳を付けると歌詞をコピーして動画サイトに転載する人がいるのですがやめてください。この記事の趣旨はISの実態を検証するためのものです)
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〔動画〕「さあ まもなく まもなくだ」(転載禁止)
定かでないがこれはマヘルの声に似ている。(違ってたらすみません)。ISの恐怖を知らしめたナシードのひとつ。これは怖い。処刑シーンでよく挿入され、ヨルダン人パイロット焼殺映像では繰り返し使われた。いわゆる「厨二病」かと思えるような歌詞が並ぶが、これに実際の処刑映像が合わさるのだからプロパガンダの刷り込み効果は高い。こうした歌に感化されてISに志願してしまう若者があとを絶たなかった。
〔動画〕これはマヘルがISに参加する前、普通の歌手活動をしていた頃のビデオクリップで、「この世は奇妙なもの」という歌。若き歌手だったマヘルを、未曾有の過激組織ISに向かわせたのは何だったのか。(YouTubeより)

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歌手時代のマヘルがサウジのテレビ番組のトークショーにゲスト出演していたもの。メディア活動をする一方、モスクの奉仕活動やチャリティーにも参加していたと報じられている。その後、シリア内戦が始まり、ISに加わった。

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この写真は昨年7月、マヘルが空爆で死亡後に、「殉教者」としてISが公表したもので、正式にその死を認めた「戦死公報」となった。IS内では組織名アブ・ズベイル・ジャジラウィを名乗っていたようだが、すでに有名だったこともあり、追悼動画では本名が使われている。(IS写真)

映像では、マヘルは繰り返しジハードへの強い「思い」を語っている。ジハードとは聖戦のことだけと思われがちだが、本来は、イスラムの共同体や信仰のために努力奮闘、尽力するということも含んでいる。だが、その延長線上の聖戦をISは都合よく解釈し、住民を巻き込む無差別殺戮や異教徒の処刑までも「ジハード」として正当化している。

外国人戦闘員といってもISに参加する理由は様々で、イスラム社会のサウジからの若者には、自分が一方的に描く信仰の理想に託す思いや戦闘参加への高揚感、そしてマヘル自身が語るような「自分さがし」的な感情とがミックスされた意識から参加した者が少なくない。

一方、フランスなどヨーロッパ諸国からの移民3世、4世の場合は、イスラム系移民に共通する社会的な閉塞感や疎外感への反発の発露がISに向かわせていたりする。そしてこうした外国からの戦闘員ほど地元民との地縁、血縁がないため、最も残忍な処刑を繰り返す。

ISはプロパガンダを通じて、苦境にあるムスリム同胞のために各地から馳せ参じるよう訴えかける。マヘルも、何かしたいという思いがシリアに向かわせたのかもしれない。

だが、もし日本で、カルト教団が武装蜂起して町を支配し、同調した外国人が入り込んできて、駅や商店街で自爆を繰り返し、中世に逆戻りしたような法律を布告して住民を毎日のように広場で処刑したら、人びとはどういう気持ちになるだろう。それがいまイラクとシリアで起きている。

シリアの住民が外国人戦闘員に対して抱く感情は、「独裁政権に対する市民運動を過激な外国人が滅茶苦茶にした」「ジハードをしたいのなら自分の国でやってくれ」である。外国から入り込んで、彼らが「殉教して天国に行く」ための自爆攻撃で住民が殺されている。

自分の歌声が処刑や異教徒殺害の映像に繰り返し使われることに、マヘルはどういう思いだったのか。それで歌手としての彼の心が満たされたのなら、悲しい。

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