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イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

【動画+写真19枚】イスラム国(IS)戦術分析(13)◆特殊任務決死隊(イングマスィ)

◆IS関連 ◆IS戦術分析

◆敵陣深くに急襲突撃を敢行する部隊【動画+写真19枚】

武装組織イスラム国(IS)によってイラク軍・シリア政府軍が苦戦を強いられている理由のひとつにISの自爆戦術がある。「イスラム教は自殺を禁じているのに自爆は正しいのか」という問いがあるが、ISは自爆もジハード(聖戦)の戦いの一部であり、ジハードでの死こそ最も名誉な殉教と信じているため自殺とはみなしていない。いまや自爆攻撃は作戦上の重要な柱となっていて、その手法は様々に分かれている。自爆攻撃はIS用語でイスティシャハディ(殉教志願者)作戦と呼ばれる。一方で、イングマスィ(決死隊)作戦がある。自爆を含む高度な任務を遂行するイングマスィとは。

【IS動画】決死隊(イングマスィ) (転載禁止)

イングマスィはどう定義すべきか難しいので「決死隊」としたが、その任務を全部表現するとおそらく「特殊任務急襲突撃決死隊」という感じになる。自爆車両で突入するイスティシャハディ(殉教志願戦士)は、軍事的には日本の特攻における桜花・回天にあたり、任務の完了すなわち自分の死である。ゆえに爆弾を積んだ車両で敵陣に向かうと必ず自爆しなければならず、生還してはならない。もし帰還したなら「殉教」は達成できなかったことになる。

一方、イングマスィも決死覚悟だが、こちらは任務を達成すれば帰還もありうる。日露戦争白襷しろだすき隊にあたるだろう。ただし任務自体が「敵陣を急襲したのち自爆せよ」と決められていたり、作戦後に敵陣から脱出できないとわかっている場合も自爆するので、出撃は死が前提である。上記映像のバラカはシリア北東部ハサカのことで、「アッラーよ、受け入れ給え」とテロップが出てくる戦闘員は任務遂行後、すべて死亡したことを意味する。

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写真は、イラク・ラマディ戦線でのイングマスィ(決死隊)の突撃作戦を伝えるIS機関誌アン・ナバア。イングマース(またはインギマース)とは、アラビア語では一般には「浸透」というような意味で、例えば紅茶にビスケットを浸すと紅茶がじわりとしみこんで、ほろほろと崩れていくようなイメージという。決死覚悟なので、戦闘員が戦死するとイングマスィ戦士であると同時に殉教戦士として称えられる。先日のベルギー・ブリュッセルでの攻撃では自爆そのものが目的であるが、機関誌アン・ナバアはイングマスィと記述している。自爆が前提の攻撃なものの、敵地に深く潜行して急襲した作戦という意味があると思われる。(IS映像)

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ISの宣伝映像ではイングマースの意味づけをコーランや歴史上のイスラムの教導者らの言葉を引用して紹介。敵陣に深く分け入り浸透するイングマース自己犠牲戦術を13世紀のイスラム法学者イブン・タイミーヤの言葉まで引用し、「アッラーのために命を捧げる自己犠牲はイスラムの利益にかなうこと」などと宗教的正当性を持たせている。一般のイラク人やイラク人のほとんどは、ISのイスラム解釈は宗教的な言葉で飾ろうとも単なるこじつけと思っている。(IS映像)

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シリア北部アイン・イサのクルド部隊拠点に突撃するイングマスィ部隊。いわゆる米軍グリーンベレーのような特殊部隊(クウワット・ハッサ)はISに別に存在する。イングマスィは特殊部隊でなく、あくまでも特定任務を帯びた突撃決死隊である。この作戦では、全員が死ぬことが決められた上で突撃したようだ。(シリア・IS映像)

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Googleマップの航空写真画面をプロジェクターで映し、作戦概要を確認しているようだ。チームワークのもとに作戦が遂行される。(シリア・IS映像)

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まだ若い戦闘員も決死部隊に参加し、死亡したと見られる。あらゆる武器を使い戦い、弾薬が尽きた場合に敵を巻き込んで自爆したり、最初から自爆が任務として設定されていることもある。(シリア・IS映像)

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これはイラクファルージャイラク軍基地への突入作戦で事前に侵入路を説明するようす。テレビ画面に映っているのはドローンで偵察した映像のようだ。車でまっすぐ突っ込む単純な自爆車両突撃でなく、イングマスィ部隊はチームで連携して高度な任務を遂行する能力も求められる。(イラク・IS映像)

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同じくファルージャでの突入作戦で自爆ベストを着用する戦闘員。かつて日本軍で特攻で死ぬと「軍神」と称えられたように、ISはイングマスィに選ばれて死ぬことは「誉れ」「天国の高みに近づける」とするため志願する若者も少なくないという。ただし、高度な任務遂行能力が求められるので、誰もがなれるというわけではない。戦死すると「殉教戦士」と扱われる。(イラク・IS映像)

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シリア西部ホムス近郊での戦闘でのイングマスィ部隊。シリア政府軍陣地に突撃するが、自爆ではなく、左の歩兵戦闘車に乗りこんで敵の堡塁に近づき、切り込み隊として攻め込む。危険度が高い決死突撃なので、仲間が抱擁して出撃を見送る。突入時は、後方の部隊が援護射撃を加えて侵入路を開く。(シリア・IS映像)

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政府軍堡塁(左)に到達したイングマスィ部隊(右)。映像のテロップには左の政府軍を「悪魔の兵士」、右のISイングマスィ部隊を「(アッラーの)慈愛授かる兵士」とある。政府軍兵士は次々と手榴弾を投げつけ、銃撃を加えるが、イングマスィ部隊はひるまず突撃し堡塁攻略を果たし、兵士を殺害。(シリア・IS映像)

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黒煙は政府軍兵士が投げつけた手榴弾の爆発。イングマスィはそれでも堡塁に向かっていく。映像では人数が減ったりしてるので、何人かは戦死したのだろう。その果敢さは信仰の強さもあるだろうが、興奮作用のある薬物を使っている場合もあるという。映像では堡塁に到達し、政府軍兵士の首を切り落とし、足で踏みつけている様子も映し出される。攻略に成功しているのでイングマスィは任務を達成したことになる。(シリア・IS映像)

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シリア・ダマスカス近郊の前線で政府軍施設に突撃する戦闘員。黒マスクの男が着用する胸の袋が爆薬で、左の仲間が起爆ケーブルを結んで準備する。(シリア・IS映像)

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左の男が出撃する戦闘員。ピンを開けば爆発すると使い方の説明を受けていると思われる。例えば選抜された数名で検問所を襲撃したり、夜間に敵の駐屯地の防護壁を越えて潜入し、銃弾を撃ち尽くしたのち自爆するという任務性を帯びた攻撃がイングマスィの特徴と言える。(シリア・IS映像)

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体に装着する爆薬は胸と背中にあるので、かなりの爆発力だろう。これは自爆攻撃で死を前提とした出撃で、イングマスィ戦士であると同時に、イスティシャハディ(殉教志願戦士)でもある。(シリア・IS映像)

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【一般の戦死】戦闘員が戦死した場合に、ISはどのように公表するかというと、戦闘員の写真とともにジハードで死んだことを顕彰する言葉を添える。これは一般の戦闘で戦死した際によく使われるタイプ。「アッラーよ、彼を受け入れたまえ」の文字があれば、すでに死んだことを意味する。殉教者として扱うことで、死をも宣伝に利用する。とはいえ顕彰される戦闘員はわずかで、ほとんどは省みられることもなく使い捨てのように死んでいる。また幹部が死亡しても公表されない場合もある。名前に「アル・シャミ」とあることから、彼はシリア人と思われる。(IS映像)

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【自爆突撃死】これはイラクでの装甲車両による自爆突撃で死んだ戦闘員の例。写真から様々な情報が読み取れる。こうした車両自爆突撃はイスティシャハディ(殉教志願戦士)として扱われる。失敗して敵に殺されたり拘束された場合は写真が出ることはない。自爆による「殉教志願者」はあくまでIS側の用語で、イラク軍は「自殺攻撃」(フジュム・エンティハリ)と呼び、宗教性を排除している。(イラク・IS映像)

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【自爆突撃死】戦士にはたいてい「兄弟」という肩書きがつく。これはIS独自の言い方ではなく、ムスリムどうしが互いに信仰で結ばれた兄弟という意味で一般に使われている用語だが、ISは戦闘員どうしの呼称でも使っている。起爆には手榴弾の起爆ピンを改造してケーブルをつないだものが使われる。これは自爆ベルトではなく、ベストになっている。胸部と背面に爆薬が詰め込まれた威力の高いものだ。爆薬に加え、殺傷力を高めるために大量のベアリング鉄球が仕込まれている場合が多い。(イラク・IS映像)

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【イングマスィ突撃死】これがイングマスィ戦士の殉教顕彰写真。おそらくタジキスタン出身の戦闘員だろう。仲間がこれで死亡を知ることになるわけで、ある意味、IS内の「戦死公報」でもある。(イラク・IS映像)

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これもイングマスィ部隊の写真だが、顔が出ているのが作戦時に戦死した戦闘員で、ボカシが入れられている戦闘員は任務達成後に帰還したのかもしれない。イングマスィやイスティシャハディという用語は、IS独自の言葉でない。アルカイダ機関誌でもイングマスィが特集されたことがあるし、ヌスラ戦線など他の過激なイスラム武装組織も以前から使っている。ISはイングマスィを使い捨て要員を含む、切り込み決死隊のニュアンスで使うことが多いが、ヌスラ戦線は「コマンド部隊」のような位置づけで使う場合が多いのではないだろうか。(イラク・IS映像)

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戦車でシリア政府軍陣地に突撃するイングマスィ。ここでは急襲突撃コマンドとしてイングマースという用語が使われているようだ。(シリア・IS映像)

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