イスラム国(IS)・イラク・シリア・クルド情勢

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【シリア北部】連邦制を宣言~クルド勢力主導(ロジャヴァ連邦宣言全文)

◆ロジャヴァ革命と「シリア・クルド自治区」化
3月17日、クルド主導の勢力はシリア北部地域の住民代議員からなる代表大会において、「北シリア・ロジャヴァ民主連邦」を宣言した。シリア北部で独自の行政統治を進めるとしている。この連邦樹立宣言で、地域統治の既成事実が固定化されれば、実質上のシリアにおける「クルド自治区」確立が加速することになる。一方で、クルド主導の北部地域連邦化に警戒の動きも。以下は連邦宣言の全文。(一部意訳)

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シリア北東部ルメイランで2日にわたる会議を経て、連邦宣言が出された。宣言は10項目からなっている。会議はクルド人が主導なものの、地域を構成するアラブ人、トルクメンほかアルメニア人などキリスト教徒らも参加。(2017年3月17日・ロナヒTVより)

北シリア・ロジャヴァ民主連邦・樹立代議大会宣言
(2016/03/17)

シリア、地域、ならびに世界の人民へ。

民主自治行政地域(ジャジーラ・コバニ・アフリン)総合調整評議会のアピールに応え、政治勢力、諸党派、社会機関、ロジャヴァの各行政区ならびにテロリスト勢力から解放された地域からなるすべての構成機関は、会合の場を持ち、シリア情勢解決のための包括的な政治ビジョンと、北シリア・ロジャヴァの運営制度の合意に至った。

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「ロジャヴァ連邦」は連邦首相と、各県「首相」(知事職に相当)が置かれる。連邦の共同議長に選出されたクルド人のヘディエ・ユスフ元ジャジーラ県代表(写真上)と、アラブ人のマンスール・アル・サローム元テルアブヤッド代表議員(写真下)


これは、シリア危機に対する解決策を提示する点で、シリアの他地域のモデルともなりうるであろう。これらの地域の代表たる我々は、2016年3月16日、17日に一同に会した。

我々は、わが人民の烈士者訳注:戦いに殉じた人びとを指す)を追悼する。彼らは英雄的抵抗闘争を自身の血をもって記し、今日の人民が獲得するに至った里程標をもたらした烈士たちである。

前述の会合では、以下の決定がなされた。 

1:民主連邦制は、すべての社会構成機関を包括し、未来のシリアがすべてのシリア人のためのものであることを保証する。 

2:ロジャヴァ・北シリアが民主連邦制を建設するために、あらゆる注力と奮闘がなされる。 

3:共同議長と組織評議会を構成する31名のメンバーが選出された。 

4:組織評議会は、この(連邦)制度のために、社会機関諸部門と包括的な政治・司法ビジョンを6か月以内に準備する責務を負う。 

5:すべての評議機関とそれが発行する文書は、国連の人権基準ならびに社会民主システムに準拠するものとなる。これに加えて、会議のすべての出席者は、建設がすすむ新たな制度の一部であると自覚し、またシリアの人民による密接な関係性を意識するものとする。諸人民間の同胞愛と平和を基盤としてその参加の基盤をなすものとする。 

6:女性の自由は、民主連邦制度の構成要素である。女性は(男性と)同等に参加の権利を有し、女性に関する諸事項における決定権に関する責任ある権利を持つ。女性は社会・政治的な分野を含めた生活におけるあらゆる面で、同等に代表となるものである。

7:ロジャヴァ・北シリア連邦制における住民とコミュニティは、その政治的、経済的、社会的、文化的、民主的関係を、自身に適合できうるように発展させることができる。

また連邦民主制の基本理念と利益を妨げない条件のもとに、地域的、国際的レベルにおいて人民とコミュニティのなかで信仰・信条や文化を共有することができる。 

8:民主軍によってテロ組織から解放された人民は、もし自身が選択するならロジャヴァ・北シリア連邦制に一部となる権利がある。 

9:地域レベルにおいてロジャヴァ・北シリア連邦制が目指すものとは、政治、経済、文化、社会生活における中東全人民の民主連合であり、国民国家の国境線を超えて、すべての者にとって安全で平和かつ共生的生活を創出することである。 

10:連邦民主制の創出は、シリア領域内においてなされる。

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ロジャヴァ連邦構想にはクルディスタン労働者党(PKK)オジャラン指導者が提唱した「民主連合主義」思想が色濃く反映されている。写真はオジャラン指導者の肖像を掲げるシリアのクルド住民。(ロナヒTV映像より)

シリア、クルディスタン、ロジャヴァの全人民と、諸団体、各位へ。

我々は、歴史的局面、そして重大な状況に置かれている。いま、シリアはその歴史において最悪の悲劇を迎えている。何百万もの住民が故郷を追われ、何十万もの命が奪われた。シリアの社会基盤にもたらされた計り知れないダメージは言うまでもない。

こうした状況のなか、戦いに殉じた者たちの血をもって、ロジャヴァにおいて民主義的経験が創出され、防衛されたきた。この期間において様々な大いなる事が成し遂げられた。これは連邦民主制を構築するための真の機会である。我々はこれがシリア危機を解決するひとつのモデルとなるということを明確に確信している。

我々が決定した枠組みのもと、まずもって、あたらな、そして自由な人生を代表する女性たち、また同様に青年、コミュニティ、労働者、あらゆる社会部門が民主連邦制の構成主体として参加するよう呼びかける。加えて、進歩的かつ民主的な諸勢力が我々の努力を支持するよう呼びかけるものである。

わが人民の自己決定、共生、団結、万歳!

北シリア・ロジャヴァ民主連邦・樹立代議大会

 2016年3月17日

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クルド勢力が構想するロジャヴァ連邦(2016年3月現在)。北部全域にクルド人が住んでいるわけではない。マンビジやテルアブヤッドはアラブ人が多い。今回の宣言のもと、事実上の「クルド自治区」化が進むことに反発や不安を抱くアラブ住民もいる。ロジャヴァ連邦ではアサド政権下に存在した独自の県割や名前を改編して、あらたな行政区画による連邦化が想定されている。「シャハバ県」は、ISの支配下にあるため暫定だが、今後クルド側が奪取すれば現実化する見込みも。天然資源としては、カミシュロの右に規模は小さいながらもルメイラン油田がある。

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ロジャヴァとはクルド語で「西」を意味する。シリア、イラク、トルコ、イランの4つに分断されたクルディスタンの西、すなわちシリア・クルディスタンを指す。4地域のクルド人口としては約200~300万と最も少ない。シリアが内戦となるなか、クルディスタン労働者党(PKK)系のクルド人民防衛隊(YPG)がシリア北部に勢力圏を広げた。のちにアフリンでは政府軍や反体制諸派、コバニ、カミシュリでは反体制諸派やISとの戦いのなかクルド勢力が地域を維持してきた。これまでに「県」と設定されているのはアフリン、コバニ、ジャジーラの3県。クルド勢力はシリア騒乱以降の一連の北部地域の政治・社会変革と武力闘争を「ロジャヴァ革命」と呼んでいる。写真は緑・赤・黄(ケスク・ソル・ゼル)の3色のロジャヴァ旗を掲げ、戦死したYPG戦闘員を葬送する住民。3色はクルドの伝統色であることに加え、緑=大地、赤=烈士の血、黄=太陽の光を象徴している。(2016年1月・ロナヒTVより)

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写真はルメイランでの連邦制会議の写真。クルド語(クルマンジ)、アラビア語アッシリア語、トルコ語。「民主シリア連邦は住民の安全と同胞的結束を守るためのもの」とある。このあと全体宣言が出された。具体的な社会制度のひとつを挙げると、アサド政権下で公立の初等・中等学校教育はアラビア語だったが、クルド語での並行教育も導入・確立が進む。(2016年3月・写真:ANHA通信)

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ロジャヴァ革命の延長線上でなされたシリア北部の連邦化宣言。これに大きな影響力を及ぼすのがPKKである。トルコはPKKをテロ組織とみなしているため、実質的なPKK関連勢力が統治する広大な地域が確立されれば、トルコのクルド人による分離独立運動を刺激する。トルコはシリアの国境線がトルコ攻撃の拠点になるとして連邦化固定阻止に躍起だ。一方、クルド勢力側は、「トルコがロジャヴァ革命に敵対するために、ISや自由シリア軍などスンニ派諸派を背後で支援している」として緊張が続いている。(勢力図は2016年3月上旬時点)

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写真は連邦宣言に際しての代議大会の様子。今回の連邦宣言はシリア北部のすべての住民に歓迎されているわけではない。北部地域を事実上の分断統治することへの反発や、クルド勢力の統治下におかれることを懸念するアラブ人たちも少なくない。だがカミシュロやハサカなどの政府派の一部地域を除けば、実質的にはクルド勢力が支配を固めており、他の武装諸派が内紛やISとの戦いで消耗したり、反目を続けるなか、連邦化宣言でジャジーラ・コバニ・アフリンの北部3県の独自統治がさらに加速するものとなるとみられる。(2016年3月・ANHA通信写真より)

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整列し、戦死した同志に追悼礼を捧げるYPG戦闘員。アレッポ市内シェイク・マクスード地区。YPGは、ロジャヴァの地を、犠牲と血をもって守り抜くという意識で戦ってきた。一方で、戦死者の数もすさまじい。連邦宣言について、シリア政府はというと、「シリア国土の一体性を脅かす」という反発が出ているが、そこは建前で、実際のところは少し複雑である。内戦で政府軍とクルド勢力はたしかに衝突したとはいえ、クルド側はISや他の武装諸派のように、「交渉も譲歩も拒否」「アサド打倒あるのみ」というような姿勢ではない。YPG・PYDのクルド側は、自分の地域を承認してくれるならアサド政権とも手を組む可能性は十分にある。(写真はYPG映像より)

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