イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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オバマ大統領・ベルギー・ブリュッセル襲撃事件について「ISIL壊滅へ向けて」日本語訳

オバマ大統領は毎週1回、ショート・ビデオメッセージを出している。ベルギー・ブリュッセルでの事件を受けて、今週はイスラム国(IS)との戦いに向けた強い決意を表明するものとなった。オバマ大統領はISILという表現を使っているので字幕ではそのままにしました)

【動画】オバマ大統領・ベルギー・ブリュッセル襲撃事件について
「ISIL壊滅へ向けて」(日本語訳)
一部意訳

◆勝手なアメリカ、勝手な「市民社会
個人的な話だが、米軍がイラクに侵攻し、占領統治のなかで米兵による横暴や市民殺傷に批判が高まった2004年ごろ、イラク人のアメリカへの怒りの声をテレビ番組やルポを通じて報じたら、日本の保守系市民の人から「お前は反米、左翼、反日だ」などと批判をいただいた。イラク市民の声を伝えてなぜ「反日」なのかはわからないが、そういう批判も意見として受け止めてきた。

イラク人が当初抱いていたアメリカへの反発は、その後の宗派抗争の暴力の嵐のなかで、アメリカでも何でもいいから爆弾や誘拐に脅えなくてすむよう治安を回復させてほしいという心情に変わっていった。「米軍の横暴はいけないが、すぐに撤退すると、外国人も加わった過激な武装組織が無法の限りを尽くして大変なことになる」「イラク治安部隊に力をつけさせて治安が維持できるようになってから米軍は撤退してほしい」と言う声が2007年ごろからイラク市民の間で趨勢を占めるようになっていた。

こうした現地住民の心情の変化とは裏腹に、当時、日本では多くの市民運動があいかわらず「米軍即時撤退」をスローガンにし、イラク人の反米感情はいっそう高まっていると主張していた。現場で取材したイラク市民の苦悩も交えて、暴力に苦しむ人びとのあいだには「段階的撤退」という苦渋の思いが広がっているとルポで報じると、今度は日本のいわゆる左派系市民の人たちから「米軍の占領を容認している」「真実の声を伝えていない」という言葉が自分のもとに寄せられた。

リベラルも保守もいろんな人がいてこそ社会があると思うのだが、そのどちらにも共通するのは「メディアは真実を伝えない」と叫ぶ人ほど、多様な事実に目を向けようとせず、ただ自分の主張や信条にそって報道してくれる人を求めているように感じる。そして最初から結論ありきで取材をする一部のジャーナリストが、こうした人びとに歓迎されたりする。イラク人の誰もが占領も米軍の横暴も望んでいない。だが、宗派抗争の殺戮合戦はそれどころではない状態になっていた。そういう状況や人びとの苦悩を知り、何が求められるのかを考えることこそ大切なのではないか。

のちに米軍は撤退したが、アメリカは要するに勝手に戦争を始めておいて、自分の都合でイラクを去っていっただけである。おまけに石油という利権はしっかりと手にしていった。これまで自分が取材した人や友人たちが武装組織に狙われ殺されたりしている現実からすれば、そもそもアメリカが作り出した混乱なのだから、米兵にどれだけ犠牲が出ようともきちんとイラク人が普通の市民生活が送れるよう責任を果たしてから撤退しろよ、という気持ちになったことさえ何度もあった。

アメリカのリベラル派が訴えた米軍撤退だって、イラク戦争を反省したからではなく、米兵の犠牲が絶えなかったのが理由である。いきなり撤退したらイラク人がどうなるかなどどこまで考えただろうか。そして米軍が引き上げたとたんに、シーア派のマリキ政権がスンニ派を強力に締め上げ、その結果、未曾有の過激組織ISが台頭し、いたるところで住民殺戮を引き起こす事態となってしまった。「いきなり米軍がいなくなれば大変なことになる」というあの時のイラク人の懸念が現実のものとなり、いまISは世界を脅かす存在となっている。

イラクを引き裂いたアメリカは確かに悪い。その責任は重いし、問われるべきだ。だがイラクの人びとに寄り添った気になりながら、じつは自分たちの政治主張に利用してきた市民運動にも責任はないのだろうか。市民社会のそんな側面にやるせない思いを抱きながら、このいつ終わるとも知れない「テロとの戦い」のなかで失われていった命に思いを馳せている。